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多忙
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慎吾が帰って行き、清子は再び会社に戻ってきた。すると優もゲートをくぐり、また社内にはいってくる。
「何かまだ?」
「気になることがあってね。その……ホームページと、SNSのこと。メッセージは届いている?」
「DMとコメントがさっきから止まらなくて。」
「……だと思った。その対処をしようと思ってね。まだ編集長はいる?」
「はい。」
「それにしても……一言相談してくれれば良かったのに。」
「え?」
「SNS。擁護するコメントが多いみたいだけど、口先だけだと思わないか。ほら。見て。」
優はそう言って携帯電話を清子に見せる。するとそこにはSNSのキーワード検索機能で、昌樹の名前を打ったものだった。そのほとんどが辛口のものであり、「誘われたことがある」だの「子供の堕胎を強要させた」や「セックスをしてもコンドームをつけたがらない」など根も葉もない噂ばかりだった。
「……そんなの信用しますか。」
「いいねを見ればわかる。あと、ほらギャンブル癖があるらしいね。S区のパチンコ屋で見たことがあるとかいている。」
「ギャンブルはしないみたいです。」
「そう?君が知らないだけじゃないの?」
そう言いながらも「pink倶楽部」のオフィスに戻ってきた。すると顔色が元に戻っている史が、少し笑顔で清子を見た。だがその後ろには優の姿がある。
「ちょっとお邪魔するよ。」
「どうぞ。」
優は清子のパソコンに近づくと、そのスリープ状態を解こうとした。しかしパスワードがあってロックがかかってある。優は舌打ちをして、清子を見上げる。
「先に正木編集長の話を聞きたいな。編集長。ちょっといいですか。」
「どうぞ。」
史は手を止めて、優の話に答えていた。その後ろ姿を見て、清子は首を傾げた。どうしてロックを解かなかったのだろう。
確かに他のデスクのパソコンのロックは自分の社員番号を打ち込めば解除されるようになっている。だが、清子はそれを不十分だと思って、二重ロックにしてある。だが優くらいなら、それを解くのは簡単だろうに。
「ギャンブルはしたことがないと?」
「ないですね。俺、ギャンブル運が無くて。大学の時に、同期から誘われたこともあるんですけど、ことごとく金が無くなったんですよね。この金があったらもっと良い物を買えたのになって思うと、どぶに捨てるみたいだと思って。」
「でもあんたをみたと。」
「似たような人もいるのでしょう。それに……俺、男優してたときよりも痩せたし。髪も短く切ったんですよ。」
確かに男優をしていたときの史の姿は、今と違う。結べるくらい長い髪や今よりも肌が焼けていたり、一回りくらい体の大きさも違う。
「生で素人にセックスしたことは?」
「ナンパも苦手です。俺の過去昨見てもらっても良いですけど、俺、ナンパできないんですよ。知らない人に声をかけるのはちょっとね。」
確かに声をかけるよりもかけられる方が多い気がする。それでも好きな人は、今でも「昌樹」がいると気がつく人はいるがそれはほとんど限られた人になる。
「……。」
いらついているように、優は史の元を去っていく。そして清子の方へ向かった。
「徳成さん。SNS出してくれないかな。」
「イヤです。」
「え?」
そうくると思ってなかった。史も驚いて清子の方をみる。
「上司になるんだから……。」
「だったらロックくらい解いたらどうですか。」
清子がいらついている。史は思わず席を立ち、清子の所へいこうとした。しかし清子は止まらない。
「だいたいお酒を飲んでくるなんで、何考えてるんですか。」
「飲んでるの?」
その言葉に香子も驚いたようにみた。
「夕べ、SNSのアカウントを持っているのは、久住さんだけと言っていた。なのに、あなたはさっき私にSNSの検索をして見せてくれた。と言うことは、あなたはアカウントを持っているのに黙ってたんです。」
「それは……。」
「携帯の検索機能でも、その情報を見るのは可能です。でもさっき見せてくれたのはアプリでした。アプリは登録して、アカウントを持っていないと見れないんです。それが証拠ですね。」
