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第一章 旅立ち

第三十一話 会話って大事だよね

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 タロの『ご飯』を躱しながらなんとか里に着くとキュリは直ぐに里長であるオジイの元へと向かったので俺はその間何をしようかと思う。『ご飯』と唸り続けるタロは無視で。

『ねえ』
「ん?」
『他のはないの?』
「他って……ああ、そうだな。ちょっと待ってな」
『うん!』

 俺がタロをどう誤魔化そうかと考えていると、俺のズボンをちょいちょいと引っ張る感触に気付き、下を見るとさっきの子供……多分、そうだと思う。俺にリザードマンの違いが分かるハズがないのだから。

 どうしたのかと聞けば、他の魔法を教えて欲しいと言うので、何がよさそうかなと腕を組み考えてみる。その時、ふと閃いたのが水上アクティビティでジェットスキーの噴射圧力で空を舞っていたのを思い出す。もし、これが上手くいけば新しい水上交通の要になるかも知れないという算段もあるが、相手は子供だ。何も難しく感じることもなくただただ純粋に水と戯れるだろうから成功する確率は高いハズだ。

「ちょっと、俺がやってみるからね。離れて見ててね」
『うん、分かった!』
『なになに、何やるの?』
『ズルいぞ、ジュリ俺達も混ぜろよ』
『そうだぞ』

 なんだか知らない内にリザードマンの子供に囲まれていたことに気付く。そして純粋な目に俺の強かな思惑が見透かされそうな気がするが気を取り直して準備を始める。

「え~と、基本はさっきの身体強化と同じだよな。足の裏から『噴射ジェット』させるイメージで……『噴射』! っと、こりゃ……また……よし!」
『え~ナニソレ!』

 なんとか左右からの噴射量を調節することで空中でも水平を保てる様になると足下のリザードマンの子供達にサムズアップしてから地面に降りる。

「と、まあこんな感じだ」
『え?』
『兄ちゃん、端折りすぎ!』
『そうだよ』

 リザードマンの子供達からブーイングされたのを受けながら俺は謝るとジュリと呼ばれたリザードマンの子供に近付く。多分、この子だよなと思っていることが感付かれないようにと願いながら。

「それじゃ、川の近くでやってみようか。水の上なら落ちてもそれほど痛くないだろうしね」
『うん!』

 他のリザードマンの子供達も俺達の後ろからゾロゾロと着いてくる。

「よし、じゃあさっきのを説明するぞ。先ずは手の平から出す練習な」
『うん!』

 他のリザードマンの子供達も同じ様に頷くが『兄ちゃん、何を出すんだよ』と言われる。その子には「慌てるな」と言って、昨日教えた水球ウォーターボールと同じ様に水を勢いよく噴射させることを教える。

『そんなこと出来るのかよ!』
『そうだぞ。昨日のとは違うじゃないか!』
『教え方ってものがあるんじゃないの?』

 いくら子供だからと言って好き放題言われ過ぎな気もするが悪い気はしない。ここまで悪たれるのならこちらも遠慮無く出来るというのものだ。

 俺は短く嘆息するとジュリに懇切丁寧に指導を始める。

「いいかい。水球はその場に留めるイメージだったけど、今回のはずっと出し続けることを考えるんだ。そうだな、ほら。川を見てよ。川にはずっと水が流れているでしょ。あんな風に手から水が出続けることを考えてやってみて」
『うん、分かった! 川だね……川……川……うわわぁ~』
『ジュリ!』
『スゲえ……』

 ジュリは俺の教えが余程よかったのか、直ぐに右手から水柱が放出された。俺はジュリの頭をポンポンと撫でて良く出来たと褒めることは忘れない。

『えへへ……撫でられちゃった』
「よし、じゃあ次は両手だな。よし、やってみよう!」
『はい、お兄ちゃん!』
「え? もう一度いいかな?」
『なにが?』
「だから、さっきの……ほら!」
『……はい、お兄ちゃん……って、これでいいの?』
「いい、すっごくいい!」
『変なの。まあ、いいけど……右手だけじゃなく左手からも……ん~はっ! 出た!』

 俺が久々の『お兄ちゃん』に感動している間にジュリは左手からの放出にも成功したようだ。ここまで出来たのなら、両足から出すことも難しくはないだろうとジュリに今度は両足から出すように言ってみると、やはりこれは簡単に出来た。

『お兄ちゃん、出来たよ!』
「うんうん、出来たね。アイタッ!」

 ジュリが『水流噴射ウォータージェット』を使って器用に飛び回っているのを見て、他のリザードマンの子供達が面白くなかったのか、俺の臑を蹴ってくる。

『ジュリばかりズルいぞ!』
『そうだそうだ!』
『私にも教えさせてあげるわよ』
「……」

 俺は遊んでいるジュリを呼び寄せると、川に入ってもらうように頼む。

『え~いいけど何するの?』
「ちょっと川の流れに逆らって遡ってみて欲しい」
『え~無理だよ』
「いや、さっきので出来るから」
『あ! そうか。やってみる!』

 ジュリが川に入ると俺達はその様子をジッと観察する。やがてジュリが川の中に肩まで浸かると『ジュリ、行きま~す!』と右手を挙げて宣言すると同時に身体を水平にすると、勢いよく川を遡って行く。

