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週刊誌の時の名刺を捨てさせて、春樹はそのまままたデスクに戻る。そしてパソコンを起動させた。すると倫子のプロットが送られてきているのに気がつき、それを開いた。物語は佳境に入っている。
遊郭の中は疑心暗鬼に満ちあふれ、諍いが耐えなくなった。客を取った、とられたという遊女同士の諍いや、客が禿に手を出そうとしていたり、もう荒れ放題だと思う。その中で主人公の遊女は、冷静に殺されている遺体を下男と謎を解き明かしていた。
「……。」
当初、下男と遊女につきあいがあるものなのかと思っていたが、珍しい話ではない。手を出すのは御法度だが、手を出さなければ普通につきあいの出来ることだし、何よりこの下男は衆道なのだ。主人公の遊女に手を出すことはない。
今回はその下男のまぐわいが書かれている。これは誰に聞いたのだろう。弟の栄輝なのか。それとも「三島出版」の田島昌明なのかそれはわからないが、とにかくリアルなものだ。
「編集長。」
「ん?」
プロットを読んでいるところに、加藤絵里子が声をかけてきた。
「田端さん、真木先生に嫌がられたんですよね。」
「あぁ。ちょっと駄目だったみたいだ。」
「……あの。私、担当しても良いですよ。」
その言葉に思わず絵里子をみた。
「加藤さんは担当大丈夫なの?」
「前から真木先生の本はずっと読んでましたし、気になってました。もう少しミステリー要素を強くして欲しいとも思っていたし。」
「言える?」
「駄目なら仕方ないですよ。でも、駄目とは言わせません。」
「強気だね。頼もしい。」
最初、絵里子はミステリーに官能部分を入れるのを拒否していた。そんなものが無くても、ミステリーで読ませて欲しいと思っていたのだろう。だから半分は恋愛小説だという真木孝弘の小説は、拒絶していたところがあるがやはり男の存在は絵里子に良い影響を与えていた。
「明日、もう一度真木先生のところへ行くから、加藤さんも一緒にいこうか。」
「お願いします。」
絵里子はそういって自分のデスクに戻っていく。そのときオフィスに一人の男が入ってきた。それは新たに田島政近と倫子の合作の漫画を担当する男で、浜田とは違い春樹よりも年上の男だった。
「藤枝編集長。」
「どうしました?」
「田島先生が、藤枝編集長に頼みたいことがあると言ってきてですね。今、底にいるんですけど時間とれます?」
「えぇ。良いですよ。」
そういって春樹はパソコンをスリープにすると、オフィスを出ていく。するとその入り口に政近の姿があった。相変わらず派手な出で立ちだ。耳にも口元にもピアスがあり、破れたジーパンはどこをどう見てもパンクロッカーだった。
「忙しいのに悪いですね。」
「いいえ。どうしました。」
「頼みたいことがあるんですよ。今日の夜、仕事何時に終わりそうですか。」
「少し定時からは過ぎそうですけどね。十九時には終わると思います。」
「わかった。だったら、十九時に下で待ってます。倫子も一緒ですよ。」
「り……小泉先生ですか?」
驚いたように、担当の男が政近を見る。確かに合作で作品を作ってくれているが、その口調はまるで恋人か夫婦のようだと思ったからだ。
「じゃ、よろしく。」
政近はそういってエレベーターの方へ向かっていく。その様子に、担当の男が春樹に聞いてきた。
「つきあってるみたいですね。」
「そんな話は聞いてませんけど。」
「年頃も一緒でしょう。良いんじゃないんですか。小泉先生もあんな感じだし、似たもの同士がくっつくんでしょうね。」
のんきに男が言うのを聞いて、春樹は複雑そうにため息をついた。
仕事を終えて一階にやってくると喫煙スペースに、倫子と政近の姿があった。その様子に春樹は少し複雑な気持ちを抑えきれない。本当に恋人同士のように見えたから。
いいや、つきあっているのは自分なのだ。倫子を政近に渡すつもりはない。そう思いながら喫煙スペースに向かう。
「何だよ。お前、チョコレートとか用意してねぇの?」
