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第一章前編『英雄爆誕編』(序)巻き添え転生は突然に

第十話「いきなりギルド登録!?」

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 飛行は、魔力的なバリアでもあるのか、風の抵抗をほとんど感じなかった。
 最初は「落とさないでね……」と、怖がるそぶりも見せ可愛げがあったフィルナだが、一時間もすれば慣れたもので、ぐーすかと眠りこける始末だった。いい根性してやがる。

 普通なら山や森を避けてだいぶかかるであろうルートも、空を進めばだいぶショートカットできる。
 敏捷Sランクのせいもあるのだろう。俺の飛行はかなりのスピードが出ているようで、途中何度か休憩を挟みつつでも、数時間もたたずに国境近くの村へと到着できたのだった。

 体力Sランクだからだろうか、割とぶっ続けで飛んでもそれほど疲れず、逆に何もすることが無かったフィルナが退屈そうにしているくらいだった。

 時間は明け方。太陽が昇り始める頃。

「ここなら多分、まだ手配書とかは届いてないはずだよ」

 なんでも魔法による連絡網があるらしく、主要な大きめの街にはすぐ連絡が届くようになっているとのこと。
 だが田舎にはそういったマジックアイテムはほとんど無いらしい。
 なので、ここなら早馬で数日かけなければ連絡を届けられないということで、フィルナにこのディジナ村を目指すよう促されたのだ。

 よしよしとフィルナの頭を撫でると気持ち良さそうに目を細め俺の腕に抱きついてくる。

「ありがとう」

 きゅっと抱きしめるとフィルナも俺を抱き返してくる。
 さて、これからどうしようかと考えあぐねていると。

「はい、これ」

 と、首輪のようなものを差し出すフィルナ。

「何これ?」
「奴隷の首輪。ボクは村を出てきた冒険者志望の少女で、君はボクの奴隷ね」
「え?」
「だって、魔族がウロウロしてたら通報されちゃうでしょ?」
「そうなの?」
「え? 何で知らないの? っていうか、君、何で幽閉されてたの」

 事情を説明する事にした。

「勝手に召喚しておいて幽閉とか、酷いね!」

 とりあえず、能力は適当にぼかして、役立たずとして投獄されたことにしておいた。
 嘘はまぁ、ついてないよね。真実の一部を隠してるだけだし。

 ちなみに何故フィルナが首輪なんか持っていたのかというと、実はあの時幽閉場所にやってきた理由は、俺をぶちのめして奴隷にするためだったのだそうな。
 というのも、ファルサリス帝国は教義的に差別思想の強い国で、純粋な人族以外は立場が低いらしく、特に半獣人と魔族は奴隷扱いされているのだとか。
 なので、魔族の俺はこの国にいる間は奴隷のふりをするのが自然なのだという。
 まぁ、人化すればいいだけの話なんだけどさ。
 ただ人化中は能力がいちじるしく下がるからなぁ。飛行能力も使えないから不便だし、あまり人化するメリット無いんだよね。
 なので、俺はフィルナの提案に乗ることにした。

「ところでさ。ボク、君の名前まだ知らない」
「あ、そうか。俺の名前は天原翔。よろしく」
「よろしく……っていうか変わった名前だね。異世界人ってみんなそうなの?」
「日本人はそうなんじゃないかな?」
「日本人?」
「俺のいた世界は海に囲まれていくつもの大陸と島でなりたってたから。その中の小さな島国が日本って名前だったんだ」
「へ~、エルデフィアの中のルミナスフェリア大陸、みたいな感じ?」
「たぶんそう。いや、それよりももっと小さい区分かもね。この帝国の隣にも別の国があるんでしょ? まぁそんな感じ」
「ふぅん」

 飛んでる最中や休憩時間に、今後どうするかについて、フィルナと軽く相談した。
 その時に聞いたのだが、このファルサリス帝国の隣にはミルトグリム連邦共和国という国があるらしい。
 国境を越えて何とかそこまでいけば、帝国が俺を指名手配してもなんとかなるんじゃないか、というアドバイスを受けたのだ。
 なんでも帝国はミルトグリムを攻め落としたいらしく、それを知っているミルトグリム的には帝国の言うことなど聞きたくもないだろう、とのこと。
 指名手配の内容次第だろうが、ワンチャンあるなら試してみるべきだ。
 やはり、持つものは頼れる嫁である。

「とりあえず名前はバレちゃったんだよね? じゃあ新しい名前付けないとね」
「そうか、偽名か」
「ボクはとりあえずフィオナ・ハルティスとでも名乗るよ」

 そう言ってフィルナはリボンを左側面の髪に巻き、サイドピッグテール姿に変装する。

「似合うかな?」
「可愛いよ」
「ありがと。向こうについたら、服も新調しないとね」

 えへへっと笑いながらご機嫌そうにクルリと回転するフィルナ。
 なんというか、本当にもうすっごく可愛い。
 今までは服装のせいもあって男装した美少女って感じだったけど、今はもう完全に男の服を着せられた美少女って感じだ。
 服まで変えたらきっと凄い事になるだろうな。

