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素直
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少しすると、春樹がやってくる。春樹の手には仕事用のバッグとは別に大きく膨らんだバッグがあった。そこには奥さんの下着や着替え、タオルなんかがあるのだ。意識がないならせめて綺麗な衣服に身を包ませたいという春樹の願いからの行動だった。
予約していたイタリアンレストランへやってきたときも、春樹はそれを預けてテーブルにつく。倫子の隣に座り、自分の向かいには伊織とその隣には泉がいる。いつもとは席が違うのは、外だからせめて隣に座らせたいという倫子の気持ちだと思った。
「イタリアンねぇ。俺、あまり来たことが無くてさ。」
伊織はそう言ってメニューを見る。イタリアの料理は土地によってメニューが違う。チーズをよく食べる北部と、海鮮が主の南部がごちゃ混ぜになったとようなメニューだった。
「バジリコ風味ののサラダねぇ。バジリコって何?」
泉に聞くが、泉は少しぼんやりしているようにメニューを見ていた。泉にもあまり馴染みがないのかもしれない。
「イタリアのハーブだね。しその仲間だよ。」
春樹がそう言うと、伊織は納得したようにそれを見ていた。
「食べてみる?あなた、外国に居た割にはあまり食べたことはないの?」
倫子が不思議そうに聞くと、伊織は少し笑って言う。
「んー。こっちの国にいたときは小さかったし、あまり覚えていないな。」
それよりも人間関係が大変だった。レストラン一つ行くにしても、土地のものではない伊織たちは席を決められたりしたり、ウェイターが明らかに無視をすることも珍しくなかったのだ。
差別だと思っていたが、事情は違うらしい。観光客のマナーが悪すぎて、ウェイターもうんざりしていたのだ。
「小さい頃からしそなんかは食べないわよね。ずっとそこで育つんならともかく。」
「同感。この国に居て育ったからと言って、みんながわさびを食べれる訳じゃないのと同じだ。」
春樹と倫子がそう言っているが、泉はまだメニューを見たまま黙ったままだった。だがその目線はメニューの文字を追っていない。何か難しいことがあったのだろうか。
「コースにした方がいろいろ食べれるよ。それに安くなるから。」
春樹が気を使って言う。すると倫子は他の二人を見ていった。
「それでいい?」
「別にかまわないよ。デザートも付いてくるんだね。」
あまり凝ったデザートではないが、主食となるピザやパスタでおなか一杯になりそうだ。
「それからワインを飲もうか。」
春樹が言うのを聞いて少しほっとした。春樹は酒が入ると倫子を抱こうとはしない。酒が入ると立たないこともあるらしい。
「ワインはよくわからないわ。」
「俺も詳しくはないよ。ウェイターに合うものを選んでもらえばいいかと思ってたし……と、泉さんは飲まないんだっけな。」
急に話を降られて泉はふと春樹の方を見る。
「お酒飲めないから。」
その言葉に倫子は少し笑った。
「そうね。泉は一度お酒を勧められて、足が立たなかったらしくて抱えられて帰ってきたわ。」
「どれだけ飲んだんだよ。」
バカにしたような伊織の言葉に泉は頬を膨らませた。
「そんなに飲んでないわ。ジュースみたいだからって、ビールとトマトジュースを割ったヤツを一杯飲んだの。」
「レッドアイってヤツだね。苦みが押さえられて、飲みやすくなるんだ。」
そんな飲み方もあるのか。亜美のバーテンダーのコンテストの試飲につき合ってカクテルを相当飲んだことはあるが、普段亜美の店に行くときはウィスキーばかりだったので、今度頼んでみようと思っていた。
ウェイターにメニューを頼み、春樹はグラスの水を口に入れる。仕事場ではコーヒーを入れていたが、ほとんど口にすることはなかった。なので喉はからからだ。それを口に入れると、すっと喉が潤う。
「そう言えば、ここに来る前に倫子はまた田島に話しかけられていたね。」
その言葉に倫子は不機嫌そうに唇を尖らせた。
「ごめんね。三人とも。」
「え?」
素直に謝る倫子の姿に、思わず泉が倫子の方を見る。
「何を謝るの?」
「誤解させたわ。」
何もなかったと入っても二人で一つの部屋で、しかも布団の中で寝ていたのだ。朝から誤解をさせた、その弁解のためにここにやってきたのだから。
「何もなかったんでしょう?」
泉がそう聞くと、倫子は深くうなづいた。
しかし朝はなかったと言っても、昼は違う。
政近がスケッチブックを見せようと倫子を自分の側に呼んだ。そして倫子がその隣に座り、スケッチブックに書いている舞台の学校の背景を見ていたそのときだった。
