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第三章 旅の始まり
第十三話 はい、それは俺のことです
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「何をしている!」
「あ……」
絡まれている俺達を見ていた誰かが通報したのか、衛兵らしき人達が数人で俺達を取り囲むが、おじさんは慌てるどころかやっと来たかという顔をしている。
「なんだ、お前か。で、何をしているんだ」
「これですよ。これ!」
そう言うとおじさんは懐から羊皮紙を取り出し衛兵に見せる。
「ふむ、確かに手配書の通りだと思うが、少し違うんじゃないか」
「いやいやいや、そんなの些細な違いじゃないですか。ほら! 大体の歳と身形に犬を連れているのは一緒だし、髪色なんて染めれば変わるんだし。ね?」
「そうだな。言われてみれば確かに……」
「でしょ。で、見つけたのは俺達ですからね」
「まあ、言いたいことは分かった。うん、確かに似てはいるな」
衛兵は手配書と俺達を見比べながら、そんなことを言う。そしておじさんは報奨金を貰えるものと思い両手を揉んでいる。
俺はエミリーさんが手配書を破棄すると言っていたが、まだ市井まで伝わってはいないのだろうか。
アオイは俺の方を見てどうするつもりなのかと問い掛けて来るが、その両手は拳を握り込み臨戦態勢を取っている。まあ、アオイの気持ちは分かるが今ここで争うのはダメだ。タロもまだ寝ているし。
その内、衛兵が手配書をおじさんに返すと「ちょっと、いいかな」と俺達に聞いてくる。
「なんですか?」
「いや、まあいい気がしないのは分かるが、一応念の為に調べさせてもらってもいいかな」
「ハァ~分かりました。それでそちらの気が済むのならいいですよ」
「そうか、いや助かる。じゃ行こうか」
「はい。アオイ、タロ、行くよ」
「そうか。じゃあ、暴れるのはもう少し先だな」
「おい!」
「アオイ!」
「ん、すまない」
アオイの言葉に衛兵が顔を顰めたので俺はアオイの名を呼び窘める。
「まあ、連行されるのだから気持ちは分からないでもないが、くれぐれも大人しくしてくれよ」
「はい、いいですよ」
「旦那!」
「ん? もういいぞ」
「いや、そうじゃないでしょ」
そして俺達を連れて行こうとする衛兵におじさんが声を掛ける。どうも手配書に書かれている報奨金を心配しているみたいで、衛兵はおじさんに対し「支払いは確定した後だ」と言い手でおじさんを追い払う仕草をすると、おじさんは納得いかないような顔をしていたが、不承不承に頷くとスゴスゴと退散する。
「では、行くか」
「はい」
歩き出した俺は地図でおじさん達を確認すると、少し遠巻きに俺達をまだ監視しているようで、衛兵の後を着いて歩く俺達の後ろから着いて来ているのが分かる。
「コータ、追い払わなくてもいいのか?」
「いいよ。衛兵達の前だし」
「そうか。だが、こうも付き纏われるとイラッとするな」
「まあ、気持ちは分かるけどさ。もう少しだと思うから我慢してよ」
「コータがそういうのなら……だが、殺る時は俺が一番だぞ」
「分かったから、衛兵の前でそういう物騒な物言いは控えてくれるかな」
「ん、そうだな。すまん」
アオイの殺る発言に前を歩いていた衛兵がこちらを振り返りジロリと睨むのでアオイには再度注意する。
「ここだ。入ってくれ」
「は~い」
「……クサいな」
『ワフゥ~』
衛兵に案内され連れて来られた所は衛兵の詰所らしき所だ。日本で言えば、派出所だろう。中は十二畳くらいだろうか。壁際にテーブルが二つほど用意され、椅子も十二脚ほどある。そしてアオイ達が不満を漏らすように確かに多少の男臭さが充満している様ではあるが俺には苦にならない程度だ。