「で、君の名前、どうする?」
「ん~……何か良い案ある?」
「む~……そうだねぇ……メルピケ……? 後はビレンゴとか?」
「それ、何の名前?」
「昔飼ってたペットの名前」
「却下」
「ぶぅ、じゃあ何が良いのさっ」
「ん~っと……そうだなぁ。ルシフェル・ダークロードとか?」

 我ながら中二病的だが、RPGとか遊ぶ時に良く使っていた名前を口にしてみる。

「魔力上限突破のレジェンドスキル名と魔王の称号かぁ……さすがに偽名ってのがまるわかりすぎじゃないかなぁ?」
「そうか……じゃあ」

 俺は無い頭を総動員させて新しい名前について考えてみた。
 あまはら……かける……。
 かける。翔る。駆ける。
 そうだな。翔る様に、駆け足で死んでしまった。
 だから今度はゆっくりと、歩むように。あゆむ?
 歩くように……あるく。アルク?

「アルクなんてどうだろう」

 フィルナに尋ねると顔をほころばせながら頷いてくれた。

「いいね! それ! 伝説の勇者様の名前だ!」
「そうなの?」
「この辺りでは割と有名な御伽噺だよ。いいね、格好いいね!」

 ふんふんと鼻息荒く興奮していらっしゃるご様子。

「じゃあ次はセカンドネームか」
「別に無くてもいいと思うけどね。この辺じゃ無い人も多いよ?」
「そう?」
「でもそうだなぁ。その名前を付けるならこんなのはどうかな?」
「どんなの?」
「ディファニオン」
「アルク・ディファニオンか。いいね。由来は何?」
「その伝説の中に登場する幻の都の名前!」
「ふむ……格好いいけどそれ、偽名として大丈夫?」
「あ~……そうか。そうだよね」
「でも、フィルナがつけてくれたんだし、いいかな」

 頭を撫でて抱きしめる。
 俺にはもう、何も無い。
 家も無ければ両親も。
 この世界で一人きりなのだ。
 だから、唯一あるとすればこの……。

「よしよし、大丈夫大丈夫。ボクがついてるからね」

 ぎゅっと、強く抱き返された。
 顔や態度にはなるべく出さないようにしていたのだが、先行きを心配に思う俺の気持ちを察したのだろう。慰められてしまった。
 暖かな温もり。彼女の存在が心強く思えた。そして何より、愛おしかった。
 口づけし、強く抱きしめあった後、俺はまだ開いてない宿屋らしき民家の扉をノックした。
 まだ眠たげな顔の店主に宿が空いてないか尋ねると、少し迷惑そうな顔で、だが手馴れた感じで俺たちを泊めてくれた。
 そんな宿屋のおっちゃんに感謝しつつ、一時の眠りにつくのだった。

 もちろん。フィルナが余りに可愛らしかったので寝る前に襲った。何度もこました。これからの俺のライフワークになるだろう。

 襲う前に経験値とスキルポイントが大量に増えていたので、遊び人のスキルから、偽装を習得しておいた。
 鑑定などでステータスが覗かれた際に色々と隠蔽できるのではと思ったのだ。
 案の定、物理的な変装や隠蔽のみならず、ステータス画面における名前や一部スキルを書き換える事ができるようだった。
 スキルポイントは大量に余っていたので念のためSランクにまで上げておいた。これで鑑定対策になるはずだ。

 そして、襲ったフィルナに対して性行為時のスキル授与を施し、偽装Sランクを追加させておいた。
 種族スキルとユニークスキルは授与できないようで、他には避妊魔法くらいしかあげられなかった。
 ごめんなフィルナ。俺ばっか沢山もらってしまって。

 さて、そんなこんなで昼も過ぎ。

 空は若干だが、どこか緑がかった蒼色をしていた。
 稀に淡いピンク色に輝くような不思議な現象も見せている。
 ちなみに夜に見た月は二つもあった。本当に異世界に来たんだなぁと実感させられる。

 俺達は宿部屋の下の階にある冒険者ギルド兼任の酒場にいた。

 なんでもフィルナいわく、冒険者登録をすると国境を越えるのが楽になるのだそうな。
 冒険者ギルドは近隣の国同士で連携していて、国を超える際のパスポートみたいな身分証明になるのだとか。

 そんなガバガバで大丈夫か? という俺の問いには、

「この国にとって冒険者なんて使い捨ての駒みたいなもんだからね。ゴロツキでもなれるようにしてるんだよ」

 犯罪者の国境越えとか考えないのだろうか。

「偽装Sランクなんて持ってるゴロツキ、いる訳ないでしょ? そんなのにスキルポイント振るくらいならもっと別の有用なスキル手に入れるよ普通。登録で名前を詐称してもどこかで鑑定されてバレてお縄だよ」