不意に政近が倫子の唇にキスをしたのだ。あまりのことで、倫子は体をよける隙を与えられない。そのままま唇を重ねられた。
「だったら別に良いわよ。まぁ……あったとしても私たちが言うことじゃないわ。」
その言葉に伊織は少し違和感を感じた。
「結構冷たいね。前も思ってたけど、泉は倫子の男関係ってあまり口を出さないよね。」
ちらっと春樹を見た。春樹のことだけは不倫だからと止めていた節があるが、伊織がまだ泉とつき合う前は一緒の部屋にいても全く何も言わない。あまり気にしないのかもしれないと思っていたが、それはどうも違う。倫子に関心がないようにもとれた。
「言ったって止めないもの。言うの飽きちゃった。」
泉らしい。だから泉は指導する立場には馴れないのだろう。
「失礼します。ワインです。」
ウェイターがワインのラベルを見せる。だがそのラベルを見てもわからない。春樹は少し笑って、グラスに注がれる赤い液体を見ていた。
「……いつか、春樹さんが買ってきたワインの方が美味しい感じがするわ。」
倫子はそう言ってそのワイングラスを離す。
「あれば国産だよ。ワインのランクとしてはこっちの方が上だけどね。」
「ようはこの国の人の舌に合うかどうかってだけだよ。」
赤いワインの色とは違って、泉のグラスにはオレンジジュースの黄色の液体だった。それが自分は「子供」だと言われているようでやるせない。
もし倫子が礼二にキスをされても、何も思わないのだろうか。それが大人ということなのだろうかと不安になる。
「私も飲んでみたいわ。」
泉がそう言ってサラダを持ってきたウェイターにグラスを頼む。その言葉に、倫子は首を横に振った。
「やめておきなさいよ。飲めないんだから。」
「でも気になるのよ。」
「いつかもらったパウンドケーキで顔が真っ赤になってたんだから、無理をしなくても良いわ。」
それが子供扱いをしているようだ。むっとする。
「少しなら大丈夫よ。」
何がそこまで意地にさせているのだろう。春樹はそう思ったが、倫子の方を見て少しため息をつく。
「倫子さん。これを泉さんに頼んであげればいいよ。」
ドリンクメニューを取り出して、倫子にそれを指さす。
「ロゼ?」
「このワインは結構渋いからね。ロゼだと甘いし、飲みやすいと思うよ。」
春樹はこう言うところがうまいと思う。どちらの意見も通して、どちらのことも聞いた。
「でも泉。少しでもおかしいと思ったらもう飲まないのよ。」
「わかってる。」
ウェイターにグラスのロゼを頼むと、倫子はまたワインを口に入れた。きっと泉も何かあったのだろう。意地になるときは、すぐに行動にでるから。
予約していたイタリアンレストランへやってきたときも、春樹はそれを預けてテーブルにつく。倫子の隣に座り、自分の向かいには伊織とその隣には泉がいる。いつもとは席が違うのは、外だからせめて隣に座らせたいという倫子の気持ちだと思った。
「イタリアンねぇ。俺、あまり来たことが無くてさ。」
伊織はそう言ってメニューを見る。イタリアの料理は土地によってメニューが違う。チーズをよく食べる北部と、海鮮が主の南部がごちゃ混ぜになったとようなメニューだった。
「バジリコ風味ののサラダねぇ。バジリコって何?」
泉に聞くが、泉は少しぼんやりしているようにメニューを見ていた。泉にもあまり馴染みがないのかもしれない。
「イタリアのハーブだね。しその仲間だよ。」
春樹がそう言うと、伊織は納得したようにそれを見ていた。
「食べてみる?あなた、外国に居た割にはあまり食べたことはないの?」
倫子が不思議そうに聞くと、伊織は少し笑って言う。
「んー。こっちの国にいたときは小さかったし、あまり覚えていないな。」
それよりも人間関係が大変だった。レストラン一つ行くにしても、土地のものではない伊織たちは席を決められたりしたり、ウェイターが明らかに無視をすることも珍しくなかったのだ。
差別だと思っていたが、事情は違うらしい。観光客のマナーが悪すぎて、ウェイターもうんざりしていたのだ。
「小さい頃からしそなんかは食べないわよね。ずっとそこで育つんならともかく。」
「同感。この国に居て育ったからと言って、みんながわさびを食べれる訳じゃないのと同じだ。」
春樹と倫子がそう言っているが、泉はまだメニューを見たまま黙ったままだった。だがその目線はメニューの文字を追っていない。何か難しいことがあったのだろうか。
「コースにした方がいろいろ食べれるよ。それに安くなるから。」
春樹が気を使って言う。すると倫子は他の二人を見ていった。
「それでいい?」
「別にかまわないよ。デザートも付いてくるんだね。」
あまり凝ったデザートではないが、主食となるピザやパスタでおなか一杯になりそうだ。
