フェンリルに育てられた転生幼女は『創作魔法』で異世界を満喫したい!

荒井竜馬@書籍発売中

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1巻

1-3

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 ◇


 昔、俺の故郷は魔物の群れに襲われた。その時、幼かった妹は魔物に攫われたのだ。
 妹を山の奥まで探しに行った親から、妹が遺体になって発見されたことを後から聞いた。
 当時の俺は、地元を離れて冒険者として活躍をしていた。
 だから地元でそんな事件があったことも、しばらくは知らなかったのだ。
 妹が魔物に殺されたことも知らずに、多くの人たちを救っている気になっていた。
 俺はその時、冒険者という職に誇りを持っていた。
 一番守るべき存在を守れなかったくせに、心構えだけは一流の冒険者気取りだったんだ。
 それからしばらくして、妹の死を知ることになる。
 その時、俺の中の何かが壊れた。
 俺は妹を救えなかった自分の無力さをのろいながら、この世にはびこる魔物を殲滅せんめつしようと本気で考えた。
 その結果、毎日かれたように魔物を狩り続ける日々を送ることになった。
 しかしいくら魔物を狩っても、殲滅などできるはずもなかった。
 当たり前だ。現実的に考えれば、それが無理だということはすぐに分かる。
 だが現実逃避をするために魔物を狩っていた俺は、それに気付けなかった。
 日に日に大きくなっていく、妹を救えなかった後悔と、胸にぽっかり開いた穴。
 そこから目を逸らすために、俺は酒に溺れる日々を過ごすことになる。
 そんなある日、森で幼い少女が魔物と一緒にいるところを見たという話を聞いた。
 俺はいても立ってもいられなくなって、すぐに森に向かって走りだした。
 森にいるのは死んだ妹ではなくて、知らない少女だ。
 それを頭では理解していても、心では理解できていなかった。
 そうでなければ、依頼されたわけでもないのに、知らない少女を探しに死の森にまで行きはしないだろう。


 そして数日後。俺は死の森でアンとシキに出会った。
 初めにアンを見た時は天使かと思ったが、彼女は自分のことをフェンリルだと思い込んでいるようだった。
 話し合いの中で、アンもシキも街で暮らす流れになり、そうなると保護者が必要になることはすぐに分かった。
 首を突っ込んだ手前、今さら引くに引けなくなった俺は、二人の保護者になることにしたのだった。


 ◇


 ――そして、今に至る。
 そんなどうしようもない冒険者の話だ。なんかいろいろとごちゃごちゃだな。
 埋まるはずのない胸に空いた穴を、代わりのもので埋めようとしているどうしようもない男の話。
 自分で話していて、情けなくなってくる。
 そんな話をひと通りし終えてシキの方を見ると、シキは悲しそうに俯いていた。
 先ほどまで俺に向けていた警戒心は消えていた。
 そして昔の話をしたせいか、俺は当時の感情を思い出してしまったみたいだった。
 胸が締めつけられるように痛い。
 俺は胸元を押さえながら、言葉を続けた。

「魔物に連れ去られた女の子がいるって聞いて、放っておけなかったんだ。だから、親切にしているんだよ。重ねているんだ、アンと死んだ妹を」
「そうか……」

 シキはそう呟いた後、それ以上何も言わずに黙り込んでしまった。
 これは、まずいな。沈黙が続く中で、込み上げてきた感情が止まらなくなっている。
 このままだと、シキの前で泣いてしまいそうだ。
 そう思った俺は急ぎ足でキッチンまで向かうと、大きな酒瓶を手にしてシキの前に腰を下ろした。
 泣きそうになる衝動を抑えることはできない。
 そう思った俺は、いつもの手段でその衝動を誤魔化ごまかすことにしたんだ。

