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第一章 旅立ち
第三十二話 帰って来たのに
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そんなこんなで急遽始まったのは『魔力の込め方』講座だった。
講師はタロ、助手がジュリで受講者はキュリとオジイ、後はその他のモブな方々で始められたのだが、タロの適当なやり方をジュリが適切に噛み砕いて受講者に説明している。
『あのさ、こういうこと言ってもいいのか分からないけどよ』
「何?」
『誰が俺達が話せるかどうかを判定してくれるんだ?』
「あ~そこ気付いちゃう」
『いや、普通気付くだろ』
「だから、それは実地で検証するしかないでしょってことで、キュリをご招待しましょう」
『そうか、悪いな……って、違うだろ!』
「え? 違わないでしょ」
『だから、待てって。そもそも俺達がヒトと話が出来ないってことから始まったんだよな』
「そうだよ」
『なんで俺達が話せないと困るって話になったんだ?』
「え~今更そういうこと言うの」
『いいから教えろよ』
「もう、ちゃんと理解して覚えてよ。まあ、今回はジュリがいるから大丈夫か。あのね……」
俺は何度目かの水運事業についての話をする。この目の前の川を遡ればクレイヴ領の近くまで行けるようになること。今までのワルダネ領を通る街道よりも時間を数日単位で短縮出来ること。また、馬車ではなく船を使うことで運搬量の拡大や峠道に潜む野盗からも狙われる確率がグッと減ることなんかを挙げる。そしてこれらのことを理解してもらえば、リザードマン達にとって外貨を得る手段となり、今まで以上の暮らしが出来るだろうということを話す。
『ふむ、大体のことは理解出来たが……俺達は今の生活を無理に変えようとは思わない』
「え? それって……」
『ああ、断る』
「え~それは俺が困るよ」
『あ~勘違いするなよ。お前の頼みは引き受けるぞ。頼まれた通りに王家の連中を湖まで連れて行くのは約束しよう』
「よかった~」
『ただし、船の用意はそちらでお願いするぞ』
「うん。それはそうだよね。でも、もったいないな~」
そう言ってチラリとキュリを見るが、どうやらこれ以上は水運事業について話しても聞いてもらえそうにはないようだ。
でも、ジュリの目がキラキラとしているんだよね。
「もしかして興味があるの?」と聞けば豪快に縦に首を振る。見ると他のモブな人達の中にも興味があるように見えるのがチラホラと見受けられる。
なので俺からキュリに一つ提案してみる。
「えっとさ、無理にじゃなくたまに営業するってのはどう?」
『くどいな。俺達は興味がないと言っただろ!』
「でもさ、今回のヒュドラみたいにリザードマンだけで解決出来ない問題が発生した場合はどうするの?」
『ぐ……』
「言葉が出来ないと冒険者ギルドに辿り着けても依頼も出来ないし、ましてやお金も持たずに手ぶらじゃ依頼なんて受け付けてもらえないよ」
『そ、その時は今回みたいにコータが「俺はいないよ」……あ? それはどういうことだ?』
「だから、俺は今は旅の途中なの。旅の途中だけど断れない依頼だったから、ここに来たの。そういう訳だから、俺も湖まで行ったら、そこから先はどこに行くかは決めてないよ」
『おいおい、それは困るぞ』
「え? どういうこと?」
『お前達は俺達を導く存在だとオジイが言ってただろ』
「いや、そんなこと言われても……知らんけど」
『そんなこと言うなよ……』
「でもさ、俺は冒険者ギルドに登録しているから、なんかあれば冒険者ギルドを通じて連絡が出来るみたいだからさ」
『なら、どうしてもヒトと関わりを持たないとダメってことか』
「うん、だからね……」
