【完結】あの子の代わり

野村にれ

文字の大きさ
上 下
2 / 73

顔合わせ

しおりを挟む
 ベルアンジュは、マリクワン侯爵令息と顔合わせをすることになった。マリクワン侯爵家から迎えが来て、両親は同席しなくていいという。

「ルイフォード・マリクワンだ」
「ベルアンジュ・ソアリでございます」

 ルイフォードは表情は豊かではなさそうだが、誠実そうな精悍な男性で、病人を無碍にするようには見えなかった。だからこそ、恐ろしい。

 だが、キャリーヌではなく、私を選ぶということは、皮肉なことに病人が嫌いなのかもしれないと思った。

「何か希望などはあるか」
「いえ、その前に本当に私でよろしいのでしょうかかとは、お伺いしようと思っておりました」
「バスチャン伯爵令嬢のことが気になるか?」
「はい、彼女は私の従姉です。待つことは出来ないのでしょうか」

 気にならない方がおかしい、他人ならともかく、従姉妹である。

「お互い納得している。彼女には療養に専念して貰いたい」
「そんなに、悪いのですか?」
「いや、しばらく時間は掛かるだろうが、治らないわけではないそうだ」
「そうですか」

 それならば良かったと、ひとまず安心した。

「結婚まで期間が短いが、よろしく頼む」
「よろしくお願いいたします」

 ベルーナのために、少しの時間稼ぎは出来るかもしれないと思っていた。

 最近の彼女のことは知らないが、私はベルーナの明るく、ユーモアのあるところを好ましく思っていた。母親同士の仲が悪いだけで、私たちの関係性は悪くなかった。

 会えば話をして、子どもの頃の様に笑い合える関係だったはずだ。

 ベルーナに会わせてもらえないかと両親に聞いたが、何の病気か分からないから、会って感染させられたらどうするのかと言い出し、また悪しき者のように思っているのだと推測するのは容易い。

 ルイフォードは爵位の譲渡もあり、忙しくされているようで、親交を深めようとする気配はあまりなかったのでありがたかった。結婚式の準備と、週に3日ほどの侯爵家の勉強に行くだけで、それだけをこなせば後は自由であった。

 バスチャン伯爵にも手紙を出したが、遠くで療養しているため難しいという。

 ベルーナに手紙だけは送ってもらえることとなったが、円満解消だから、私のことは気にせず嫁いで欲しい、ごめんねという短い手紙が届いただけだった。おそらく彼女が書いたことは間違いないだろう、懐かしい字だった。

 ベルアンジュに婚約者が出来たこと、半年後には結婚することはキャリーヌの耳にも入ったようで、わざわざ部屋を訪ねて来た。

「お姉様、婚約者が出来るなんてビックリしましたわ。一生出来ないのではないかと失敗しておりましたのよ」
「そう」
「私は求められても出来ないのに」
「私はベルーナの代わりよ?」
「健康だったら、私だったんですって」
「…そう」
「でも仕方ないからお姉様に譲ってあげたそうよ。だから私のおかげなの、だから私に感謝するべきなのよ?分かる?」
「…そう」

 何としてでも、自分が上の立場でありたいキャリーヌは、それからも何度も何度も似たような話を言いに来るようになった。

「ルイフォード様に、キャリーヌの方が良かったと言われたの」
「そうなの?だったら、今からでも変わったらどうかしら」

 いつ会ったのかは知らないが、今からでも変わればいいじゃないか。キャリーヌが望むなら、両親もすぐに動いてくれることだろう。

「お姉様、酷いわ。私は子どもを産むのは難しいから、諦めているのに」
「でもお薬が効いているのでしょう?」
「それでも、難しいって言われたの」

 妹は気管支喘息を患っており、治ることはないとされている。

 気管支喘息を患っていても結婚し、出産する人もいるが、妊娠をすると悪化することで、両親は子どもを産ませたくないと思っている。

 そして、文句を言った後は両親に私が婚約者が出来たことを自慢して来る、病気のせいで、婚約者を持てないのに辛いと吹き込むようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛は全てを解決しない

火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。 それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。 しかしデセルバート家は既に没落していた。 ※なろう様にも投稿中。

私は私を大切にしてくれる人と一緒にいたいのです。

火野村志紀
恋愛
花の女神の神官アンリエッタは嵐の神の神官であるセレスタンと結婚するが、三年経っても子宝に恵まれなかった。 そのせいで義母にいびられていたが、セレスタンへの愛を貫こうとしていた。だがセレスタンの不在中についに逃げ出す。 式典のために神殿に泊まり込んでいたセレスタンが全てを知ったのは、家に帰って来てから。 愛らしい笑顔で出迎えてくれるはずの妻がいないと落ち込むセレスタンに、彼の両親は雨の女神の神官を新たな嫁にと薦めるが……

無価値な私はいらないでしょう?

火野村志紀
恋愛
いっそのこと、手放してくださった方が楽でした。 だから、私から離れようと思うのです。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。

火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。 しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。 数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。

【取り下げ予定】愛されない妃ですので。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。 国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。 「僕はきみを愛していない」 はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。 『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。 (ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?) そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。 しかも、別の人間になっている? なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。 *年齢制限を18→15に変更しました。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

処理中です...