【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
60 / 73

双子

しおりを挟む
 リオードとジュリを迎えに行く日がやって来た。父・イサードよりも、母・マイルダの方がいいだろうと、二人で行くことになった。

 イサードとパウラは、準備は任せて置きなさいと留守番となった。手続きは既にイサードが済ませている。

「ルイフォード様」

 すっかり産後から回復したベルーナは、二人を連れて現れた。

「見て…二人とも、ベルアンジュに似ているの…」

 そう言ってベルーナは泣き出してしまい、離れるのが辛いのもあるのではないかと思ったが、リオードとジュリの顔はそっくりではないのだが、面差しが二人ともベルアンジュに似ていた。

「ああ…」
「本当だわ…ベルアンジュが笑っているみたい…」

 ルイフォードは言葉を失い、マイルダはキャッキャとはしゃぐ二人に、ベルアンジュを強く思い出した。

「顔立ちがハッキリして来たら、ベルアンジュがいて…心から産んで良かったと思ったのです。ベルアンジュはお腹を痛めるのはあなただから、母親は私ではなくていいと書いていましたが、私はベルアンジュの子どもを、出来れば似ている子を産みたかった…だからとても嬉しくて…」

 ベルーナはぽろぽろと涙を流して、微笑んだ。

「ルイフォード様の顔を見たら、堪らない気持ちになってしまって、産後で感情が大きく出やすくなっているみたいの、ごめんなさい」
「いや、ありがとう。本当に…私もとても嬉しい」
「命を繋ぐことが全てではないのかもしれません。幸せになれるなんて、とても曖昧ですよね、でも皆に生まれて来て良かったと思って欲しいのです。二人をどうか、よろしくお願いいたします」

 ベルーナは深く頭を下げた。ベルアンジュの子どもだと育んで来たが、きっと二人もベルーナは子どもだと思っているのだろう。

 それは子どもを愛する、紛れもない母親の姿だった。

「承知いたしました」
「偉そうに申し訳ありません」
「いや、当たり前だと思う。幸せの基準は人それぞれだが、生まれて来て良かったと、思える人生を歩ませたいと思っている」
「はい…」
「ベルーナ嬢、いや、もうベルーナ夫人かな?結婚おめでとう」
「あ、ありがとうございます」

 ベルーナは思いもよらなかった言葉に、急に恐縮した。

「バスチャン伯爵家は大丈夫そうか?」
「思った通りの展開になりました、父はプライドが高いですから。籍も抜いたと手紙まで届いたので、結婚しました。もう関係ありませんから」
「何かあれば力になるからな」
「ありがとうございます。いずれ結婚したと手紙を送ろうとは思っていますが、今はこれでいいと思っています。これからはエリーと必死で勉強をするつもりです」
「そうか」

 ルイフォードも乳母であるエリーのことは既に聞いていた。

 上手くいかなければ、二人がこちらで暮らせるように手配もするはずだったが、バスチャン伯爵はベルーナが想像していた展開を起こした。

 オーラスとリンダと、ベルーナも笑顔でリオードとジュリを見送り、パウラが手配した面倒を看て貰っていた乳母と一緒に母国に戻った。

 ルイフォードは、すやすや眠る二人の顔を見て、これからは父親として、生きていく思いを強くした。

 二人は鼻は二人ともルイフォードに似ていたが、リオードは口元、ジュリは目がベルアンジュに特に似ており、さらに心から愛おしいと思えた。

 ベルアンジュはベルーナに書かれていた通り、私が母親でなくていいと思うかもしれないが、ベルーナはベルアンジュに似ていることを本当に嬉しく思っていた。

 見た目でなくても良かったが、見た目なら分かり易い。二人には複雑な環境となるが、ベルアンジュを感じながら生きて欲しい。

 邸に着くと、父と叔母が待ち構えており、熱烈歓迎を受けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

夫の浮気相手と一緒に暮らすなんて無理です!

火野村志紀
恋愛
トゥーラ侯爵家の当主と結婚して幸せな夫婦生活を送っていたリリティーヌ。 しかしそんな日々も夫のエリオットの浮気によって終わりを告げる。 浮気相手は平民のレナ。 エリオットはレナとは半年前から関係を持っていたらしく、それを知ったリリティーヌは即座に離婚を決める。 エリオットはリリティーヌを本気で愛していると言って拒否する。その真剣な表情に、心が揺らぎそうになるリリティーヌ。 ところが次の瞬間、エリオットから衝撃の発言が。 「レナをこの屋敷に住まわせたいと思うんだ。いいよね……?」 ば、馬鹿野郎!!

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

側妃のお仕事は終了です。

火野村志紀
恋愛
侯爵令嬢アニュエラは、王太子サディアスの正妃となった……はずだった。 だが、サディアスはミリアという令嬢を正妃にすると言い出し、アニュエラは側妃の地位を押し付けられた。 それでも構わないと思っていたのだ。サディアスが「側妃は所詮お飾りだ」と言い出すまでは。

処理中です...