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二年目
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夕方頃、私は久しぶりに「窓」へいった。ずっとcloseだった看板がopenになっていて心が躍る。
ドアを開けると、軽いドアベルの音がした。
「桜ちゃん。久しぶり。」
「やだ。三日ぶりですよ。」
誠さんがカウンター席に座っている。その隣には秋子さんという常連さんもいた。
「本当。無くしてどれだけ存在の大きさがわかるわねぇ。」
カウンターの向こうには葵さんがいる。変わらない笑顔だった。
「そう言ってくれると嬉しいですよ。ますます頑張らなければと思います。」
私はカウンターの中に入り、向こうのドアに入っていった。そしていつもの白いブラウスと、黒いズボン、靴と、ギャルソンエプロンに身を包んだ。髪をまとめて、鏡を見る。よし。いける。
ドアを開けると、コーヒーのいい香りがした。どうやらコーヒーを淹れているらしい。
「いらっしゃいませ。」
私はカウンターをでると、二人組の男性を席に案内する。どうやら何かの打ち合わせらしい。
「すいません。ホットを二つ。」
「ブレンドでよろしいですか。」
「あ、はい。良いよな?」
「うん。」
会社の打ち合わせか何かかと思ったけど何か違うらしい。同僚のような感じ。でも一人はちょっと変な眉毛の形だな。それがちょっと気になるけど。
「ブレンド二つです。」
「はい。ではこちらを三番に。」
チョコレートのパウンドケーキとコーヒーを持って奥の席に行く。そこには女性一人のお客さんが居た。本を読んでいる。
「お待たせしました。」
彼女は少しほほえむと、また本に目を移した。きれいなブックカバーの本といい、若草色のロングスカートといい、きれいなさらさらの髪といい、お嬢様のような人だ。こんなたばこの匂いのする喫茶店とはちょっと似合わない。
「葵。大晦日は、ここ何時まで?」
「十六時までです。なので、桜さんもその日だけは十二時に来て貰おうと思いましてね。大丈夫ですか?」
「えぇ。問題ないです。」
「大掃除するの?この前したじゃん。」
「そうですね。なので、今年はちょっと繁華街の方へいってみようと思ってましてね。」
「珍しいな。葵ってたまーに「虹」とかその辺近辺で見るけど、それ以外でどっか行き付けがあるの?」
「あまりないですね。冒険はしないんです。」
「この間、出来た居酒屋が美味しいよ。」
「そうですか。」
興味なさそうに、彼はコーヒーを淹れていく。
「桜ちゃんは行かねぇか。」
「未成年じゃない。」
「あ、でも今年は大晦日に誘われてます。」
「え?」
その言葉に葵さんも驚いたように私を見た。
「まぁ、大晦日は未成年だからって補導も警官はしねぇよな。繁華街のほう?」
「えぇ。何か、仮装してほしいと。」
「仮装?「虹」で?」
「そうですね。」
「見物だなぁ。俺もちょっと行ってみようかなぁ。」
「でもあそこはちょっと入りにくいよねぇ。行くとゲイじゃないかって思われそうでさ。」
「そんなことはないですよ。普通の人です。」
偏見って怖いなぁ。
「桜ちゃんってそうなの?」
「違いますよ。恋人は男性ですよ。」
すると葵さんはカップを二つ渡してくれた。
「ブレンド二つ。五番です。」
「はい。ありがとう。」
そう言って私はトレーにカップを二つのせて、二人の男性のところへ持って行った。
「お待たせしました。」
すると一人の男性が私をみる。そして携帯をとりだした。
「あの……。」
「はい。」
「あなた、この人ですか?」
そう言って携帯の画面を見せてくれた。そこにあったのは、この間着付けてくれた和服の私の姿。
「……あの場にいたんですか?」
「あ、はい。綺麗だなと思って。」
「ありがとうございます。でも綺麗なのは、梅子さんと松秋さんの腕ですよ。」
