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第2話

彼女の正体は重すぎる2

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「イマーニュ嬢のことも頼めたということですか」
「あれはお前が自分で何とかすると言ったのではないか」

 セナリアンに頼ることもあるが、王家にも王宮騎士団、王宮魔術団がある。手を借りずに解決することももちろんある。

「そうですが、掴んでいたのですか」
「いや、知ったのは事が起こってからであった。浄化のおかげで最悪の状況は逃れていたが、悪意を浴びてしまった。セナリアンは先ほども言ったように常に忙しい。国や儂に関する密偵、国外の案件も多く、命に係わることが最優先。もちろん、調べましょうかとも言ってくれたが、既に婚約は辞退となり、こちらも動いておったからお前に任せたのだ。それで引いたということは、大丈夫だと判断したとも言える」
「私も含めていただきたかった」
「守られてはおるぞ、禁術に掛からぬかっただろう?リスルートが標的だったら、禁術は失敗していたはずだ。そもそも婚約者くらい守れなくては、何が王家だと言われかねん」

 確かのあの時、周りがイマーニュを責める中、冷静に判断が出来ていた。精神の強さなどと思っていたが、恥ずかしい限りである。

「ただ魔術返しのネックレスはセナリアンの作品だ。また婚約者が出来た時に念のために付けさせるようにと渡されておったのだ。依頼主も一気に絡めとる術式が組み込まれていた。まさか姉に付けられるとは思っていなかったそうだがな」
「そうだったのですか、緑色になるのも?」

 リスルートはマージナルとカルバンを連れて、捕まった二人を確認に行った。牢がやけに明るいとは思ったが、発光し、緑色になった男女は化け物の様であった。

「セナリアン曰く、一番気持ち悪いのは絶対にならない色だそうだ、宝石も一応エメラルドらしきものにしたと。夜だと見付けにくいかもしれないから、発光もさせておくとね、全てお膳立てしてくれたというわけだ、みごとだったであろう?」
「はい、解決したのは結局はセナリアンの力ということですね」
「ああ、その通りだ。お前はお前なりに考えろ。あの子が確実にコントロール出来るようになってから、始めにしたことが分かるか」
「浄化、でしょうか」
「遠からずではあるが、粛清だ。改善する前にまずは地盤を整えないと再び崩れてしまうとね」
「まさか、グリーンベイ伯爵家ですか」
「よく分かったな」

 グリーンベイ伯爵家の事件は本当に酷いものであった。

 当時はまだ令息だった伯爵は、幼少期からずる賢く短気であった。両親は結婚すれば落ち着くだろう、誰かに支えてもらえばいいと思い、結婚を条件に爵位を譲られることになったが、恋人は貴族の庶子だという平民で、結婚は出来ず、爵位は欲しいために体が弱くあまり姿を現さないというコンクラート子爵令嬢が恋人と同じ髪色だということ、親戚もおらず、貴族同士の付き合いも希薄だということで目を付けた。

 結婚式は身体が良くなってからと言って行わず、念のために夫人に子どもを一人産ませ、一歳の魔力測定を終えると放置していたが、なかなか死なないために殺した。しかも結婚当初から夫人と愛人の立場を入れ替えて生活をしていた。

 そして、訪ねてきたら困るからと結婚後すぐに、夫人の両親、兄も事故に見せ掛けて殺しており、子爵家から付いて来た夫人付きの使用人も、結婚することになったから出ていったと言い、殺していたのだ。子爵家のことは伯爵が取り仕切って、両方を管理するのは難しいため、王家預かりとした。夫人は何も知らされず、療養という名目で別邸で生活しており、手紙も全て握り潰されており、使用人には愛人だったが病気になり、身寄りがないから見捨てられないと言ってあったそうだ。

 伯爵の両親は爵位を譲って念願の長旅に出掛けており、そのまま領地に移り住み、孫は見せに行っていたのだが、夫人は領地まで行くのは身体が心配だからということで、会うことがなかったそうだ。