「それからワインを飲もうか。」
春樹が言うのを聞いて少しほっとした。春樹は酒が入ると倫子を抱こうとはしない。酒が入ると立たないこともあるらしい。
「ワインはよくわからないわ。」
「俺も詳しくはないよ。ウェイターに合うものを選んでもらえばいいかと思ってたし……と、泉さんは飲まないんだっけな。」
急に話を降られて泉はふと春樹の方を見る。
「お酒飲めないから。」
その言葉に倫子は少し笑った。
「そうね。泉は一度お酒を勧められて、足が立たなかったらしくて抱えられて帰ってきたわ。」
「どれだけ飲んだんだよ。」
バカにしたような伊織の言葉に泉は頬を膨らませた。
「そんなに飲んでないわ。ジュースみたいだからって、ビールとトマトジュースを割ったヤツを一杯飲んだの。」
「レッドアイってヤツだね。苦みが押さえられて、飲みやすくなるんだ。」
そんな飲み方もあるのか。亜美のバーテンダーのコンテストの試飲につき合ってカクテルを相当飲んだことはあるが、普段亜美の店に行くときはウィスキーばかりだったので、今度頼んでみようと思っていた。
ウェイターにメニューを頼み、春樹はグラスの水を口に入れる。仕事場ではコーヒーを入れていたが、ほとんど口にすることはなかった。なので喉はからからだ。それを口に入れると、すっと喉が潤う。
「そう言えば、ここに来る前に倫子はまた田島に話しかけられていたね。」
その言葉に倫子は不機嫌そうに唇を尖らせた。
「ごめんね。三人とも。」
「え?」
素直に謝る倫子の姿に、思わず泉が倫子の方を見る。
「何を謝るの?」
「誤解させたわ。」
何もなかったと入っても二人で一つの部屋で、しかも布団の中で寝ていたのだ。朝から誤解をさせた、その弁解のためにここにやってきたのだから。
「何もなかったんでしょう?」
泉がそう聞くと、倫子は深くうなづいた。
しかし朝はなかったと言っても、昼は違う。
政近がスケッチブックを見せようと倫子を自分の側に呼んだ。そして倫子がその隣に座り、スケッチブックに書いている舞台の学校の背景を見ていたそのときだった。
不意に政近が倫子の唇にキスをしたのだ。あまりのことで、倫子は体をよける隙を与えられない。そのままま唇を重ねられた。
「だったら別に良いわよ。まぁ……あったとしても私たちが言うことじゃないわ。」
その言葉に伊織は少し違和感を感じた。
「結構冷たいね。前も思ってたけど、泉は倫子の男関係ってあまり口を出さないよね。」
ちらっと春樹を見た。春樹のことだけは不倫だからと止めていた節があるが、伊織がまだ泉とつき合う前は一緒の部屋にいても全く何も言わない。あまり気にしないのかもしれないと思っていたが、それはどうも違う。倫子に関心がないようにもとれた。
「言ったって止めないもの。言うの飽きちゃった。」
泉らしい。だから泉は指導する立場には馴れないのだろう。
「失礼します。ワインです。」
ウェイターがワインのラベルを見せる。だがそのラベルを見てもわからない。春樹は少し笑って、グラスに注がれる赤い液体を見ていた。
「……いつか、春樹さんが買ってきたワインの方が美味しい感じがするわ。」
倫子はそう言ってそのワイングラスを離す。
「あれば国産だよ。ワインのランクとしてはこっちの方が上だけどね。」
「ようはこの国の人の舌に合うかどうかってだけだよ。」
赤いワインの色とは違って、泉のグラスにはオレンジジュースの黄色の液体だった。それが自分は「子供」だと言われているようでやるせない。
もし倫子が礼二にキスをされても、何も思わないのだろうか。それが大人ということなのだろうかと不安になる。
「私も飲んでみたいわ。」
泉がそう言ってサラダを持ってきたウェイターにグラスを頼む。その言葉に、倫子は首を横に振った。
「やめておきなさいよ。飲めないんだから。」
「でも気になるのよ。」
「いつかもらったパウンドケーキで顔が真っ赤になってたんだから、無理をしなくても良いわ。」
それが子供扱いをしているようだ。むっとする。
「少しなら大丈夫よ。」
何がそこまで意地にさせているのだろう。春樹はそう思ったが、倫子の方を見て少しため息をつく。
「倫子さん。これを泉さんに頼んであげればいいよ。」
ドリンクメニューを取り出して、倫子にそれを指さす。
「ロゼ?」
「このワインは結構渋いからね。ロゼだと甘いし、飲みやすいと思うよ。」
春樹はこう言うところがうまいと思う。どちらの意見も通して、どちらのことも聞いた。
「でも泉。少しでもおかしいと思ったらもう飲まないのよ。」
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