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第十幕「銀の英雄」
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しおりを挟む「他人の空似だとは思ったんです。でも、あまりにもそっくりだったので懐かしくて。あの人が生きてるって……」
イズナは言葉を濁した。嘘は言っていない。実際リウネは死んだし、そっくりなのも本人なのだから当たり前だ。
「……そうか。だが、俺はそいつじゃない」
意図しないその言葉が、イズナの心に突き刺さる。ループを経験する度にイズナだってそう思ってきたはずなのに。
「死んだそいつに免じて、見逃してやる。だが今度またきやがったらその時は容赦しねぇからな」
去ってしまう背中を衝動的に引き留めた。彼の歩みがピタリと止まる。どうして引き留めたりなんてしたんだろう。私はエドじゃないのに。
「時間を、ください」
「あ?」
「一週間、長くても三日でいいのです。貴方があの人じゃないことは分かっています。ただ、心の整理をする時間を下さい」
それでも大佐は首を縦に振らないだろう。勝手な言い分なのは重々承知だった。
だから、
「……最高級の紅茶」
ピクリと反応したのがわかった。よし、とイズナは拳を握る。地下都市では人を生かすためのパンや水、野菜などは入ってくる。しかし、紅茶などの嗜好品はほとんど入ってこないはずだ。そして大佐は紅茶が好きである。
物で釣るのは正直気が乗らないが、手段を選べる相手ではないのもまた事実だった。
「紅茶のお土産付きです。どうでしょう」
「……」
「今ならちょっとしたオマケもつきます。美味しい紅茶に合うお茶菓子のセットとか」
リウネの目が興味をそそられたようにイズナをみつめる。
「欲しくはないですか?」
はぐらかすという言葉ほどリウネに似合わない言葉はない。こうして是非を問えば必ずどちらかの答えをくれる。
「いいだろう」
リウネは腕を組んでイズナを睨みつけた。まるではるか頭上から見下ろされているような覇気。
「ただし条件付きだ。来たときには必ず声をかけろ」
「え」
「こそこそ様子を伺われた挙げ句勝手に茶葉と菓子を置いてかれたんじゃ気味が悪くて味も半減する」
はっきりした物言いに苦笑しながらも、イズナはまぶしそうにリウネを見る。たとえ、彼がリウネ大佐ではなくても、彼はイズナの知るリウネなのだと。複雑だがそれが嬉しくもあった。
「また来ます」
これ以上の長居はよろしくないと、一言だけ残して地上へと戻る。
「……そいつと俺は、そんなに似てるか」
ぼそりと呟いた言葉はリウネにしか分からない。
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