 そして夫人は結婚するまでほとんどを領地の邸で過ごしていたため、近くに友人もいなかった。子爵家の使用人が見れば分かるはずだが、使用人が伯爵家に関わることはなく、病弱だということは事実であったために、こんなことがまかり通ってしまったのだ。

 事件は白日の下に晒されることとなった。

「セナリアンは国中に陣を張って、命に係わる分子から手を付けたんだ。取り調べもセナリアンが亡くなった夫人にわざと似せて行った」
「酷く怒っていたということですね」
「ああ、淡々と殺気を向け続けて、ずっと生汗をかいていたよ。なぜ粛清が早かったかは、今度は夫人の子が危機に晒されていたからだ」
「確か成り代わった愛人も子どもを産んでいたんですよね」
「ああ、しかも貴族の庶子ですらなかった。母親から父親は高貴な人だと聞かされて、貴族だと思い込んだらしい。商人だったそうだ。夫人は病弱、愛人は王都にやって来たばかりの自称貴族の庶子、王都で二人ともが顔を知られていないことが悲劇を招いた。愛人との間に子どもがなかなか出来なかったために、子どもは生きていられたのかもしれぬがな」

 当時、子どもは四歳だった。養育は乳母に任されており、愛人は人前でだけ可愛がっていたそうだが、邸の者は嫡男だと大事に育てられていたそうだ。

「愛人の子どもは魔力測定で分かることですよね」
「ああ、伯爵はあまり魔力は多くは無かったが、愛人は生まれて来た子が息子で、成り代わって調子に乗ったのだな。伯爵は分かっていたから、夫人の息子を殺そうとは思ってはいなかった、愛人の子は外に出さずに育てればいいと思っていたそうだ。セナリアンはまだ五歳であったがために、涙を拭いながら、説明してくれたんだ」
「五歳!そうですよね、分かっていたのに驚いてしまいました」
「王妃が擦りながら、抱きしめておった。儂もあの日のセナリアンを今でも鮮明に思い出す。“罪なき人の上に人の幸せはありません”と」
「五歳児が…」
「ああ、五歳児がだ…国王として絶望を知ったよ」

 あの日のことは忘れないだろう。セナリアンが地図を指し、一つ一つ何が起こったのか説明しながら、堪え切れず涙を何度も拭った。既に五人もの何の罪もない人間が殺されていたのだ。

「そして当人、関わっていた者、全てにセナリアンが調査を行い、儂が罰した。そしてセナリアンは唯一、息子である現トーリア・コンクラート伯爵の後見人の一人を選ばせて欲しいとだけ申し出た」
「おかしなものを付けられませんよね」

 コンクラート子爵家は王家預かりとなっていたが、グリーンベイ伯爵が取り潰されて、コンクラート伯爵家となった。

「それもあるが、亡くなった夫人、コンクラート伯爵の本当の母親のことを知っており、思い出を聞かせられる人を選んだのだ」
「そうか、思い出が一つも無いんですよね」

 体調を回復するのに集中して欲しいと言われ、産んですぐ取り上げられてしまい、親子の時間すらなかった。

「ああ、話だけも聞かせてあげて欲しいと、他国に嫁いでいた年の離れた従姉妹がおってな、結婚前まで手紙のやり取りもしていたそうで、子も大きくなっていたために、ちょくちょく来てくれたり、手紙のやり取りをしてくれたらしい」
「良かったです。愛人の子どもはどうなったのですか」
「罰だったのか分からぬが、一歳くらいで魔力暴走で亡くなった」

 子に罪はないが、長く生きることは出来ないだろうと孤児院に預けられていたが、両親が処刑された数日後に急死したそうだ。

「そうでしたか」
「それからもセナリアンは粛清をこつこつと進め、命の危機、そして理不尽な状況下に置かれていることを主に、今も定期的に行ってくれている。罪は白日の下に晒されると思わせることが大事だとね」
「頭が下がります」
「お前も不適格だと思われていたら、“再教育を”と言われていたはずだよ。精進しなさい」
「はい…私は何度、彼女に恐ろしいことを言ったのかと思っていたところです」
「それでいいのだよ、彼女はセナリアンなのだから」
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