74 / 226
:第1章 「令和のサムライと村娘、そしてとある村の運命」
・1-59 第75話 「キープ:2」
しおりを挟む
・1-59 第75話 「キープ:2」
源九郎に脇差の切っ先を突きつけられても、野盗の頭領は顔色一つ変えなかった。
むしろ、それを喜んでいるように、不敵な笑みを浮かべている。
「よくぞ、1人でここまで乗り込んでこられたものだ。
異国人、認めてやろう。
貴様の存在は、我らにとって完全に計算外だった」
頭領は、感心している口調でそう言う。
余裕のある口ぶりだ。
2対1で源九郎と対峙している上に、人質までいるのだから当然の態度だろう。
「安心しろ。
お前らもすぐに、他の仲間たちと同じ、冥府に叩きこんでやる」
源九郎は、返り血と土で汚れたままの顔で、不敵な笑みを返す。
確かに2対1の状況ではあったが、この場にたどり着くまでに10人の野盗を倒して来ているのだ。
その中には、相当な手練れであるだけではなく、堅牢な鎧を身につけ、攻撃力の高い武器を装備した者もいた。
そういった者たちにも源九郎の殺陣は十分に通用したのだ。
今さら、怖気づくはずもない。
「さて、冥府とやらに落ちるのはどちらかな? 」
頭領はそう言うと、源九郎のことを嘲笑った。
そして彼があごをしゃくって合図をすると、手斧を持った野盗が、その得物の切っ先をフィーナの眼前へと突きつける。
斧は、農民たちにとっては身近な存在だ。
木を切り倒したり、薪を作ったり、日常的に使っている。
だから、まだ幼い村娘でも、その威力は知っている。
自分の頭蓋など簡単に叩き割ってしまうだろうその凶器を突きつけられて、フィーナは恐れから表情を青ざめさせ、そして、それ以上見ていたくないと、きつく目を閉じていた。
「こちらには人質がいるのだ。
手荒なことをされたくなかったら、大人しく武器を捨てるがいい」
フィーナを脅す野盗の姿を目にしてさすがに血相を変え、険しい表情を作った源九郎に、頭領は冷たい声でそう要求した。
人質を盾にされてしまう。
恐れていた事態だったが、こうなることは予想できてもいた。
「あんた、元騎士なんだってな? 」
源九郎はすぐに武器を捨てることはせずに、そう言って頭領を挑発する。
頭領たちにフィーナを傷つけさせないために、こちらを攻撃するように仕向けたかった。
「それが、そんなちっちゃな女の子を捕まえて人質にして。
村の人たちを散々苦しめた挙句に、焼き討ちまでして。
騎士道ってもんは、どうなっちまったんだ?
騎士っていうのは、名誉をすごく大切にしないといけないんだろう?
あんただって、かつては主君に忠義を誓い、騎士としての道を踏みさずに生きると決めたはずだ。
その決意は、いったいどこにやっちまったんだ!? 」
その源九郎の言葉にも、頭領の、かつて騎士と呼ばれていたことがあるはずの男の表情は変わらない。
「お頭(かしら)……」
フィーナに斧を突きつけている野盗が、小さな声を漏らし、ちらりと一瞬だけ頭領の横顔を確認する。
少女を人質とすることを不名誉だと糾弾する言葉は、むしろこの野盗の方に響いた様子だった。
しかし、頭領のゆるぎない表情を確認すると、すぐに野盗も視線を源九郎へと戻す。
頭領の考えが変わらないのを見て、今さらのことだと思ったらしい。
(なんとか、注意をこっちに向けさせねぇと! )
フィーナを傷つけさせるわけにはいかない。
そして、このまま野盗たちを見逃すわけにもいかない。
源九郎はなんとか頭領たちの矛先を自分へと向けさせようと、挑発の言葉を続ける。
「どうやら、アンタらには名誉とか誇りとか、そういう気持ちは残っちゃいないようだな?
それも、そうだろうさ。
この俺たった1人に、他の仲間はみんなやられちまったっていうのに、少しも気にする素振りもねぇもんな?
おい、そこのアンタ。
手斧を持ってる野盗さんよ?
アンタ、このままその男について行っても、いいことは何もないぜ?
