【完結】愛しくない、あなた

野村にれ

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【アイルーン】訃報

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「え?」
「アイルーン殿が亡くなったそうだ」
「は?何言っているの」

 同じ侯爵家に嫁いだナビナは、王宮の仕事から帰って来た夫の言葉に、耳がおかしくなったのだと疑わなかった。

「事実なんだ、葬儀も既に終わっている」
「…っな、どうして!何の発表もないじゃない」

 皇帝の番が亡くなったのなら、発表されないはずがないと思った。

「竜帝国は子どもを産まないと、正妃にはなれないから…アイルーン殿はなっていないからだろう」
「そんな!どうして!まさか、妃に殺されたのではないわよね!」
「病死だということだそうだ」

 ナビナは手紙を待っていたが、一度も来ることはなかった。

 だが、アイルーンの義姉・ナナリー様に恙なく過ごしていると、こちらに慣れないといけないから、あまり手紙は書けないと書いてあったことを聞いていた。

「どうして…どうしてよ…なんでアイルーンが、アイルーンが」

 ナビナは膝を付き、絨毯を叩きながら、泣きじゃくった。

「ナビナ…」

 伯爵家に嫁いだレイエンヌと、子爵家に嫁いだミラニューも同様に伝えられた。

「どうして…何で、アイルーンが」
「病死だと言われている」
「言われている?」
「正直なところ、分からないだろう」
「そんな!」
「だが、どうにもならない…」

「そんな…嘘でしょう、信じないわ」
「私だって信じられない」
「何でよ、なんでアイルーンが死ななければならないの!」

 友人たちは、早過ぎる死を嘆いた。

 そして、婚約を白紙としたマーク・ファドットも、文官として働く王宮で仕事中に、上司からアイルーンの訃報を聞くことになった。

「亡くなった?」
「ああ、そうらしい。病死だそうだ」
「病死?彼女に持病などありません。風邪だって滅多に引きません」

 マークは婚約中に、自分や周りが季節の風邪などを引いていても、一人だけ申し訳なさそうに、元気だったことを知っている。

「落ち着け」
「ですが、持病もないのに死ぬわけないではありませんか」
「ああ、私もそう思う」

 上司も話を聞いた時に、持病もない、病を患っているとも聞かなかったアイルーン嬢が、どうしてこの若さで亡くなるのかと、疑問を持った。

「では、おかしいではありませんか」
「…」
「彼女は、幸せではなかったのですか…」

 マークはアイルーンが、竜帝国の皇帝の番だと聞いた時は驚いた。

 皇帝には妃が既にいることは聞いており、そんな場所で大丈夫だろうかと、良かったという気持ちよりも、心配が勝った。

 だが、マークはもうアイルーンと話すことも出来ない。

 心配していい間柄でもない、だからどうか幸せにと願い続けていた。

 両親はこんなことならペナルティを受けなくて良かったのにと言っていたが、それは結果論であり、ペナルティは受けるつもりだった。

 マークは今もペナルティ中で、王宮で仕事は出来るが、妻はマークが王宮にいる間は、出入りすることは出来ないとなっている。

「おそらく、そういうことだと思う」
「…そんな」
「なぜ亡くなったのかは分からないが、竜帝国から、デリア侯爵家も、王家にも、かなりの賠償がされるようだから」
「まだ19ですよ…」

 マークと同い年だったアイルーンは、まだ誕生日が来ていないので、19歳である。

 19歳で、どうして亡くならなければならないのか。彼女にはこれからは幸せだけが、訪れるはずだと思っていたのに…マークの中に、絶望が広がっていた。

「ああ、ご家族もお辛いだろうな…」
「番ではなかったのですか?」
「いや、確認もしたと聞いているから、間違いではないだろう」
「それなら、なぜ…」
「気持ちは分かるが、お前も新婚なのだから、家には持ち込むなよ」

 マークは番であっても、きちんと婚約をして、一年の婚約期間を経て、数か月前に結婚したばかりであった。

「分かっています」


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本日もお読みいただきありがとうございます。

本日も1日2話、投稿させていただきます。
17時にもう1話、投稿します。

どうぞよろしくお願いいたします。
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