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第九話「いきなり大脱走」

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「好き……好きぃぃ……」

 瞳の中に目をハートを浮かべかねない勢いでトロンとした表情のまま俺の腕にキスを続ける少女。
 この国の騎士における四天王を自称する。名はフィルナ・ハーティスというらしい。
 今は上半身を投げ出すようにテーブルに倒れこみ、全裸でヒクヒクと小さな痙攣を繰り返している。

 時間一杯とはいわなかったけど、相当な時間こましたからなぁ。

 初めての性交。
 前世でも使う事がなかった一物をついに使用してやれた喜びに打ち震える。
 父さん母さん、俺、異世界で男になったよ。

 ちなみに性気吸収の効果なのか、飢えが満たされている。
 飲食不要ではあるようだが、多少の飢えは感じるらしい。

 ついでに言うと、体力とか魔力的なものも満たされているように感じる。
 性豪で何度逝ってもすぐ回復するし、これは良いな。

「ん~……しゅきしゅきぃ……」

 快楽にメロメロになっているらしいフィルナの頭を撫でてやる。
 すると、ふにゃぁっと笑ってキスをしてくる。
 よしよしと抱きとめながら受け入れる。
 こうなってしまえば可愛いもんだ。

 ちなみに、隷属は使用しなかった。
 ずっとレイプ目のまま従順だけどロボットみたいに従われ続けるってのもなんか嫌だしな。
 そうなるとは限らないんだけど、なんていうか、どうなるかわからないからこそ怖い。
 こんなことしてしまって、正気に戻ったら最終的に嫌われてしまうかもしれない。
 けど完全に精神を支配し続けるっていうのはなんていうか、違うと思ったのだ。
 こういう事はなんていうか、自分の意思で選んでほしいと言うか、純粋に、心から愛して欲しかったのだ。
 わがままだとは思う。けど、それが偽らざる俺の気持ちなのだ。

「こんなの知っちゃったら……ボク、もう戻れないよぉ……」

 俺の胸に頬ずりするフィルナ。
 催淫と脱ぐとこまでは支配を使っちゃったけど、隷属は未使用。
 だけど、これはこれで……。
 うん、快楽でテイムした、ってことでいいよね?

 それはさておき、ステータスをオープンさせると案の定メッセージがあった。

『スキルを習得しますか?』

 可愛らしい異性がいた。当然性行為をしたくなる。それはしょうがないことだろう。
 だが俺にはそれ以外にも目的が合ったのだ。

 どれどれ。どんなスキルを持っていたのか確認してみましょうかね。


  獲得可能スキル
  剛力EX:異様な怪力を持つことを表すスキル。パッシブで筋力を1ランク上昇させる。
  剣術A:剣を使った戦闘技術が得意であることを表す。Aランクは人類の限界を意味する。
  槍術A:槍を使った戦闘技術が得意であることを表す。Aランクは人類の限界を意味する。
  格闘B:素手や簡易武器による戦闘技術が得意であることを表す。Bランクは達人レベルの習熟度を意味する。
  投擲C:物を投げつける戦闘技術が得意であることを表す。Cランクは最低限使える程度。
  生活魔法C:Cクラスまでの生活魔法を使用可能。
  白魔法C:Cクラスまでの白魔法を使用可能。
  斬鋼剣:レアスキル。闘気系アビリティの一つ。武器に闘気を纏わせ、鋼さえたやすく切り裂く力を得る。
  剣閃砲:レアスキル。闘気系アビリティの一つ。武器から闘気を放出させ遠距離まで波動による貫通攻撃を行う。