「クサくて悪かったな。まあ、男ばかりだからしょうがないんだ。だから、我慢してくれとしか言えない」
「はぁ……」
「でだ、まどろっこしいことは抜きにして聞くが、これはお前で間違いないのか?」
「そうです」
「そうか、違うのか……ん? 待て! お前、今認めたのか?」
「そうですよ。この手配書は確かに俺のことです」
もう俺は手配書に煩わしい思いをするのが面倒になったので、ここで終わらせられるのならと下手に誤魔化すのは止めて正直に話すが、衛兵のお兄さんは俺の顔を見て、正気を疑っているようだ。
「はぁ? お前、気は確かか? お前が違うと言えば、俺はお前を解放していたところだぞ!」
「でも、またこの手配書のせいで捕まるかも知れないでしょ。それだとまた面倒なことになりそうだから、もうここで終わらせようと思ってね」
「終わる? お前、手配されているのに終わる訳がないだろ!」
「終わりますよ」
「はぁ? お前、正気か?」
俺が終わると言っているのにお兄さんはまだ疑っているようだ。
「正気ですよ。誰か、冒険者ギルドまで行ってそこのギルドマスターに確認してもらっていいですか?」
「……聞くって何をだ?」
「だから、この手配書が既に無効になっているかどうかをですよ」
「はぁ? だから、なんでそれを冒険者ギルドのギルドマスターに確認するんだ?」
「それは約束したからですよ」
「約束だと? お前がか?」
「ええ、そこのギルドマスターがこの手配書の破棄を申し出に王城に行くと約束してくれましたよ」
「……」
「疑わしいのは分かりますが、先に確認をお願いしてもいいですか?」
「……分かった。おい!」
「はい!」
お兄さんは横に立っていた部下らしい衛兵に顎で指図すると、その若い衛兵は話を横で聞いていたので、お兄さんに短く返事をすると直ぐに詰所を出て走り出す。
「アイツが戻ってくるまで待ってくれ」
「いいですよ」
「それまで……我慢しなきゃダメなのか」
「すまんな」
「あ……」
絡まれている俺達を見ていた誰かが通報したのか、衛兵らしき人達が数人で俺達を取り囲むが、おじさんは慌てるどころかやっと来たかという顔をしている。
「なんだ、お前か。で、何をしているんだ」
「これですよ。これ!」
そう言うとおじさんは懐から羊皮紙を取り出し衛兵に見せる。
「ふむ、確かに手配書の通りだと思うが、少し違うんじゃないか」
「いやいやいや、そんなの些細な違いじゃないですか。ほら! 大体の歳と身形に犬を連れているのは一緒だし、髪色なんて染めれば変わるんだし。ね?」
「そうだな。言われてみれば確かに……」
「でしょ。で、見つけたのは俺達ですからね」
「まあ、言いたいことは分かった。うん、確かに似てはいるな」
衛兵は手配書と俺達を見比べながら、そんなことを言う。そしておじさんは報奨金を貰えるものと思い両手を揉んでいる。
俺はエミリーさんが手配書を破棄すると言っていたが、まだ市井まで伝わってはいないのだろうか。
アオイは俺の方を見てどうするつもりなのかと問い掛けて来るが、その両手は拳を握り込み臨戦態勢を取っている。まあ、アオイの気持ちは分かるが今ここで争うのはダメだ。タロもまだ寝ているし。
その内、衛兵が手配書をおじさんに返すと「ちょっと、いいかな」と俺達に聞いてくる。
「なんですか?」
「いや、まあいい気がしないのは分かるが、一応念の為に調べさせてもらってもいいかな」
「ハァ~分かりました。それでそちらの気が済むのならいいですよ」
「そうか、いや助かる。じゃ行こうか」
「はい。アオイ、タロ、行くよ」
「そうか。じゃあ、暴れるのはもう少し先だな」
「おい!」
「アオイ!」
「ん、すまない」
アオイの言葉に衛兵が顔を顰めたので俺はアオイの名を呼び窘める。
