23 / 136
はじめての口付け
⑥
しおりを挟む
「ぼっ……き、君な!」
セルジュはニヤリと笑う。
「人間はそんなに簡単に欲情すんのか? そりゃあ、魔族の餌になるのも当たり前だなぁ。俺たちを恐れるのは、己の脆弱さゆえというわけだ」
「魔族は気持ちの隙間に入り込むのがお得意だと聞いている。魔力を使って不安を煽ったり、快楽堕ちをそそのかすそうじゃないか。君たちが卑怯なだけだろう」
とはいえ実際にその現場を見たことはないし、すべて聞いた話だ。セルジュと接するうちに僕の魔族に対する印象は変わっていた。
セルジュの話から推測するに、魔族は人間と何ら変わらない。生活も思考も。
実力主義で、魔力の高い者が上位に立つが弱者を守る法律もあるらしい。
だとしたら、むしろ人間の方が·····
ふいに考え込む僕を、セルジュが急かす。
「だけど、お前は弱くないだろ? なんたって勇者だものな。精神も鍛えられているし、魔力が効かないから魔族の魅了にも耐性がある」
挑発するセルジュを僕は無言で睨んだ。
「舌を絡めたくらいで欲情しないよなぁ」
「先日協力してやっただろう。これ以上君の好奇心に付き合う義理はない。僕も練習する必要を感じないしね。お互いの気持ちが盛り上がれば、自然と上手くやれるものだと思う」
「先に気持ちよくなれば気分も盛り上がるだろ」
「俗な考え方だな。悪いが、僕は気持ちを優先したい方だ」
「お前が付き合ってくれなければ、俺は一生舌を絡める口付けができないんだぞ!」
「たいしたことか。魔族にとっては当たり前のことで必要不可欠な行為じゃない。君が不満を感じてどうする。模範となるべき立場の君が受け入れなくては国民が可哀想だ」
「屁理屈はいい!」
セルジュは踵を瓦に打ち付けた。
「チューしたい! ベロを絡ませなければ気が済まない! 公務が手につかない!」
子供のように駄々をこねるセルジュを見て、僕は呆れた。
人の気も知らないで。自覚のないクソガキめ。
魔族の成長は早いのか、同い年だというセルジュの見た目は立派な大人のそれだ。体格も僕より一回り大きい。威圧感を伴った濃厚な色気は周囲の空気を歪ませるほど。そればかりか始終甘く刺激的な匂いを放っている。
それなのに、セルジュの中身は年齢相応、いや、もっと幼い。
いつまでも子供のように好奇心旺盛で、純粋だ。
本人は僕の兄貴分を気取っているようだが、精神的な成長は明らかに僕の方が勝っている。
僕は聞こえるようにため息をつくと、セルジュの説得に乗り出した。
セルジュはニヤリと笑う。
「人間はそんなに簡単に欲情すんのか? そりゃあ、魔族の餌になるのも当たり前だなぁ。俺たちを恐れるのは、己の脆弱さゆえというわけだ」
「魔族は気持ちの隙間に入り込むのがお得意だと聞いている。魔力を使って不安を煽ったり、快楽堕ちをそそのかすそうじゃないか。君たちが卑怯なだけだろう」
とはいえ実際にその現場を見たことはないし、すべて聞いた話だ。セルジュと接するうちに僕の魔族に対する印象は変わっていた。
セルジュの話から推測するに、魔族は人間と何ら変わらない。生活も思考も。
実力主義で、魔力の高い者が上位に立つが弱者を守る法律もあるらしい。
だとしたら、むしろ人間の方が·····
ふいに考え込む僕を、セルジュが急かす。
「だけど、お前は弱くないだろ? なんたって勇者だものな。精神も鍛えられているし、魔力が効かないから魔族の魅了にも耐性がある」
挑発するセルジュを僕は無言で睨んだ。
「舌を絡めたくらいで欲情しないよなぁ」
「先日協力してやっただろう。これ以上君の好奇心に付き合う義理はない。僕も練習する必要を感じないしね。お互いの気持ちが盛り上がれば、自然と上手くやれるものだと思う」
「先に気持ちよくなれば気分も盛り上がるだろ」
「俗な考え方だな。悪いが、僕は気持ちを優先したい方だ」
「お前が付き合ってくれなければ、俺は一生舌を絡める口付けができないんだぞ!」
「たいしたことか。魔族にとっては当たり前のことで必要不可欠な行為じゃない。君が不満を感じてどうする。模範となるべき立場の君が受け入れなくては国民が可哀想だ」
「屁理屈はいい!」
セルジュは踵を瓦に打ち付けた。
「チューしたい! ベロを絡ませなければ気が済まない! 公務が手につかない!」
子供のように駄々をこねるセルジュを見て、僕は呆れた。
人の気も知らないで。自覚のないクソガキめ。
魔族の成長は早いのか、同い年だというセルジュの見た目は立派な大人のそれだ。体格も僕より一回り大きい。威圧感を伴った濃厚な色気は周囲の空気を歪ませるほど。そればかりか始終甘く刺激的な匂いを放っている。
それなのに、セルジュの中身は年齢相応、いや、もっと幼い。
いつまでも子供のように好奇心旺盛で、純粋だ。
本人は僕の兄貴分を気取っているようだが、精神的な成長は明らかに僕の方が勝っている。
僕は聞こえるようにため息をつくと、セルジュの説得に乗り出した。
48
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


百花繚乱 〜国の姫から極秘任務を受けた俺のスキルの行くところ〜
幻月日
ファンタジー
ーー時は魔物時代。
魔王を頂点とする闇の群勢が世界中に蔓延る中、勇者という職業は人々にとって希望の光だった。
そんな勇者の一人であるシンは、逃れ行き着いた村で村人たちに魔物を差し向けた勇者だと勘違いされてしまい、滞在中の兵団によってシーラ王国へ送られてしまった。
「勇者、シン。あなたには魔王の城に眠る秘宝、それを盗み出して来て欲しいのです」
唐突にアリス王女に突きつけられたのは、自分のようなランクの勇者に与えられる任務ではなかった。レベル50台の魔物をようやく倒せる勇者にとって、レベル100台がいる魔王の城は未知の領域。
「ーー王女が頼む、その任務。俺が引き受ける」
シンの持つスキルが頼りだと言うアリス王女。快く引き受けたわけではなかったが、シンはアリス王女の頼みを引き受けることになり、魔王の城へ旅立つ。
これは魔物が世界に溢れる時代、シーラ王国の姫に頼まれたのをきっかけに魔王の城を目指す勇者の物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる