守るべきモノ

神崎

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逢引

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 スーパーで買い物をして、そのままシャワーを浴びる。普段は涼しいオフィスにいるのだ。こんなに歩くことも、汗をかくこともあまりない。
 二の腕を見ると、やはり少し灼けたようだ。赤くなっている。顔もきっと灼けているのだろう。倫子は帽子をかぶったり長袖を着ていたので肌の露出はそこまでなかった。だからきっと白いままだ。
 そう思いながら春樹はシャワーのお湯を止めると、脱衣所で体を拭く。そして部屋着に着替えると、居間へ向かった。すると倫子が珍しく居間で仕事をしていた。
「どんな話になりそう?」
「キャラクターは既存のものがあるの。だから、学校か島自体でクローズド・サークルと思っていたのだけれど、今日学校へ行ってみて確信したわ。学校にする。」
 そのために紙にそのプロットをたてている。もう春樹のことなど全く何も見ていないのかもしれない。
「あぁ……それから、今日、伊織から連絡があって、少し今日は遅くなるそうなの。」
「食事は?」
「帰ってきて食べるみたいだけどね。」
 時計を見ると、もう夕方を指している。明日から仕事だ。そして倫子とは離れるのだ。わかっているのにこの時間がもったいない。
「出来た。」
 煙草を消して、倫子はその紙を手にする。
「このまま編集部に送ろう。」
 そのとき春樹の携帯電話がなった。そのたびに春樹の手がふるえているのがわかる。病院からかもしれないと思うのだろう。
「もしもし……あぁ。池上先生。えぇ。拝見いたしました。ありがとうございます。昨日校了でして、サンプルが出来たら遅らせていただきます……。え?あ、はい。三作品目で……。」
 今回の雑誌は、トップページは荒田夕のものだ。そしてその次が倫子のもの。池上という作家は古参の作家になり、本来ならトップページに来るものなのだが、やはり倫子や夕のものに比べると勢いはない。
 池上と話をしている間倫子は、自分の部屋に戻る。そしてパソコンを起動させていた。このままスキャンして、編集部に送るつもりなのだ。その間、居間へ向かうと春樹はもう電話を終えてテレビをつけようとしていた。もう夕方のニュースが始まるのだ。
「何かニュースがある?」
「そうだね。明日は晴れるかなと思って。」
「いい天気だったわ。今日は。」
 ふと見ると、電子書籍の話題をしている。どうやら海賊版が出回っているらしい。
「海賊版か……古本屋以上に、俺らの敵だな。」
「私にとってもよ。お金くらい払って本を楽しんだらいいのに。」
「電子書籍か。手軽だけどね。」
「あ……そういえば……ちょっと春樹さん。私の部屋に来てくれないかしら。」
 そういって倫子は、席を立つ。春樹もテレビを消すと、倫子の部屋へ向かった。

 パソコンが起動していて、倫子はスキャナーにも電源を入れる。そしてそれを読み込ませている間、いつも使っているバッグから電子書籍リーダーを取り出す。
「それ、持ってたんだ。」
「紙は好きなんだけど、この部屋が本だらけになるから。」
 そういって倫子はそれを起動させて、本を選んだ。それは倫子の書いたもので、春樹が担当している作品だった。
「このページ、脱字してる。」
「え?あぁ……本当だね。明日、会社で修正するように言っておこう。」
「それからここも……。」
 そういって倫子がスライドさせる指をみる。その手の甲には、入れ墨があった。ここだけは隠せなかったようで、島へ行ったときも手袋かと思われたくらいだ。
「聞いてる?」
「あぁ。何ページだったかな。」
 携帯電話のメモ機能で、春樹はそのページを確認する。
「でもまぁ……もしかしたらアップデートしてる可能性はある。そうすれば、脱字とかはそのとき修正してるよ。」
「あら?そうなの。ダウンロードしてそのままだったわ。それならいいんだけど。」
 電子書籍リーダーをテーブルに置くと、倫子はパソコンにまた向かう。そして手早くメッセージを送ると、その添え付けしてあるデーターを会社に送った。
「今日はありがとう。」
 倫子はパソコンを見たまま、春樹に言う。
「え?」
「図書館……。行ったときのこと、おかしいと思ったでしょう?」
 あの島で、廃校になった学校へ行ったときのことだった。
 倫子は学校の外から見える図書館を見て、顔色を悪くしたのだ。それは、倫子が熱中症にでもなったのかと思ったのだ。だが実状は違う。
「訳、言える?」
「まだ……言えない。」
 言えるほどまだお互い知り合っていない。春樹は立ち上がると、パソコンをシャットダウンした倫子の体を後ろから抱きしめる。
「春樹……。」
「ずっと今日、こうしたかったんだ。」
「……伊織が帰ってくるわ。」
「まだ時間あるだろう?」
 倫子は少しうつむくと、春樹の方を振り向いた。それを合図のように、春樹も倫子の方をのぞき込む。
 唇が軽く触れる。それがきっかけだった。倫子は春樹の方を振り向いて、そして春樹も倫子を引き寄せる。倫子の手が春樹の首に回り、春樹も倫子の首を支えた。そして口を割って舌を絡める。
「ん……。」
 唇を離すのが惜しい。それくらいいったん離してもまた重ねてくる。お互いがお互いを求めていた。
「どきどきしてる。」
「俺が?君もこんなに熱いよ。風邪をひいてるみたいに熱い。」
「外でこんなこと出来ないもの。」
 やはり気にしていたのだ。一緒に住んでいても、公にキスも満足に出来ない間柄なのだから。
「あんなところで、知り合いなんかに会うからさらに警戒したわ。」
「荒田先生?」
「あの人、イヤなのよ。ずっと敵対心燃やしてて。あなたとジャンルは全く違うわってずっと言いたかったのに。」
 ラブストーリーよりの荒田夕の作品に対して、ホラーとも言えるような倫子の作品は同じミステリーなのに全く違う。
「もうやめようか。」
「え?」
 倫子はその胸に抱かれたまま、春樹を見上げる。
「荒田先生のことを言うの。」
「あぁ……そっち?」
「どっちだと思った?」
 すると倫子はどんとその胸を叩く。
「言わせないで。」
 可愛く抵抗した倫子に、また春樹は唇を重ねる。舌を絡めながら、そのシャツの下から手を入れた。
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