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二年目
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大晦日の日にばたばたしたくなくて家の掃除や、柊さんの家の掃除をして過ごしていた。三十日くらいから柊さんも正月休みに入ったので、一緒にしていたところもあるけれど。
そしてその大晦日の日。台所で薬を飲むと、ソファにおいておいたバッグを手に取った。すると母さんがあくびをしながら、部屋から出てくる。
「おはよう。今日早いのね。」
「うん。ちょっと早く来てほしいって言われてるから。」
「そのまま「虹」に行くの?」
「ううん。いくら何でも早すぎるよ。」
「そうなの。何時くらいに帰る?」
「どうしたの?何かあった?」
「うん。あんたももうすぐ柊さんのところに行くって言ってたから、ここに彼氏を連れてこようと思って。」
「紹介してくれるって事?」
「そうね。いい加減そうした方がいいって言われてね。結婚でもしたらあんたは娘になるわけだし、柊さんだって息子になるのかもしれないしね。」
それは結婚することを言っているのだろうか。思わず顔がほころんできそうになった。
「何にやにやしてんのよ。」
「ううん。何でもない。柊にも連絡しておいた方がいいかな。」
「そうね。柊さんは来られればっていいから。」
私はそう言って部屋を出ていった。母さんも結婚するのか。確か私の父さんとは結婚していなかったって言ってたから、初婚になるわけだ。
うーん。それはそれでめでたいのかもしれない。母さんだって三十代だもんな。三十代で初婚なんて珍しくないだろう。
階段を下りきって、茅さんの部屋の方をちらりとみる。するとそこから柊さんが出てきた。
「全く、良くここまでゴミをため込んでいたものだ。」
「正月は収集車こねぇじゃん。別に今掃除しなくても……。」
「虫が湧くだろうが。ん?桜。」
柊さんは驚いたようにこちらに近づいてきた。
「早いな。もう仕事か?」
「えぇ。今日は十六時までだから。」
「そうか。終わったら行こうと思っていたのだがな。いつ終わるかわからない。」
「掃除?」
「あんなゴミ溜めのところに良く住んでいたものだ。」
呆れたように柊さんは開け放しているドアを見た。そこにはゴミ袋を持った茅さんがいる。
「よう。仕事か?」
「えぇ。良かったね。掃除してもらえて。」
「くそ。だから住んでるところを知られたくなかったんだがな。」
柊さんを私は顔を見合わせながら、少し笑う。そのあと、私は柊さんの袖を引っ張った。
「どうした。」
「今日イベント何時に行く?」
「十八時くらいか。打ち合わせもあるし。何かあるのか?」
「母さんが彼氏を家に連れてくるらしいわ。私を紹介したいって。だから……柊も連れてきてほしいって。」
「ふーん。結婚でもするのか?」
「一緒に住むかもしれないって言ってたけど。」
すると彼は私の頭にぽんと手をのせる。
「わかった。十六時くらいに俺が「窓」まで迎えに行ってやる。」
すると茅さんが私に言う。
「俺も行ってやろうか?」
「何でお前が行くんだ。」
「気になるんだよ。胡桃さんの彼氏って。一応桔梗の元の彼女だし。」
それが一番、意外だった。
藤堂先生と芙蓉さんは言い合いながらもうまくやっているように見えるけれど、先生はどっちかって言うと堅い人だ。母さんのような奔放な人と良く合わせていたと思う。
「案外お母さんもきっちりしてる人だ。ちゃらんぽらんしていたら、一件の店をもてないだろう?」
根底はそうなのかもしれない。
そしてそこは私によく似ていると、柊さんはいつも言う。
さすがに年末だ。大掃除を終えて一仕事を終えた人が、一服しにくるくらいでそんなに忙しいわけでもない。特に奥まっているここには、忙しく年末を歩いている人には見つけにくいのだ。
「えぇ。わかっている。……明日駅へ行くから。」
珍しく葵さんは電話を裏に行かずに、カウンターの中で話している。相手は想像つくけれど。
「すいませんね。手を離してしまって。」
「いいえ。」