「……。」
「あなたのアカウントのアイコン、そこの公園の花壇じゃないですか?」
その言葉に、晶が声を上げた。
「あっ……それって……。」
「「なりすまし」ですね。私、それを報告しますから。」
すると了も驚いたように、優を見ていた。
「三沢部長……。」
「何……。俺がなりすましだって?証拠があるのか?」
優はそう言って、清子に詰め寄る。すると清子は、携帯電話を取り出して、連絡をした。相手が繋がったところでマイクをオンにする。
「すいません。夜分遅く。」
「良いよ。俺も起きてたし。」
その声に優の顔色が青ざめる。
「三沢優さんのことについてお聞きしたいのですが。」
「あぁ。あいつの研究所、今年一杯らしいな。入れた研究員が、金を横領してとんずらしたんだろ?」
その言葉に周りの人達がざわめいた。
「企業に入るって言ってたけど、使い物になるのかねぇ。あいつの研究って一昔前だからな。最新のことには疎いし。」
「我孫子さんでもそう思われますか。」
「あぁ。この前のウィルスの対処を失敗したのも大きかったよな。俺がそっちに呼び出されたのもそのせい。金がなくて、企業からもらった金を借金の返済にあてたのにそれに失敗してんだから、また金を請求されてるだろ?」
「そうだったんですね。他は何かありますか?」
「そうだな……。」
我孫子が言おうとしたときだった。すると優が声を上げた。
「もう結構だ。やめろ。」
すると電話の向こうの我孫子が驚いたように言った。
「お前、本人がそこにいるのに話させたのか?徳成。性格悪いな。」
「どうとでも言ってください。会社のためです。」
「良いけどよ。お前、性格悪いし怖いな。」
その言葉に清子は少し笑うと、ちらっと優の方をみる。すると優は、ぐっと拳を握り清子の方へ向かってくる。
「清子!」
いち早く反応したのは、晶だった。殴られるかもしれない。そう思ってすぐに清子の方へ足を向けた。しかし清子はそれをかわすと、逆に優を壁に押しつけて、腕を背中に回す。
「いてぇ!いたた!」
そうだった。清子に暴力は通用しなかった。晶は呆れたように足を止める。
「どうした。何があった?」
我孫子ののんきな声だけが、携帯電話から響いていた。
「何かまだ?」
「気になることがあってね。その……ホームページと、SNSのこと。メッセージは届いている?」
「DMとコメントがさっきから止まらなくて。」
「……だと思った。その対処をしようと思ってね。まだ編集長はいる?」
「はい。」
「それにしても……一言相談してくれれば良かったのに。」
「え?」
「SNS。擁護するコメントが多いみたいだけど、口先だけだと思わないか。ほら。見て。」
優はそう言って携帯電話を清子に見せる。するとそこにはSNSのキーワード検索機能で、昌樹の名前を打ったものだった。そのほとんどが辛口のものであり、「誘われたことがある」だの「子供の堕胎を強要させた」や「セックスをしてもコンドームをつけたがらない」など根も葉もない噂ばかりだった。
「……そんなの信用しますか。」
「いいねを見ればわかる。あと、ほらギャンブル癖があるらしいね。S区のパチンコ屋で見たことがあるとかいている。」
「ギャンブルはしないみたいです。」
「そう?君が知らないだけじゃないの?」
そう言いながらも「pink倶楽部」のオフィスに戻ってきた。すると顔色が元に戻っている史が、少し笑顔で清子を見た。だがその後ろには優の姿がある。
「ちょっとお邪魔するよ。」
「どうぞ。」
優は清子のパソコンに近づくと、そのスリープ状態を解こうとした。しかしパスワードがあってロックがかかってある。優は舌打ちをして、清子を見上げる。
「先に正木編集長の話を聞きたいな。編集長。ちょっといいですか。」
「どうぞ。」
史は手を止めて、優の話に答えていた。その後ろ姿を見て、清子は首を傾げた。どうしてロックを解かなかったのだろう。
確かに他のデスクのパソコンのロックは自分の社員番号を打ち込めば解除されるようになっている。だが、清子はそれを不十分だと思って、二重ロックにしてある。だが優くらいなら、それを解くのは簡単だろうに。
「ギャンブルはしたことがないと?」
