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蒼の魔法士-本編-
Seg 24 在りし絆、綴りて証 -03-
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「……大丈夫か?」
「あ? だだだじょーぶだっ! 手ぇ繋ぐくらいっらい、なななんとも、何とも!」
明らかに挙動不審なユウに、キョトンとする井上坂。
自分の繋いだ手と、ユウのオタオタする様子を見て、
「なあ……」
石畳の脇にある赤い花を指さす。
「そこ、ヒガンバナが咲いている」
「え? うん……」
混乱する頭で探してみれば、ヒガンバナがあちらこちら、群れるように咲き、近くを小さなトンボが飛んでいる。
「囃子も聞こえてきた……」
彼の言う通り、ユウが耳を澄ますと、どこからか笛や太鼓の音が響いてくる。
「もうすぐ字綴りを始めるからだ」
井上坂は、ユウを見てにこりと笑う。
彼なりに不安を和らげようとしてくれているようだ。
それを感じて、ユウの表情から緊張がほぐれ消えていく。
「落ち着いたようだな」
「うん……ありがとう。
なあ、『じつづり』って、どんなふうにするんだ?」
「難しい事はない。囃子に合わせて、言葉を音にして綴る」
彼は、繋いだ手をきゅっと自身に引き寄せる。
「君は、俺が今から言うことを真似て言ってくれればいい」
気付くと、周りは最初に通った参道の風景になっていた。
終わりの見えぬ石畳。
並ぶ灯籠。
点々と群れているヒガンバナ。
両脇を竹林が連なり、そこへ足を踏み入れた者を異世界へと誘い込むようだ。
竹が風に揺られ、葉と葉を擦りあい、さやめく音にのせて静かに聞こえてくる囃子の音。
幾重もの和楽器が奏でる緩やかな調べ、そして、シャン……と高く響く厳かな鈴の音に、空気が澄んでいく。
雰囲気が、最初の頃と違っていた。
井上坂は、すぅ……と歯を合わせて空気を口に含み、小さく、しかしはっきりと聞こえる低い声で言葉を綴る。
「人の為に有れ」
「ひ、ひとのためにあれ」
ユウも彼に倣って言葉を続ける。
「人と共に有れ」
「……ひとと、ともにあれ」
「人と賜て有れ」
「ひととしてあれ」
「アヤカシ災禍と非ず――」
「アヤカシさいかとあらず」
「朱音の雲を褥とす」
「あかねのくもを、しとねとす」
言葉は、紡ぐうちに囃子にのって歌へと変化していった。
ユウの耳は、奥の方がキィンと鳴り続けるのを感じていたが、不思議と不快ではなかった。
手を引かれ、ゆっくりと石畳を踏みしめ進むうち、言葉が体中に満ちていき、自然と口から零れ出る。
ユウは、無意識に歌っていた。
人のためにあれ
人とともにあれ
人としてあれ
アヤカシ災禍と非ず、朱音の雲を褥とす
歩むたびに空気が揺れ、柔らかい風となってユウを包む。
自分の声が囃子と風景に溶け込むようで心地よかった。
空を仰げば朱に染まり、茜雲が横たわって薄菫の瞳をもまた朱を映す。
その明るさが沁みて、瞼を閉じれば溜まった涙がこぼれ出る。頬を伝う一筋を、なぜか懐かしいと感じた。
忘れていた何かを思い出しそうになった。
「?」
気付くと、井上坂が手を添え涙を拭ってくれている。
我に返ったユウは早々に、人生二度目の声にならない声を上げることとなった。
「嫌だったか?」
井上坂は、少し困った風に笑う。
「やっ! あの、そのボク、兄ちゃん以外の人とこんなに近くにずっといるのってほとんどなくて――」
気恥ずかしいだの、変な意味はないだのと狼狽えるユウに、井上坂は軽く吹き出した。
「あ? だだだじょーぶだっ! 手ぇ繋ぐくらいっらい、なななんとも、何とも!」
明らかに挙動不審なユウに、キョトンとする井上坂。
自分の繋いだ手と、ユウのオタオタする様子を見て、
「なあ……」
石畳の脇にある赤い花を指さす。
「そこ、ヒガンバナが咲いている」
「え? うん……」
混乱する頭で探してみれば、ヒガンバナがあちらこちら、群れるように咲き、近くを小さなトンボが飛んでいる。
「囃子も聞こえてきた……」
彼の言う通り、ユウが耳を澄ますと、どこからか笛や太鼓の音が響いてくる。
「もうすぐ字綴りを始めるからだ」
井上坂は、ユウを見てにこりと笑う。
彼なりに不安を和らげようとしてくれているようだ。
それを感じて、ユウの表情から緊張がほぐれ消えていく。
「落ち着いたようだな」
「うん……ありがとう。
なあ、『じつづり』って、どんなふうにするんだ?」
「難しい事はない。囃子に合わせて、言葉を音にして綴る」
彼は、繋いだ手をきゅっと自身に引き寄せる。
「君は、俺が今から言うことを真似て言ってくれればいい」
気付くと、周りは最初に通った参道の風景になっていた。
終わりの見えぬ石畳。
並ぶ灯籠。
点々と群れているヒガンバナ。
両脇を竹林が連なり、そこへ足を踏み入れた者を異世界へと誘い込むようだ。
竹が風に揺られ、葉と葉を擦りあい、さやめく音にのせて静かに聞こえてくる囃子の音。
幾重もの和楽器が奏でる緩やかな調べ、そして、シャン……と高く響く厳かな鈴の音に、空気が澄んでいく。
雰囲気が、最初の頃と違っていた。
井上坂は、すぅ……と歯を合わせて空気を口に含み、小さく、しかしはっきりと聞こえる低い声で言葉を綴る。
「人の為に有れ」
「ひ、ひとのためにあれ」
ユウも彼に倣って言葉を続ける。
「人と共に有れ」
「……ひとと、ともにあれ」
「人と賜て有れ」
「ひととしてあれ」
「アヤカシ災禍と非ず――」
「アヤカシさいかとあらず」
「朱音の雲を褥とす」
「あかねのくもを、しとねとす」
言葉は、紡ぐうちに囃子にのって歌へと変化していった。
ユウの耳は、奥の方がキィンと鳴り続けるのを感じていたが、不思議と不快ではなかった。
手を引かれ、ゆっくりと石畳を踏みしめ進むうち、言葉が体中に満ちていき、自然と口から零れ出る。
ユウは、無意識に歌っていた。
人のためにあれ
人とともにあれ
人としてあれ
アヤカシ災禍と非ず、朱音の雲を褥とす
歩むたびに空気が揺れ、柔らかい風となってユウを包む。
自分の声が囃子と風景に溶け込むようで心地よかった。
空を仰げば朱に染まり、茜雲が横たわって薄菫の瞳をもまた朱を映す。
その明るさが沁みて、瞼を閉じれば溜まった涙がこぼれ出る。頬を伝う一筋を、なぜか懐かしいと感じた。
忘れていた何かを思い出しそうになった。
「?」
気付くと、井上坂が手を添え涙を拭ってくれている。
我に返ったユウは早々に、人生二度目の声にならない声を上げることとなった。
「嫌だったか?」
井上坂は、少し困った風に笑う。
「やっ! あの、そのボク、兄ちゃん以外の人とこんなに近くにずっといるのってほとんどなくて――」
気恥ずかしいだの、変な意味はないだのと狼狽えるユウに、井上坂は軽く吹き出した。
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