彷徨いたどり着いた先

神崎

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謝罪

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 天気が良い春の日だった。しかも今日は休日。一馬は用意してくれたバスに乗って、ショッピングモールへ来ていた。もちろん買い物をするわけでは無い。こういう所に来ることはプライベートではほとんど無いと思う。
 新しいショッピングモールは、家族連れやカップルの姿も多いが、その中には若い女性同士が雑誌を見て何か話をしているのも見えた。舞台が設置されている中央の広間で、今日は歌手の新曲発売のイベントがあるのだ。この歌手は本業が歌手では無く、声優が本職らしい。声が売りの声優だが、実際表に出てみるとアイドルのようなルックスがウケて歌手としての活動も始めたらしい。その割にはあまり若いとは言えない。おそらく一馬よりも年上なのだ。
 それでもすらっとした足や、ヒロインの相手役ばかりをしているその男の姿はアニメなんかで見るそのままの王子様を姿にしたモノに見ている女は重ねているのだろう。練習やリハーサルで歌声を聞けば、確かに歌声は栗山遙人よりも良い声をしているが、技術となれば少し劣る。それは姿でカバーしているのかもしれない。
 そう思いながら一馬は控え室として用意された部屋で、ベースを取り出してその曲の譜面をまた見直していた。三曲歌うらしい。時間としては三十分。その時間で三曲なのだから、あとは話なんかをするのだろう。
「花岡さん。」
 トイレから帰ってきたのは、ギターの夏目純だった。この男もどうやらこのイベントに呼ばれたらしい。
「人って多そうですか?」
「多いよ。女ばっか。」
 うんざりといった顔をしている。おそらくこの男は女に嫌悪感を持っているのだろう。三倉と普通に話を出来るのは、音楽越しだったから。それにおそらく夏目は男の趣味があるのだ。
 テーブルに置かれているチラシを一馬は手にする。このショッピングモールの宣伝とともにこの声優のイベントのことも告知してあった。
「橋倉さんも見に来るって言ってたよ。奥さんと子供を連れて。」
「優しいですね。」
「まぁ……奥さんもまだ働かないと子供を養っていけないみたいだし、頭が上がらないみたいだ。」
 橋倉治はスタジオミュージシャンのような事をしながら、それでは食べていけないと音楽教室の講師も兼任している。その評判は良いようだ。
「子供向けのドラムの講師をしていると聞きました。」
「人気があるみたいだ。俺も講師はしているけど、最近はほら派手にギターを鳴らすようなのは流行らないし。あまり人気は無いから。」
 それだけでは無いが、そういうことにしておきたい。本当の理由はまだ一馬に言えるほど夏目は心を許していないのだ。それにまだバンド形態でするかもわからないのに、いらない事は言えない。
「そんなモノなんですか。」
 そんな純の気持ちなど知らずに一馬は軽く流して聞いていた。
「俺らの動画が見られているのは、やっぱ栗山さんだからかな。」
 ネガティブな夏目らしいと思う。それだけではあんなに再生回数は増えないだろうに。
「細かいミスが俺もありました。出来るなら撮り直したい。」
「確かに。」
 自分だけでは無かった。それだけで夏目も少し安心したような表情になる。その時、打ち合わせをしていた声優がこちらに近づいてきた。
「今日はよろしくお願いします。」
 そう言って男は頭を下げる。するとバンドのメンバーもそれに合わせて頭を下げた。こんな事をされる人は初めてだったのかもしれない。大体のアイドルや歌手といった人はバックで演奏しているような人には目もくれないのだが、こう言うところがこの声優の評判が良いところなのかもしれない。自分の存在が大きくなっても自分はまだまだだと思っているのだ。キラキラした衣装に身を包んでいても、初心を忘れていない所に好感が持てる。
「今日は、テレビも来ているんだな。」
 イベントのスタッフとは違う人たちもその部屋で忙しそうに動き回っている。ショッピングモールなのだから、その紹介と行ってテレビの撮影があるのは珍しくない。特に今日はイベントもあるので、それを撮影に来たのだろうか。
「あぁ、あの男見たことがあるな。何だっけ。タレントだったか。」
 夏目にそう言われて、一馬はチューニングの手を止めてその男を見る。すると一馬の手が止まった。そしてその男も一馬を見つけて、一馬の方へ近づいてくる。
「一馬。」
 それは「flower children」の時に一緒のメンバーだったサックス担当の男。堀口文樹という男だった。あの頃は体を鍛えるのが好きで、一馬とどれだけ鍛えられたかとか腕の筋肉の付き方などを話していたのだが、今はその筋肉も落ちているようにみえて細い腕が見え隠れしている。
「文樹か。」
「あぁ。「flower children」の……。」
 夏目も思い出したように文樹を見る。そして文樹も夏目の持っているギターに目を留めて、どうやらライブのバックで演奏をするのに気がついたようだ。
「テレビには映りそうに無いな。」
「あくまで主役はあの人だから、別に映らなくても良いだろう。」
 一馬は元々饒舌ではない。だが文樹の前では更に口数が少なくなったようだ。
「そう言うなよ。一馬。スタッフに話をしてみようか?元メンバーがいるって。」
「勘弁してくれ。出来れば映りたくない。」
「動画には映ってたのに?あぁ。栗山遙人のバックみたいな感じに見えるから?」
 その言葉には夏目もカチンとしたようだ。栗山遙人のバックで演奏していたのでは無くバンドとして演奏をしていたのに。
「バンドだ。みんなで作り上げたモノで、栗山さんだけがスポットライトを浴びているわけじゃ無い。」
「でもまだライトを浴びてないよな?」
「……。」
「デビューも近いんだろ?」
「まだその話は言えない。」
 一馬はそう言ってまたチューナーのスイッチを入れる。もう話をしたくないと言うことだろうか。
「一馬。ライブが終わったらちょっと話があるんだよ。後で連絡するから。」
「番号は変えた。連絡しても無駄だ。」
 取り付く島も無い。それだけ一馬がこの男を拒絶しているのだろう。文樹はスタッフに呼ばれると、一馬と夏目の側を離れていった。その様子を見て夏目は心配そうに一馬を見る。
「大丈夫か?」
「……出来れば会いたくなかったんです。でもこの業界にいて会わないなんて出来ないだろうと覚悟はしてました。それでも……。」
「仲間だったヤツだろ。そんなに会いたくなかったのか?」
「……はい。」
 その闇は深い。夏目はそう思いながら、ため息をついた。

