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第33話 ありえなくても、「真実は一つ!!」。
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「邪魔をするぞ」
勝手に窓を開き、これまた勝手に了承も得ずに部屋に侵入するセルヴェスティ。
人型に戻った彼に抱かれたままのあたしは、小さく心のなかで「お邪魔します」と言うのが精一杯。
部屋の持ち主、レヴィル先生は、突然の闖入者に口を開けたまま塞ぐことを忘れてこちらを見てる。
まあ、そうだよね。そうなるよね。
いきなり、勝手に窓が開いて、守護獣が人型になって、「こんにちは」だもんね。
「守護獣……、リュリ……!?」
声が出せただけでもスゴいと思う。先生、強いなあ。
「ローゼリィ嬢が捕まったと聞いていましたが、まさか……」
上手く言葉に出来なかったので、コクリと頷いた。
「訳は、我から話す」
セルヴェスティが宝物のように優しくあたしを下ろす。先生が用意してくれた椅子に腰かけると、彼はあたしたちに事の顛末を話し始めた。
それは、あまりにも荒唐無稽で、あたしは何度も「うええええっ!!」と叫び、お二人から「うるさい」と叱られる羽目になった。
* * * *
「ドルティニア帝国……!?」
ナディアードが問い返すと、オーウェンが頷いた。
「殿下は、かの国をご存知でしょうか」
「ああ。直接の交流はほとんどないが。北の果て、黒く峻険な山に囲まれた帝国だ。皇帝の名はガルシネア。確か、父上よりも年配の皇帝だったはずだ」
アウリウスもルッカも同じような知識は持ち合わせているらしい。ナディアードの言葉に、二人が軽く頷いて肯定した。
「そこが、この件にどう関わっているんだ?」
それが、わからない。
「―――暗黒竜」
「えっ!?」
ナディアードだけでなく、他の二人も驚きの声を上げた。
「殿下もご存知でしょう。かの地に封印された、暗黒竜の伝説を」
「ああ。神話の時代、女神ルビーニアによって封じられた暗黒竜の話だろう。かの地の皇帝はその封印を見守る存在であったはずだ」
女神ルビーニアと暗黒竜の伝説。
それは、この世界に暮らす者なら、子どもでも知っている伝説。
いにしえの時代。女神が創り出したこの世界に、突如現れた暗黒竜。その息は地上に瘴気と災厄をまき散らし、かの竜が通った後には、何も生き残っていない荒野だけが広がったという。女神は死闘の末、遥か北方の地に暗黒竜を封じ、とある一族にその封印が解けぬように監視することを命じた。それが、現ドルティニア皇室であり、彼らは女神に忠実であり続けた。
そのような伝説からか、かの地の皇帝一族に対して辺境国の主と蔑む感覚は持ち合わせていない。
だが、それがいったいどうしたというのだろうか。
「かの地に、暗黒竜の封印に綻びが現れております」
「なっ……!!」
あまりの衝撃に、声を失う。
* * * *
「じゃっ、じゃあ、その封印された悪~い竜を倒すために、女神さまが我が子をこの地上に遣わされた……のですか!?」
「そうだ。暗黒竜が再び地上に現れないようにするためにな」
「で、それが……、あの。あ、あたし、なんです……か?」
「そうだ」
……ホンキ、デスカ!?
ふんぞり返るように腕組みをして座る守護獣さまは、この部屋で誰よりも一番偉っそうだ。
「まさか、リュリに不思議な力があるとは思っていたが……」
レヴィル先生も絶句してる。あたしもだけど、先生も、にわかに信じられないのだろう。
「でででで、でもっ、でもっ、あたし、そんな大した力、持ってませんっ!!」
ただのリュリですよっ!! お嬢さまの小間使いの、チビでどんくさいリュリですよっ!?
生まれてそのままポイッて捨てられてた、身元不明のリュリですよっ!?
お茶を淹れること、掃除、洗濯、裁縫。それぐらいしかできないリュリですよっ!?
そんな暗黒竜とやらをやっつけるなんて必殺技、とてもじゃないけど持ってませんよっ!?