「一杯付き合ってくれないか?」
「酒か?」

 なぜこのタイミングで?
 そう言いたげな顔でシキは首を傾げた。
 まぁ、話の流れから想像しろというのは無理な話だろう。

「ああ、現実から目を背けるにはこれが一番だからな」
「……そうか」

 シキは少し気まずそうに、その場に丸くなった。
 どうやら、俺はいらない言葉を口にしてしまったようだ。
 これは、かなり気をつかわせてしまった気がする。
 フェンリルに気を遣わせるって、俺は何をしているんだか。
 改めて情けなくなったが、俺は諦めて小さなため息をつく。
 今から取りつくろうのも無理だし、開き直るしかないだろう。

「そのおかげで酒にも強くなったんだぜ。だから、あれだ……先に潰れてもいいからさ、付き合ってくれよ」

 俺がそう言うと、シキは微かに口元を緩めた。

「ほざけ、小童こわっぱが。俺に勝てることなど何もないことを教えてやろう」

 余裕ありげなシキの表情に釣られて、思わず笑ってしまった。
 俺が大皿に酒をとくとくと注ぐと、シキはその酒を豪快に飲んで、すぐに中身を空にした。
 シキの飲みっぷりに驚きながら、俺も負けじとコップに酒を注いで一気にあおった。
 そんな風に酒を飲んでいくうちに、いつの間にか互いの距離は近づいていき、俺たちはなんでもないような話をしながら、朝が来るまで飲み明かすことになった。
 いつの間にか近づいていた距離は、酒のおかげなのか、互いに親近感を覚えたからなのかは分からない。
 分からなくてもいいだろう。
 そんなこと思いながら、夜は更けていったのだった。


 ◇


 エルドさんの家で目を覚ました私――アンは、ベッドの上でぐっと伸びをした。
 そして大きく息を吸おうとしたところで、すぐにその臭いに気が付いた。

「……お酒臭い」

 酒盛りをした翌朝の臭いがする。
 きょろきょろと辺りを見渡してみると、その臭いの発生源を特定した。
 床で寝ているエルドさんと、エルドさんに覆いかぶさって寝ているシキ。
 そのすぐ近くには、空になった酒瓶が何本も転がっていた。
 どうやら私が寝てからずいぶんと楽しんでいたらしい。
 私は身を寄せて寝ている二人を見て、首を傾げた。
 一体、何があったらこんなに距離が近くなるのだろうか。
 考えてみたが、その答えは分からなかった。

「まぁ、仲よくなったのなら、別にいいんだけどね」

 少し呆れてそんな言葉を漏らしてから、私は二人の体を揺すって起こすことにした。
 ずっと寝かせておいてもいいんだけど、このまま放っておいたら、何時に目を覚ますか分からないしね。

「シキ、エルドさん。起きて、朝だよ」

 二人は私に体を揺すられて目を覚ました後、しばらくそのままぼーっとしていた。
 目は開いているのに、意識が朦朧もうろうとしてるみたいだ。
 二人とも、ちゃんと起きてるんだよね?

「……昨日は、少し飲みすぎたな。シキが思った以上に飲むもんで驚いた」
「エルドに負けるはずがないだろう。それにしても、エルドは人間にしては多少は骨があるようだな」

 ただお酒を飲んでいただけで、骨があるかどうかなんて分かるわけがないと思うんだけど……
 でも、二人がそれで納得して仲よくなったのなら、それでもいっか。

「今日は、あれだな……えーと、案内。そうだ、アンに街を案内するんだった。その前に、あれだな……朝ご飯を買ってこよう」
「エルドさん、大丈夫ですか?」

 なんだかぼーっとしている。お酒が抜けきっていないのだろう。
 絶対に二日酔いしてるよ。
 立ち上がって朝の支度を始めたのはいいけど、少し足元がふらついている。

「大丈夫、大丈夫。ちょっと待っていてくれな。今、朝ご飯を買ってくるから」
「それなら、私も一緒に行っていいですか?」
「ん? ああ、そうだな。朝飯を買うついでに、市場を案内しておくか」

