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9.魔法少女は空を飛ぶ その2

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「ちりょう魔法をかける? サシス」

 イタがっているサシスを見て、魔法少女ロガシーはいいました。

「ちりょう魔法? ロガシーは、そんなことまでできるのかい?」
簡単かんたんさ! ボクの魔法で、あの――」

 そういってロガシーは泥沼どろぬまをゆびさしました。

「あの泥沼どろぬまとおなじどろ背中せなかにべっちょりとぬればいいんだよ」
「え?」
「あまりの、くささに、いたいのなんかかんじなくなるんだよ。もう、くさい以外の感覚かんかくはマヒしちゃうんだ! なにもかんじなくなるよ!」

 サシスはかんがえました。「う~ん」とかなり本気ほんきかんがえこんでてしまったのです。
 サシスは「それは、もしかしたら、ではないのじゃないか?」と思ったのです。
 親切しんせつでいってくれる魔法少女ロガシーですが、ここまで、におってくるあのくさくて正体不明しょうたいふめいルビ背中せなかにぬられるのはいやでした。

 とっても、とっても、とってもいやだったのです。
 たとえ、ロガシーがどんなにかわいく、きれいでも、それだけは勘弁かんべんしてほしかったのです。
 
 
(まるで、うんこをあつめて、くさらせみたいなにおいだよ…… それはむりだよロガシー)

 サシスはそう思いましたが、口にだすことはできません。
 だって、それはせっかく親切で言ってくれたロガシーをきずつけることになるかもしれないからです。
 サシスはロガシーをきずつけて、かなししい気持ちにさせるのは、とっても、とっても、とってもいやだったのです。

 そして、それでロガシーにきらわれてしまうのは、もっといやでした。
 でも、背中にくさい泥を塗られるのもいやなのです。


大丈夫だいじょうぶ! いけるさ! なんかきゅう背中せなかがイタくなくなったぞ! すごい不思議ふしぎだ!」
 
 サシスは、そういって、すさまじくいたい背中をガマンして立ち上がったのです。
 もう、そうするしかなかったのです。

 あのうんこくさいどろをせなかにぬられたらたまりません。
 でも、「いやだ」といってロガシーをかなししませたり、ロガシーにきらわれるのもいやなのです。

 それなら、痛いのをガマンして走った方がマシだとサシスは思ったのです。

 そんなサシスを魔法少女ロガシーはジッとみつめていました。
 大きな目が半開はんびらきになっていたのは、なぜなのかサシスにはよく分かりませんでした。

「サシスは、要塞にいきたいんだよね」

 まるで、気分きぶんをいれかえたかのような元気げんきな声でロガシーはいいました。

「そうだよ。大丈夫。背中せなかはもう大丈夫だいじょうぶ! あはははは!!」
「ボクもサシスといっしょにいきたいなぁ。要塞ようさいってどんなことなの? すごくみたなぁ~」
「え? でも……」

 魔法少女といっても、ロガシーは女の子です。
 道なき岩山いわやまをいくのはむずかしいでしょう。
 それに、軍隊に関係かんけいない人間にんげんに「秘密ひみつの門」を知られるわけにはいきません。
 しかも、そこは戦争せんそうをするとてもあぶないところなのです。

「そうだ!! んでいけば、はしるよりはやくつくよね!」
「え? ロガシー、飛ぶって……」

 サシスはそういえば、魔女まじょとかホウキでぶなぁと思いました。
 魔法少女もほうきで飛ぶのでしょうか?
 しかし、ロガシーはホウキなんかもっていません。手ぶらです。
 
「ボクは呪文じゅもん変身へんしんして魔法のちからぶのさ!」

 そういうとロガシーは呪文をとなえはじめました。

「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん」

 目をつぶっています。大きな黒いひとみがかくれて、長いまつ毛がかぜにゆれます。
 なんて長いまつ毛なんだとサシスは思いました。

「あッ!!」

 サシスはおもわず声を上げていました。
 まえと同じです。

 こんどはロガシーのスカートの中からにゅるにゅるとぶっとい黄土色おうどいろのものが出てきたのです。それはすごく太いヘビか、ロープのようでした。ただ、色だけがへんてこで、どこかで見覚えがあるのような黄土色おうどいろをしているのです。

(まさか…… でもあんなにちぎれないで、長いのはありえないし…… くさくもないし……)

 サシスはそれと同じ色をしたモノを思いうかべましたが、まさか、同じものなはずがありません。
 だって、ロガシーは魔法少女なのですから!!

 みるみるうちに、黄土色おうどいろのヘビのような長いものが、グルグルと、ロガシーの体にまきついていきます。細くきれいなあしにも、おれれそうなほどほそい胴体どうたいにも、そしてうでにもまきついていくのです。

 前に岩を砕いた時と同じような色をしたぶにゅぶにゅ、にゅるにゅるにみえて、ミドリ色のブツブツもまじっています。
 にゅるにゅるぬるぬると、スカートからはいでてきた「それ」はロガシーの全身ぜんしん顔以外かおいがいをつつみこんでしまいました。

 まるで、黄土色おうどいろのドロドロのどろの中にロガシーがいるようでした。

   !!」

 ロガシーがさけびました。

 魔力をおびた呪文じゅもんとともに魔法少女ロガシーはひかりにつつまれたのです。
 あまりのまぶしさに、サシスは目をとじてしまいました。
 
 そして、だんだんとひかりがよわくなっていくのを、サシスはまぶたのうらでかんじたのです。

 ゆっくりとサシスは目をあけました……

「あ! ロガシー! その姿すがたはいったい!」
「神の甲虫こうちゅうよろいだよ! これでボクはべるんだよ!」

 その姿はキラキラとしたひかり反射はんしゃする黒でつつまれています。
 ロガシーのうつくしいひとみのような色です。
 あたまだけ出して、くびから下は黒いヨロイでつつまれていたのです。
 それも、すごく強そうなヨロイなのです。

 細くてかわいらしく、きれいなロガシーに、そのヨロイがよく似合にあっています。



「さあ、ボクにつかまって、ボクもサシスをつかまえておくから」

 そういって、サシスとロガシーはきあうようなかたちになりました。
 サシスは、なんだかてれれくさいようなはずずかしいよう、それでいて、たのしいような不思議ふしぎ気持きもちになりました。

「ふふ、ボクとサシスは恋人同士こいびとどうしみたいだね」
「え? こい…… なんだって?」
「なんでもないさ、もう! さあ行くよ!」

 魔法少女ロガシーが、そういうとヨロイの背中せなかがぱっと二つにわれはねのようになりました。
 そして、ふたりは空にび立ったのです。アイウエ王国のカキクケとうげ要塞ようさいまで、ひとっととびです。
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