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10.タチツテ峠要塞攻防戦 その1

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 ロガシーはサシスを背中の方からだきかかえて飛びました。

「ありがとう! ロガシー これなら要塞まであっという間だ」
「気にしなくていいさ。ボクの魔法ならこれくらい簡単だよ」

 サシスは感心してしまいました。本当にすごい魔法少女です。
 くさいドロドロヌルヌルの黄土色の沼が下の方に見えます。
 すごく広く沼が広がっているのが分かります。

(これじゃあ、カキクケ皇国軍も前に進めないぞ)とサシスは思います。
 
 道はグネグネ曲がっていますが、飛んでしまえば一直線です。
 そしてタチツテ峠の要塞が見えた来たのです。
 本当にあっという間についてしまいそうです。 

「あれ? なんだろう…… みんな大騒ぎしているみたいだ」

 サシスは不思議そうにいいました。

「ボクたちが帰ってきたから、だいかんげいしているんじゃないかな?」
「うーん。ちがうと思うよ。だって、ロガシーは要塞に入ったことないんだから」
「ははは、そうだね。ボクは要塞には入ったことないや」

 ロガシーは、すごい魔法少女なのですが、どこかうっかりサンな感じがするのです。

「あ!! 弓だ。弓を撃ってきた!」
「あははは、あんなへなちゃこ弓なんて届かないよ!」

 確かに、弓矢は放たれますが、ロガシーとサシスが飛ぶ高さまでは飛んできません。
 ヘロヘロと勢いをなくした弓がずっと下の方で落ちていくのが見えるのです。

「ボクだよぉぉ!! サシス・セソだよ!! みんな! 撃たないで!!」

 しかし、高い空からさけんでもサシスの声は届きません。
 弓も届きませんが、声もとどかないのです。
 お互いに全く、無意味なことをしているとしかいえませんでした。

 要塞の兵隊たちは味方です。アイウエ王国の仲間なのです。しかしどうでしょうか?
 サシスは、なんで弓で撃たれているのか考えました。
 
「うーん。もしかしたらボクたちを敵と勘違いしているのかもしれないぞ」
「え? なんで?」
「アイウエ王国には空を飛んでやってくる魔法少女なんていないんだ」
「ふーん。ボクがいるんだけど」
「だって、だれも知らないよ。ロガシーのことを」
「う~ん、そうなんだ。それはこまったな。ボクはどうすればいいかな? サシス」
「そうだなぁ…… 声の届くとこまで降りるしかないかなぁ」
「うん、ボクモそう思っていたよ!」

 ロガシーはそういうと、キュンと身をひるがえし、急降下しました。

「わぁぁぁあぁぁ!! 早すぎるよ!!」
「あはははははは!! 大丈夫だよ。これだけ速ければ、弓で狙えないし」
「わぁぁぁぁ!!」
「早く、サシス! 味方だって言ってよ」
「わぁぁぁぁ!!」

 あまりの高速急降下に、サシスはアホウのように「わぁぁぁぁぁ」としか言えませんでした。
 
 バーン!!
 バーン!!
 バーン!!

 大きな音がしました。
 鉄砲です。それは、要塞を守るために備えられた「秘密兵器」だったのです。
 それの一斉射撃がはじまったのです。

「わあああ!! 鉄砲だ! あんなので撃たれたら死んじゃうよ!」

 弓矢もびゅんびゅんとんできます。この高さになると、当たったら突き刺さって死ぬかもしれません。

「ボクだよぉぉぉ!! ボクだ! サシス・セソだよ。伝令から帰ってきたんだよぉぉぉ!!」

 サシスは魂を絞り出すような。肺の中の空気をすべて、声に変えたような絶叫をしたのです。

 すると、要塞の方では――

「え? サシスだって? あの兵隊か?」
「はい。軍曹殿、たしかにサシスの声であります!」
「そうなのか、しかし―― なぜ、空から? サシスはいいとして、サシスを抱えて飛んでいるのはなんなのだ?」
「軍曹! あれは、王国からやってきた新しい兵では?」
「兵だと?」
「そうです。もしかしたら、魔法使いかもしれません」
「魔法使いだとぉぉ!!」

