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顔合わせ
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ベルアンジュは、マリクワン侯爵令息と顔合わせをすることになった。マリクワン侯爵家から迎えが来て、両親は同席しなくていいという。
「ルイフォード・マリクワンだ」
「ベルアンジュ・ソアリでございます」
ルイフォードは表情は豊かではなさそうだが、誠実そうな精悍な男性で、病人を無碍にするようには見えなかった。だからこそ、恐ろしい。
だが、キャリーヌではなく、私を選ぶということは、皮肉なことに病人が嫌いなのかもしれないと思った。
「何か希望などはあるか」
「いえ、その前に本当に私でよろしいのでしょうかかとは、お伺いしようと思っておりました」
「バスチャン伯爵令嬢のことが気になるか?」
「はい、彼女は私の従姉です。待つことは出来ないのでしょうか」
気にならない方がおかしい、他人ならともかく、従姉妹である。
「お互い納得している。彼女には療養に専念して貰いたい」
「そんなに、悪いのですか?」
「いや、しばらく時間は掛かるだろうが、治らないわけではないそうだ」
「そうですか」
それならば良かったと、ひとまず安心した。
「結婚まで期間が短いが、よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
ベルーナのために、少しの時間稼ぎは出来るかもしれないと思っていた。
最近の彼女のことは知らないが、私はベルーナの明るく、ユーモアのあるところを好ましく思っていた。母親同士の仲が悪いだけで、私たちの関係性は悪くなかった。
会えば話をして、子どもの頃の様に笑い合える関係だったはずだ。
ベルーナに会わせてもらえないかと両親に聞いたが、何の病気か分からないから、会って感染させられたらどうするのかと言い出し、また悪しき者のように思っているのだと推測するのは容易い。
ルイフォードは爵位の譲渡もあり、忙しくされているようで、親交を深めようとする気配はあまりなかったのでありがたかった。結婚式の準備と、週に3日ほどの侯爵家の勉強に行くだけで、それだけをこなせば後は自由であった。
バスチャン伯爵にも手紙を出したが、遠くで療養しているため難しいという。
ベルーナに手紙だけは送ってもらえることとなったが、円満解消だから、私のことは気にせず嫁いで欲しい、ごめんねという短い手紙が届いただけだった。おそらく彼女が書いたことは間違いないだろう、懐かしい字だった。
ベルアンジュに婚約者が出来たこと、半年後には結婚することはキャリーヌの耳にも入ったようで、わざわざ部屋を訪ねて来た。
「お姉様、婚約者が出来るなんてビックリしましたわ。一生出来ないのではないかと失敗しておりましたのよ」
「そう」
「私は求められても出来ないのに」
「私はベルーナの代わりよ?」
「健康だったら、私だったんですって」
「…そう」
「でも仕方ないからお姉様に譲ってあげたそうよ。だから私のおかげなの、だから私に感謝するべきなのよ?分かる?」
「…そう」
何としてでも、自分が上の立場でありたいキャリーヌは、それからも何度も何度も似たような話を言いに来るようになった。
「ルイフォード様に、キャリーヌの方が良かったと言われたの」
「そうなの?だったら、今からでも変わったらどうかしら」
いつ会ったのかは知らないが、今からでも変わればいいじゃないか。キャリーヌが望むなら、両親もすぐに動いてくれることだろう。
「お姉様、酷いわ。私は子どもを産むのは難しいから、諦めているのに」
「でもお薬が効いているのでしょう?」
「それでも、難しいって言われたの」
妹は気管支喘息を患っており、治ることはないとされている。
気管支喘息を患っていても結婚し、出産する人もいるが、妊娠をすると悪化することで、両親は子どもを産ませたくないと思っている。
そして、文句を言った後は両親に私が婚約者が出来たことを自慢して来る、病気のせいで、婚約者を持てないのに辛いと吹き込むようになった。
「ルイフォード・マリクワンだ」
「ベルアンジュ・ソアリでございます」
ルイフォードは表情は豊かではなさそうだが、誠実そうな精悍な男性で、病人を無碍にするようには見えなかった。だからこそ、恐ろしい。
だが、キャリーヌではなく、私を選ぶということは、皮肉なことに病人が嫌いなのかもしれないと思った。
「何か希望などはあるか」
「いえ、その前に本当に私でよろしいのでしょうかかとは、お伺いしようと思っておりました」
「バスチャン伯爵令嬢のことが気になるか?」
「はい、彼女は私の従姉です。待つことは出来ないのでしょうか」
気にならない方がおかしい、他人ならともかく、従姉妹である。
「お互い納得している。彼女には療養に専念して貰いたい」
「そんなに、悪いのですか?」
「いや、しばらく時間は掛かるだろうが、治らないわけではないそうだ」
「そうですか」
それならば良かったと、ひとまず安心した。
「結婚まで期間が短いが、よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」
ベルーナのために、少しの時間稼ぎは出来るかもしれないと思っていた。
最近の彼女のことは知らないが、私はベルーナの明るく、ユーモアのあるところを好ましく思っていた。母親同士の仲が悪いだけで、私たちの関係性は悪くなかった。
会えば話をして、子どもの頃の様に笑い合える関係だったはずだ。
ベルーナに会わせてもらえないかと両親に聞いたが、何の病気か分からないから、会って感染させられたらどうするのかと言い出し、また悪しき者のように思っているのだと推測するのは容易い。
ルイフォードは爵位の譲渡もあり、忙しくされているようで、親交を深めようとする気配はあまりなかったのでありがたかった。結婚式の準備と、週に3日ほどの侯爵家の勉強に行くだけで、それだけをこなせば後は自由であった。
バスチャン伯爵にも手紙を出したが、遠くで療養しているため難しいという。
ベルーナに手紙だけは送ってもらえることとなったが、円満解消だから、私のことは気にせず嫁いで欲しい、ごめんねという短い手紙が届いただけだった。おそらく彼女が書いたことは間違いないだろう、懐かしい字だった。
ベルアンジュに婚約者が出来たこと、半年後には結婚することはキャリーヌの耳にも入ったようで、わざわざ部屋を訪ねて来た。
「お姉様、婚約者が出来るなんてビックリしましたわ。一生出来ないのではないかと失敗しておりましたのよ」
「そう」
「私は求められても出来ないのに」
「私はベルーナの代わりよ?」
「健康だったら、私だったんですって」
「…そう」
「でも仕方ないからお姉様に譲ってあげたそうよ。だから私のおかげなの、だから私に感謝するべきなのよ?分かる?」
「…そう」
何としてでも、自分が上の立場でありたいキャリーヌは、それからも何度も何度も似たような話を言いに来るようになった。
「ルイフォード様に、キャリーヌの方が良かったと言われたの」
「そうなの?だったら、今からでも変わったらどうかしら」
いつ会ったのかは知らないが、今からでも変わればいいじゃないか。キャリーヌが望むなら、両親もすぐに動いてくれることだろう。
「お姉様、酷いわ。私は子どもを産むのは難しいから、諦めているのに」
「でもお薬が効いているのでしょう?」
「それでも、難しいって言われたの」
妹は気管支喘息を患っており、治ることはないとされている。
気管支喘息を患っていても結婚し、出産する人もいるが、妊娠をすると悪化することで、両親は子どもを産ませたくないと思っている。
そして、文句を言った後は両親に私が婚約者が出来たことを自慢して来る、病気のせいで、婚約者を持てないのに辛いと吹き込むようになった。
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