 エルドさんはそう言うと、私にそっと手を差し出した。
 あまりにも自然に手を差し出したので、私は何も考えずにその手を握り返してしまった。
 昨日会ったばかりの人といきなり手をつなぐなんて、もしかして変かな?
 エルドさんの手はごつごつしていて、ところどころ手の皮が硬くなっていた。
 これって、剣を振った時にできるマメ?
 え、それにしては硬すぎるでしょ。
 普通、マメってこんなに硬くならないよね?
 一体、どれだけ剣を振ればこれほど硬くなるのだろうか。
 私がエルドさんを見上げると、先ほどまでぼーっとしていたエルドさんの顔が少し引き締まったように見えた。
 一瞬目を大きく開けた後で、エルドさんはそのまま優しそうな笑みを浮かべた。

「手を繋ぐなんて久しぶりだな」

 どこか感慨深そうな優しい表情を前に、私は首を傾げた。
 もしかして、私を誰かと間違えてる?

「エルドさん、まだ寝ぼけてますか? 手を繋いでいないと、エルドさん、フラフラして危なそうですね」
「……ああ、そうだな。今度はちゃんと守らないとな」
「エルドさん、話聞いてましたか? フラフラのエルドさんを支えてるのは私ですからね」

 千鳥足なエルドさんが人とか建物とかにぶつからないように、私が守らないと。
 私はエルドさんの手をしっかりと握り直し、エルドさんを支えながら街の市場へと向かうのだった。


「おー、これが朝市ですか」

 エルドさんの家から少し歩いていくと、そこには中世ヨーロッパの市場のような景色が広がっていた。
 道の両端には料理を振る舞う屋台が並んでいて、朝から活気がある。
 こんな場所に来たのは初めてだ。
 なんだかテンションが上がってしまう。

「何か食べたいものがあったら言ってくれ。今日はアンの好きなものにしよう」
「え、いいんですか?」

 私が食欲を刺激する香りに表情を緩ませながら言うと、エルドさんは笑みを浮かべてシキを見た。

「シキもそれでいいだろ?」
「俺はそれで構わない」

 シキはそう言うと、軽く尻尾を振った。
 食べものの匂いに、シキも興奮してるみたいだ。
 一体、どんな屋台があるんだろう。
 私は異世界の食べものを前にワクワクして、そのまま走りだそうとした。
 しかし、その瞬間ぐいっと後ろに強く引っ張られた。
 振り向いてみると、シキが私の服をくわえて何か言いたそうな顔をしていた。

「勝手に走りだすな、アン。迷子になったらどうする」
「迷子って……私、中身は子供じゃないもん」

 私に前世の記憶があることは、昨日の食事中に初めてエルドさんとシキに話した。
 二人とも驚いていたけど、私の中身が大人だってことはちゃんと理解してくれたはず。
 それなのに、なんでこんなに心配しているの?
 私がに落ちずに首を傾げていると、私と目が合った街の人たちがきゃあっと声を上げた。
 え、なんだろう?
 私がその声に驚いていると、子犬でもでるような目を向けられる。

「な、なんて顔が整った子だ」
「あんな可愛い子、この街にいたか?」
「あれじゃないか? 昨日可愛い子が街に来たって噂になっていた……」

 みんなが口にする内容は、私の容姿を褒めるものだった。
 て、ていうか、噂になってたの?
 私は思いもしなかった事態に照れ臭さを感じた。
 可愛いと言われるのは嬉しいけど、反応に困っちゃうよ。

「ん? う、後ろの魔物は……な、なんだあれ?」

 しかし、街の人たちの注目は私だけに留まらず、後ろにいるシキにまで向けられていた。
 まぁ、街中にシキみたいな魔物がいたら、当然驚くよね。
 シキがフェンリルだってことは秘密にしているけど、シキみたいな従魔を連れている人は街にはいないみたい。
 昨日は少し歩いただけだったけど、今後はシキが街を歩く頻度も多くなる。
 そうなった時、変な言いがかりとか、つけられなきゃいいんだけど……

