守るべきモノ

神崎

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進展

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 食事を終えるとお風呂をためている間、倫子はテレビをつける。歌番組や漫才などにはあまり興味がない。ニュースをしていてそこに切り替えると、二人はそれをみる。ニュースはインターネットなどで見ればもっと早いが、画像を見たいと思っていたのだろう。
 ニュースでは外国でロケットが宇宙へ発射したと伝えている。
「地球のこともわからないのに、どうして宇宙へ行こうと思うのかしら。」
 すると伊織は麦茶を飲みながら、少し笑った。倫子らしいと思ったからだ。
「わからないから、行くんじゃないのかな。」
「行くことで地球のことがわかるの?」
「離れてみるとわかることもあるよ。」
 そんなものかな。そのとき伊織の携帯電話がメッセージが来たと鳴った。それを手にすると、伊織は少し笑う。
「倫子は、お盆はどうするの?」
「一応、実家に帰らなきゃね。甥っ子が今年生まれたし、お祝いもあげないと。」
「うちも初盆だから。」
「そうだったわね。そっちの家族がいろいろしてくれるの?」
「母の実家だから。母の兄弟がするんじゃないのかな。この家、誰も居なくなるのかな。」
「うちは近いから日帰りで帰るわ。仕事もあるし。」
 出版社もお盆は休みを取るのだろう。だから週刊で出ている雑誌は合併号になるのだ。きっと春樹も実家に帰ったりするのだろう。会うことはない。
 そして次のニュースになり、伊織の表情が変わった。
 それは女子高生が妊娠していることを臨月まで隠し、駅のトイレで嬰児を産んでそのまま放置したというニュースだった。嬰児は奇跡的に助かったが、女子高生は罪に問われるのだという。
「最近の高校生って進んでるのね。援交をしていたみたいだから、父親も誰かわからないって。」
 小説のネタになりそうな話題だ。倫子はそう思いながら、棚にあるメモ紙とボールペンと手にすると、そのニュースを書き出した。どんな罪に問われるのか、その子供はどうなるのか、想像は膨らむ。だがそのペンが止まった。伊織の顔色が悪いからだ。
「伊織?」
「……何でもないよ。お風呂溜まったかな。」
 そう言って伊織は席を立つと、風呂場へ向かった。何かあったのかもしれないが、それを聞くほど親しいわけではない。倫子はそう思いながら、またメモを取る。
「ただいま。」
 声をかけられて振り返ると、そこには泉の姿があった。
「お帰り。あら。もうそんな時間だったかな。」
「そんな時間だよ。あー。疲れた。それに体がべたべたする。」
「暑いもんね。先にお風呂入る?」
「うーん。先にご飯かな。今日何?」
「天ぷら。」
「この暑いのに天ぷらするの、尊敬するわ。」
 そのとき伊織が風呂場から戻ってきた。
「お風呂溜まってたよ。お、お帰り泉。」
「ただいま。今日ものすごい暑かったのに、天ぷらしたんだって?」
「台所が灼熱地獄だったよ。」
「だろうね。で、コレなんだけど明日の夜にでも食べよう。」
 そう言って泉は手に持っているビニールの袋を伊織に手渡した。
「何?」
「うどん。お客さんが出張からのおみやげだって。」
「たぶん天ぷら余るから、明日それをコレに乗せて食べよう。」
「楽しみー。」
 泉はそう言って自分の部屋に戻ると、荷物を置いた。そして居間に戻ってくると、二人に言う。
「あのさ、二人今度の土曜日って、何かある?」
「俺、今度の土曜日は午前中だけ仕事でさ。」
「私は開けようと思ったら開けられるけど、何?」
「亜美の店がバーベキューするんですって。昼間に、街へ行く途中にある河川敷で。」
「そうなの。今年もするのね。」
「毎年?」
 伊織が聞くと、倫子は少しうなづいた。
「去年は行けなかったし、今年くらいは行こうかな。」
「倫子行くんだ。そういうイベント。」
「人間観察にね。」
 亜美のところのイベントは、どちらかというと合コンのようなものだ。常連客が新規の客を連れてきて、そして客同士で意気投合してそのまま亜美の店へ行くが、そのままどこかへ行ってしまう人も多い。
 倫子はその様子を見て、読み切りを書いたことがある。だから、こういうイベントは見ておきたい。
「だったら俺も行ってみようかな。」
「伊織も?」
「誰もいなかったら気が引けるけど、亜美さんの店って「bell」だろ?」
「そう。」
「うちの会社も常連なんだ。だから会社からも行くっていう人もいるかもしれないし。」
 デザイン事務所は割とオフィスに引きこもっていることも多い。だからそういう出会いは貴重なのだろう。もっとも事務の女の子のようにしょっちゅう合コンをしていれば、話は別だが。
「私は行けないけど、亜美が話をしててって言ってたから。」
「店に来たの?」
「うん。」
「珍しいね。」
 倫子は何もわかっていない。亜美が礼二と寝たことも、礼二の奥さんが亜美の友達だったこと。そしてそれをネタに亜美が礼二を脅していることも、倫子は何も気が付いていないのだ。

 その日の夜。倫子は風呂に入ったあと、またパソコンへ向かって文字のチェックをしていた。誤字はないか、表現がわかりにくいところはないか、そう思いながらチェックをしていた。
 とその時、携帯電話が鳴る。相手は春樹だった。
「もしもし……。はい。どうしました。」
 どうやら近くにいるらしい。少し出て来れないかといってきた。
「明日送る原稿のチェックをしてたんです。……終わりましたけどね。なるべく早く送って別のところの原稿を書かないと……。」
 だが春樹は引き下がらない。倫子は少しため息を付くと、それを承諾する。
「わかりました。行きますよ。コンビニで良いですか。」
 電話を切ると、倫子は携帯電話と煙草をバッグに入れる。そして薄いロングカーディガンを羽織ると、部屋の電気を消した。そして部屋を出ると、急いで家を出ていった。別に二人にこそこそすることではない。だが今は堂々と出来る関係でもない。
 そう思いながら家の鍵を閉めると、コンビニの方へ歩いていった。
 すぐにコンビニに着くと、春樹が灰皿の側で煙草を吸っていた。そして倫子を見ると、少し微笑む。
「お疲れさまです。」
「嬉しいよ。」
「え?」
「来てくれて。」
「来いって言ったじゃないですか。」
 カーディガンを羽織っているが、その下は黒いタンクトップとショートパンツ。部屋の中にいたのをただ出てきただけに見えた。それだけ慌ててやってきたのだろう。
 そのとき、コンビニから一人の男が出てきた。それは伊織だった。二人がいるのを見て、少し驚いたように二人をみる。
「あれ?藤枝さん?」
 伊織が驚いたように春樹をみる。どうしてこんなところにいるのだろうと思ったのだ。
「どうしたんですか。倫子に用事ですか?」
 すると春樹は少しいぶかしげに伊織をみる。一緒に住んでいるからと行って「倫子」と呼び捨てに出来るような仲になったのだと思ったからだ。
「ちょっと渡したい資料があってね。」
「家で良かったのに。あ、そうだ。藤枝さんもアイス食べます?」
「いいや。今日は社用車でね。すぐに会社に戻らないといけないから。」
「そうでしたか。で、倫子も戻る?」
「悪いね。小泉さんはもう少し用事があるから。」
「わかった。アイス、冷蔵庫に入れておくね。」
 伊織はそういってコンビニを離れようとした。そして振り向く。二人が煙草を手に何か話をしている。それを見て、首を傾げた。不自然なことばかりの二人だと思うから。
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