他の野盗どもと同じで、用済みになったら捨てられるか、必死に戦って怪我をしたり命を落としたりしても、眉一つ動かしちゃもらえねぇ。
故郷に帰って、大人しく農業でもしてた方がよほどいい人生を送れるぜ? 」
名誉という言葉にちらりとでも反応を見せた野盗の方が、まだ説得できるかもしれない。
そう考えた源九郎は話の矛先を頭領から変える。
しかし、今度は野盗の方も表情を変えなかった。
頭領の冷酷さは間近で見ているはずなのに、このまま彼につき従って行くことに迷いはないらしい。
「チッ、どっちも、大の男がそろいもそろって、腰抜けかよ! 」
なかなか挑発に乗ってこない。
そのことに焦りを覚えながら、源九郎は罵って相手を激高させ、こちらへ刃を向けさせる作戦にでる。
「2対1で、お前らは完全武装でいるのに、人質なんか取りやがって!
どうした? 俺はこの通り、なんの防具も身につけちゃいない。
武器と言えば脇差が一つだけ!
そんな相手にビビり散らして、女の子を盾にしないといられないなんてな!
名誉だの、誇りだのの以前に、自分で自分が情けないとは思わねぇのか!? 」
「たわごとは、それまでにしてもらおうか」
源九郎がなおも口汚く野盗たちを挑発しようとした時、続きの言葉を頭領が断ち切った。
彼は自身の剣を見せつけながらフィーナへと突きつけ、そして、その髪を数本、切って見せる。
「我が忠義を果たすために……、誇りなど、とうに捨てたのだ」
表情を強張らせる源九郎に、頭領は静かに言う。
「貴様がいかに挑発しようと、無意味だ。
武器を捨て、その場に跪け。
従わなければ、この娘を……、殺す」
それは断固とした、少しの迷いも揺らぎもない言葉だった。
源九郎に脇差の切っ先を突きつけられても、野盗の頭領は顔色一つ変えなかった。
むしろ、それを喜んでいるように、不敵な笑みを浮かべている。
「よくぞ、1人でここまで乗り込んでこられたものだ。
異国人、認めてやろう。
貴様の存在は、我らにとって完全に計算外だった」
頭領は、感心している口調でそう言う。
余裕のある口ぶりだ。
2対1で源九郎と対峙している上に、人質までいるのだから当然の態度だろう。
「安心しろ。
お前らもすぐに、他の仲間たちと同じ、冥府に叩きこんでやる」
源九郎は、返り血と土で汚れたままの顔で、不敵な笑みを返す。
確かに2対1の状況ではあったが、この場にたどり着くまでに10人の野盗を倒して来ているのだ。
その中には、相当な手練れであるだけではなく、堅牢な鎧を身につけ、攻撃力の高い武器を装備した者もいた。
そういった者たちにも源九郎の殺陣は十分に通用したのだ。
今さら、怖気づくはずもない。
「さて、冥府とやらに落ちるのはどちらかな? 」
頭領はそう言うと、源九郎のことを嘲笑った。
そして彼があごをしゃくって合図をすると、手斧を持った野盗が、その得物の切っ先をフィーナの眼前へと突きつける。
斧は、農民たちにとっては身近な存在だ。
木を切り倒したり、薪を作ったり、日常的に使っている。
だから、まだ幼い村娘でも、その威力は知っている。
自分の頭蓋など簡単に叩き割ってしまうだろうその凶器を突きつけられて、フィーナは恐れから表情を青ざめさせ、そして、それ以上見ていたくないと、きつく目を閉じていた。
「こちらには人質がいるのだ。
手荒なことをされたくなかったら、大人しく武器を捨てるがいい」
フィーナを脅す野盗の姿を目にしてさすがに血相を変え、険しい表情を作った源九郎に、頭領は冷たい声でそう要求した。
人質を盾にされてしまう。
恐れていた事態だったが、こうなることは予想できてもいた。
「あんた、元騎士なんだってな? 」
源九郎はすぐに武器を捨てることはせずに、そう言って頭領を挑発する。
頭領たちにフィーナを傷つけさせないために、こちらを攻撃するように仕向けたかった。
「それが、そんなちっちゃな女の子を捕まえて人質にして。
村の人たちを散々苦しめた挙句に、焼き討ちまでして。
騎士道ってもんは、どうなっちまったんだ?
騎士っていうのは、名誉をすごく大切にしないといけないんだろう?