 ふむ、なかなかよさげなものがあるじゃないか。
 迷う事無く全部習得を選択する。

 なんとなくだけど、出来る事が増えたような実感が沸いて来た。

「なぁフィルナ」
「ん?」
「俺、ここを出て行こうと思うんだけどさ。ついてくる?」
「ふぇ?」

 きょとんとした顔で小首を傾げる。
 可愛らしいので撫でておく。

「ふにゃぁ……」

 頭を撫でると甘えてくる。可愛い。

「で、どうする?」
「どうするって言ったって。それはこっちの台詞だよ。どうやって脱出するの?」

 フィルナに手伝ってもらうって手もあったんだけど、スキルで出られそうなんだよなぁ。

「まぁ、それは秘密ってことで」
「ん~……このまま君に出て行かれるとボクに責任問題が発生するかもしれないんだよね」

 それな。
 このまま放置して、彼女が俺を逃がしてしまった責任で罰される、というのも可哀想だ。
 だから誘ったという理由もあるんだよなぁ。
 まぁ、可愛いから捨てて行きたくないって理由の方がもはや大きいんだけどさ。
 それくらいに、今は愛おしくてたまらないんだよね。
 たった一度肌を重ねただけで彼氏面するのもウザがられるかもしれないけど「こいつはもう俺の物」という強い所有欲が生まれてしまっているのだ。

「っていうか……こんなことまでしておいて、ボクをポイするの……?」

 悲しげな瞳で俺を見やるフィルナ。
 そんな表情も、捨てられた子猫のようで可愛らしい。

 彼女のことを思うなら、ここで何も無かったふりをして部屋を出て行ってもらって、それから脱出するのが正しいのだ。
 だけど――。

「……ここでバイバイなの?」

 ふるふると震えるフィルナの瞳には涙が浮かんでいた。
 けど、ここは慎重に決めなければならない場面なんだ。
 彼女にだって生活がある。家族だっているだろう。

「君がそれを望むなら、そうするつもりだった」
「嫌だよ……もう離れたくないよ……ずっと一緒がいい」
「後悔するかもしれないぞ」
「かまわないよ」

 そう言うと、彼女は俺の首に手をまわし、キスをした。

「ボクをこんな風にした責任……とってよね」

 そして、はにかんだ笑顔で俺にその答えを示すのだった。
 俺はフィルナを強く抱きしめると、しばらくの間抱擁を続けた。

「で、どうするの?」
「まずは着替えるところからかな? その姿も刺激的でいいけど、逃げるのには適してないからさ」
「う、わ、そうだった。ふぁ、ぅ……恥ずかしいからあんまり見ないで」
「どうして? 可愛いと思うけど」
「そう言われるのは嬉しいけど、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ……」

 とりあえず、俺たちは服を着こむ所から準備を始めた。当然、可愛らしいフィルナの体を見て堪能する事は忘れずに。
 途中、眺め続けていると頬を膨らませてムッとするフィルナだったが、頭を撫でてキスをして「可愛いよ」「愛してる」と耳元で囁くと、ふにゃっと笑ってキスを返してくるのだった。とても可愛いかった。
 しばらくして服が着替え終わり、準備も整った。

「さて、それじゃあやりますか」
「うん」
「剣を貸してもらえるかな?」
「はいっ」

 素直に渡してくれる。
 もはや彼女は帝国の騎士ではない。
 俺の彼女、そして仲間になったのだ。

 俺は借りた剣を手に取り、心の中でスキルの発動を命じる。
 使用するのは斬鋼剣と剣閃砲だ。

 瞬間、体内を巡るエネルギーのようなものが蠢くのを感じた。
 これが闘気……。
 物凄いエネルギーの奔流が体の中心から腕へと流れ、掌から剣を伝う。
 半透明の赤い気体のようなものが、キィィンという耳鳴りのような音と共に剣を包み込む。

――斬鋼剣発動。

 これで俺がスキルを解くまでは鋼さえも破壊できる攻撃力を手に入れたことになる。

 そして――。

 ごっそりと、体内を循環しているエネルギーが移動するのを感じる。
 俺は習得した剣術スキルに身を委ね、体を動かした。
 目標は部屋の壁。入り口の扉とは逆側にある壁だ。
 両手を高く上げ、剣を背中まで反るように振り上げ、そして全力で前面へと振り下ろす。
 その一撃と共に、剣閃砲が発動される。
 大量に剣へと流し込まれたエネルギーが一瞬で放出される。