「エルドさん。もしかして、シキって結構目立ってます?」
「こんなでかい魔物を引き連れているわけだし、注目は浴びるだろうな。念のために、シキのことは昨日のうちに冒険者ギルドに話をしておいたし、問題にはならないだろうから安心していいぞ」
「え、そうだったんですか? いつの間に……」

 そういえば昨日、私の服を買いにいった時、少し帰りが遅かった気がする。
 もしかしたら服を買う以外にも、私たちのためにいろいろと動いてくれたのだろうか?
 エルドさん、門番の人たちだけじゃなくて、ギルドにまで話を通したんだ。

「エルドさん、ありがとうございます」

 私が頭を下げると、エルドさんは口元を緩めた。

「気にしないでいいぞ、アン。それよりも、食べたいものは見つかったか?」
「そうですね……いろいろと屋台を見てはいるんですけど、なかなか決まらないです」

 辺りをきょろきょろと見渡して気が付いたけど、どうやら私はこの世界の文字が読めるらしい。
 多分、これが私のステータスにあった【言語理解】というスキルの効果なのだろう。
 今になって思えば、初めてエルドさんと話した時に言葉が理解できたのも、【言語理解】の能力だと思う。
 でも、文字は読めても、それがどんな料理なのかは分からないんだよね。
 メニューに『からあげ』と書いてあっても、なんの知識もない人がそれを初めて見た時に、『鶏肉とりにくに衣をつけて揚げたもの』って理解するのは不可能だと思う。
 まさに今がそんな状態。
 異世界の料理がどんなものなのか、解説してくれるスキルとかないのかな? 
 そう考えながら屋台の料理に目を向けた。
 このお店の料理は……何かのスープかな?
 私がじっとその料理を見ていると、突然私の目の前に小さな画面が現れた。
 そして、そこには次のような文字が書かれていた。


 全知鑑定:葉物の野菜と鶏肉のスープ
      鳥型の魔物の肉をつみれ状にしたものと葉物の野菜が入っているスープ


 ……え、なんか急に出てきたこれは何?
 私が戸惑いながらエルドさんとシキに視線を向けると、二人はきょとんとした表情をしている。
 もしかして、この画面は私にしか見えてないのかな?
 前に私のステータスを見た時の画面と似ている。
 前と違うところは……ん? 鑑定?
 今気付いたけど、よく見てみたら画面には『全知鑑定』という文字が入っている。
 そういえば、私のスキルに【全知鑑定】ってものがあった気がする。
 ということは、これが【全知鑑定】の能力? 
 ただ対象を見ただけで、その内容について鑑定し、詳細を解説してくれる。
 それが、このスキルの力なのだろう。
 これなら、屋台で売っている食べものが、どんなものかすぐに分かりそう。
 でも、【全知鑑定】ってすごい名前が付いてる割には、普通の鑑定のような気もするけど……
 もしかして、まだ私の知らない使い方があるのかな?
 うん、『全知』っていうくらいだし、きっと他の使い方もあるはずだよね。
 そんなことを考えて一人で黙っていると、エルドさんが不思議そうな目で私を見ていた。
 あっ、そうだった。
 何を食べたいか聞かれて、まだその回答をしていなかったんだ。
 私は少しだけ慌てながら、先ほど【全知鑑定】を使って料理を調べた店を指差した。
 とりあえず、スキルの詳細よりもお腹の虫をどうにかしよう。

「エルドさん、あれはどうですか?」

 昨日深酒をしたであろうエルドさんとシキのことを考えて、お腹に優しい野菜スープを朝ご飯にするのは、いい案なんじゃないかな。
 早く二日酔いを治してもらわないとだしね。

「ん? 野菜スープか。いいな、今の俺にはこれがちょうどいいかも」


 屋台で朝ご飯を買った私たちは、市場から少し離れたところにあるベンチで食べることにした。
 その道中、私は他の屋台のお店にも、【全知鑑定】を使ってどんな料理があるのか調べながら歩いた。
 その結果、信じがたい事実に直面してしまった。
 こんなことあるのかなと思う反面、異世界ならありえるかもと思えてしまう。
 私は優しい味のスープを飲み終えてから、エルドさんを見上げた。

