似て非なる双子の結婚

決断

「本来なら不貞行為で、離縁が出来たはずなのよ？シュアト公爵夫人が、承認して貰えるように頼むと仰ってくれているの。妻を亡くした可哀想な夫になんてしておきたくないのよ」
「どうか…それだけは…お願いします」

　オーランドは土下座して、サイラに深く頭を下げるしかなかった。

「分かりました、ユーリが離縁したいと言ったわけではありませんから。では、好きなように生きてください。ユーリならそう言うでしょう」
「…申し訳ありませんでした」

　長い長いグラーフ伯爵邸での答え合わせは終わった。

　アレクスだけを残し、サイラも荷物があるからと皆、それぞれに帰って行った。邸に戻ったメルベールはキリアムに詰め寄った。

「離縁なんてしないわよね？」
「今日のことはまた嘘だというのか？」
「でも、妻がいないと困るでしょう？」
「君は何も出来ていないのだから、仕事として誰かを雇ってもいいし、嫡男は息子のどちらかに譲ってもいい」

　相手が誰かも分からず、ただ横にいるだけの妻は要らない。

「ちゃんと覚えるから！」
「もう今さらだよ、何を言われても、遅い。君はユーリがいなくなって、これからどうするつもりだったんだ？全部、ユーリ任せだったんだろう？」

　ユーリがいなくなって、これからどうしようという素振りはなかった。こういったところが、ルオンの悪意まではないと言ったところに繋がったのだろう。

　でも義母上が言ったように、自覚があったのだから、悪意があったとも言える。

　どちらにしろ、夫婦としてやってはいけない。

「そ、それは…」
「ユーリは君の代わりを務める必要なんてなかった。絶望したのではなく、無気力だったのかもしれないな…そこに皆で追い詰めたんだ。どうする？離縁か、領地で大人しく過ごすかだ…」
「領地にずっといろってこと？」
「ああ、最低限の生活は保障しよう。贅沢をしたければ、自分で働けばいい」
「私は働いたことなんてないのよ」

　メルベールの言うことが、空っぽの人間の言葉にしか聞こえない。

「三日後に、どちらにするか聞く。それまでに決めてくれ」

　結局、メルベールは離縁は嫌だと、領地で蟄居することになった。グラーフ伯爵家が費用を負担すると言ったが、使用人が嫌になるようなことがあれば、その際に人手を貸して欲しいとだけ告げた。

　あんなにメルベールを愛していた義父上は、何も言わなかった。

　サイラは針子の仕事に行きながら、グラーフ伯爵家に戻って来ており、ユーリが最期まで生きたこの家にいることが私の贖罪だと、戻ることにしたそうだ。

　ルオンはこれまで以上に家族を大事にし、サイラからもこちらのことは考えなくていいと言われている。

　オーランドは日々仕事をして帰る生活を続けている。毎日、ユーリの部屋に「ただいま」と言いに行くのが日課である。

　レイアはマトムが言った通り、ユーリに払わせた分が返せるまで、働くことになった。侯爵家関連だと扱い辛く、実家も同様で、夫人に人気の職は家庭教師だったが、人様に教えられる性根をしていないので、却下された。

　サイラの伝手で、コンクエッツ公爵家が引き受けてくれることになり、商会で誰にでも教われば出来る荷運びから、書類の作成などを行うことになった。

　始めは文句を言ったり、侯爵夫人なのよと言い、すぐさまコンクエッツ公爵夫人に話がいく。しかも、コンクエッツ公爵夫人はレイアをよく思っていない。もっと手っ取り早く稼げる辛い仕事にしてもいいと言われ、真面目に働くようになった。

　侯爵夫人としての仕事も、追い出されてしまうので、しなくてはならない。ユーリにしたツケを全て払うまで続くことになる。

　そして、アベリーが一年以上振りに、帰省をすることになった。