恋をするなら、キミとがいい

若松だんご

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1.僕はキミと出会う

(二)

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 「――佐波さなみさんって、何学部なんすか?」

 品出しの荷物を載せ、売り場にやってきたところで、氷鷹ひだかが声をかけてきた。
 バックヤードでは、真面目にこっちの説明を聴いてたのに。ここにきて、いきなり世間話を始めるのかよ。
 見た目に合わず、真面目なヤツなのかな?
 そう、チラッとでも考えた自分、消去。

 「文学部。それより、ちゃんと商品出してね」

 言って、手本を見せるように、まず自分が品出しを始める。
 持ってきた商品の棚の在庫を目で確認してから段ボールを開ける。開けてから確認してもいいんだけど、もし、棚がパンパンだった場合、開けたことが無駄になる。
 棚に残ってる商品を全部取り出して、持ってきた段ボールの商品を奥に並べる。それから、一度取り出した商品をもとに戻す。そうすることで、賞味期限の早いものが手前に、遅いものが後ろになる。
 
 「この棚は、十二個入る感じだから、取り出したものと持ってきたもの、合わせて十二になるようにつめるんだ」

 だいたい、お菓子の段ボールは、十二個入。
 だから、十二-(残ってたお菓子の数)=新しく奥につめる数。
 
 「それから、取り出す時も、なるべく取り出した順番がわかるように出して。同じ期限のものばっかり入ってるってこともないから」

 棚に残ってた商品の内でも期限違いがあったりする。なるべく、そのまま取り出して、戻せば、期限順に並んでるのを壊すこともない。

 「なるほど。奥深いんですね、品出しって」

 フムウと、顎に手をやり、氷鷹が感心する。
 ……いや、感心してねえで、ちゃんと覚えろよ?

 「で? 佐波さんって、文学部の何学科なんっすか?」

 「日本文化学科」

 「へえ。なんかカッコいいっすね。俺は、工学部なんっすよ。工学部の機械工学科」

 カッコいいのか、日本文化学科。そして、オレは、お前の学科に興味はない。
 って、それよりも。

 「ほら、喋ってねえで、お前も仕事しろよ」

 「やってますよ、ホラ」

 チキチキと音を鳴らして、氷鷹がカッターを取り出す。
 段ボールを開けるならカッターナイフ。この仕事をするなら、カッターは必携品だけど。

 「お菓子の段ボールにカッターは使わない」

 言葉で、その手を止めさせる。

 「こんなふうに、指でも開けられるんだ」

 言って、段ボールの僅かな隙間に指を差し込む。止めてあるテープを切るように指を動かすだけで、段ボールは簡単に開く。

 「うわ、すげえ」

 「カッターは、どうしても開かない時用に残しておけ。カッターで、中の商品傷つけるとダメだからな」

 だから、カッターは使わない。
 驚き続ける氷鷹の前で、開けた段ボールからスナック菓子を取り出し、開けておいた棚の中につめこんでいく。

 「重い物の入ってる段ボールじゃあできない技だが、お菓子の段ボールぐらいなら、これでオッケーだ」

 軽い物を入れた段ボールは、その梱包も軽く出来ている。そういうものは、指一つでピッと開封できるようなテープで止められてる。

 「へえ、勉強になります」

 ずっと見ているだけだった、氷鷹がニコッと破顔した。
 途端に、エクボができて、人懐っこい印象になる。
 そして。

 「えっと。こんな感じっすか?」

 段ボールの上部脇。僅かな隙間に指を差し込んだ氷鷹。そのまま指をカッターナイフのように動かし、止めてあったテープを切る。

 「うわ。これ、指、どうにかなりませんか?」

 ちょっと赤くなった、指の第二関節脇。それを、「これ!」とオレに見せてくる氷鷹。

 「最悪、指を切ることもあるからな。一応、気をつけろ」

 「うわあ……」

 氷鷹のオーバーリアクション。
 声だけじゃなく、顔も歪めている。

 「じゃあ、ここはお前に任せていいか?」

 「え? 佐波さんは?」

 「オレは、あっちの、食玩売り場を直してくる」

 夕方の買い物ラッシュが終わった後の、この時間。ママといっしょに買い物に来て、放置されたお子ちゃまが遊んで放置していった食玩売り場。棚の仕切板なんて関係ない。グッチャグチャのカオスになってる。

 「なんかわかんねえことあったら呼べ」

 それだけ言い残して、氷鷹から距離を取る。
 食玩売り場を直す、グッチャグチャだからってのは、ただの言い訳。こじつけ。
 今のオレは、どうにも氷鷹から離れていたくて仕方なかった。

          *

 「彼は、どんな感じだい、佐波くん」

 仕事終わり。
 タイムカードを切りに事務所に向かうと、待ち構えていた店長に尋ねられた。
 「彼」と呼ばれた人物、氷鷹は、すでに上がっている。今日はあくまで「研修」。だから、オレより早く仕事を終えていた。

 「まあ、使い物にはなると思いますよ」

 無難な回答。
 品出しだけじゃない。あの後、教える――というか、オレの隣で、サッカー役をこなしていたアイツ。
 レジを終えたお客の買い物カゴを、サッカー台に運ぶなどの仕事を押し付けたんだが。重そうにも、面倒くさそうにもせず、ニコニコと運んでいた。

 「そっか。使い物になるか」

 ウンウン。
 口元を緩めて一人頷く店長。
 アイツと面接をして、採用を決めたのはこの店長だ。自分の、人を見る目は間違ってなかったとか、喜び噛み締めてるのか?

 「じゃあ、明日もよろしく頼むよ、佐波くん。明日は、レジ操作を教えてやってほしい」

 「――え?」

 明日も? オレが?

 「彼、明日もシフト入っててね。ちょうどキミとおんなじ時間なんだよ」

 おんなじ時間なんだよ――って。

 (お前が教えたっていいじゃねえかあっ!)

 心のなかで叫ぶ。
 別にオレじゃなくても! それこそ、レジのパートリーダーのオバちゃんに頼んだって!

 「キミも、ここに入った時は、先輩バイトに教えてもらっただろう?」

 嫌がってるのが顔に出てたのか。「ナゼ、オレなのか?」の答えを、先回りしたように店長が話す。
 そうだ。
 オレがここでバイトを始めた時も、先輩バイト(今は、もういない)が、一から教えてくれたんだった。オレがアイツにやってみせた段ボールの開け方も、その先輩バイトから教えてもらった技だ。

 「ってことで、明日もよろしく!」

 うなだれて、丸くなりかけた背中をバンバンと叩かれ、励まされる。

 なんで、アイツなんだよ。
 なんで、オレなんだよ。

 理由がわかっても、背中を叩かれても、丸くなりたい気持ちは戻らない。

 (明日、ズル休みしてやろうかな)

 なんて不真面目なことを考える。
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