57 / 81
2章
第24話
しおりを挟む
「チノ。俺が冒険者試験に落ちたこととディーネは関係ないぞ。単純に俺がヘマして時間内にギルドへ戻って来られなかっただけだ」
「ごめんなさいなのです、エルハルト。チノは今ディーネに訊いているのですよ」
俺をまっすぐに捉えてそう告げるチノには有無を言わさない凄みのようなものがあった。
この鋭い洞察力と冷静さがあるからこそ、これだけ大きなギルドをまとめ上げることができているんだろう。
ここまではっきり言われたらさすがに何も言えないか。
暫しの間、沈黙が俺らの間に降り立つ。
ナズナも固唾を呑んで状況を見守っていた。
やがて。
その静寂をディーネが破る。
「……そうだよ、チノ。エルハルト君が試験に落ちたのはウチのせいなんだ」
「ディーネ、いいのか?」
「ごめんエルハルト君。やっぱりウチ、嘘はつけないよ」
どこか決意した様子で頷くとディーネはチノに向けてこう続けた。
「ウチは……ベルセルクオーディンを倒していないの」
「本当なのですか?」
「うん」
「ですが、ユリウス大森林の高熱源体が消滅するのをチノは魔法で確認済みなのです。それならベルセルクオーディンは誰が倒したのですか?」
「エルハルト君だよ」
ディーネがそう口にすると、周りは再びざわざわと騒ぎ始める。
だが、今回は嘲笑するような声は含まれていなかった。
皆単純に驚いているようだ。
「エルハルトが……」
チノもまたそれを耳にして大きく驚いていた。
訝しそうに視線を俺に向けてくる。
「ベルセルクオーディンはウチが討伐したことにしてほしいって、エルハルト君はそう言ってくれたんだ。ウチはエルハルト君の好意に甘えちゃって……。チノ。嘘の報告をしてごめんなさい。全部ウチのせいなんだよ」
「いやそれは違う。俺が余計なことを言ったからディーネを戸惑わせてしまったんだ。責任はすべて俺にある。ディーネを責めないでやってくれ」
チノは俺ら2人の顔を交互に見つめながら首を横に振った。
「何か勘違いしているのです、エルハルト。チノはべつに責めたりなんてしないのですよ。目的は果たされたわけですから。ただ少し気になります。どうしてエルハルトはディーネの功績にしようなんて考えたのですか?」
「それは……」
俺が言い淀んでいると、隣りに並ぶディーネが口を開いた。
「エルハルト君はウチのためにそう言ってくれたんだよ。多分、ウチがチノに失望されないようにって」
「失望、ですか?」
「ウチはベルセルクオーディンに全然敵わなかったんだ。エルハルト君たちが助けに来てくれなかったら間違いなく死んでいたよ。ごめんね、チノ。すごい期待してくれていたのにそれに応えることができなくて……。でもウチじゃ無理だったんだ」
「ディーネがまったく敵わなかったなんてにわかに信じられません」
チノは神妙な表情を浮かべていた。
ディーネがそこまで追い込まれたことが信じられないのかもしれないな。
「でも事実なんだよ」
「……」
「エルハルト君はウチを助けたから日没までにギルドへ帰って来られなかったんだ。だから、エルハルト君が試験に落ちたのはウチのせい。チノ。どうにかエルハルト君の不合格を取り消せないかな……? ウチにはどんなペナルティを課しても構わないからさ」
「ごめんなさいなのです、ディーネ。ほかの子たちがいる手前それはできないのです。エルハルトが冒険者試験をクリアできなかったのは事実なわけですから。彼だけ例外を認めるわけにはいかないのですよ」
「そんな……」
「もういいんだ、ディーネ。それとチノ。いろいろと騒がせてしまってすまなかったな。すぐに出て行くから許してくれ」
今度こそ俺はこの場を後にしようとする。
しかし。
「待ってください」
そう俺を呼び止めるとチノは目の前までやって来た。
「エルハルト。改めて確認します。あなたがベルセルクオーディンを倒したっていうのは本当なのですね?」
俺は一度ディーネに目を向ける。
胸の谷間で指を組んで彼女はまっすぐに俺を見つめていた。
(さすがにもう誤魔化せないか)
それを確認すると俺はしっかりと頷いた。
「ああ。本当だ」
「そうですか」
そこでチノは俺のもとから離れた。
何かを思案するように頬に人差し指を当てる。
やがて答えが出たのか。
チノはこんな風に切り出してきた。
「分かりました。では追試を行うことにするのです」
「ごめんなさいなのです、エルハルト。チノは今ディーネに訊いているのですよ」
俺をまっすぐに捉えてそう告げるチノには有無を言わさない凄みのようなものがあった。
この鋭い洞察力と冷静さがあるからこそ、これだけ大きなギルドをまとめ上げることができているんだろう。
ここまではっきり言われたらさすがに何も言えないか。
暫しの間、沈黙が俺らの間に降り立つ。
ナズナも固唾を呑んで状況を見守っていた。
やがて。
その静寂をディーネが破る。
「……そうだよ、チノ。エルハルト君が試験に落ちたのはウチのせいなんだ」
「ディーネ、いいのか?」
「ごめんエルハルト君。やっぱりウチ、嘘はつけないよ」
どこか決意した様子で頷くとディーネはチノに向けてこう続けた。
「ウチは……ベルセルクオーディンを倒していないの」
