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お嬢様の変化・中(マクシミリアン視点)
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メイドにお嬢様の着替えを任せ、馬車を走らせ医師を呼びに街へ向かった。
かかりつけの老医師が都合よく捕まったので馬車に乗せとんぼ返りに邸に戻る。
老医師がお嬢様の脈拍などを確かめているのを横目に退室し、王城にいらっしゃる旦那様にお嬢様が倒れた事を伝える為手紙を書き早馬で届けさせ、医師に渡す診療費を邸を管理する執事から受け取って、診察が落ち着いたであろうタイミングを見計らってお嬢様の部屋の扉を開けた。
お嬢様のせいで実に慌ただしい。
すると扉を開けたすぐ目の前で人の良さそうな丸顔の老医師と鉢合せた。
丁度診察が終わった所らしい。
「…お嬢様は」
私が短く聞くと、
「容態は安定しております。今日明日には目を覚まされるかと思いますが、また明日様子を見に参りますね」
老医師は丸顔にえくぼを作ってにこにこと答える。
その言葉を聞いて緊張が解けたのか、知らず知らずのうちに自身の胸から深い息が抜けるのを感じた。
(…安心したのか、私は。お嬢様が無事だったから…?)
いや…断じてお嬢様自身が心配だった訳では無い。
お嬢様に何かあると旦那様に殺されかねないからだ。
そうに決まっている。そうでなければならない。
「心配なんか、していない」
誰に聞かせるでもなく噛みしめるようにそう呟くと、私はお嬢様の様子を見る為にベッドに近づいた。
天蓋が付いた大きなベッドの中心に小さな体を沈めてお嬢様は眠っていた。
その様子を見ていると水から引き上げた時に感じた彼女の体の感触を思い出してしまう。
それは小さく、細く、脆く。
守られていないと生きてはいけない。そんな感触だった。
(まるで壊れ物みたいだった…。普段はクソガキのくせに)
悪戯心が湧き、安らかな寝息を立てているお嬢様の鼻を普段の仕返しとばかりにピンと指で弾く。
「んっ…」
その軽い衝撃に反応するように口から漏れた彼女の吐息が指に当たり、思わず背筋がゾクリとしてしまい私は指を引っ込めた。
半開きの唇が誘うように薄く開いていて、思わずそこから目を反らした。
まだ6歳だと言うのになんなんだこの色香は。
危ない思考に絡めとられそうになり私は頭を振った。
これは『あの』お嬢様だ。
この美しい幻は彼女が目を覚まし口を開いた途端に消えてしまう。
醜く、傲慢で、自分の事しか愛していない毒華に変じてしまうのだ。
初めて彼女と出会った時。
私は、恋をした。
この美しい人を1番近くで守り傅けるんだと、誇らしい気持ちで胸が一杯になった。
そして彼女が口を開いた瞬間、その恋は破れた。
『嫌だわ父様、こんなみすぼらしい従者なんて』
無邪気に彼女は、毒を吐き。
手前勝手な幻想を抱いた私の恋は砕かれた。
彼女は妖精のような可憐な顔で、醜い毒を吐く。
それが憎らしくて、憎らしくて。
しかし諦めきれない自分が居る。
目を覚ましたら、彼女が見た目の通りの美しい存在になっているんじゃないか。
そんな馬鹿々々しい事を考えてしまうのは眠っている彼女が高潔で清廉な存在に見えるせいか。
呪いのように心に刺さった初恋に蝕まれているせいか。
――彼女は美しい毒の華。
どれだけ誤魔化しても私の心には彼女への恋慕が確かに残っている。
しかし彼女の毒を知ってしまった私には彼女を慈しむような愛し方は出来ないだろう。
けれど壊してしまう愛し方なら――。
「馬鹿々々しい」
世界で1番憎らしい少女の髪を一束手に取り弄ぶ。
それはするり、と私の手の中から逃げて彼女のまろい頬を伝って零れていった。
かかりつけの老医師が都合よく捕まったので馬車に乗せとんぼ返りに邸に戻る。
老医師がお嬢様の脈拍などを確かめているのを横目に退室し、王城にいらっしゃる旦那様にお嬢様が倒れた事を伝える為手紙を書き早馬で届けさせ、医師に渡す診療費を邸を管理する執事から受け取って、診察が落ち着いたであろうタイミングを見計らってお嬢様の部屋の扉を開けた。
お嬢様のせいで実に慌ただしい。
すると扉を開けたすぐ目の前で人の良さそうな丸顔の老医師と鉢合せた。
丁度診察が終わった所らしい。
「…お嬢様は」
私が短く聞くと、
「容態は安定しております。今日明日には目を覚まされるかと思いますが、また明日様子を見に参りますね」
老医師は丸顔にえくぼを作ってにこにこと答える。
その言葉を聞いて緊張が解けたのか、知らず知らずのうちに自身の胸から深い息が抜けるのを感じた。
(…安心したのか、私は。お嬢様が無事だったから…?)
いや…断じてお嬢様自身が心配だった訳では無い。
お嬢様に何かあると旦那様に殺されかねないからだ。
そうに決まっている。そうでなければならない。
「心配なんか、していない」
誰に聞かせるでもなく噛みしめるようにそう呟くと、私はお嬢様の様子を見る為にベッドに近づいた。
天蓋が付いた大きなベッドの中心に小さな体を沈めてお嬢様は眠っていた。
その様子を見ていると水から引き上げた時に感じた彼女の体の感触を思い出してしまう。
それは小さく、細く、脆く。
守られていないと生きてはいけない。そんな感触だった。
(まるで壊れ物みたいだった…。普段はクソガキのくせに)
悪戯心が湧き、安らかな寝息を立てているお嬢様の鼻を普段の仕返しとばかりにピンと指で弾く。
「んっ…」
その軽い衝撃に反応するように口から漏れた彼女の吐息が指に当たり、思わず背筋がゾクリとしてしまい私は指を引っ込めた。
半開きの唇が誘うように薄く開いていて、思わずそこから目を反らした。
まだ6歳だと言うのになんなんだこの色香は。
危ない思考に絡めとられそうになり私は頭を振った。
これは『あの』お嬢様だ。
この美しい幻は彼女が目を覚まし口を開いた途端に消えてしまう。
醜く、傲慢で、自分の事しか愛していない毒華に変じてしまうのだ。
初めて彼女と出会った時。
私は、恋をした。
この美しい人を1番近くで守り傅けるんだと、誇らしい気持ちで胸が一杯になった。
そして彼女が口を開いた瞬間、その恋は破れた。
『嫌だわ父様、こんなみすぼらしい従者なんて』
無邪気に彼女は、毒を吐き。
手前勝手な幻想を抱いた私の恋は砕かれた。
彼女は妖精のような可憐な顔で、醜い毒を吐く。
それが憎らしくて、憎らしくて。
しかし諦めきれない自分が居る。
目を覚ましたら、彼女が見た目の通りの美しい存在になっているんじゃないか。
そんな馬鹿々々しい事を考えてしまうのは眠っている彼女が高潔で清廉な存在に見えるせいか。
呪いのように心に刺さった初恋に蝕まれているせいか。
――彼女は美しい毒の華。
どれだけ誤魔化しても私の心には彼女への恋慕が確かに残っている。
しかし彼女の毒を知ってしまった私には彼女を慈しむような愛し方は出来ないだろう。
けれど壊してしまう愛し方なら――。
「馬鹿々々しい」
世界で1番憎らしい少女の髪を一束手に取り弄ぶ。
それはするり、と私の手の中から逃げて彼女のまろい頬を伝って零れていった。
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