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深夜、遭遇、もののけ執事7
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「百合様は今の状況を見越して、この家を孫姫様に遺されたのです。そして家の管理を任されているのが、私でございます。あちらでも仕事がありますゆえ、夕方や夜にしか来ておりませんが。ご自分の状況は理解できましたか、孫姫様」
夜音さんはそう言うと唇の端を少しだけ上げて笑った。
この家の『管理者』の正体は……夜音だったんだ。
……うん、把握できました。事態は把握できましたけれど。
夜音さんはこの家には加護の『名残り』が残っていると言っていた。
『名残り』という言葉の意味は、『余波』である。現在進行系で祖母の加護を受けているわけではないから、いずれ尽きるものなのだろう。
つまり。ここにいても加護の『名残り』が切れたら悪いことが起きるし、別の場所に行っても悪いことが起きるってこと? 祖母の『加護』っていつまで続くんだろう? 私はどうすればいい?
「そんなに不安げな顔をしないでください。この家にいらっしゃる限りは、私が孫姫様をお守りしますので」
「夜音さんが?」
夜音さんが、とたんに輝いて見えた気がした。
「ええ、正直面倒ですけれども。この家に孫姫様が逃げ込んでくるようなことがあれば、お世話をするようにと百合様に言われておりますゆえに。仕事なので仕方なく」
「面倒……。仕方なく……?」
身も蓋もない言葉に、私は思わずぽかんとしてしまった。実際にそうだったとしても、そんなふうに言わなくていいのに。
「なんですか、その顔は。いきなり現れて理由もなく『守ってやる』という輩の方が怪しいでしょう。『仕事だから守ってやる』。こんなに明快で安全な理由はありません」
「言われてみれば……」
たしかにそうだ。知らない人間が見返りもなく『守る』と言ってきたら、それはとても怪しい……というか。確実になにかを企んでるよね。いや、だけど。
「『仕事だから守る』とだけ言えばいいだけで、『面倒』とか『仕方なく』は言わなくてもいい言葉でしたよね?」
「ああ、バレましたか。業務が増えるなと思うと少しくさくさしてしまったので、少し口が悪くなってしまいました」
「夜音さん……」
私は思わず眉尻を下げた。悪い人ではないのだろうけど、この人はとても意地悪だ。
「孫姫様、そろそろ私は失礼致します。明日も参りますので、お気づきのことがありましたらその時にお申し付けください」
そう言うと、夜音さんはぺこりと綺麗なお辞儀をした。まるで物語の中の執事みたいだ。
「あ、はい。いや、ちょっと待ってください!」
「なんですか?」
「孫姫様じゃなくて、芽衣と呼んで欲しいです。その……姫という柄ではないので」
『孫姫様』と呼ばれるたびに、ずっとむず痒い気持ちになっていたのだ。これは早々に訂正しておきたい。
「ふむ。では芽衣様、でよろしいですか?」
「様は取れないんですか?」
「取れません」
「取れないんですか……」
私が釈然としない顔をしていたからか、夜音さんはふっと笑った。
「慣れてくださいませ、芽衣様。それでは」
夜音さんはポンと音を立てて最初に見た小狐姿に戻ると、ぴょんと跳ねて天袋へと上がる。
そして突然ふっと消えてしまった。……どうやら、あそこが彼の出入り口らしい。
「これから、どうなるのかな……」
夜音さんが消えた天袋を閉めてから、私は息を吐いた。
先のことは不安ばかりだけれど。一応味方? がいるこということで……いいんだよね?
夜音さんはそう言うと唇の端を少しだけ上げて笑った。
この家の『管理者』の正体は……夜音だったんだ。
……うん、把握できました。事態は把握できましたけれど。
夜音さんはこの家には加護の『名残り』が残っていると言っていた。
『名残り』という言葉の意味は、『余波』である。現在進行系で祖母の加護を受けているわけではないから、いずれ尽きるものなのだろう。
つまり。ここにいても加護の『名残り』が切れたら悪いことが起きるし、別の場所に行っても悪いことが起きるってこと? 祖母の『加護』っていつまで続くんだろう? 私はどうすればいい?
「そんなに不安げな顔をしないでください。この家にいらっしゃる限りは、私が孫姫様をお守りしますので」
「夜音さんが?」
夜音さんが、とたんに輝いて見えた気がした。
「ええ、正直面倒ですけれども。この家に孫姫様が逃げ込んでくるようなことがあれば、お世話をするようにと百合様に言われておりますゆえに。仕事なので仕方なく」
「面倒……。仕方なく……?」
身も蓋もない言葉に、私は思わずぽかんとしてしまった。実際にそうだったとしても、そんなふうに言わなくていいのに。
「なんですか、その顔は。いきなり現れて理由もなく『守ってやる』という輩の方が怪しいでしょう。『仕事だから守ってやる』。こんなに明快で安全な理由はありません」
「言われてみれば……」
たしかにそうだ。知らない人間が見返りもなく『守る』と言ってきたら、それはとても怪しい……というか。確実になにかを企んでるよね。いや、だけど。
「『仕事だから守る』とだけ言えばいいだけで、『面倒』とか『仕方なく』は言わなくてもいい言葉でしたよね?」
「ああ、バレましたか。業務が増えるなと思うと少しくさくさしてしまったので、少し口が悪くなってしまいました」
「夜音さん……」
私は思わず眉尻を下げた。悪い人ではないのだろうけど、この人はとても意地悪だ。
「孫姫様、そろそろ私は失礼致します。明日も参りますので、お気づきのことがありましたらその時にお申し付けください」
そう言うと、夜音さんはぺこりと綺麗なお辞儀をした。まるで物語の中の執事みたいだ。
「あ、はい。いや、ちょっと待ってください!」
「なんですか?」
「孫姫様じゃなくて、芽衣と呼んで欲しいです。その……姫という柄ではないので」
『孫姫様』と呼ばれるたびに、ずっとむず痒い気持ちになっていたのだ。これは早々に訂正しておきたい。
「ふむ。では芽衣様、でよろしいですか?」
「様は取れないんですか?」
「取れません」
「取れないんですか……」
私が釈然としない顔をしていたからか、夜音さんはふっと笑った。
「慣れてくださいませ、芽衣様。それでは」
夜音さんはポンと音を立てて最初に見た小狐姿に戻ると、ぴょんと跳ねて天袋へと上がる。
そして突然ふっと消えてしまった。……どうやら、あそこが彼の出入り口らしい。
「これから、どうなるのかな……」
夜音さんが消えた天袋を閉めてから、私は息を吐いた。
先のことは不安ばかりだけれど。一応味方? がいるこということで……いいんだよね?
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