「何のために?バレンタインデーなんか、菓子屋の策略じゃない。」
「っていってもよぉ。こんなのは気持ちだろ?」
「あ。藤枝さんが来たわ。」
そういって倫子は煙草を手にしたまま、手を挙げる。すると春樹も喫煙所にやってきて、少し笑った。
「急にどうしたの?」
「飯をおごってやるから、つきあって欲しいところがあるんですよ。」
「食事?」
すると倫子も煙を吐き出して、春樹を見上げる。
「後で伊織も合流するわ。泉は礼二のところへ行くんでしょうから。」
泉もこういう行事を大事にしているのだろう。何をあげたらいいのか悩んでいたくらいだ。相談されたように、あのブドウジュースをプレゼントしたのかもしれない。
「どこへ行くんですか。」
春樹も煙草を取り出して、それをくわえながら政近に聞く。
「古着屋。」
「古着?」
「作品に刑事の役を出すって言ってたじゃん。」
「あぁ。一昔前のスーツを着こなした、背の高い男という設定でしたね。」
自分で言って春樹は驚いたように政近を見る。
「俺?」
「そうですよ。」
「コスプレなんかをして欲しいと?」
「そうしないとイメージがわかないんですよ。体型とか、ぴったりだと思うし。」
思わず頭を抱えた。大学の時の大学祭で、そういうことをしたことがあるがまさかこの歳になってするとは思ってなかった。
「倫子もそれを見たいと?」
思わず小泉先生と言えなかった。それくらい動揺していたのだ。
「そうね。隙のない刑事って設定だし、真っ先に春樹を思いだしたのよ。別にそれを来て表を歩く訳じゃないんだから良いと思うけど。」
「ハロウィンじゃないのに。」
普段からハロウィンのような格好をしているのに、他人に強制すると思ってなかった。倫子もそれを望んでいるのだろうか。
「良いじゃん。スーツだし、別に変な格好する訳じゃないだろう?」
「あっちの方のスーツは、この国のスーツとは全く違う。それに時代も違えば、形も全く違う。」
「素人が見てもわからないですよ。な?」
この強引さで、コスプレをさせられたのだ。倫子はため息をつくと、春樹を見上げる。
「あきらめて着せ替え人形になってくれる?」
すると春樹は頭を抱えて、恨めしそうに二人をみた。手段を選ばないのは仕方ないが、ここまでとは思っていなかったからだ。
遊郭の中は疑心暗鬼に満ちあふれ、諍いが耐えなくなった。客を取った、とられたという遊女同士の諍いや、客が禿に手を出そうとしていたり、もう荒れ放題だと思う。その中で主人公の遊女は、冷静に殺されている遺体を下男と謎を解き明かしていた。
「……。」
当初、下男と遊女につきあいがあるものなのかと思っていたが、珍しい話ではない。手を出すのは御法度だが、手を出さなければ普通につきあいの出来ることだし、何よりこの下男は衆道なのだ。主人公の遊女に手を出すことはない。
今回はその下男のまぐわいが書かれている。これは誰に聞いたのだろう。弟の栄輝なのか。それとも「三島出版」の田島昌明なのかそれはわからないが、とにかくリアルなものだ。
「編集長。」
「ん?」
プロットを読んでいるところに、加藤絵里子が声をかけてきた。
「田端さん、真木先生に嫌がられたんですよね。」
「あぁ。ちょっと駄目だったみたいだ。」
「……あの。私、担当しても良いですよ。」
その言葉に思わず絵里子をみた。
「加藤さんは担当大丈夫なの?」
「前から真木先生の本はずっと読んでましたし、気になってました。もう少しミステリー要素を強くして欲しいとも思っていたし。」
「言える?」
「駄目なら仕方ないですよ。でも、駄目とは言わせません。」
「強気だね。頼もしい。」
最初、絵里子はミステリーに官能部分を入れるのを拒否していた。そんなものが無くても、ミステリーで読ませて欲しいと思っていたのだろう。だから半分は恋愛小説だという真木孝弘の小説は、拒絶していたところがあるがやはり男の存在は絵里子に良い影響を与えていた。
「明日、もう一度真木先生のところへ行くから、加藤さんも一緒にいこうか。」
「お願いします。」