「……マチガイデス」
「は!?」
「アタシジャナイデス」
椅子の上で膝を抱きかかえ、そばにあったクッションを頭にひっかぶる。
「アタシハ、タダノコマヅカイデス。ヒトチガイデス」
「おい、何を逃げてるんだ」
近づいてきた守護獣さまに、クッションを取り上げられる。
怖い。あたしにそんなことできるわけがない。
女神の子だとか、暗黒竜だとか。
そんなの、あたしは知らない。
「だってっ……、そっ、そんな、たいっ、やくっ、あたしにっ、はっ、ヒック……、むっ、むりぃ……」
うわあああんっと声を上げて泣いちゃった。
だって、もう感情の限界を超えた。
あの場所から助けてもらったのはうれしいけど、こんなとんでもないことを言われて、はいそうですかと受け入れることは出来ない。
怖い。イヤだ。
そんなことできっこない。
おいおいと泣き続けるあたしに、守護獣さまが軽くため息をついた。
「なにもお前一人で立ち向かえとは言わん。そのための御楯が七人もおるではないか」
「みっ、御楯っ……!?」
グズグズと鼻をすすりながら問いかける。
「さよう。先ほどは何やら操られておったが。高貴なる血の者。剣を捧げし者。貴人を奉ずる者。そして我を助けた、音曲を奏でる者。他にも、探求極めし者、商いに通ずる者。そして、我。この七つの魂がお主を護る楯となる」
それはつまり、ナディアード殿下、アウリウスさま、ルッカさま、オーウェンさま、レヴィル先生、ライネルさん……の七人ってこと!?
「でっ、でもっ、皆さまは、そのっ……、ミサキさまの『攻略対象者』でっ!! 『らぶらぶ』になって、『攻略るぅと』でお嬢さまを断罪してヒドい目に遭わせてっ!!」
「……何を言っているのだ、お主は」
守護獣さまが眉をひそめた。
うん、自分でも何言ってるのか、よくわかってません。
だけど一つだけは、ハッキリとわかる。
今のこの状況、お嬢さまから伺っていた未来とは、全く違うものになっているってこと。
「暗黒竜は、聖女と呼ばれたあの女を穢した。今、あの女に本来の力は宿っておらぬ」
「ええええっ!! そっ、それって、大変なことなんじゃないですかっ!!」
あたしの声に、守護獣さまが耳を押さえた。あ、うるさかった?
「あの女も、お主の力となる。暗黒竜を封じるためにも取り戻さねばならぬ」
うん。ミサキさまがそんな大変な目に遭っておられるのなら、お助けしなくては。
「でも、具体的にどうすれば?」
レヴィル先生が問う。
「それはだな……」
ポンッ……!!
話の途中で妙に軽快な音がする。わき起こった白い煙。
「しゅっ、守護獣さまっ!?」
守護獣さまがっ、リッ、リスになったぁ!?
勝手に窓を開き、これまた勝手に了承も得ずに部屋に侵入するセルヴェスティ。
人型に戻った彼に抱かれたままのあたしは、小さく心のなかで「お邪魔します」と言うのが精一杯。
部屋の持ち主、レヴィル先生は、突然の闖入者に口を開けたまま塞ぐことを忘れてこちらを見てる。
まあ、そうだよね。そうなるよね。
いきなり、勝手に窓が開いて、守護獣が人型になって、「こんにちは」だもんね。
「守護獣……、リュリ……!?」
声が出せただけでもスゴいと思う。先生、強いなあ。
「ローゼリィ嬢が捕まったと聞いていましたが、まさか……」
上手く言葉に出来なかったので、コクリと頷いた。
「訳は、我から話す」
セルヴェスティが宝物のように優しくあたしを下ろす。先生が用意してくれた椅子に腰かけると、彼はあたしたちに事の顛末を話し始めた。
それは、あまりにも荒唐無稽で、あたしは何度も「うええええっ!!」と叫び、お二人から「うるさい」と叱られる羽目になった。
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「ドルティニア帝国……!?」
ナディアードが問い返すと、オーウェンが頷いた。
「殿下は、かの国をご存知でしょうか」
「ああ。直接の交流はほとんどないが。北の果て、黒く峻険な山に囲まれた帝国だ。皇帝の名はガルシネア。確か、父上よりも年配の皇帝だったはずだ」
アウリウスもルッカも同じような知識は持ち合わせているらしい。ナディアードの言葉に、二人が軽く頷いて肯定した。
「そこが、この件にどう関わっているんだ?」
それが、わからない。
「―――暗黒竜」
「えっ!?」
ナディアードだけでなく、他の二人も驚きの声を上げた。
「殿下もご存知でしょう。かの地に封印された、暗黒竜の伝説を」
「ああ。神話の時代、女神ルビーニアによって封じられた暗黒竜の話だろう。かの地の皇帝はその封印を見守る存在であったはずだ」
女神ルビーニアと暗黒竜の伝説。
それは、この世界に暮らす者なら、子どもでも知っている伝説。
いにしえの時代。女神が創り出したこの世界に、突如現れた暗黒竜。その息は地上に瘴気と災厄をまき散らし、かの竜が通った後には、何も生き残っていない荒野だけが広がったという。女神は死闘の末、遥か北方の地に暗黒竜を封じ、とある一族にその封印が解けぬように監視することを命じた。それが、現ドルティニア皇室であり、彼らは女神に忠実であり続けた。
そのような伝説からか、かの地の皇帝一族に対して辺境国の主と蔑む感覚は持ち合わせていない。
だが、それがいったいどうしたというのだろうか。
「かの地に、暗黒竜の封印に綻びが現れております」
「なっ……!!」
あまりの衝撃に、声を失う。
* * * *
「じゃっ、じゃあ、その封印された悪~い竜を倒すために、女神さまが我が子をこの地上に遣わされた……のですか!?」
「そうだ。暗黒竜が再び地上に現れないようにするためにな」
「で、それが……、あの。あ、あたし、なんです……か?」
「そうだ」
……ホンキ、デスカ!?