 軍曹はびっくりぎょうてんです。
 魔法使いという者がいるというのは聞いたことがありました。しかし、会ったことも見たことも有りません。

「そんな、すごい者が王国にいるのか?」
「はい、軍曹。魔法使いはいるのであります!」

 その兵隊は自信たっぷりにいいました。おそらく、本当に魔法使いを見たことがあるのかもしれません。

「うーん。そうなのか……」

 軍曹は考えます。ただ、サシスがいるのですから、敵ということはないでしょう。
 軍曹はそう思ったのです。

「よし、撃つのをやめろ! 撃ち方やめ!」

 弓矢も鉄砲も撃つのをやめます。
 というか、鉄砲は次の弾を込めるのに時間がかかるので、すぐに撃つことはできないのです。

 サシスとロガシーは要塞から鉄砲も弓矢も飛んでこなくなったのを見て、安心しました。

「これで降りられるね。サシス」
「そうだね。でも、ゆっくりおりてくれないかな。怖いよ――」
「はは、分かったよ。大丈夫」

 そう言って、ロガシーはゆっくりと飛行して、要塞の見張の塔の上に「トン」と降りたのです。
 当然、サシスもいっしょです。

「サシス・セソ一等兵、恥ずかしながら戻ってまいりました!」

 サシスは言いました。そして軍隊ですので敬礼します。
 敬礼しないとビンタが飛んでくるからです。

「うむ、戻ってきたか…… で、このぉぉ…… 真っ黒な女の子は、魔法使いなのか?」

 軍曹は聞きました。

「違うよ、ボクは魔法少女ロガシーだよ!」
「魔法少女!!」

 軍曹はおどろきました。魔法使いは聞いたことありましたが魔法少女など聞いたことがなかったのです。
 それは、つまり魔法が使える少女。魔法使いの少女という意味ではないかと軍曹は勝手に思いました。
 それを確認するのはなんだか、自分がなにも知らないのを部下に知られてしまうようではずかしかったからです。

「魔法少女だったのか!(なんなんだ? 魔法少女って)」
「そうだよ。ボクは魔法少女。この要塞にサシスといっしょに来たんだよ」
「それは、見ればわかるが……」

 軍曹はそう言って、視線をサシスに向けました。

「サシス一等兵、説明しろ。命令だ」
「サシス一等兵説明するであります!」

 サシスはこれまでのいきさつを話しました。
 サシスは正直なので、本当に本当のことを言って説明しました。
 自分が転んで、魔法少女に出会い、魔法少女と協力して、カキクケ皇国軍を魔法のくさい泥沼で足止めしたこと。
 そして、カキクケ皇国軍が戻ってきていることを言ったのです。

 軍曹は話を聞いて真っ青になりました。
 つまり、それはこの要塞がまた5万人の兵隊で囲まれるということなのです。
 せんりゃくてきには、ただしく、たいきょくてき、立場にたっていれば、真っ青になることないのです。
 これは、要塞に敵を惹きつけるのが目的の籠城戦なのですから。

 軍曹は本来の目的を忘れてうろたえるのでした。

「大丈夫だよ!! ボクがきたら、全然平気だよ」
「え?」

 軍曹はロガシーを見つめました。呆けた顔でした。

「あ、その前に、『神の甲虫よろい』を脱いで、もとのかわいい魔法少女に戻らないと」

 そう言うとロガシーはいったん、すぅぅっと息を吸い込むのでした。

「にゅる にゅる にゅる ぷりぷる ぬるぬる ぷぷぷ ぬゅるりん ぬゅるりん ぷりぷり にゅるりん」

 ロガシーが呪文の詠唱をはじめたのです。

「りゅるりん ぷりぴっぴ ぷりぷり げりっぱぁぁ!!」

 その呪文をとなえると、ロガシーは元の魔法少女の姿に戻ったのです。
 長い一本にまとめてある黒髪が、塔の上を流れる風の中でゆれるのでした。

「魔法少女……」

 軍曹はおどろいています。
 というか、サシス以外の兵隊はみんな驚きました。

「そうだよ! ボクは魔法少女ロガシー! みんなを助けてあげるよ!」

「助けるって…… いったい」
「魔法少女だって…… しかし、こんな小さな女の子が」
「魔法が使えるのか? じゃあ……」

 兵隊たちは驚きの声で口々にいいました。

 ふん、と鼻から息を吹いて、ロガシーは小さく平べったい胸を張ります。
 ボクに任せておけという感じです。
 
「サシス!」
「なんだい、ロガシー」
「あの敵を全部やっつければいいだよね!」

 ロガシーは自信たっぷりにいいました。
 そして、それは簡単にできてしまうだろうということがサシスには分かります。
 なったって、ロガシーは魔法少女なのですから。

 でも……
 やさしすぎるサシスは、敵でも殺してしまうのはかわいそうだと思うのでした。
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