「いいえ。あなたも……。」
その男性の頬が赤くなる。参ったなぁ。
「桜さん。」
葵さんから声をかけられて、私は一礼をするとその場を去っていった。
「気をつけてくださいよ。あなたに何かあったら、私が柊に殺されてしまいます。」
「そんなことはしませんよ。」
「でも俄然、興味がわきましたね。大晦日、私も行ってみましょうか。」
「みんな仮装するそうですよ。」
「えぇ。結構ですよ。私も昔はそう言うこともしてましたしね。」
葵さんはそう言って淹れたコーヒーの後片づけを始めた。
その日。仕事を終えて、「窓」を出る。そして大通りに出た。するとそこには茅さんが煙草を吹かして壁にもたれ掛かっている。
「よう。」
「仕事、残業だったの?」
「あぁ。ずっと出れてなかったからな。仕事が溜まってた。使えねぇ事務員ばっか。今度入ってくる奴はどんな奴かわかんねぇけど。」
それだけ行って茅さんは煙草を消した。
「まぁ、俺も来年の春までしかここいねぇし。」
「そうね。」
「あぁ、それから言っておくけど、ここで俺がお前待ってんのは柊に頼まれてんだよ。」
「柊に?」
「あぁ。お前まだいろいろ怖いもんがあると思うからって。でも……俺はそんなのやめた方が良いって言ったんだけどな。」
二人で並んで歩いていく。
「柊は少し過保護なところがあるから。」
「そうだな。少しって言うか、だいぶ過保護だ。」
「責任を感じてるのよ。」
「え?」
「一年前、この道で強姦されそうになった。守ってやるって言ったのに、結果、守ってやれなかったことを。」
すると茅さんは頭を掻いた。
「だからって俺に頼まなくてもいいのになぁ。条件は葵と一緒だけど。」
そう言って彼は私の肩に手を伸ばそうとした。
「やめなさいっての。」
「堅え女。」
その手を振り払い、コンビニの前で私は足を止めた。その様子に気がついたのか、茅さんは私の方を振り返る。
「どうした?」
「ん……何でもない。」
金髪の人が出てきた。だから思わず竹彦かと思ったのだ。だけど武彦とは似ても似つかないふざけた格好のヤンキーだった。
ドアを開けると、軽いドアベルの音がした。
「桜ちゃん。久しぶり。」
「やだ。三日ぶりですよ。」
誠さんがカウンター席に座っている。その隣には秋子さんという常連さんもいた。
「本当。無くしてどれだけ存在の大きさがわかるわねぇ。」
カウンターの向こうには葵さんがいる。変わらない笑顔だった。
「そう言ってくれると嬉しいですよ。ますます頑張らなければと思います。」
私はカウンターの中に入り、向こうのドアに入っていった。そしていつもの白いブラウスと、黒いズボン、靴と、ギャルソンエプロンに身を包んだ。髪をまとめて、鏡を見る。よし。いける。
ドアを開けると、コーヒーのいい香りがした。どうやらコーヒーを淹れているらしい。
「いらっしゃいませ。」
私はカウンターをでると、二人組の男性を席に案内する。どうやら何かの打ち合わせらしい。
「すいません。ホットを二つ。」
「ブレンドでよろしいですか。」
「あ、はい。良いよな?」
「うん。」
会社の打ち合わせか何かかと思ったけど何か違うらしい。同僚のような感じ。でも一人はちょっと変な眉毛の形だな。それがちょっと気になるけど。
「ブレンド二つです。」
「はい。ではこちらを三番に。」
チョコレートのパウンドケーキとコーヒーを持って奥の席に行く。そこには女性一人のお客さんが居た。本を読んでいる。
「お待たせしました。」
彼女は少しほほえむと、また本に目を移した。きれいなブックカバーの本といい、若草色のロングスカートといい、きれいなさらさらの髪といい、お嬢様のような人だ。こんなたばこの匂いのする喫茶店とはちょっと似合わない。
「葵。大晦日は、ここ何時まで?」
「十六時までです。なので、桜さんもその日だけは十二時に来て貰おうと思いましてね。大丈夫ですか?」
「えぇ。問題ないです。」