ふんぞり返るように腕組みをして座る守護獣さまは、この部屋で誰よりも一番偉っそうだ。
「まさか、リュリに不思議な力があるとは思っていたが……」
レヴィル先生も絶句してる。あたしもだけど、先生も、にわかに信じられないのだろう。
「でででで、でもっ、でもっ、あたし、そんな大した力、持ってませんっ!!」
ただのリュリですよっ!! お嬢さまの小間使いの、チビでどんくさいリュリですよっ!?
生まれてそのままポイッて捨てられてた、身元不明のリュリですよっ!?
お茶を淹れること、掃除、洗濯、裁縫。それぐらいしかできないリュリですよっ!?
そんな暗黒竜とやらをやっつけるなんて必殺技、とてもじゃないけど持ってませんよっ!?
「……マチガイデス」
「は!?」
「アタシジャナイデス」
椅子の上で膝を抱きかかえ、そばにあったクッションを頭にひっかぶる。
「アタシハ、タダノコマヅカイデス。ヒトチガイデス」
「おい、何を逃げてるんだ」
近づいてきた守護獣さまに、クッションを取り上げられる。
怖い。あたしにそんなことできるわけがない。
女神の子だとか、暗黒竜だとか。
そんなの、あたしは知らない。
「だってっ……、そっ、そんな、たいっ、やくっ、あたしにっ、はっ、ヒック……、むっ、むりぃ……」
うわあああんっと声を上げて泣いちゃった。
だって、もう感情の限界を超えた。
あの場所から助けてもらったのはうれしいけど、こんなとんでもないことを言われて、はいそうですかと受け入れることは出来ない。
怖い。イヤだ。
そんなことできっこない。
おいおいと泣き続けるあたしに、守護獣さまが軽くため息をついた。
「なにもお前一人で立ち向かえとは言わん。そのための御楯が七人もおるではないか」
「みっ、御楯っ……!?」
グズグズと鼻をすすりながら問いかける。
「さよう。先ほどは何やら操られておったが。高貴なる血の者。剣を捧げし者。貴人を奉ずる者。そして我を助けた、音曲を奏でる者。他にも、探求極めし者、商いに通ずる者。そして、我。この七つの魂がお主を護る楯となる」
それはつまり、ナディアード殿下、アウリウスさま、ルッカさま、オーウェンさま、レヴィル先生、ライネルさん……の七人ってこと!?
「でっ、でもっ、皆さまは、そのっ……、ミサキさまの『攻略対象者』でっ!! 『らぶらぶ』になって、『攻略るぅと』でお嬢さまを断罪してヒドい目に遭わせてっ!!」
「……何を言っているのだ、お主は」
守護獣さまが眉をひそめた。
うん、自分でも何言ってるのか、よくわかってません。
だけど一つだけは、ハッキリとわかる。
今のこの状況、お嬢さまから伺っていた未来とは、全く違うものになっているってこと。
「暗黒竜は、聖女と呼ばれたあの女を穢した。今、あの女に本来の力は宿っておらぬ」
「ええええっ!! そっ、それって、大変なことなんじゃないですかっ!!」
あたしの声に、守護獣さまが耳を押さえた。あ、うるさかった?
「あの女も、お主の力となる。暗黒竜を封じるためにも取り戻さねばならぬ」
うん。ミサキさまがそんな大変な目に遭っておられるのなら、お助けしなくては。
「でも、具体的にどうすれば?」
レヴィル先生が問う。
「それはだな……」
ポンッ……!!
話の途中で妙に軽快な音がする。わき起こった白い煙。
「しゅっ、守護獣さまっ!?」
守護獣さまがっ、リッ、リスになったぁ!?
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