 との事。
 でも、どのくらいガバガバかというと……。

「どこにあったっけかなぁ」

 登録の石版だかを置いている場所を店主が忘れてるくらいだ。

「なぁ、なんでこんなへんぴな村にギルドがあるんだ?」
「間引きを兼ねた魔物の討伐や採取の依頼が頻繁にあるからその拠点になってるんだよ」
「なるほどねぇ」

 ちなみに俺達の設定はフィルナことフィオナがすでに考えてくれていた。
 近くの村を出てきた冒険者志望で、飢饉で家を追い出されたという設定らしい。
 付近の村で飢饉が起きているというのは事実らしく、村長の家とか一部裕福な家庭には奴隷が一人くらいいてもおかしくないし、跡継ぎでない次女が食糧事情的な問題で維持できない奴隷と共に放逐させられるのは、あながちありえない話でもないとの事。
 そこまで考えてくれるとは、実に役立つ女房である。

「しっかしまぁ、朝っぱらからお盛んなようで。ちゃんと休めたのかい?」
「ふぇ?」
「外まで丸聞こえだったぜ」

 あ、そういえば今朝お楽しみした時、生活魔法で防音するの忘れてたな。
 前回はフィルナが使ってくれてたから油断してた。

「ちょ、ちょっと!? か……アルク!? 静寂かけてなかったの?」
「忘れてた」
「よっ色男」
「うぁ、ぁ、ぁぅぅ~……」

 顔を真っ赤にしてうずくまってしまった

「飛んじゃう~飛んじゃう~って、どこまでぶっ飛ぶつもりだったんだ? え? おい」
「うにゃー!」

 ぺちぺちと俺のお腹を叩くフィルナ。

「もちろん、彼女の行く先は俺の胸の中だけですよ」

 しれっと答えてみる。すると、

「言うねぇ」

 にやにやと笑いながら愉快そうにするおやっさん。
 フィルナは最初は恥ずかしそうに怒ったような仕草をしていたが、その頬を撫で、親指で耳をくすぐり、頭を撫でながら抱きしめると、今では赤い顔のままだが、きゅっと俺の腕に抱きついてうっとりとしながら嬉しそうに俺の腕に頬ずりをしている。

「おいおいおい、さすがにこんなとこでおっぱじめんのだけはやめてくれよ」
「さすがにしませんよ。彼女の可愛い姿を見られるのは俺だけの特権なんで」
「くっ、なんだかだんだんむかついてきたぜ」

 奥さんとかはいないのだろうか。嫉妬の表情で俺を睨むマスターがいるのだった。

「ほい、あったぜ。これだ」

 埃塗れの石版がテーブルに乗せられる。
 あらかじめ書くように言われていた書類を渡す。
 名前は偽名なのだが、大丈夫だろうか。

「そこに手を置けば完了だ」

 多少マスターが拭いてくれたものの、汚れたままの石版に手を乗せる。
 マジックアイテムなのだろう。瞬間、石版が光ってカードが出現する。
 よかった。登録された名前は偽名のままのようだ。

「ほぅ、伝説の勇者の名前に……ディファニオンか。こいつぁいい、伝説の都市の名前とはな」

 ヤバイか? 苗字無いのに偽名で無理やりつけてるとか思われちゃったか?

「別に無理やり苗字付けなきゃいけねぇわけじゃねぇんだぜ?」
「まぁ、箔を付けたいし、覚えが良い方が最終的に仕事も取りやすくなるでしょう。なにより、いづれディファニオンの領主になるって野望がありますので」

 適当に吹いてみた。

「なるほどな。面白れぇじゃねぇか。ま、なにがしかの事情があって偽名で登録するなんてのぁよくある話だからな」
「そうなんですか?」
「あぁ、誰だって好きな名前を名乗るのは自由だ」
「……それで身分証明になるのですか?」

 疑問を尋ねてみた。すると。

「なるさ。ギルドのカードは魂の登録だ。登録したからには石版を使ってどこまででも探し出して見つけ出すことができる。石板の機能は全ギルドで共有してる。情報もだ。つまり、どこに逃げても無駄だ。本当は事故で死んだり大怪我して動けなくなった時、救助に行くためのシステムだったようなんだが、犯罪者には辛いだろう? そういう事だ」
「なるほど」
「ちなみに、引退しても登録した痕跡で情報は残るからな。気をつけろよ」

 あれ? もしかして、俺、わりかしやらかしちゃったのではなかろうか。
 フィルナの方を見やると、彼女はバツの悪そうな表情であさっての方角を向きながら、吹けない口笛を吹こうとしていた。
 あらやだ。割とポンコツかもしれないこの娘。

 まぁいいか。どうとでもなれ、だ。

 そうこうして俺達二人が冒険者ギルドの登録を終えた瞬間だった。
 酒場の扉がバンと開かれ、村人らしき男が一人駆け寄ってきた。

 追っ手か!?

 そう思い身構えた瞬間、男はその言葉を口にするのだった。

「ワイバーンだ!! はぐれワイバーンが出たぞ!!

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