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2章

第31話

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 俺は気絶したチノのもとへ駆け寄ると、ディーネの時に余分に作っておいた【超回復の草】を飲ませる。
 しばらくするとチノは息を吹き返した。

「……ッ、くぅっ……」

「気付いたか?」

「エル……ハルト……。まさかチノは……やられて、しまったのですか……?」

「ああ。悪いがこいつで決めさせてもらった」

 【大天具の聖なる竜剣】を自分の肩に当てながら俺はそう答えた。

「……そんな武器を作ってしまうなんて……。エルハルトはやっぱりすごいのですよ……」

「あんたには言ってなかったが俺は錬金鍛冶師なんだ。だからこんなものが作れたりするんだよ」

「錬金鍛冶師……。つまり、エルハルトは生産職だったわけですか……。フフ……信じられないのですよ……。チノがレベル1相手に負けたなんて……」

 そう口にするとチノは自虐的に笑う。
 これまで戦いを挑んで負けたことがなかったのかもしれない。

「なぜなんですか? エルハルトは……どうしてそんなに強いのです……?」

「俺は」

 一瞬本当のことを口にしそうになるが寸前のところで思い留まった。
 転生者だってことを告げるのは規律違反だ。

「いや。今は俺のことよりもあんたが心配だ。立ち上がることはできるか?」
 
「え? あ、いえ……。1人だとちょっと、無理かもしれないのです……」

 俺は竜剣を一度亜空間に収納するとチノの前にしゃがみ込む。
 
「俺の肩に掴まってくれ。バルハラまで運ぶから」

「……そ、そんな……エルハルトに申し訳ないのですよ……」

「こんな平原で朝まで寝っ転がっていたいのか? 夜風にやられて風邪引くぞ?」

「ぅっ……」

「おんぶしてやるから早く背中に掴まれ」

「……わ、分かりましたのです……」

 少し戸惑いを見せつつもチノは大人しく俺の背中に掴まってくれる。
 ディーネよりも全然軽い。
 
(あいつは胸がだいぶあるからな。それで少し重くなってたのかもしれないな)

 まあこんなこと本人には言えないが。

 今日一日戦い尽くしだったから疲労感は少し溜まっていたが、この分だと街まで余裕で運べそうだ。
 俺はチノを背負いつつ、ひとまず見守ってくれていた2人のもとへと向かった。



 ◇◇◇



 シュルリーーン!

 一旦チノを草地へ下ろすと守護結界を解いてもらう。
 するとすぐにナズナとディーネが駆け寄ってきた。

「マスターご無事でしょうか? お怪我はありませんか?」

「俺の方は問題ない。大丈夫だ」

「そうでしたか……安心しました。あれだけの攻撃を避け続けるなんてさすがはマスターです。本当にお見事でした」

 ナズナがホッと胸を撫で下ろしていると、ディーネが頬を膨らませながらチノに詰め寄る。

「ちょっとやりすぎだって、チノ! エルハルト君が死んじゃうかと思ったんだから~」

「ごめんなさいなのです……ディーネ。つい熱くなって我を失ってしまいました……」

「もしエルハルト君に何かあったらウチはさすがにチノのこと許せなかったと思うよ」

「本当に申し訳ないのです……ごめんなさい」

 怒られた子供のようにチノはしゅんとして縮こまってしまう。
 どうやら心の底から反省しているようだ。

「ディーネもそれくらいにしてやってくれ。俺も覚悟の上で今回の追試に臨んだわけだからな。チノはルールに違反するようなことは何もしてないと思うぞ」

「それは、そうかもしれないけどさぁ……」

 ディーネも俺のことをかなり心配してくれていたようだ。
 本当に感謝しかない。

 そんな風に皆で話していると、野次馬の方から聞き覚えのある声が飛んでくる。

「あのギルマスに勝つとか……あの男、バケモノかよ!?」
「劣等職のくせにどこにそんな力が……」
「ふ……ふざけんな! 生産職の分際でこんな……俺は信じないぜッ!」
「ああ、絶対にインチキしたに決まってるっ……!」

 昨日の不良どもか。
 こんなところまでわざわざ見に来ていたんだな。

 どうせ俺がボロボロに負けるところを見たかったんだろうが、あいにく望んだ光景は拝めなかったようだ。

 一度連中の方へ視線を向けてみる。

 すると。

「「「「ヒィィィィィッ!?」」」」

 不良たちはなぜか引き攣った顔を浮かべながら全員で尻もちをついた。
 そして、焦った様子で一目散にこの場から姿を消してしまう。

 よく分からなかったが、これでぎゃあぎゃあと騒いでいた連中はいなくなった。
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