「まあ、連行されるのだから気持ちは分からないでもないが、くれぐれも大人しくしてくれよ」
「はい、いいですよ」
「旦那!」
「ん? もういいぞ」
「いや、そうじゃないでしょ」
そして俺達を連れて行こうとする衛兵におじさんが声を掛ける。どうも手配書に書かれている報奨金を心配しているみたいで、衛兵はおじさんに対し「支払いは確定した後だ」と言い手でおじさんを追い払う仕草をすると、おじさんは納得いかないような顔をしていたが、不承不承に頷くとスゴスゴと退散する。
「では、行くか」
「はい」
歩き出した俺は地図でおじさん達を確認すると、少し遠巻きに俺達をまだ監視しているようで、衛兵の後を着いて歩く俺達の後ろから着いて来ているのが分かる。
「コータ、追い払わなくてもいいのか?」
「いいよ。衛兵達の前だし」
「そうか。だが、こうも付き纏われるとイラッとするな」
「まあ、気持ちは分かるけどさ。もう少しだと思うから我慢してよ」
「コータがそういうのなら……だが、殺る時は俺が一番だぞ」
「分かったから、衛兵の前でそういう物騒な物言いは控えてくれるかな」
「ん、そうだな。すまん」
アオイの殺る発言に前を歩いていた衛兵がこちらを振り返りジロリと睨むのでアオイには再度注意する。
「ここだ。入ってくれ」
「は~い」
「……クサいな」
『ワフゥ~』
衛兵に案内され連れて来られた所は衛兵の詰所らしき所だ。日本で言えば、派出所だろう。中は十二畳くらいだろうか。壁際にテーブルが二つほど用意され、椅子も十二脚ほどある。そしてアオイ達が不満を漏らすように確かに多少の男臭さが充満している様ではあるが俺には苦にならない程度だ。
「クサくて悪かったな。まあ、男ばかりだからしょうがないんだ。だから、我慢してくれとしか言えない」
「はぁ……」
「でだ、まどろっこしいことは抜きにして聞くが、これはお前で間違いないのか?」
「そうです」
「そうか、違うのか……ん? 待て! お前、今認めたのか?」
「そうですよ。この手配書は確かに俺のことです」
もう俺は手配書に煩わしい思いをするのが面倒になったので、ここで終わらせられるのならと下手に誤魔化すのは止めて正直に話すが、衛兵のお兄さんは俺の顔を見て、正気を疑っているようだ。
「はぁ? お前、気は確かか? お前が違うと言えば、俺はお前を解放していたところだぞ!」
「でも、またこの手配書のせいで捕まるかも知れないでしょ。それだとまた面倒なことになりそうだから、もうここで終わらせようと思ってね」
「終わる? お前、手配されているのに終わる訳がないだろ!」
「終わりますよ」
「はぁ? お前、正気か?」
俺が終わると言っているのにお兄さんはまだ疑っているようだ。
「正気ですよ。誰か、冒険者ギルドまで行ってそこのギルドマスターに確認してもらっていいですか?」
「……聞くって何をだ?」
「だから、この手配書が既に無効になっているかどうかをですよ」
「はぁ? だから、なんでそれを冒険者ギルドのギルドマスターに確認するんだ?」
「それは約束したからですよ」
「約束だと? お前がか?」
「ええ、そこのギルドマスターがこの手配書の破棄を申し出に王城に行くと約束してくれましたよ」
「……」
「疑わしいのは分かりますが、先に確認をお願いしてもいいですか?」
「……分かった。おい!」
「はい!」
お兄さんは横に立っていた部下らしい衛兵に顎で指図すると、その若い衛兵は話を横で聞いていたので、お兄さんに短く返事をすると直ぐに詰所を出て走り出す。
「アイツが戻ってくるまで待ってくれ」
「いいですよ」
「それまで……我慢しなきゃダメなのか」
「すまんな」
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