【R18】転生王子はツンな悪役令嬢に婚約破棄を告げる

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
4 / 24

ティアラの事情2(ティアラ視点)

しおりを挟む
 なんとか美しすぎる王子の攻撃から立ち直った私だったのだけれど。
 シオン王子からの攻撃は続けざまに飛んできた。

「王族しか入れない庭を案内しよう。女性が気に入るような花もたくさん咲いているから、楽しんでくれるといいのだけれど」

 乙女だったら誰でも蕩けるような笑顔で白い手袋に包まれた美しい手を差し出され、滅多なことでは立ち入ることができない王族専用の庭園へ誘われたのだ。

 潔癖な方だと思っていたのに――なんだか、手慣れてませんこと?

 私はそんなことを考えながら差し出された綺麗な手を意図を図るように見つめた。
 しかしどれだけ見つめても、その手がため息が出るほど綺麗であることしかわからない。
 ちらりと王子の表情を窺うとその美しいかんばせは優しげな笑みを湛えていた。

 ――はふ。しゅ、しゅき……!

 胸に訪れたそんなそんな気持ちを振り払い、王子の美しい手に自分の手を乗せる。
 そうよ、これは罠。セイヤーズ公爵家の者の品格を見極めるための罠よ。
 気を引き締め……にゃやぁあああ! 手を、優しくにぎにぎされた!
 やっぱり、潔癖なんて嘘よ。ずいぶんと女慣れしてらっしゃるわ!
 ああ、どうしよう。いざ婚姻したら側室がいっぱいだったら。そんなの私、焼きもちを……いえ、違うの。節度を持った結婚生活じゃないと外聞が悪いから止めて欲しいの。
 ……今からちゃんと、釘を刺しておかないと。
 不敬かもしれないけれど私は彼の婚約者なのだ。間違った道に、は、は、は、伴侶が進みそうなら私が止めるのがその役目で……!

「……ずいぶんと、慣れてらっしゃるのですね」

 できるだけ凛々しい表情を作って睨みつけると、シオン王子はきょとんとした顔を私に向けた。うう、なんですかその無防備な表情。胸がぎゅんっ! としてしまったわ。

「慣れてなどいないよ。君のような愛らしいご令嬢を連れて行くのは、人生ではじめてだ」

 そう言ってシオン王子は微笑んで軽くウインクをする。

「――ふぐっ」

 直撃した。間違いなく心臓に直撃した。
 ひどい、こんなのひどい。試されているだけとわかっているのに、乙女心にぎゅんぎゅんと王子からの攻撃が刺さっていく。

 ……しゅ、しゅき……

 零れだしそうな言葉を堪えるために、私は下を向いた。
 呼吸を整えよう。そうよ、私はセイヤーズ公爵家の娘。こんなことで動揺し、ボロを出してなるものですか!
 そうして呼吸を整えていると目の前に影が差し、手が……温かいものに包まれた。
 これは、シオン様の、おてて?
 ゆっくりと顔を上げると絶世の美貌が目に飛び込んでくる。目が合うと彼は眉尻を下げて心底申し訳なさそうな顔をした。

「ティアラ嬢。俺はなにか、気に障ることをしただろうか?」

 甘い声音が耳を打ち、真摯な視線が私を射抜く。体を身じろぎさせたくても、手をしっかりと握られていて身動きが取れない。
 視界いっぱいには『氷の王子』の白い頬を淡い赤に染めた美しいお顔。

 ……私の混乱は、ついに頂点に達してしまった。

「なんなんですのよぉおお!」
しおりを挟む
感想 26

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

愛してないから、離婚しましょう 〜悪役令嬢の私が大嫌いとのことです〜

あさとよる
恋愛
親の命令で決められた結婚相手は、私のことが大嫌いだと豪語した美丈夫。勤め先が一緒の私達だけど、結婚したことを秘密にされ、以前よりも職場での当たりが増し、自宅では空気扱い。寝屋を共に過ごすことは皆無。そんな形式上だけの結婚なら、私は喜んで離婚してさしあげます。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...