『お~スゲえ!』
『お、俺にも早く教えろよ!』
『そうよ!』
「俺に意地悪するヤツには教えない!」
『『『……』』』

 俺がそういうとさっきまで俺の臑を蹴っていたリザードマンの子供達が急に大人しくなる。

『ごめんなさい』
『ごめん、俺が悪かった』
『謝ります』

 リザードマンの子供達が一斉に頭を下げると戻って来たジュリが不思議そうにしている。

『皆、どうしたの?』
『ジュリ~こいつが!』
『こいつ、絶対に悪者だ!』
『ジュリだけひいきしてるし!』

 俺に魔法を教えろと脅迫紛いのことをしていたリザードマンの子供達が一斉にジュリに縋り付く。縋り付かれたジュリも昨日のことで俺の思惑を理解したのか、ハァ~と溜め息を着いてからリザードマンの子供達に対して、さっき俺から教わった内容を自分なりにアレンジしながら教えだした。

 これがリザードマン達に広まれば、キュリに頼んだ水上運搬も難なく出来るハズだろうと思い、そう言えばまだ話しているのだろうかと里長オジイを探すと、ちょうどタイミングよく俺の方へと向かってきているようだ。

『待たせたな』
「ホントだよ」
『その割には……また、妙なことを教えたみたいだな』
「妙なことって言わないでよ。単なる魔法だからね」
『ふぅ~まあいい。さっきの話だがオジイにも了解を得られた。里の者にはオジイと俺から頼むから反対されるようなことはないだろう。なんせ神獣様とその使いの者だし、実際にヒュドラも討伐してもらったからな。まあ、代価としては安過ぎるとは思うが、その辺りは勘弁な』
「いいよ、そのくらい。じゃ、行こっか」
『だが、ちょっと待て』
「え? まだ何かあるの?」
『ああ、忘れてないか?』
「ん、何かあった?」
『いや、何かあるんじゃなくてだな……あ~その、なんだ。俺達はヒトと話すことも文字の読み書きすら出来ないだろ。その問題はどうするんだ?』
「あ~う~ん、ん? タロ!」
『なに、やっとご飯なの?』
「違うけど、ちょっと来て!」
『ご飯じゃないなら行かない!』
「でも、これが片付かないとご飯にならないんだけど『行く! 今行く!』……お、おう」

 ご飯が食べられないことに拗ねて寝転がっていたタロを呼びつけるが、ご飯じゃないなら意味がないとばかりに動こうとしなかったので、キュリとの問題が片付かないとどうしようもないことを言うとすぐに来た。

『で、ご飯じゃないなら何?』
「えっと、俺とタロ、タロと他の人、クリフさんにキュリとも話せているよね」
『うん、そうだよ。ご飯ちょうだいってちゃんと言えるよ』
「まあ、今はご飯のことは置いといて。タロはそういうスキルに関係なく話せているでしょ」
『ん~分からないや』
「キュリはタロの言っていることも理解出来るんだよね」
『ああ、そうだが。それがどうかしたのか?』
「えっと、だからね。タロのしていることをキュリが出来ればキュリもヒトと話すことが出来ると思うんだけど?」
『ん? 俺にタロと同じ様に四つ足で歩けと言うのか?』
「あ~違うって、同じ様にって言うのはそう言うことじゃなくてタロが話しているのをマネすればいいってことを言いたいの!」
『コータの言っていることが分からない。何を言いたいんだ?』
『キュリおじちゃん、違うの。お兄ちゃんが言いたいのはね……』

 いつの間にか俺達の話を聞いていたジュリがキュリに俺が言いたいことを代弁してくれていた。そう、そうなんだよ。この子はやっぱり賢い子だなと改めて思う。

『はぁ~なるほどな。タロは魔力を介して喋っているから、俺達とも会話が出来るとそう言うことだったのか』
「そう、ソレ! 俺が言いたかったことはソレ! ジュリ、ありがとうな」
『へへへ、また撫でられちった』

 ジュリが代弁してくれて漸くキュリも俺の言いたいことが分かってくれたみたいだが、渋面が直らない。

「キュリ、どうしたの」
『ああ、タロの話しが通じる理由は分かった。だが、タロが俺達の言葉を理解するのはなんでなんだ?』
「あれ? そう言われればなんでだろ?」
『多分、一緒じゃないかな』
「え? タロ、どういうこと? あ! そういうことか」
『おいおい、自分ばかり分かっていないで俺にも教えろよ』

俺はタロの言葉に閃き聞き取るにも多少の魔力が必要なんだろうと考える。すると『肯定します』と出たので間違いではないようだ。

「えっとね、タロが言いたいのは話すのも聞くのも魔力が必要で。普段は話す言葉に微量の魔力が込められているらしいんだ。だから、聞く方がその魔力を感じとれるからタロと会話が出来るんだよ」
「あ~なるほど。つまり話す時にも聴く時にも魔力を感じ取るのが必要だと。それに込める魔力が強ければ、イヤでも聞こえてしまうと」
「そういうことみたい。知らんけど」
『肯定します』
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