俺達がキンバリー領から離れると聞いて話が違うとばかりにガックリと肩を落とすキュリに対し冒険者ギルドを通じて俺と連絡が取れるだろうことを話す。だけど、その為にはヒトと話せることが必要になる。そしてちゃんとした貨幣価値が分かってないと騙されたりすることもあるだろうからとちゃんとした金銭感覚も身に付ける必要がある。だから、そういうことに慣れる為にもヒトとちゃんと関わりを持った方がいいだろうとキュリを説得する。
そして、水運事業ではなくたまに依頼を受けて川を使っての運搬をするぐらいなら普段の生活を激変させることもないだろうと提案してみる。
ここまで横で黙って聞いていたジュリもうんうんと頷いている。それを見たキュリが嘆息しながら『分かった。先ずはお前の意見にのってみよう』となった。
そんな風に話が纏まったので俺はタロと一緒にキンバリー領を目指す。キュリは川を泳ぎながら……ではなく背中に乗せたジュリに『水流噴射』の指導を受けながらだが。しかし、なんでジュリが一緒に来ることになったかと言えば、魔法の扱いが他のリザードマンに比べて上手いからだということらしい。ただ、それだけキュリだけじゃ心細いと言われているような気がしないでもないが里の意思らしい。
ただ、それだとキュリの泳ぐ速さに俺の歩く速さが追いつかないので、俺はタロの背に乗せてもらっている。
最初は『ご飯』と俺を背中に乗せることに不満だったタロだが、キンバリー領に早く着けばそれだけご飯が早く食べられるぞと言えば、すぐに走って行こうとするのを俺がいないと無理だからと引き留めて、渋々タロの背中に乗せてもらったのだった。
しかし、順調だったのもここまでで川から上がったキュリを先頭に歩き、ジュリは俺と一緒にタロの上だ。槍を持ちタロの前を歩くキュリに気付いた門衛が慌てて中に入っていくのが見えた。
「あれ、どうしたんだろ?」
『おいおい、大丈夫だろうな』
「大丈夫だよ。多分……だけど」
気にせずに門に近付けば「そこで止まれ」と門衛が持っている槍で俺達を止める。
「なんで止めるの。俺はほら、冒険者ギルドの依頼で」
「分かっている。お前の話は聞いているが、そっちのリザードマンはどういうことだ?」
「だから、依頼達成の証だけど?」
『おいおい、ダメなのか?』
『ご飯……』
講師はタロ、助手がジュリで受講者はキュリとオジイ、後はその他のモブな方々で始められたのだが、タロの適当なやり方をジュリが適切に噛み砕いて受講者に説明している。
『あのさ、こういうこと言ってもいいのか分からないけどよ』
「何?」
『誰が俺達が話せるかどうかを判定してくれるんだ?』
「あ~そこ気付いちゃう」
『いや、普通気付くだろ』
「だから、それは実地で検証するしかないでしょってことで、キュリをご招待しましょう」
『そうか、悪いな……って、違うだろ!』
「え? 違わないでしょ」
『だから、待てって。そもそも俺達がヒトと話が出来ないってことから始まったんだよな』
「そうだよ」
『なんで俺達が話せないと困るって話になったんだ?』
「え~今更そういうこと言うの」
『いいから教えろよ』
「もう、ちゃんと理解して覚えてよ。まあ、今回はジュリがいるから大丈夫か。あのね……」
俺は何度目かの水運事業についての話をする。この目の前の川を遡ればクレイヴ領の近くまで行けるようになること。今までのワルダネ領を通る街道よりも時間を数日単位で短縮出来ること。また、馬車ではなく船を使うことで運搬量の拡大や峠道に潜む野盗からも狙われる確率がグッと減ることなんかを挙げる。そしてこれらのことを理解してもらえば、リザードマン達にとって外貨を得る手段となり、今まで以上の暮らしが出来るだろうということを話す。
『ふむ、大体のことは理解出来たが……俺達は今の生活を無理に変えようとは思わない』
「え? それって……」
『ああ、断る』
「え~それは俺が困るよ」
『あ~勘違いするなよ。お前の頼みは引き受けるぞ。頼まれた通りに王家の連中を湖まで連れて行くのは約束しよう』
「よかった~」
『ただし、船の用意はそちらでお願いするぞ』
「うん。それはそうだよね。でも、もったいないな~」
