上 下
14 / 36

深夜、遭遇、もののけ執事6

しおりを挟む
「人の世界との強い縁ができてしまった百合様は、天界へ戻ることを激しく拒絶しました。なので我々は百合様とお約束をしたのです」
「約束……?」
「男の命数と同じだけ、こちらの世にいても良い。しかし男の命数が尽きた時には、天界に戻り二度と人の世に下りてはならないと。そういうお約束でございます。孫姫様が心配で、百合様はさらに何年かご滞在を伸ばされましたが」

 夜音さんはそう言って、私に赤い瞳を向けた。
 祖母は祖父の寿命まで、『こちらの世界にいてもいい』という許可を得た……という理解で合ってるのかな。
 それにしても。お祖母ちゃんはそんなに私のことを心配してたんだ。
 気が弱く、押しに弱く、人の顔色ばかりを窺っている。そんな孫娘を神様だったらしい祖母は、どう思っていたのだろう。

「私が頼りないから……」
「それは理由の一つでございます」

 ぽつりと漏らす私に、夜音さんはそう言った。

「一つ?」
「姫様は人間の血が濃く出ており、ほとんど人間と変わりません。しかし、孫姫様には百合様の血が濃く受け継がれております。その血に惹かれて近づこうとする『もののけ』たちは、とても多いのです」
「もののけ……?」
「神ではなく、人でもない、私のような存在でございます。妖怪、あやかし、あやし……こちらでは、いろいろな呼び方をされておりますね。いい者も、悪い者もおります」

 澄ました顔で言うと、夜音さんは狐耳を揺らしてみせる。こういう存在が他にもいるんだ。
 電車で出会った少女も、その『もののけ』だったりするのだろうか。

 ――待って。

 人じゃない者たちがたくさん寄ってくるだなんて、想像するとホラーでしかない。
 顔からざーっと血の気が引き、体もぶるぶると震えだす。
 夜音さんにはご飯でかなり懐柔されてしまったけれど、それは彼が『常識』というものを持っているように見えるから……という部分が大きい。
 私に寄ってくる『もののけ』たちのすべてが、夜音さんのような『常識のある』存在だとは到底思えない。

「……近頃、孫姫様の周囲で悪いことが続いたりはしませんでしたか?」

 夜音さんは綺麗な赤の瞳を細めて私を見つめる。私は少しドキリとしてしまった。
 見つめられてときめいたとかじゃなくて、『悪いこと』の心当たりがあったからだ。
 彼氏との別れ、大きな仕事の喪失。その他にも、お財布をなくしたり、水道管が壊れたり……そんな細々とした悪いことが直近で続いていた。
『運が悪いなぁ』なんて思っていたけど、あれはなにかの影響だったりするのだろうか。
 私が頷いてみせると、夜音さんは「ふむ」と小さく言った。

「それは孫姫様に悪いものたちが近づこうとしている予兆でございます。今までは百合様が貴女を守っておりましたが、彼女は天に帰られた。百合様が住んでいたこの家には彼女の加護の名残りがありますので、孫姫様は本能的にこちらにやって来たのでしょう」

 背筋が、ぞくぞくと嫌な寒さを覚えた。
 ……あのまま東京にいたら、私はどうなっていたのだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

今、夫と私の浮気相手の二人に侵されている

ヘロディア
恋愛
浮気がバレた主人公。 夫の提案で、主人公、夫、浮気相手の三人で面会することとなる。 そこで主人公は男同士の自分の取り合いを目の当たりにし、最後に男たちが選んだのは、先に主人公を絶頂に導いたものの勝ち、という道だった。 主人公は絶望的な状況で喘ぎ始め…

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...