 ライブが終わり、あとは声優がCDを買ってくれた客に握手をしたり個人的に話をしたりしている。その間、一馬達は楽器の片付けやステージの片付けを手伝っていた。注目をされるのは声優の方で、一馬達には何の関わりも無い。
「しかし、見事に女ばっかりだな。」
「そうでも無いですよ。ほら、子供もいる。」
「アレは子供を連れた母親だろ?」
 それもそうか。旦那がいようと何だろうと、好きなものは好きだと言って大目に見る旦那は寛容なのだろう。
「なぁ。」
 コードをまとめていた夏目が一馬に聞く。
「どうしました?」
「堀口文樹と何であんなにバチバチなんだよ。」
「……。」
「前にあった天草裕太とかはそうでもなさそうに見えたのに。」
「裕太もあまり会いたくないです。」
「でもさぁ。」
「「flower children」のメンツとは顔を合わせづらいんで。文樹が全く別の道を歩いているのを見て、あまり会うことは無いと思っていたんですけど。」
「……。」
 ステージから遠くが見える。こちらの集団とは違って向こうにも人だかりが出来ている。おそらく文樹が何か取材とかをしているのだろう。
「すいません。あまり思い出したくないことだから。」
「何となく想像は付くよ。どうせ女関係なんだろう?」
「……当たらずとも遠からずですね。」
「バンドで亀裂が走るのは、女か金か酒とかドラッグとか。そんなところだもんな。あんた、ストイックそうなのに女関係とは考えにくいな。」
 その女関係のことなのだ。一馬はそう思っていたが、これ以上は言えない。それに、文樹の話があるというのも想像が付いた。おそらくまた借金を重ねたのだろう。
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