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1 金縛り
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身体がひどく熱い。
矢井田さゆりは、仰向けから左向きに寝返りをうった。
枕元の時計で時間を確認しようとしたが、眠くて目が開けられない。
寝付いてから、まだそんなに時間は経っていないはずだ。
12月に入り一段と寒くなったというのに、パジャマが汗で濡れている気がする。
首までかけた羽毛布団を剥がそうとしたが、体が動かない。
(――アレが始まる)
水中にいる時のような、低い音が耳の奥で聞こえる。
(起きなくちゃ)
眠りと覚醒の間を行ったり来たりする意識を、さゆりは無理やり浮上させようとした。
耳鳴りは徐々に大きくなっていく。
(いやだ。また金縛り?)
耳鳴りは、金縛りが始まる予兆だ。
頭の中が、ざらついた大音量の雑音に支配されていく。次第に体が硬直し息苦しくなる。
ここまできたら、半分眠ったままの状態で、この苦しさが過ぎるのを待つしかない。
(早く終わって)
祈りながら、さゆりはいつもと違う音を聞いた。
ザクッ。ザクッ。
石砂利を踏みしめるような音。
(え? 誰か庭を歩いてる?)
ザクッ。ザクッ。ザクッ……。
それは、遠くからだんだん近づいてくる。
ザクッ。
足音は、さゆりの部屋の前で止まった。
いつの間にか眠気は飛び、意識がはっきりしていた。
青白い月明かりが、カーテンの隙間から漏れている。
さゆりは、体は動かさずに、頭上にあるカーテンの方へ視線を向けた。
カーテン越しに写る黒い影。
「誰?」
さゆりの声は震えていた。
答えはない。
「誰か、いるの?」
黒い影が揺れる。
「ウッ……ウッ……」
喉から絞り出したような苦し気な声。まるで縄で首を絞められているみたいだ。
声は、男のものか女のものかわからない。
さゆりは悪寒がして、両手で耳をふさいだ。
「ウッ……ウッ……ウォ、オ」
耳をふさいでも、言葉にならない声はだんだんと大きくなっていく。
突然。
叫び声が弾丸のように暗闇を切り裂いた。
「オマエハダレダアアアアアアアアア!」
地響きのような太い声。
まるで耳元で叫ばれたようだった。
距離感がおかしい。
黒い影は、窓の外にいるはずなのに。
電流を流されたかのように、全身にビリビリした恐怖が走った。
さゆりはあわてて、布団を頭までかぶった。
(来ないで、来ないで)
さっきまで寝汗をかいていたのに、体の芯から凍りそうに寒かった。
全身に力が入る。
さゆりは布団の中で、胎児のようにぎゅっと丸くなった。
矢井田さゆりは、仰向けから左向きに寝返りをうった。
枕元の時計で時間を確認しようとしたが、眠くて目が開けられない。
寝付いてから、まだそんなに時間は経っていないはずだ。
12月に入り一段と寒くなったというのに、パジャマが汗で濡れている気がする。
首までかけた羽毛布団を剥がそうとしたが、体が動かない。
(――アレが始まる)
水中にいる時のような、低い音が耳の奥で聞こえる。
(起きなくちゃ)
眠りと覚醒の間を行ったり来たりする意識を、さゆりは無理やり浮上させようとした。
耳鳴りは徐々に大きくなっていく。
(いやだ。また金縛り?)
耳鳴りは、金縛りが始まる予兆だ。
頭の中が、ざらついた大音量の雑音に支配されていく。次第に体が硬直し息苦しくなる。
ここまできたら、半分眠ったままの状態で、この苦しさが過ぎるのを待つしかない。
(早く終わって)
祈りながら、さゆりはいつもと違う音を聞いた。
ザクッ。ザクッ。
石砂利を踏みしめるような音。
(え? 誰か庭を歩いてる?)
ザクッ。ザクッ。ザクッ……。
それは、遠くからだんだん近づいてくる。
ザクッ。
足音は、さゆりの部屋の前で止まった。
いつの間にか眠気は飛び、意識がはっきりしていた。
青白い月明かりが、カーテンの隙間から漏れている。
さゆりは、体は動かさずに、頭上にあるカーテンの方へ視線を向けた。
カーテン越しに写る黒い影。
「誰?」
さゆりの声は震えていた。
答えはない。
「誰か、いるの?」
黒い影が揺れる。
「ウッ……ウッ……」
喉から絞り出したような苦し気な声。まるで縄で首を絞められているみたいだ。
声は、男のものか女のものかわからない。
さゆりは悪寒がして、両手で耳をふさいだ。
「ウッ……ウッ……ウォ、オ」
耳をふさいでも、言葉にならない声はだんだんと大きくなっていく。
突然。
叫び声が弾丸のように暗闇を切り裂いた。
「オマエハダレダアアアアアアアアア!」
地響きのような太い声。
まるで耳元で叫ばれたようだった。
距離感がおかしい。
黒い影は、窓の外にいるはずなのに。
電流を流されたかのように、全身にビリビリした恐怖が走った。
さゆりはあわてて、布団を頭までかぶった。
(来ないで、来ないで)
さっきまで寝汗をかいていたのに、体の芯から凍りそうに寒かった。
全身に力が入る。
さゆりは布団の中で、胎児のようにぎゅっと丸くなった。
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