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第三章 旅の始まり

第十一話 懲罰中

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 冒険者ギルドの食堂でタロとアオイを回収すると、宿へと戻る。

「どうした? 今日中には王都から出るんじゃなかったのか?」
「そのつもりだったんだけど、ガイルさんから連絡がなかったんだよ。それに俺の方もギルドマスターに捕まっちゃったしね」
「そうか」

 宿に戻る道中でアオイに質問されたので、手短に話すとアオイは納得してくれたのか、それから宿までは何も話さなかった。タロは満腹感からか眠そうだったがなんとか歩いてくれた。そして宿に着いた俺達は信じられない光景を目にするのだった。

『私達は約束を忘れるまで飲み潰れました』と書かれたプラカードみたいな板きれを胸の前に掲げて受付前の床に正座している二人……リックさんとガイルさんがそこにいた。

「えっと、ガイルさん?」
「コータ、助けてくれ! お願いだ!」
「坊主、いや小僧、なんでもいいから、俺達を助けてくれ!」
「ん? よく分からないけど、その胸に書かれている内容から自業自得でしょ」
「「ぐぬぬ……」」
「それに今日は馬車を紹介してくれる約束だったハズですけど?」
「うっ……」

 俺がそう言ってリックさんを見ると、リックさんは俺から視線を外す。そして、ガイルさんは「助けてくれないのか?」と俺に何かを期待しているようだ。俺も嘆息し助けようかとガイルさんに手を伸ばし掛けたところで、その手を掴まれる。

「ダメよ! こいつらはまだ反省が足りないから」
「え?」
「「ビビ」」

 取り敢えずガイルさんを助けようと手を伸ばしたが、その手を横から掴まれたので、驚いてその手が誰なのかと顔を見上げると、リックさんとガイルさんが揃って声を出す。

 雰囲気的にリックさんの奥さんなのだろう。だが俺の手を握っているその腕は細く、ビビさん自体も痩身だ。見た目は百六十センチメートルに届かないくらいだろうか。短く纏められたボブヘアーの茶髪でキリッとした感じの猫系の細目の顔付きをしている。そのせいか、全体的にキツく見えてしまう。

 そして、そんなビビさんは俺の腕を離すと腕を組み正座させられている二人を見下ろすと、その二人に話しかける。

「で、どうなの? 反省したの?」
「したした! もう十二分に反省したから!」
「ふ~ん、でも、今月だけでも三回目だよね」
「そ、そうだったかな~」

 リックさんは動揺を隠せないまま、ガイルさんにバトンを渡すがガイルさんも怒り心頭のビビさんに腰が引けているようでさっきから黙っている。

「えっと、ビビさんで合ってますか?」
「ええ、ビビでいいわよ。あなたは確かそこのろくでなしのガイルの連れでいいのかしら」
「はい、それで合ってますけど……これは?」
「ああ、これね」

 ビビさんに簡単な自己紹介をしたところで、現状を説明して貰う。

「まあ、説明するまでもないと思うけど要は久々に会ったリックと、そこのガイルがはしゃぎ過ぎて一日をダメにしたってことかしらね。そうよね、リック、ガイル!」
「「イエスマム!」」

 二人の様子からビビさんが二人を調教済みであることは分かった。だが、それよりも今日の宿が問題だ。多分、関係者であろうビビさんに今日泊まれるか聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

「あら、それならエミリーさんから『私の家に泊めるから』と言われているけど?」
「え?」

 ビビさんが言うには冒険者ギルドからの使いが来て、俺達が来たらココに来るようにと書かれた地図とさっきの伝言を頼まれたそうだ。そう言えば確かにエミリーさんからは宿のことは心配するなとは言われた気がするが、そういうことなのだろうか。だが、それよりも大事なのは……今、俺の目の前で「面白いモノを見つけた」と言う風に興味津々な顔をしているビビさんへの対応だろう。

 さっきまでキリッとした顔で二人を詰問していたのに今はニヤニヤを止められないようで俺の顔をジッと見ている。

 ここで対応を間違ってしまうと大変なことになるんだろうなと思う。
『肯定します』

「ねえ、ちょっと聞いてもいい?」
「はい、なんでしょうか?」
「あのエミリーさんが家に招くなんて珍しいと思ってね。で、ズバリ聞くけどあなたとエミリーさんはどういう関係なのかしら?」
「えっと、それは……単に冒険者と冒険者ギルドのギルドマスターという関係には変わりありません。ただ、今日はギルドマスターの都合で出発が遅れたことに対するお詫びだと受け取っていますが」
「そう、ふぅ~ん……」
「な、なんでしょうか?」
「ねえ、そういう風に言えって言われたの?」
「ん? どういう意味でしょうか?」
「だって……ん、まあいいわ。そういう訳だから、ちゃんと行ってね。じゃないと私が引き留めたと思われちゃうから」
「あ、はい。でも……」

 俺はビビさんから地図をもらうと足が痺れているのか項垂れているガイルさんを見る。

「あ、この人達なら心配しないでいいわよ。明日の朝までこのままだから。だから、明日の朝に迎えに来てくれたらいいわよ」
「……」

 俺はビビさんの言葉に驚きガイルさんを見るとガイルさんもまさか『朝までコース』とは思っていなかったらしく俺に向かって両手を合わせて懇願してくるので、俺もさすがに可愛そうかなと思いビビさんに進言してみる。

「あの……」
「何? 言っとくけど、嘆願は受け付けないわよ」
「そ、そうじゃなくて明日は馬車を見に行きたいんですけど……」
「あ~そっちね。それなら、私が責任持って対応させてもらうわ」
「え、いいんですか?」
「いいわよ。元々ウチのろくでなしが約束していたことだし。こいつには明日は今日サボった分ちゃんと働いてもらうからね」
「そ、そうなんですね。じゃあ、お願いします」
「はい、お任せ下さい」

 俺は宿を出る前にガイルさんに対し手を合わせて『ゴメン』と呟く。その瞬間、ガイルさんはこの世から見放されたとでもいうような愕然とした顔になるが、明日迎えに来るまで頑張ってとしか言えない。
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