――光。

 周囲が眩い光に包まれると、轟音が鳴り響く。
 光が止み、土煙が晴れると目の前には……大穴があった。壁が円形に抉れていたのだ。
 人間が軽く通れるというか、もっと大きい生物でも出入り自由ってくらいの大穴を開けてしまった。凄い威力だ。

 直後、疲労感に襲われる。
 長距離を全力でダッシュしたような気だるさに軽く眩暈がする。

「う……そ」

 後ろからフィルナの絶句する声が聞こえた。
 どうしたのかと前方の大穴の先を見ると――。

 月明かりの闇の中、一部がなんか削れたような形の奇妙な山が見える。
 右端上部をちょうど円形の闇で塗りつぶしたような、歪な形の山だった。

「ボクの知ってる剣閃砲と違う……」

 ん?
 もしかして。

「地形を変えるほどの威力なんて見たことないよ……」

 あれ? 俺やっちゃいました?
 ぶっちゃけなろう系の主人公で「俺なんかやっちゃいました?」みたいなの見ると軽くイラっとする感覚を味わってきたけど、今まさに俺がその主人公状態になっているようだった。

「普通、どれくらいの威力なの?」
「ボクでも大岩を破壊できるくらいかな……」
「斬鋼剣と併用しても」
「併用したの!? タフだね……ボクならそんなことしたら倒れて動けなくなる自信があるよ」

 やっちゃってたらしい。

「斬鋼剣だけでも体力と体内の魔素をごっそり消耗するのに……」
「ふむ、ちなみに剣閃砲だと?」
「一戦闘中に二回は放てないってくらいの必殺奥義みたいなもんだよね。普通、併用は無理」
「じゃあ、やっぱりあの山……俺のせい?」
「君のせいだよ。間違いなく。さっきまでは普通の山だったもん。ここに来る前、ボク見たから」
「オゥノゥ」

 なんでこんな事に?
 筋力とかステータスランクのせいか?
 なんか体内のエネルギー使ってたし魔力とかも関係あるのかな?

「あの辺に村とかないよね」
「多分、無かったはず……」

 よかった。無自覚に人殺しはしてないっぽい。多分だけど。
 などとほっとしていると。

「何事ですか!? 大丈夫ですか!? フィルナ様!!」

 扉の外から、というか下からドヤドヤと声が聞こえてくる。
 そうか、防音魔法使ってても、外壁ぶち壊して効果外にまで爆音響かせるような攻撃すればバレるよな。

「フィルナ、つかまれ!」
「うん!」

 フィルナががっしりと俺の腰につかまるのを確認すると、俺は翼飛行のスキルを使用する。
 スキルの使用を心中で命じると、衣服を引き破り背中から翼が生えてきた。同時にフワリと体が浮遊する感覚。
 ついでに勢いあまったのか尻尾がニョロリと飛び出てしまった。ズボンの上部分から逃すように出したが若干窮屈だ。
 尻尾もあるのか……あとで服も何とかしないとな。
 翼は出すたびに服が壊れるとか困るし、常時出しっぱだと今度は邪魔で仕方無さそうだし。
 尻尾も収納可能みたいだけど、今回みたいにうっかり出ちゃうと邪魔だからこっちは出し続けた方が良さそうだ。

「フィルナ様!」

 バン! と扉が開かれる。その音を後ろに聞きながら、俺は翼を羽ばたかせた。
 一瞬で後ろへと流れ行く景色。俺は月夜の闇の中、遥か彼方へとその身を躍らせた。

「角に翼に尻尾!? 貴様、魔族だったのか!!」

 ここへと連れてきた兵士のものであろう声が遠くに聞こえるが、無視して飛行に集中する。
 落ちてしまわないようにぎゅっとフィルナを抱きしめながら。

「あばよとっつぁ~ん」

 俺は某有名な怪盗の決め台詞を口にすると、全速力でその場を後にする。
 とりあえず方角は適当に、なんとなく削っちゃった山の方へ。後は野となれ山となれ、だ。


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