「ないですね。俺、ギャンブル運が無くて。大学の時に、同期から誘われたこともあるんですけど、ことごとく金が無くなったんですよね。この金があったらもっと良い物を買えたのになって思うと、どぶに捨てるみたいだと思って。」
「でもあんたをみたと。」
「似たような人もいるのでしょう。それに……俺、男優してたときよりも痩せたし。髪も短く切ったんですよ。」
確かに男優をしていたときの史の姿は、今と違う。結べるくらい長い髪や今よりも肌が焼けていたり、一回りくらい体の大きさも違う。
「生で素人にセックスしたことは?」
「ナンパも苦手です。俺の過去昨見てもらっても良いですけど、俺、ナンパできないんですよ。知らない人に声をかけるのはちょっとね。」
確かに声をかけるよりもかけられる方が多い気がする。それでも好きな人は、今でも「昌樹」がいると気がつく人はいるがそれはほとんど限られた人になる。
「……。」
いらついているように、優は史の元を去っていく。そして清子の方へ向かった。
「徳成さん。SNS出してくれないかな。」
「イヤです。」
「え?」
そうくると思ってなかった。史も驚いて清子の方をみる。
「上司になるんだから……。」
「だったらロックくらい解いたらどうですか。」
清子がいらついている。史は思わず席を立ち、清子の所へいこうとした。しかし清子は止まらない。
「だいたいお酒を飲んでくるなんで、何考えてるんですか。」
「飲んでるの?」
その言葉に香子も驚いたようにみた。
「夕べ、SNSのアカウントを持っているのは、久住さんだけと言っていた。なのに、あなたはさっき私にSNSの検索をして見せてくれた。と言うことは、あなたはアカウントを持っているのに黙ってたんです。」
「それは……。」
「携帯の検索機能でも、その情報を見るのは可能です。でもさっき見せてくれたのはアプリでした。アプリは登録して、アカウントを持っていないと見れないんです。それが証拠ですね。」
「……。」
「あなたのアカウントのアイコン、そこの公園の花壇じゃないですか?」
その言葉に、晶が声を上げた。
「あっ……それって……。」
「「なりすまし」ですね。私、それを報告しますから。」
すると了も驚いたように、優を見ていた。
「三沢部長……。」
「何……。俺がなりすましだって?証拠があるのか?」
優はそう言って、清子に詰め寄る。すると清子は、携帯電話を取り出して、連絡をした。相手が繋がったところでマイクをオンにする。
「すいません。夜分遅く。」
「良いよ。俺も起きてたし。」
その声に優の顔色が青ざめる。
「三沢優さんのことについてお聞きしたいのですが。」
「あぁ。あいつの研究所、今年一杯らしいな。入れた研究員が、金を横領してとんずらしたんだろ?」
その言葉に周りの人達がざわめいた。
「企業に入るって言ってたけど、使い物になるのかねぇ。あいつの研究って一昔前だからな。最新のことには疎いし。」
「我孫子さんでもそう思われますか。」
「あぁ。この前のウィルスの対処を失敗したのも大きかったよな。俺がそっちに呼び出されたのもそのせい。金がなくて、企業からもらった金を借金の返済にあてたのにそれに失敗してんだから、また金を請求されてるだろ?」
「そうだったんですね。他は何かありますか?」
「そうだな……。」
我孫子が言おうとしたときだった。すると優が声を上げた。
「もう結構だ。やめろ。」
すると電話の向こうの我孫子が驚いたように言った。
「お前、本人がそこにいるのに話させたのか?徳成。性格悪いな。」
「どうとでも言ってください。会社のためです。」
「良いけどよ。お前、性格悪いし怖いな。」
その言葉に清子は少し笑うと、ちらっと優の方をみる。すると優は、ぐっと拳を握り清子の方へ向かってくる。
「清子!」
いち早く反応したのは、晶だった。殴られるかもしれない。そう思ってすぐに清子の方へ足を向けた。しかし清子はそれをかわすと、逆に優を壁に押しつけて、腕を背中に回す。
「いてぇ!いたた!」
そうだった。清子に暴力は通用しなかった。晶は呆れたように足を止める。
「どうした。何があった?」
我孫子ののんきな声だけが、携帯電話から響いていた。
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