「あの、エルドさん。もしかしてこの世界には、塩以外の調味料を使った料理ってないんですか……?」

 ここは、しっかり確認しておこう。

「ん? そうだな。あんまりないかもな」

 エルドさんは当たり前のことを言うみたいにそう頷くと、残っていたスープを一気に飲み干した。
 う、嘘……
 実はいろんな店の料理を鑑定してみた結果、どれも調味料は塩だけだったんだよね。
 何かの間違いかと思って聞いたみたが……どうやら、本当に塩だけの料理しかないらしい。

「もしかして塩だけなのは、他の調味料が高価だからとかなんですか?」

 異世界系の小説で調味料が高いっていうのは、定番の展開だった。
 だからそのテンプレ通り、塩以外の調味料は値段が高くて手が出せないのだろう。
 そう思って聞いてみたが、エルドさんは首を傾げた。

「高いというか……料理なんて味がついていれば食べられるだろ? 塩だけで十分じゃないか?」
「うーん。まぁ、そういう考えもありますかね……」

 この世界の料理は素材がいいのか、塩だけでも美味しい。
 けれど、他の調味料も使った方がもっと美味しくなる気がする。
 日本という食のバリエーションが多い国から来た私からしたら、美味しいものはより美味しく食べたい。
 高価ということが問題ではないのなら、自分で調味料を作ってみるのもいいかもしれない。
 簡単なものなら案外作れるかもしれないね。
 私が意気込んで胸の前で拳を握っていると、エルドさんがベンチから立ち上がった。

「それじゃあ、そろそろ街の案内をするか」
「はいっ、お願いします」

 私もエルドさんを追ってベンチから立ち上がり、シキと一緒にエルドさんの隣に並んで歩きだした。
 それからいろんなお店をエルドさんに案内してもらった。
 食材を売っているお店や、武器を売っているお店。それに、日用品を扱っているお店。
 それらを案内してもらってから、エルドさんに行きたいところがあると言われた。
 他のお店と同じ通りにある、ごく普通のお店。
 なんのお店だろ?
 エルドさんがそのお店の扉を開けると、店の中にはずらりと服が並んでいた。
 ってことは……服屋さん?
 よく見てみると街の人たちが着ているような服が置いてある。
 私は異世界の衣服を見て前世との違いに感心し、ほぅと声を漏らす。

「あれ? エルドさんじゃない――え? 何、この可愛い子!」

 服を畳んでいた若い女性店員さんが、私を見ると目を輝かせた。
 その反応は、前世でアイドル好きだった会社の同僚が、推しのアイドルを見る時に浮かべていた表情と酷似している気がした。

「は、初めまして、アンです」

 私がその視線に戸惑っていると、店員さんはすさまじい勢いで私の目の前にやってきた。
 そしてずいっと私の顔を覗き込んでから、勢いよくエルドさんの方を見る。

「なんでエルドさんが子供といるの⁉」
「あれだ……冒険者見習いだ」

 エルドさんは頬を掻きながら、店員さんから目を逸らす。
 あれ? 私って知らないうちに見習いになってたの?
 私が首を傾げてエルドさんを見ると、エルドさんに耳打ちをされる。

「適当に見習いってことにしておいてくれ。誘拐したと間違えられるのは面倒だからな」

 そう言われて、私は慌てて何度も頷いた。
 これだけ優しくしてもらっているのに、恩をあだで返すようなことはしたくない。

「そうです! エルドさんの見習いです!」

 私が大きな声でそう言うと、店員さんはきょとんとした後に微笑みかけてくれた。「そっか、見習いさんか。ずいぶん可愛らしい見習いさんね~」
 店員さんは何かに気付いたような様子で腕を組んだ。


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