「大掃除するの?この前したじゃん。」
「そうですね。なので、今年はちょっと繁華街の方へいってみようと思ってましてね。」
「珍しいな。葵ってたまーに「虹」とかその辺近辺で見るけど、それ以外でどっか行き付けがあるの?」
「あまりないですね。冒険はしないんです。」
「この間、出来た居酒屋が美味しいよ。」
「そうですか。」
興味なさそうに、彼はコーヒーを淹れていく。
「桜ちゃんは行かねぇか。」
「未成年じゃない。」
「あ、でも今年は大晦日に誘われてます。」
「え?」
その言葉に葵さんも驚いたように私を見た。
「まぁ、大晦日は未成年だからって補導も警官はしねぇよな。繁華街のほう?」
「えぇ。何か、仮装してほしいと。」
「仮装?「虹」で?」
「そうですね。」
「見物だなぁ。俺もちょっと行ってみようかなぁ。」
「でもあそこはちょっと入りにくいよねぇ。行くとゲイじゃないかって思われそうでさ。」
「そんなことはないですよ。普通の人です。」
偏見って怖いなぁ。
「桜ちゃんってそうなの?」
「違いますよ。恋人は男性ですよ。」
すると葵さんはカップを二つ渡してくれた。
「ブレンド二つ。五番です。」
「はい。ありがとう。」
そう言って私はトレーにカップを二つのせて、二人の男性のところへ持って行った。
「お待たせしました。」
すると一人の男性が私をみる。そして携帯をとりだした。
「あの……。」
「はい。」
「あなた、この人ですか?」
そう言って携帯の画面を見せてくれた。そこにあったのは、この間着付けてくれた和服の私の姿。
「……あの場にいたんですか?」
「あ、はい。綺麗だなと思って。」
「ありがとうございます。でも綺麗なのは、梅子さんと松秋さんの腕ですよ。」
「いいえ。あなたも……。」
その男性の頬が赤くなる。参ったなぁ。
「桜さん。」
葵さんから声をかけられて、私は一礼をするとその場を去っていった。
「気をつけてくださいよ。あなたに何かあったら、私が柊に殺されてしまいます。」
「そんなことはしませんよ。」
「でも俄然、興味がわきましたね。大晦日、私も行ってみましょうか。」
「みんな仮装するそうですよ。」
「えぇ。結構ですよ。私も昔はそう言うこともしてましたしね。」
葵さんはそう言って淹れたコーヒーの後片づけを始めた。
その日。仕事を終えて、「窓」を出る。そして大通りに出た。するとそこには茅さんが煙草を吹かして壁にもたれ掛かっている。
「よう。」
「仕事、残業だったの?」
「あぁ。ずっと出れてなかったからな。仕事が溜まってた。使えねぇ事務員ばっか。今度入ってくる奴はどんな奴かわかんねぇけど。」
それだけ行って茅さんは煙草を消した。
「まぁ、俺も来年の春までしかここいねぇし。」
「そうね。」
「あぁ、それから言っておくけど、ここで俺がお前待ってんのは柊に頼まれてんだよ。」
「柊に?」
「あぁ。お前まだいろいろ怖いもんがあると思うからって。でも……俺はそんなのやめた方が良いって言ったんだけどな。」
二人で並んで歩いていく。
「柊は少し過保護なところがあるから。」
「そうだな。少しって言うか、だいぶ過保護だ。」
「責任を感じてるのよ。」
「え?」
「一年前、この道で強姦されそうになった。守ってやるって言ったのに、結果、守ってやれなかったことを。」
すると茅さんは頭を掻いた。
「だからって俺に頼まなくてもいいのになぁ。条件は葵と一緒だけど。」
そう言って彼は私の肩に手を伸ばそうとした。
「やめなさいっての。」
「堅え女。」
その手を振り払い、コンビニの前で私は足を止めた。その様子に気がついたのか、茅さんは私の方を振り返る。
「どうした?」
「ん……何でもない。」
金髪の人が出てきた。だから思わず竹彦かと思ったのだ。だけど武彦とは似ても似つかないふざけた格好のヤンキーだった。
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