絵里子はそういって自分のデスクに戻っていく。そのときオフィスに一人の男が入ってきた。それは新たに田島政近と倫子の合作の漫画を担当する男で、浜田とは違い春樹よりも年上の男だった。
「藤枝編集長。」
「どうしました?」
「田島先生が、藤枝編集長に頼みたいことがあると言ってきてですね。今、底にいるんですけど時間とれます?」
「えぇ。良いですよ。」
そういって春樹はパソコンをスリープにすると、オフィスを出ていく。するとその入り口に政近の姿があった。相変わらず派手な出で立ちだ。耳にも口元にもピアスがあり、破れたジーパンはどこをどう見てもパンクロッカーだった。
「忙しいのに悪いですね。」
「いいえ。どうしました。」
「頼みたいことがあるんですよ。今日の夜、仕事何時に終わりそうですか。」
「少し定時からは過ぎそうですけどね。十九時には終わると思います。」
「わかった。だったら、十九時に下で待ってます。倫子も一緒ですよ。」
「り……小泉先生ですか?」
驚いたように、担当の男が政近を見る。確かに合作で作品を作ってくれているが、その口調はまるで恋人か夫婦のようだと思ったからだ。
「じゃ、よろしく。」
政近はそういってエレベーターの方へ向かっていく。その様子に、担当の男が春樹に聞いてきた。
「つきあってるみたいですね。」
「そんな話は聞いてませんけど。」
「年頃も一緒でしょう。良いんじゃないんですか。小泉先生もあんな感じだし、似たもの同士がくっつくんでしょうね。」
のんきに男が言うのを聞いて、春樹は複雑そうにため息をついた。
仕事を終えて一階にやってくると喫煙スペースに、倫子と政近の姿があった。その様子に春樹は少し複雑な気持ちを抑えきれない。本当に恋人同士のように見えたから。
いいや、つきあっているのは自分なのだ。倫子を政近に渡すつもりはない。そう思いながら喫煙スペースに向かう。
「何だよ。お前、チョコレートとか用意してねぇの?」
「何のために?バレンタインデーなんか、菓子屋の策略じゃない。」
「っていってもよぉ。こんなのは気持ちだろ?」
「あ。藤枝さんが来たわ。」
そういって倫子は煙草を手にしたまま、手を挙げる。すると春樹も喫煙所にやってきて、少し笑った。
「急にどうしたの?」
「飯をおごってやるから、つきあって欲しいところがあるんですよ。」
「食事?」
すると倫子も煙を吐き出して、春樹を見上げる。
「後で伊織も合流するわ。泉は礼二のところへ行くんでしょうから。」
泉もこういう行事を大事にしているのだろう。何をあげたらいいのか悩んでいたくらいだ。相談されたように、あのブドウジュースをプレゼントしたのかもしれない。
「どこへ行くんですか。」
春樹も煙草を取り出して、それをくわえながら政近に聞く。
「古着屋。」
「古着?」
「作品に刑事の役を出すって言ってたじゃん。」
「あぁ。一昔前のスーツを着こなした、背の高い男という設定でしたね。」
自分で言って春樹は驚いたように政近を見る。
「俺?」
「そうですよ。」
「コスプレなんかをして欲しいと?」
「そうしないとイメージがわかないんですよ。体型とか、ぴったりだと思うし。」
思わず頭を抱えた。大学の時の大学祭で、そういうことをしたことがあるがまさかこの歳になってするとは思ってなかった。
「倫子もそれを見たいと?」
思わず小泉先生と言えなかった。それくらい動揺していたのだ。
「そうね。隙のない刑事って設定だし、真っ先に春樹を思いだしたのよ。別にそれを来て表を歩く訳じゃないんだから良いと思うけど。」
「ハロウィンじゃないのに。」
普段からハロウィンのような格好をしているのに、他人に強制すると思ってなかった。倫子もそれを望んでいるのだろうか。
「良いじゃん。スーツだし、別に変な格好する訳じゃないだろう?」
「あっちの方のスーツは、この国のスーツとは全く違う。それに時代も違えば、形も全く違う。」
「素人が見てもわからないですよ。な?」
この強引さで、コスプレをさせられたのだ。倫子はため息をつくと、春樹を見上げる。
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