そう言ってチラリとキュリを見るが、どうやらこれ以上は水運事業について話しても聞いてもらえそうにはないようだ。
でも、ジュリの目がキラキラとしているんだよね。
「もしかして興味があるの?」と聞けば豪快に縦に首を振る。見ると他のモブな人達の中にも興味があるように見えるのがチラホラと見受けられる。
なので俺からキュリに一つ提案してみる。
「えっとさ、無理にじゃなくたまに営業するってのはどう?」
『くどいな。俺達は興味がないと言っただろ!』
「でもさ、今回のヒュドラみたいにリザードマンだけで解決出来ない問題が発生した場合はどうするの?」
『ぐ……』
「言葉が出来ないと冒険者ギルドに辿り着けても依頼も出来ないし、ましてやお金も持たずに手ぶらじゃ依頼なんて受け付けてもらえないよ」
『そ、その時は今回みたいにコータが「俺はいないよ」……あ? それはどういうことだ?』
「だから、俺は今は旅の途中なの。旅の途中だけど断れない依頼だったから、ここに来たの。そういう訳だから、俺も湖まで行ったら、そこから先はどこに行くかは決めてないよ」
『おいおい、それは困るぞ』
「え? どういうこと?」
『お前達は俺達を導く存在だとオジイが言ってただろ』
「いや、そんなこと言われても……知らんけど」
『そんなこと言うなよ……』
「でもさ、俺は冒険者ギルドに登録しているから、なんかあれば冒険者ギルドを通じて連絡が出来るみたいだからさ」
『なら、どうしてもヒトと関わりを持たないとダメってことか』
「うん、だからね……」
俺達がキンバリー領から離れると聞いて話が違うとばかりにガックリと肩を落とすキュリに対し冒険者ギルドを通じて俺と連絡が取れるだろうことを話す。だけど、その為にはヒトと話せることが必要になる。そしてちゃんとした貨幣価値が分かってないと騙されたりすることもあるだろうからとちゃんとした金銭感覚も身に付ける必要がある。だから、そういうことに慣れる為にもヒトとちゃんと関わりを持った方がいいだろうとキュリを説得する。
そして、水運事業ではなくたまに依頼を受けて川を使っての運搬をするぐらいなら普段の生活を激変させることもないだろうと提案してみる。
ここまで横で黙って聞いていたジュリもうんうんと頷いている。それを見たキュリが嘆息しながら『分かった。先ずはお前の意見にのってみよう』となった。
そんな風に話が纏まったので俺はタロと一緒にキンバリー領を目指す。キュリは川を泳ぎながら……ではなく背中に乗せたジュリに『水流噴射』の指導を受けながらだが。しかし、なんでジュリが一緒に来ることになったかと言えば、魔法の扱いが他のリザードマンに比べて上手いからだということらしい。ただ、それだけキュリだけじゃ心細いと言われているような気がしないでもないが里の意思らしい。
ただ、それだとキュリの泳ぐ速さに俺の歩く速さが追いつかないので、俺はタロの背に乗せてもらっている。
最初は『ご飯』と俺を背中に乗せることに不満だったタロだが、キンバリー領に早く着けばそれだけご飯が早く食べられるぞと言えば、すぐに走って行こうとするのを俺がいないと無理だからと引き留めて、渋々タロの背中に乗せてもらったのだった。
しかし、順調だったのもここまでで川から上がったキュリを先頭に歩き、ジュリは俺と一緒にタロの上だ。槍を持ちタロの前を歩くキュリに気付いた門衛が慌てて中に入っていくのが見えた。
「あれ、どうしたんだろ?」
『おいおい、大丈夫だろうな』
「大丈夫だよ。多分……だけど」
気にせずに門に近付けば「そこで止まれ」と門衛が持っている槍で俺達を止める。
「なんで止めるの。俺はほら、冒険者ギルドの依頼で」
「分かっている。お前の話は聞いているが、そっちのリザードマンはどういうことだ?」
「だから、依頼達成の証だけど?」
『おいおい、ダメなのか?』
『ご飯……』
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