上 下
94 / 118

姪の帰省

しおりを挟む
 学校での報告は、始めは不貞腐れたり、こんなこと出来ないと言っていたが、今は渋々ながらもやるようになったこと。反省室には二度入ることになったが、その後は大人しくなったそうだ。

 反省室とは三日間、誰にも会うことなく、一人で反省文を書くというものである。

「アベリー、元気だったか?」
「ええ、まあ」

 背が少し伸びたアベリー。劇的な改善は期待していなかったが、邸にいた頃よりは受け答えもしている。

 こんなに厳しいとは思わなかった、勉強が難しいと言いながらも、友人が出来て、楽しいこともあるようで、やはり行かせて正解だったとホッとした。

 お母様は?と一度聞いたが、領地にいると言えば、それ以上聞くことはなかった。息子たちには、まだ今回は会わせることはしなかった。

 寄宿学校での馴染んだ生活があるので、メイドには最低限しかさせなかったが、ご飯が美味しい、楽でいいなどと言っており、帰りたくないと言い出す子もいるので、注意するようにと聞いており、言い出すかと思ったが、ここにいたらまた軟禁生活だと思っているようで、寄宿学校に戻っていった。

 メルベールからは、始めの頃は何度も文が届いていた。

 もう怒りは収まったでしょう?
 早く戻して欲しい、待ってる
 予算をもう少し増やして欲しい

 だが返事をすることはなく、何をしているのかと思えば、皆に私は可哀想なのだと、周りに聞かせて、嘘を重ねており、邸の者には虚言癖があると通達しているために、相手にしていない。

 そもそもユーリがいない時点で、メルベールの嘘は成り立たなくなっていることに、気付いていない。

 領民も領地で監視されているメルベールを、何かしたのだと言う認識であるために、近付くことはないが、念のために嘘を重ねるのならば、離縁すると文を送ると、大人しくはなったそうだ。

 離縁しても、次は伯爵家での蟄居が待っている。息子たちの母親であるために、どこへでも行けと追い出して、面倒事を起こされては堪らないので、監視している方がいいと義母上と決めたことである。

 友人たちにも手紙を書いているようだが、返事は来ない。ディーラは仕方ないが、ミリアとカローラはどうして返事が来ないのかと思っているが、夫たちに関わるなと言われてしまったからである。

 それでも関わろうという気持ちは、持っていなかった。

 なぜならば、既にユーリの関係者にミリアとカローラは、メルベールの友人だと認識されており、子爵家としては大人しくしている以外、方法はない。それこそ離縁されてしまうことになるだろう。

 グラーフ伯爵夫妻は、ラオン大公夫妻に会いに行った。叱られるために行くなど、今までのアレクスには考えられなかったことだった。

「お前が狂った父親か!」
「先に、怪我をさせた際は、大変申し訳ございませんでした。私がちゃんと看ていなければなりませんでした」
「そうだな、あの場の責任者はお前だったはずだ!」
「はい…」
「それなのに、何の責任もない娘に押し付けた!」
「その通りです」
「事情は奥方から文で聞いている。が、あり得ない。彼女は弱かったのかもしれない、だが、弱くさせたのはお前だろう?」

 サイラはあの時の答え合わせの経緯を全て記して、お伺いをしたのだ。ラオン大公夫妻には知る権利がある。

「はい…」
「お前はここまで来るのに、何年掛かった?ユーリ夫人は、決断力があった」
「はい、申し訳ございません」
「本当に反省したのだな…ならば、後悔しながら生きろ」
「はい…」

 邸を訪ねた時の傲慢さは一切なくなっており、ラオン大公夫妻も、許すことはないが、これ以上言うことはないと思った。

 これで謝罪をしていないのは、アベリー・トスターのみとなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】365日後の花言葉

Ringo
恋愛
許せなかった。 幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。 あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。 “ごめんなさい” 言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの? ※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

ループした悪役令嬢は王子からの溺愛に気付かない

咲桜りおな
恋愛
 愛する夫(王太子)から愛される事もなく結婚間もなく悲運の死を迎える元公爵令嬢のモデリーン。 自分が何度も同じ人生をやり直している事に気付くも、やり直す度に上手くいかない人生にうんざりしてしまう。 どうせなら王太子と出会わない人生を送りたい……そう願って眠りに就くと、王太子との婚約前に時は巻き戻った。 それと同時にこの世界が乙女ゲームの中で、自分が悪役令嬢へ転生していた事も知る。 嫌われる運命なら王太子と婚約せず、ヒロインである自分の妹が結婚して幸せになればいい。 悪役令嬢として生きるなんてまっぴら。自分は自分の道を行く!  そう決めて五度目の人生をやり直し始めるモデリーンの物語。

処理中です...