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2 登校
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スズメの鳴き声がする。
うっすら目を開けると、部屋は薄明るい。
いつの間にか朝になったようだ。
「よかった。少しは眠れたみたい」
今日は学校でテストがある。中学1年生の、2学期末テストの初日だ。
寝不足のままでは、テストで思う存分に力が発揮できない。
「テストくらいは、なんとか受けなくちゃ」
さゆりは、重い体をベッドから起こした。
水色のカーテンの前に立つ。
カーテンに手をかけたが、一瞬開けるのをためらう。
「えいっ」
掛け声をかけながら、一気にカーテンを両サイドに開いた。
2メートルほど向こうに、隣家の茶色い外壁が見える。
灰色の砂利が敷き詰められた庭。その片隅には白いガーデンシクラメンが咲く小さな花壇。特に変わった様子はない。
「夢、だったのかな」
さゆりはセーラー服に着替え、鏡台の前に立った。
鏡を見ながら赤いリボンを結ぶと、胸の下あたりまで伸びた黒髪を手櫛でとかした。
少し長めの重たい前髪。その下から覗く大きな目は不安そうに揺れている。
さゆりは頬に手を当てた。顔が青白い。普段ほとんど外に出ないから、日に焼けていない。学校の制服を着るのも2か月ぶりだ。
本当は、このまま家で一日過ごしたい。
学校の制服を着るだけで息が苦しくなる。
身体は拒否反応で悲鳴をあげているが、それでもテストの日だけは、なんとか学校に行けている。今ここで休んだら、二度と学校へは行けなくなる。
さゆりは大きく息を吸い、一気に吐き出した。
◇
ダイニングルームに行くと、テーブルには卵のサンドイッチとサラダが置かれていた。
「おはよう、さゆり」
お父さんが新聞を読みながら、朝食を食べている。
「おはよう」
さゆりは立ったまま答えた。
「やっぱりセーラー服には、赤いリボンの方が可愛いわよね」
キッチンから出てきたお母さんが、さゆりのリボンをきゅっとひっぱる。
「お母さんが中学生だった30年前は、青いリボンだったのよ」
「それ、もう何回も聞いた」
さゆりはそっけなく答えた。
「体調はどう?」
お母さんが、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。食欲ないから、朝ご飯はいらない」
「牛乳だけでも飲んでいったら?」
さゆりは首を横に振った。
「時間がない」
「まだ、始業までに2時間以上あるじゃない」
お母さんが、ガラスのコップに牛乳をつぐ。
「だから、いつも言ってんじゃん。一番に教室に行かなくちゃだから」
さゆりは声を荒げた。
「誰もいない教室じゃないと、中に入れないの。みんなが来てからだと、体がちっとも動かないの」
「でも、何も食べないで体力が持つかしら?」
お母さんが眉をひそめる。
「午前中でテスト終わるし、大丈夫だよ」
「いらないって言ってるんだから、好きにさせろ」
お父さんが、新聞から顔を上げずに言う。
さゆりは壁の時計を見た。
秒針がものすごい速さで進んでいくように見える。
自分より先に、誰かが教室にいた時のことを考えると、不安で胸が押しつぶされそうになる。
「もう、行かなくちゃ。普段学校行けない分、テストだけはいい点取っておきたいから」
うっすら目を開けると、部屋は薄明るい。
いつの間にか朝になったようだ。
「よかった。少しは眠れたみたい」
今日は学校でテストがある。中学1年生の、2学期末テストの初日だ。
寝不足のままでは、テストで思う存分に力が発揮できない。
「テストくらいは、なんとか受けなくちゃ」
さゆりは、重い体をベッドから起こした。
水色のカーテンの前に立つ。
カーテンに手をかけたが、一瞬開けるのをためらう。
「えいっ」
掛け声をかけながら、一気にカーテンを両サイドに開いた。
2メートルほど向こうに、隣家の茶色い外壁が見える。
灰色の砂利が敷き詰められた庭。その片隅には白いガーデンシクラメンが咲く小さな花壇。特に変わった様子はない。
「夢、だったのかな」
さゆりはセーラー服に着替え、鏡台の前に立った。
鏡を見ながら赤いリボンを結ぶと、胸の下あたりまで伸びた黒髪を手櫛でとかした。
少し長めの重たい前髪。その下から覗く大きな目は不安そうに揺れている。
さゆりは頬に手を当てた。顔が青白い。普段ほとんど外に出ないから、日に焼けていない。学校の制服を着るのも2か月ぶりだ。
本当は、このまま家で一日過ごしたい。
学校の制服を着るだけで息が苦しくなる。
身体は拒否反応で悲鳴をあげているが、それでもテストの日だけは、なんとか学校に行けている。今ここで休んだら、二度と学校へは行けなくなる。
さゆりは大きく息を吸い、一気に吐き出した。
◇
ダイニングルームに行くと、テーブルには卵のサンドイッチとサラダが置かれていた。
「おはよう、さゆり」
お父さんが新聞を読みながら、朝食を食べている。
「おはよう」
さゆりは立ったまま答えた。
「やっぱりセーラー服には、赤いリボンの方が可愛いわよね」
キッチンから出てきたお母さんが、さゆりのリボンをきゅっとひっぱる。
「お母さんが中学生だった30年前は、青いリボンだったのよ」
「それ、もう何回も聞いた」
さゆりはそっけなく答えた。
「体調はどう?」
お母さんが、心配そうに聞いてくる。
「大丈夫。食欲ないから、朝ご飯はいらない」
「牛乳だけでも飲んでいったら?」
さゆりは首を横に振った。
「時間がない」
「まだ、始業までに2時間以上あるじゃない」
お母さんが、ガラスのコップに牛乳をつぐ。
「だから、いつも言ってんじゃん。一番に教室に行かなくちゃだから」
さゆりは声を荒げた。
「誰もいない教室じゃないと、中に入れないの。みんなが来てからだと、体がちっとも動かないの」
「でも、何も食べないで体力が持つかしら?」
お母さんが眉をひそめる。
「午前中でテスト終わるし、大丈夫だよ」
「いらないって言ってるんだから、好きにさせろ」
お父さんが、新聞から顔を上げずに言う。
さゆりは壁の時計を見た。
秒針がものすごい速さで進んでいくように見える。
自分より先に、誰かが教室にいた時のことを考えると、不安で胸が押しつぶされそうになる。
「もう、行かなくちゃ。普段学校行けない分、テストだけはいい点取っておきたいから」
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