悪役令嬢は南国で自給自足したい

夕日(夕日凪)

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お嬢様の変化・前(マクシミリアン視点)

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私はマクシミリアン・セルバンデス。
男爵家の三男であり、シュラット侯爵家の執事見習いだ。
ビアンカお嬢様の世話の為だけの雇われなので、『お嬢様専属の下僕』と名乗るのが正しいのかもしれない。

お嬢様は見た目はとても美しい少女なのだが、性格は苛烈で短気。
常時癇癪を起してばかりで世話をしていて正直うんざりする。
しかも頭は悪いくせに悪口に関してだけは良く口が回り、普段から生活のほとんどを共にしている私が主にその悪口雑言を受ける事になる。
罵倒されている時その良く回る口を糸で縫い付けてやろうか…と思いながら罵声を吐く唇に目をやると、それは実に美しく蠱惑的な色と形をしており糸で閉じるのを勿体なく感じてしまう。
容姿だけは本当に良いのだな、と感心させられる。

本当に容姿だけ。他は最悪だ。

旦那様は私ごときの事を気にして気軽に声をかけて下さり、『なにか困った事があれば言うのだよ』と常々言って下さるような、仕えていて鼻が高くなるお方だ。
坊ちゃまとはあまり関わる機会が無いのだがいつもニコニコと優しい笑みを浮かべた柔和な方で、使用人に無茶な事を言うことも無く、世間からの評判も良い。
他の使用人達も気さくで礼儀正しい人ばかりで、本当に良き同僚達だ。
お嬢様の存在だけがこの屋敷の中でいびつに歪んでいた。
いや…あの我儘娘を手放しで甘やかす旦那様と坊ちゃまも、ある意味では歪んでいる…と言うか少なくともお嬢様の性格形成の元凶である事は疑いようがない。
本来ならばその2人のストッパーになるべき奥様がもう亡くなっているのもそれに拍車をかけているのだろう。

今日も口汚く喚き散らしながら授業から離脱し、庭へと駆け出したお嬢様を私は追っていた。

(あのクソガキ…!無駄に足が速い)

お嬢様と接している時の自分の心をお嬢様馬鹿の旦那様に覗かれたら一発で解雇だろうなと考え失笑する。

足をぐんと前に出しスピードを上げお嬢様を追う。
軽く息を切らせながら彼女に追いつくと、クソガキ…いや、お嬢様は庭園にある泉の前にしゃがみ込んで飽きずにぶつぶつと悪態を吐いていた。

「あんな問題!わたくしが本気を出せば本当は解けるはずなんですわ!!!」

そう言いながらちゃぽんちゃぽんと泉に石を投げ込んで行く。
お嬢様の頭の出来は同年齢の子の半分くらいだから無理だろう…と思いつつもそっと側に控えて癇癪が収まるのを待つ。
こんな時は癇癪が収まるまで待っているしか無いのだ。
以前は宥めようともしていたが、大きな石を腹にぶつけられてからは懲りて放置の方向で対処している。


その時。
突然、お嬢様の体が前にくらりと傾いだ。


細い体が、泉に落ちて行く。
咄嗟に手を伸ばしたけれど銀糸がするりと指の間から抜けて行く感触の後、
小さな水音を立ててお嬢様の体が水に沈んだ。

(…手間ばかりかけるな…)

小さく舌打ちして、沈んで行く小さな体を追う為に私も泉に飛び込んだ。
水の抵抗感を抑え込むように手足で水を掻き、お嬢様を追いかける。
彼女が沈むスピードはゆっくりで、すぐに体を捉える位置まで辿り着きホッとした。
細い手首を掴み自分の方に引き寄せるがその体は身じろぎもせず反応が全くない。

お嬢様は肢体を力なく投げ出して水の中を揺蕩っていた。
水の中でも輝く銀糸の髪に彩られた白い顔の造作はまるで人間じゃないみたいに美しく幻想的で。

…私は見惚れてしまった。

(…いつも口を閉じいればいいのに)

ついそんな事を思ってしまうがのんびり鑑賞はしていられない。
お嬢様を胸にかき抱き急いで水面へと向かった。
水から引き上げたお嬢様は目を開けず身動き一つしない。
しかし胸に耳を当てると心臓の鼓動がしっかりと聞こえたので安堵した。
万が一があれば私は解雇どころか旦那様に殺される。

しかし鼓動を打っているはずのその小さな体はあまりにも冷たく、
今すぐにでも命を手放しそうなくらい儚げに見えて。


私は焦燥感と不安に苛まれながら彼女を抱き上げ、屋敷へと駆けた。
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