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ティアラの事情2(ティアラ視点)
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なんとか美しすぎる王子の攻撃から立ち直った私だったのだけれど。
シオン王子からの攻撃は続けざまに飛んできた。
「王族しか入れない庭を案内しよう。女性が気に入るような花もたくさん咲いているから、楽しんでくれるといいのだけれど」
乙女だったら誰でも蕩けるような笑顔で白い手袋に包まれた美しい手を差し出され、滅多なことでは立ち入ることができない王族専用の庭園へ誘われたのだ。
潔癖な方だと思っていたのに――なんだか、手慣れてませんこと?
私はそんなことを考えながら差し出された綺麗な手を意図を図るように見つめた。
しかしどれだけ見つめても、その手がため息が出るほど綺麗であることしかわからない。
ちらりと王子の表情を窺うとその美しいかんばせは優しげな笑みを湛えていた。
――はふ。しゅ、しゅき……!
胸に訪れたそんなそんな気持ちを振り払い、王子の美しい手に自分の手を乗せる。
そうよ、これは罠。セイヤーズ公爵家の者の品格を見極めるための罠よ。
気を引き締め……にゃやぁあああ! 手を、優しくにぎにぎされた!
やっぱり、潔癖なんて嘘よ。ずいぶんと女慣れしてらっしゃるわ!
ああ、どうしよう。いざ婚姻したら側室がいっぱいだったら。そんなの私、焼きもちを……いえ、違うの。節度を持った結婚生活じゃないと外聞が悪いから止めて欲しいの。
……今からちゃんと、釘を刺しておかないと。
不敬かもしれないけれど私は彼の婚約者なのだ。間違った道に、は、は、は、伴侶が進みそうなら私が止めるのがその役目で……!
「……ずいぶんと、慣れてらっしゃるのですね」
できるだけ凛々しい表情を作って睨みつけると、シオン王子はきょとんとした顔を私に向けた。うう、なんですかその無防備な表情。胸がぎゅんっ! としてしまったわ。
「慣れてなどいないよ。君のような愛らしいご令嬢を連れて行くのは、人生ではじめてだ」
そう言ってシオン王子は微笑んで軽くウインクをする。
「――ふぐっ」
直撃した。間違いなく心臓に直撃した。
ひどい、こんなのひどい。試されているだけとわかっているのに、乙女心にぎゅんぎゅんと王子からの攻撃が刺さっていく。
……しゅ、しゅき……
零れだしそうな言葉を堪えるために、私は下を向いた。
呼吸を整えよう。そうよ、私はセイヤーズ公爵家の娘。こんなことで動揺し、ボロを出してなるものですか!
そうして呼吸を整えていると目の前に影が差し、手が……温かいものに包まれた。
これは、シオン様の、おてて?
ゆっくりと顔を上げると絶世の美貌が目に飛び込んでくる。目が合うと彼は眉尻を下げて心底申し訳なさそうな顔をした。
「ティアラ嬢。俺はなにか、気に障ることをしただろうか?」
甘い声音が耳を打ち、真摯な視線が私を射抜く。体を身じろぎさせたくても、手をしっかりと握られていて身動きが取れない。
視界いっぱいには『氷の王子』の白い頬を淡い赤に染めた美しいお顔。
……私の混乱は、ついに頂点に達してしまった。
「なんなんですのよぉおお!」
シオン王子からの攻撃は続けざまに飛んできた。
「王族しか入れない庭を案内しよう。女性が気に入るような花もたくさん咲いているから、楽しんでくれるといいのだけれど」
乙女だったら誰でも蕩けるような笑顔で白い手袋に包まれた美しい手を差し出され、滅多なことでは立ち入ることができない王族専用の庭園へ誘われたのだ。
潔癖な方だと思っていたのに――なんだか、手慣れてませんこと?
私はそんなことを考えながら差し出された綺麗な手を意図を図るように見つめた。
しかしどれだけ見つめても、その手がため息が出るほど綺麗であることしかわからない。
ちらりと王子の表情を窺うとその美しいかんばせは優しげな笑みを湛えていた。
――はふ。しゅ、しゅき……!
胸に訪れたそんなそんな気持ちを振り払い、王子の美しい手に自分の手を乗せる。
そうよ、これは罠。セイヤーズ公爵家の者の品格を見極めるための罠よ。
気を引き締め……にゃやぁあああ! 手を、優しくにぎにぎされた!
やっぱり、潔癖なんて嘘よ。ずいぶんと女慣れしてらっしゃるわ!
ああ、どうしよう。いざ婚姻したら側室がいっぱいだったら。そんなの私、焼きもちを……いえ、違うの。節度を持った結婚生活じゃないと外聞が悪いから止めて欲しいの。
……今からちゃんと、釘を刺しておかないと。
不敬かもしれないけれど私は彼の婚約者なのだ。間違った道に、は、は、は、伴侶が進みそうなら私が止めるのがその役目で……!
「……ずいぶんと、慣れてらっしゃるのですね」
できるだけ凛々しい表情を作って睨みつけると、シオン王子はきょとんとした顔を私に向けた。うう、なんですかその無防備な表情。胸がぎゅんっ! としてしまったわ。
「慣れてなどいないよ。君のような愛らしいご令嬢を連れて行くのは、人生ではじめてだ」
そう言ってシオン王子は微笑んで軽くウインクをする。
「――ふぐっ」
直撃した。間違いなく心臓に直撃した。
ひどい、こんなのひどい。試されているだけとわかっているのに、乙女心にぎゅんぎゅんと王子からの攻撃が刺さっていく。
……しゅ、しゅき……
零れだしそうな言葉を堪えるために、私は下を向いた。
呼吸を整えよう。そうよ、私はセイヤーズ公爵家の娘。こんなことで動揺し、ボロを出してなるものですか!
そうして呼吸を整えていると目の前に影が差し、手が……温かいものに包まれた。
これは、シオン様の、おてて?
ゆっくりと顔を上げると絶世の美貌が目に飛び込んでくる。目が合うと彼は眉尻を下げて心底申し訳なさそうな顔をした。
「ティアラ嬢。俺はなにか、気に障ることをしただろうか?」
甘い声音が耳を打ち、真摯な視線が私を射抜く。体を身じろぎさせたくても、手をしっかりと握られていて身動きが取れない。
視界いっぱいには『氷の王子』の白い頬を淡い赤に染めた美しいお顔。
……私の混乱は、ついに頂点に達してしまった。
「なんなんですのよぉおお!」
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