淹れ終わったコーヒーをカップに注いで、私はトレーにそれをのせると奥のお客さんに届けた。男女のカップル。何か深刻そうだった。
そう言うときは何もいわずに、コーヒーだけをおいてどこかへすぐ去っていくのだ。
カウンターに戻ると、珍しくカウンター席には誰もいない。常連のお客さんも今日ばかりは実家に帰ったり、子供たちが帰ってきたりと色々忙しいらしい。
「蓮から今年くらいは、お母さんのところへいかないかと言ってきましたよ。」
「そうでしたか。」
「ここも三日までは休みですからね。それに……おそらく生きている彼女に会うのは最後になりそうです。」
「……旦那さんの元へ行くとか。」
「えぇ。まぁ、あの南の島へ行く方が彼女ももっと長生きが出来るかもしれません。だが、コーヒーはもう淹れれないかもしれませんが。」
「そう……やはりそうですか。」
「……あなたにもわかりますか?」
「えぇ。おそらくもう味覚がわからないのではないのかと思うんです。それをカバーするために嗅覚を研ぎ澄まして、コーヒーを淹れているみたいですが……もう私が焙煎したものには手を着けませんから。」
「……彼女が生きながらえているのは、精神力だけです。惨めな人ですよ。結婚していたほとんどの期間を、旦那と離れて暮らしていたのですから。」
旦那というのは、葵さんたちの実の父親のことだろう。
「血の繋がりがないから……葵さんは瑠璃さんに会いたがらないんですか?」
すると葵さんはふと笑って言う。
「いいえ。そう言うことではありませんよ。ただあの人がいると、自分が甘えそうでイヤなんです。」
「別に言いと思いますけど。」
「そうですか?」
「母親に息子が甘えて何が悪いのかわかりませんね。」
すると葵さんは少し笑う。
「まるで母親になった人の言葉ですね。」
「母親になったことはありませんが、母親がいる時期はまだ続いてますよ。」
「確かにそうですね。あなたの母親はまだ若い。これからでしょう。」
母親になった人の言葉というのでドキリとした。確かに数日前に柊さんとしたとき、彼はコンドームをつけなかった。
だけど、きっちり月のものはやってくる。昨日まで痛みがひどかったけれど、今日はだいぶ軽くなった。だけど念のためと、薬は飲んできた。おかげで今日はだいぶましだ。
月のものがくるのだけは、女は損だと思う。
そしてその大晦日の日。台所で薬を飲むと、ソファにおいておいたバッグを手に取った。すると母さんがあくびをしながら、部屋から出てくる。
「おはよう。今日早いのね。」
「うん。ちょっと早く来てほしいって言われてるから。」
「そのまま「虹」に行くの?」
「ううん。いくら何でも早すぎるよ。」
「そうなの。何時くらいに帰る?」
「どうしたの?何かあった?」
「うん。あんたももうすぐ柊さんのところに行くって言ってたから、ここに彼氏を連れてこようと思って。」
「紹介してくれるって事?」
「そうね。いい加減そうした方がいいって言われてね。結婚でもしたらあんたは娘になるわけだし、柊さんだって息子になるのかもしれないしね。」
それは結婚することを言っているのだろうか。思わず顔がほころんできそうになった。
「何にやにやしてんのよ。」
「ううん。何でもない。柊にも連絡しておいた方がいいかな。」
「そうね。柊さんは来られればっていいから。」
私はそう言って部屋を出ていった。母さんも結婚するのか。確か私の父さんとは結婚していなかったって言ってたから、初婚になるわけだ。
うーん。それはそれでめでたいのかもしれない。母さんだって三十代だもんな。三十代で初婚なんて珍しくないだろう。
階段を下りきって、茅さんの部屋の方をちらりとみる。するとそこから柊さんが出てきた。
「全く、良くここまでゴミをため込んでいたものだ。」
「正月は収集車こねぇじゃん。別に今掃除しなくても……。」
「虫が湧くだろうが。ん?桜。」
柊さんは驚いたようにこちらに近づいてきた。
「早いな。もう仕事か?」
「えぇ。今日は十六時までだから。」
「そうか。終わったら行こうと思っていたのだがな。いつ終わるかわからない。」
「掃除?」
「あんなゴミ溜めのところに良く住んでいたものだ。」
呆れたように柊さんは開け放しているドアを見た。そこにはゴミ袋を持った茅さんがいる。
