26 / 73
蒼の魔法士-本編-
Seg 25 在りし絆、綴りて証 -04-
しおりを挟む
「俺もだ」
「?」
顔の赤みを抑えられず、上気したまま井上坂を見る。彼は、言いにくそうに少し俯いた。
「最初、無愛想にしていてごめん。俺たちのとこに来る客は、全員が楽して事を成そうとする大人だから。
……だから、君みたいな子供は初めてだけど同じように考えてた」
でも君は違った、と彼は謝った。
「何で謝るの?」
予想していた返事と違う言葉に、井上坂は「え……?」と目を丸くする。
「ボクだって、こうやって井上坂さんや言の葉屋さんに頼ってるよ」
「いや、君の場合は世界の方を君に合わせないといけないからだろ。それは言の葉屋と俺でないとできない事だ」
自分でも不思議なくらい擁護している、と井上坂は思った。
それもそうだ。ユウの姿に、彼のよく知る面影が重なっていることに、今気付いた。
井上坂は、小さな頭を撫でる。
大切に大切に、壊さないようにそっと。
「君を見ていて、懐かしい人を思い出した」
彼の瞳は、ユウを通してその人を見ている。
恩人か友人か、はたまた想い人か。懐かしき思いで表情が優しげになる。
ユウもつられて頬が緩んだ。
「きっと、その人も井上坂さんのこと、大切にしていると思う」
「え……?」
――どうして、そう思う
言おうとしてやめた。
ユウが言うなら、そうなのだろう。そう思えた。
「……そうだね。きっとそうだろうね」
「井上坂さんが大切に感じているのだから、その人も井上坂さんのこと大切に思っている。ボクだったら、そう考えた方が嬉しい」
薄菫の瞳はまっすぐ井上坂を映し出す。
透き通った瞳をきれいだと、ずっと見ていたいと彼は思った。
「ねえ、ユウ……手の平を出して」
「はい?」
急なことに戸惑っていると、井上坂から手を伸ばしユウの手をとる。
「わっ……!?」
「俺から君へ御守りの歌を綴るから。もし、危険なことに遭ったら、この歌を歌って御覧」
そう言って、ユウの手の平に指で文字を綴った。
綴られた文字は淡く光り、読み取ることはできなかったが、ユウの脳裏に歌となって流れてきた。
「うあ……なんか、すごい」
初めての感覚に、言葉の表現が追いつかない。
「忘れてたのを思い出したような感じがする?」
「うんっ!」
「そう、きっと役に立つよ」
言われて喜ぶユウの顔が、井上坂を自然と笑顔にした。
「?」
顔の赤みを抑えられず、上気したまま井上坂を見る。彼は、言いにくそうに少し俯いた。
「最初、無愛想にしていてごめん。俺たちのとこに来る客は、全員が楽して事を成そうとする大人だから。
……だから、君みたいな子供は初めてだけど同じように考えてた」
でも君は違った、と彼は謝った。
「何で謝るの?」
予想していた返事と違う言葉に、井上坂は「え……?」と目を丸くする。
「ボクだって、こうやって井上坂さんや言の葉屋さんに頼ってるよ」
「いや、君の場合は世界の方を君に合わせないといけないからだろ。それは言の葉屋と俺でないとできない事だ」
自分でも不思議なくらい擁護している、と井上坂は思った。
それもそうだ。ユウの姿に、彼のよく知る面影が重なっていることに、今気付いた。
井上坂は、小さな頭を撫でる。
大切に大切に、壊さないようにそっと。
「君を見ていて、懐かしい人を思い出した」
彼の瞳は、ユウを通してその人を見ている。
恩人か友人か、はたまた想い人か。懐かしき思いで表情が優しげになる。
ユウもつられて頬が緩んだ。
「きっと、その人も井上坂さんのこと、大切にしていると思う」
「え……?」
――どうして、そう思う
言おうとしてやめた。
ユウが言うなら、そうなのだろう。そう思えた。
「……そうだね。きっとそうだろうね」
「井上坂さんが大切に感じているのだから、その人も井上坂さんのこと大切に思っている。ボクだったら、そう考えた方が嬉しい」
薄菫の瞳はまっすぐ井上坂を映し出す。
透き通った瞳をきれいだと、ずっと見ていたいと彼は思った。
「ねえ、ユウ……手の平を出して」
「はい?」
急なことに戸惑っていると、井上坂から手を伸ばしユウの手をとる。
「わっ……!?」
「俺から君へ御守りの歌を綴るから。もし、危険なことに遭ったら、この歌を歌って御覧」
そう言って、ユウの手の平に指で文字を綴った。
綴られた文字は淡く光り、読み取ることはできなかったが、ユウの脳裏に歌となって流れてきた。
「うあ……なんか、すごい」
初めての感覚に、言葉の表現が追いつかない。
「忘れてたのを思い出したような感じがする?」
「うんっ!」
「そう、きっと役に立つよ」
言われて喜ぶユウの顔が、井上坂を自然と笑顔にした。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
イカロスの騎士【帝国篇】
草壁文庫
ファンタジー
在位50年の騎士王プロクス=ハイキングは、「ロバの騎士様」と呼ばれ、王より下賜された小さな領地で穏やかに過ごしてきた。周囲は騎士王のことを、引退間際の老人だと思い込んでいた。しかし、その正体は不老の精霊人<マーブルス>。18歳の年のまま、素顔を隠して生きてきた女性。長く戦い続けてきた騎士王の夢は、海を渡り大切なひとがいる楽園に行くこと。だが、退位を前にして彼女を狙う者たちが暗躍し始める…!
ふだんはもふもふファンタジー絵本を描いている作者の初長編です!穏やかで優しい主人公と息子(弟?)のような弟子、主人公に恋する異形の弟子、隙あらば彼女を噛みまくる弟子(♀)が登場します。
投稿は毎週火曜〜日曜・21時、人物紹介を不定期更新
※戦闘描写、暴力描写、残酷描写等あるお話には(※)をつけます。
※こちらの作品は、カクヨムにて掲載しておりました完結作品の再編集版です。帝国篇の掲載後、魔界篇を登録予定。
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜
なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」
静寂をかき消す、衛兵の報告。
瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。
コリウス王国の国王––レオン・コリウス。
彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。
「構わん」……と。
周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。
これは……彼が望んだ結末であるからだ。
しかし彼は知らない。
この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。
王妃セレリナ。
彼女に消えて欲しかったのは……
いったい誰か?
◇◇◇
序盤はシリアスです。
楽しんでいただけるとうれしいです。
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる