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第一章 旅立ち

第十八話 隊長なのかな

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 姫さんが俯いている間にお姉さんからの「出来ました」が聞こえてきたので、姫さんにも確認してもらう。

「姫様、どうですか?」
「うん、いい!」
「じゃあ、俺の役目は終わりってことで……え?」

 姫さんが俺の袖を掴むと「お願い!」と言ってきた。何がお願いなのかと聞けば、必ず親である王を説得するから、その時には自分にも魔法を教えて欲しいと言うことだった。

 そう言われてしまえば無下にすることは出来ず、問題が払拭出来るのであれば必ず教えると約束してしまった。
 本当に大丈夫だろうか?。
『……』
 こういう時は何も言わないんだな。でも、確かに魔法が使えると聞いたのに使えない人がいるというのも変な話だよなと思う。まさか、女神イーシュはメジャーじゃないのかな。それで誤った方法が広まっているとかかな。
『肯定します』
 あ~そうなんだなと妙に納得してしまう。

 しかし、これから魔法を使う時には注意した方がいいのかなとか考えていると部屋のドアがノックされ返事をするとクリフさんが食事の用意が出来たと姫さんを呼びに来たので「いってらっしゃい」と姫さんを送り出すと姫さんもクリフさんも不思議な物でも見るような目で俺を見る。

「コータ、何を言っているの?」
「そうですよ。コータ様もご一緒です」
「え? だって、俺は平民ですよ」
「でも、私のお友達だよ」
「はい。そういうことでお席を用意してもらっていますので」
「えっと、いいんですか?」
「はい。ウェルター様には了承して頂いております」
「でも、マナーとかよく分からないし」
「もう、いいって言ってるでしょ! 男の子が細かいことを気にしないの!」
「お嬢様。もう少しお淑やかにお願いします」
「ほら! 私が怒られたじゃないの!」
「わ、分かったよ」
「それではご案内します」

 クリフさんに連れられて来た食堂の大きな扉の前で一度立ち止まるとクリフさんが扉の取っ手に手を掛けると姫さんが扉の前に立つ。そしてその後ろにはいつの間にか見知らぬドレス姿の痩身の女性が立っていた。誰だろうか、どこかで見た覚えがあるような気がするけどとジッと観察していると、その女性が言う。

「ふん! そんなイヤらしい目で見られるのは久しぶりだな。だが、小僧よ。その辺にしておけ」
「え? もしかして隊長?」
「ああ、そうだ」
「え~嘘だ!」
「それはどういう意味だろうか。詳しく聞いた方がいいのだろうか。ん?」
「あ……いえ」

 姫さんの後ろにいつの間にか立っていたドレス姿の綺麗な人をジロジロと見ていたら俺に対して話しかけて来たことで、やっと既視感の正体が分かったが、俺の脳内では「絶対に違うハズだ」と拒否反応を起こしている。その声が全部漏れていたみたいで隊長は俺に対し前屈みになると俺の頭を抑えつけながら脅してくる。

 いや、そんなドレスで前屈みになられると俺も前屈みになりそうなんですけど。
『軽蔑します』

「では、第三王女 ソフィア様が入室されます!」

 クリフさんが扉を開きながら、大き過ぎずよく通る声で姫さんが入ることを告げる。すると開かれた扉の向こう側では既に着席していた人達が一斉に立ち上がり姫さんに対しお辞儀している。

 こういうのを見ると改めて王族であり貴族なんだなと感じてしまう。

「小僧、ほら。ボ~ッとするな。行くぞ」
「あ、は、はい」

 慣れていない出来事にどうしていいか分からずに戸惑っていると隊長から声を掛けられr慌てて着いていくと既に座る位置は決められているらしく給仕の人に「コータ様はこちらへ」と案内された。

 食堂に置かれた大きなテーブルには所謂お誕生日席に姫さんが座り、その右隣にこの館の主人であるウェルターさん、反対側にはウェルターさんの奥さんが座っている。そして、姫さんから見て左側にはウェルターさんのご家族がずらりと並び、反対側には隊長や姫さんの護衛騎士達が座る。そして末席に俺とタロが座る。タロはアリス嬢からのリクエストで同席が許されたと聞いたが、床なんだよな。まあ、椅子に座れと言われても大きすぎて無理だろうけど。

 皆が座ったのを確認したところで、当主であるウェルターさんが立ち上がり挨拶を始める。

「ソフィア王女様、本日はキンバリー家にお招き出来たことを光栄に思います。ささやかですが、当家自慢の料理をご堪能して頂ければ幸いです」
「ありがとうございます。ウェルター様。では、皆様……女神イース様に感謝を」
「「「感謝します」」」
「え? イーシュじゃないの?」
『肯定します』

 どういうことだろうと思ったが、姫さん達は女神イーシュではなくイースという女神を信奉しているらしい。もしかして俺は女神イーシュの信仰心を盛り上げるために呼ばれたのだろうか。
『肯定します』

「ハァ~また面倒な……」
「どうしましたか?」
「あ、いえ。なんでもないです」
「そうですか」

 俺の側に着いてくれた給仕に思わず漏らした愚痴を聞かれたようで慌てて取り繕うと目の前に並べられた食事を確認する。

 コース料理ではなくテーブル中央に置かれた大皿から給仕がそれぞれ取り分けてくれるようだ。

 何がなんなのか分からないので、肉っぽいものとパンを取り分けてもらう。

「どうぞ」
「ありがとうございます」
「……いえ」

 なんだろう、給仕にお礼を言ったら戸惑われたんだけど、どこかおかしかったのかな。それか、給仕にお礼を言う人がいないから驚いているのだろうか。
『肯定します』

 貴族社会なので想像はしていたが、やはり慣れない。食欲が失せそうだったが、先ずは肉だろうなと思えるものをナイフとフォークを使い口に入れ咀嚼する。

「これはなんだろう……豚のような……牛のような……」
「オーク肉のサーロインになります」
「へ~オークなんだ……え? オークってあの?」
「どのオークを指しているか分かりませんが、オークです」

 俺の頭の中では姫さんを守る為に戦った時の豚面の魔物が浮かんだ。正直、手を使い二本足で立っているのを食べるのは気が引けるというか、のらないというか。なら鶏もだろうとおもわれるだろうが、鶏は二本足だが手は使っていないのでセーフだと思う。

 タロは平気なんだろうかと隣を見るとデッカい皿の上にまるでマンガ肉のような表面だけ焼かれた骨付きの塊を器用に前足を使って食べていた。

「あ~もうせっかくお風呂で綺麗に洗ったのに」
『これ、美味しいよ食べる?』
「いや、いらないから」
「「……」」

 俺の給仕とタロの給仕に俺とタロの会話を聞かれてしまったようで二人とも驚愕の表情になるが今更だなと気にしないことにした。さて、他に食べられそうな物はなんだろうか。
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