「よう。仕事か?」
「えぇ。良かったね。掃除してもらえて。」
「くそ。だから住んでるところを知られたくなかったんだがな。」
柊さんを私は顔を見合わせながら、少し笑う。そのあと、私は柊さんの袖を引っ張った。
「どうした。」
「今日イベント何時に行く?」
「十八時くらいか。打ち合わせもあるし。何かあるのか?」
「母さんが彼氏を家に連れてくるらしいわ。私を紹介したいって。だから……柊も連れてきてほしいって。」
「ふーん。結婚でもするのか?」
「一緒に住むかもしれないって言ってたけど。」
すると彼は私の頭にぽんと手をのせる。
「わかった。十六時くらいに俺が「窓」まで迎えに行ってやる。」
すると茅さんが私に言う。
「俺も行ってやろうか?」
「何でお前が行くんだ。」
「気になるんだよ。胡桃さんの彼氏って。一応桔梗の元の彼女だし。」
それが一番、意外だった。
藤堂先生と芙蓉さんは言い合いながらもうまくやっているように見えるけれど、先生はどっちかって言うと堅い人だ。母さんのような奔放な人と良く合わせていたと思う。
「案外お母さんもきっちりしてる人だ。ちゃらんぽらんしていたら、一件の店をもてないだろう?」
根底はそうなのかもしれない。
そしてそこは私によく似ていると、柊さんはいつも言う。
さすがに年末だ。大掃除を終えて一仕事を終えた人が、一服しにくるくらいでそんなに忙しいわけでもない。特に奥まっているここには、忙しく年末を歩いている人には見つけにくいのだ。
「えぇ。わかっている。……明日駅へ行くから。」
珍しく葵さんは電話を裏に行かずに、カウンターの中で話している。相手は想像つくけれど。
「すいませんね。手を離してしまって。」
「いいえ。」
淹れ終わったコーヒーをカップに注いで、私はトレーにそれをのせると奥のお客さんに届けた。男女のカップル。何か深刻そうだった。
そう言うときは何もいわずに、コーヒーだけをおいてどこかへすぐ去っていくのだ。
カウンターに戻ると、珍しくカウンター席には誰もいない。常連のお客さんも今日ばかりは実家に帰ったり、子供たちが帰ってきたりと色々忙しいらしい。
「蓮から今年くらいは、お母さんのところへいかないかと言ってきましたよ。」
「そうでしたか。」
「ここも三日までは休みですからね。それに……おそらく生きている彼女に会うのは最後になりそうです。」
「……旦那さんの元へ行くとか。」
「えぇ。まぁ、あの南の島へ行く方が彼女ももっと長生きが出来るかもしれません。だが、コーヒーはもう淹れれないかもしれませんが。」
「そう……やはりそうですか。」
「……あなたにもわかりますか?」
「えぇ。おそらくもう味覚がわからないのではないのかと思うんです。それをカバーするために嗅覚を研ぎ澄まして、コーヒーを淹れているみたいですが……もう私が焙煎したものには手を着けませんから。」
「……彼女が生きながらえているのは、精神力だけです。惨めな人ですよ。結婚していたほとんどの期間を、旦那と離れて暮らしていたのですから。」
旦那というのは、葵さんたちの実の父親のことだろう。
「血の繋がりがないから……葵さんは瑠璃さんに会いたがらないんですか?」
すると葵さんはふと笑って言う。
「いいえ。そう言うことではありませんよ。ただあの人がいると、自分が甘えそうでイヤなんです。」
「別に言いと思いますけど。」
「そうですか?」
「母親に息子が甘えて何が悪いのかわかりませんね。」
すると葵さんは少し笑う。
「まるで母親になった人の言葉ですね。」
「母親になったことはありませんが、母親がいる時期はまだ続いてますよ。」
「確かにそうですね。あなたの母親はまだ若い。これからでしょう。」
母親になった人の言葉というのでドキリとした。確かに数日前に柊さんとしたとき、彼はコンドームをつけなかった。
だけど、きっちり月のものはやってくる。昨日まで痛みがひどかったけれど、今日はだいぶ軽くなった。だけど念のためと、薬は飲んできた。おかげで今日はだいぶましだ。
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