あんただって、かつては主君に忠義を誓い、騎士としての道を踏みさずに生きると決めたはずだ。
その決意は、いったいどこにやっちまったんだ!? 」
その源九郎の言葉にも、頭領の、かつて騎士と呼ばれていたことがあるはずの男の表情は変わらない。
「お頭(かしら)……」
フィーナに斧を突きつけている野盗が、小さな声を漏らし、ちらりと一瞬だけ頭領の横顔を確認する。
少女を人質とすることを不名誉だと糾弾する言葉は、むしろこの野盗の方に響いた様子だった。
しかし、頭領のゆるぎない表情を確認すると、すぐに野盗も視線を源九郎へと戻す。
頭領の考えが変わらないのを見て、今さらのことだと思ったらしい。
(なんとか、注意をこっちに向けさせねぇと! )
フィーナを傷つけさせるわけにはいかない。
そして、このまま野盗たちを見逃すわけにもいかない。
源九郎はなんとか頭領たちの矛先を自分へと向けさせようと、挑発の言葉を続ける。
「どうやら、アンタらには名誉とか誇りとか、そういう気持ちは残っちゃいないようだな?
それも、そうだろうさ。
この俺たった1人に、他の仲間はみんなやられちまったっていうのに、少しも気にする素振りもねぇもんな?
おい、そこのアンタ。
手斧を持ってる野盗さんよ?
アンタ、このままその男について行っても、いいことは何もないぜ?
他の野盗どもと同じで、用済みになったら捨てられるか、必死に戦って怪我をしたり命を落としたりしても、眉一つ動かしちゃもらえねぇ。
故郷に帰って、大人しく農業でもしてた方がよほどいい人生を送れるぜ? 」
名誉という言葉にちらりとでも反応を見せた野盗の方が、まだ説得できるかもしれない。
そう考えた源九郎は話の矛先を頭領から変える。
しかし、今度は野盗の方も表情を変えなかった。
頭領の冷酷さは間近で見ているはずなのに、このまま彼につき従って行くことに迷いはないらしい。
「チッ、どっちも、大の男がそろいもそろって、腰抜けかよ! 」
なかなか挑発に乗ってこない。
そのことに焦りを覚えながら、源九郎は罵って相手を激高させ、こちらへ刃を向けさせる作戦にでる。
「2対1で、お前らは完全武装でいるのに、人質なんか取りやがって!
どうした? 俺はこの通り、なんの防具も身につけちゃいない。
武器と言えば脇差が一つだけ!
そんな相手にビビり散らして、女の子を盾にしないといられないなんてな!
名誉だの、誇りだのの以前に、自分で自分が情けないとは思わねぇのか!? 」
「たわごとは、それまでにしてもらおうか」
源九郎がなおも口汚く野盗たちを挑発しようとした時、続きの言葉を頭領が断ち切った。
彼は自身の剣を見せつけながらフィーナへと突きつけ、そして、その髪を数本、切って見せる。
「我が忠義を果たすために……、誇りなど、とうに捨てたのだ」
表情を強張らせる源九郎に、頭領は静かに言う。
「貴様がいかに挑発しようと、無意味だ。
武器を捨て、その場に跪け。
従わなければ、この娘を……、殺す」
それは断固とした、少しの迷いも揺らぎもない言葉だった。
0
お気に入りに追加
99
あなたにおすすめの小説
1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!
マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。
今後ともよろしくお願いいたします!
トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕!
タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。
男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】
そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】
アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です!
コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】
*****************************
***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。***
*****************************
マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。
見てください。

異世界転生漫遊記
しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は
体を壊し亡くなってしまった。
それを哀れんだ神の手によって
主人公は異世界に転生することに
前世の失敗を繰り返さないように
今度は自由に楽しく生きていこうと
決める
主人公が転生した世界は
魔物が闊歩する世界!
それを知った主人公は幼い頃から
努力し続け、剣と魔法を習得する!
初めての作品です!
よろしくお願いします!
感想よろしくお願いします!
実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…
小桃
ファンタジー
商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。
1.最強になれる種族
2.無限収納
3.変幻自在
4.並列思考
5.スキルコピー
5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

転生した体のスペックがチート
モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。
目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい
このサイトでは10話まで投稿しています。
続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる