極夜のネオンブルー

侶雲

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3星・雲の時代

16待ちぼうけ

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ノラブロに連れられて、私とレオ、アンディ、
アイアン、ランバード、バグビートの六人は、
女帝公園を訪れた。
みんな、ここに来るまで無言だった。
ノラブロが怖くて、私はメリーがそうしたように
レオの腕にくっついてしまった。
レオも怖かったみたいで、私から離れようとは
しなかった。

ノラブロが喋り出した。

「いやあ、綺麗なもんですよ。
皆さんには見えませんか?
すごい光なんですよ、キラキラ輝いているんです。」
(ノラブロ)

ランバードがついにキレた。

「テメー!
ふざけんなよ!
人の傷口に塩塗るようなマネしやがって!
何のつもりなんだよコラ!」(ランバード)

そう言って、ノラブロの胸ぐらをつかんだ。
さすがにバグビートとアイアンが止めに入った。

「ゲホッゲホッ…
いや、大丈夫です、仕方がないと思うんですよ、
皆さんには見えないんだから。
でも、俺には見えてしまうんです。
ここにはペンタさんがいるんです。
ずっと、ここで待ちぼうけをしてるんですよ、
あの日以来。
もう、十一年もここで。
時間の感覚を失ってますから、
彼にとってはまだ昨日のこと、いや、少し前の話
ってことになってるんでしょうけどね。」(ノラブロ)

ペンタが眠りについたのは十一年前の
ちょうど今頃、極夜の下でネオンのブルーが
照らしていた。

ノラブロの話を聞いて、ランバードは更に暴れ出した。
それをバグビートとアイアンは必死に抑えている。
アンディは冷静に質問した。

「ペンタがいると言うのは、
霊(たましい)がここにいると言う意味なのか?」
(アンディ)

「ええ、正式には生き霊ですね。
ペンタさんは生きている。
どうか聞いてください、アイアンさんと
ランバードさん。
ペンタさんは、あなたたちに感謝している、
そしてあなたたちに対する罪悪感も
抱えているんです。」(ノラブロ)

ランバードは、少し落ち着いた。

「ペンタさんは、ここで見てたんですよ。
皆さんの身に起こったことを。
最初は理解できなかった。
自分が血を流して倒れているのを見て、
夢かと思ったんですよ。
レオさんにも、辛い思いをさせてしまった。

ペンタさんに代わって、お礼を言わせていただきます。
ありがとう、アイアンさんとランバードさん、
お二人がいなかったら、ペンタさんの歩幅は狭かった。
更に、ずっと指輪を見て、
下ばかり向いて歩いていたから、
建物が崩れたことにも気付かなかったんですよ、
あれだけ大きな音がしたのに。
最悪の場合、巨大な瓦礫の下敷きに
なっていたかも知れない。

奇跡だったんですよ。
お二人と会えたからペンタさんは被害の浅い場所に
移動できたし、なおかつすぐに病院に運ばれた。
いつもからかわれていたことが、
ペンタさんの命を救ったんです。
強運の持ち主ですよ。
そして、もうすぐ目を覚ます。」(ノラブロ)

誰からともなく、質問が飛んだ。

「おい、目覚めるってなんだ?
起きるのか?
お前にはわかるのかよ、おい!」(アイアン)

「ペンタさんが目覚めるのには条件があるんです。
アイアンさんとランバードさんへの心残りは、
これで終わりです。
次はレオさんです。」(ノラブロ)

「何よ、速く言って!」(レオ)

「レオさんへの気掛かりは、
レオさんが怒っていないかということです。」
(ノラブロ)

「怒ってないわよ、速く起きなさいよ!」(レオ)

レオの目は必死だった。
自分には見えないペンタの霊に話しかけようと
試みているようだった。

「聞こえてますよ、ペンタさんには、
あなたの声が届いています。
でもね、レオさん、
ペンタさんはこんなことも考えてるんです。
もしも自分がいなかったら、
レオさんは自由になれたのかも知れない。
自分がレオさんを苦しめているのかも…」(ノラブロ)

「何言ってんのよ!
バカなこと言ってないで速く起きろネボスケ!」(レオ)

「もう、大丈夫です。
レオさんの考えはよくわかりました。
これで、レオさんへの心残りもありません。
そして、バグビートさん、
いつもからかってくるあなたが、
ペンタさんのことで必死になっているのを、
ペンタさんは見ていましたよ、ありがとう。」
(ノラブロ)

「おう、もういいけど、それで目覚めたのかよ?」
(バグビート)

「あと一人、アンディさんへの話は長いですよ。」
(ノラブロ)

「いいよ、何でも言ってくれ。」(アンディ)

「あなたへの心残りだけは、消えないかもしれない。」
(ノラブロ)

「いいから速くしろ!」(アンディ)

いつも冷静なアンディが、感情を露にした。

「アンディさんへの話は、
ペンタさんのことではありません。
リリアさんのことです。」(ノラブロ)

アンディは驚き、後ずさりをした。

「リリアさんはねえ、いや、彼女の霊は
いつもアンディさんと一緒にいたんですよ。
何度も離れようとしましたけど、
あなたがそれを許さなかった。

リリアさんには、
ペンタさんに危険が迫っているのがわかったんです。
というか、ペンタさんの人生は本当はとても
危ういものだったんです、
いつ死んでもおかしくなかったんだ、
それくらい霊が弱かった。
だからリリアさんは、寂しがるアンディさんから離れ
ペンタさんのそばにいるしかなかった。
あなたからリリアさんが離れた時、
つまりペンタさんと知り合った頃から、
あなたは埋めようのない寂しさを
心の内に抱えていたはずだ、違いますか?」(ノラブロ)

アンディは、なにも答えなかった。
アンディの目はノラブロをにらんでいるようだった。

「お願いです、アンディさん。
リリアさんの霊を解放してください!
お願いします!
さもなくば、あなたは…」(ノラブロ)

「断る!」(アンディ)

みんなは耳を疑った。

「…アンディさん?」(ノラブロ)

「おい、アンディ!」(バグビート)

「アンディふざけんな!」(ランバード)

「アンディいいい!」(レオ)

「俺はリリアを離さない!
何があっても、俺はずっと、
リリアと一緒に、リリアのそばにいるんだ!
お前に何がわかる?
お前なんかにとやかく言われる筋合いは無い!」
(アンディ)

しばらくの沈黙の後、ノラブロはまた喋り出した。

「綺麗なもんですよ、すごい光です、
すごく輝いています。
復活の光ですからねえ、そりゃあ綺麗なもんだ。」
(ノラブロ)

みんなはノラブロに視線を送った。

「どうしたんですか皆さん?
こんなとこでボーッとしてる場合じゃないでしょ?
復活って言ったじゃないですか?
目覚めたんですよ、ペンタさんが起きたんです。」
(ノラブロ)

「本当なの?
ペンタは…」(レオ)

「速く行って下さい!
速く!」(ノラブロ)

レオとアイアン、ランバード、バグビートの四人は、
遠隔操作でバイクを呼び、空の彼方へと飛んでいった。

私は、見てはいけないアンディの一面を見てしまった。
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