「本当なのですか?」
「うん」
「ですが、ユリウス大森林の高熱源体が消滅するのをチノは魔法で確認済みなのです。それならベルセルクオーディンは誰が倒したのですか?」
「エルハルト君だよ」
ディーネがそう口にすると、周りは再びざわざわと騒ぎ始める。
だが、今回は嘲笑するような声は含まれていなかった。
皆単純に驚いているようだ。
「エルハルトが……」
チノもまたそれを耳にして大きく驚いていた。
訝しそうに視線を俺に向けてくる。
「ベルセルクオーディンはウチが討伐したことにしてほしいって、エルハルト君はそう言ってくれたんだ。ウチはエルハルト君の好意に甘えちゃって……。チノ。嘘の報告をしてごめんなさい。全部ウチのせいなんだよ」
「いやそれは違う。俺が余計なことを言ったからディーネを戸惑わせてしまったんだ。責任はすべて俺にある。ディーネを責めないでやってくれ」
チノは俺ら2人の顔を交互に見つめながら首を横に振った。
「何か勘違いしているのです、エルハルト。チノはべつに責めたりなんてしないのですよ。目的は果たされたわけですから。ただ少し気になります。どうしてエルハルトはディーネの功績にしようなんて考えたのですか?」
「それは……」
俺が言い淀んでいると、隣りに並ぶディーネが口を開いた。
「エルハルト君はウチのためにそう言ってくれたんだよ。多分、ウチがチノに失望されないようにって」
「失望、ですか?」
「ウチはベルセルクオーディンに全然敵わなかったんだ。エルハルト君たちが助けに来てくれなかったら間違いなく死んでいたよ。ごめんね、チノ。すごい期待してくれていたのにそれに応えることができなくて……。でもウチじゃ無理だったんだ」
「ディーネがまったく敵わなかったなんてにわかに信じられません」
チノは神妙な表情を浮かべていた。
ディーネがそこまで追い込まれたことが信じられないのかもしれないな。
「でも事実なんだよ」
「……」
「エルハルト君はウチを助けたから日没までにギルドへ帰って来られなかったんだ。だから、エルハルト君が試験に落ちたのはウチのせい。チノ。どうにかエルハルト君の不合格を取り消せないかな……? ウチにはどんなペナルティを課しても構わないからさ」
「ごめんなさいなのです、ディーネ。ほかの子たちがいる手前それはできないのです。エルハルトが冒険者試験をクリアできなかったのは事実なわけですから。彼だけ例外を認めるわけにはいかないのですよ」
「そんな……」
「もういいんだ、ディーネ。それとチノ。いろいろと騒がせてしまってすまなかったな。すぐに出て行くから許してくれ」
今度こそ俺はこの場を後にしようとする。
しかし。
「待ってください」
そう俺を呼び止めるとチノは目の前までやって来た。
「エルハルト。改めて確認します。あなたがベルセルクオーディンを倒したっていうのは本当なのですね?」
俺は一度ディーネに目を向ける。
胸の谷間で指を組んで彼女はまっすぐに俺を見つめていた。
(さすがにもう誤魔化せないか)
それを確認すると俺はしっかりと頷いた。
「ああ。本当だ」
「そうですか」
そこでチノは俺のもとから離れた。
何かを思案するように頬に人差し指を当てる。
やがて答えが出たのか。
チノはこんな風に切り出してきた。
「分かりました。では追試を行うことにするのです」
1
お気に入りに追加
1,538
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ガチャと異世界転生 システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!
よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。
獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。
俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。
単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。
ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。
大抵ガチャがあるんだよな。
幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。
だが俺は運がなかった。
ゲームの話ではないぞ?
現実で、だ。
疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。
そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。
そのまま帰らぬ人となったようだ。
で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。
どうやら異世界だ。
魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。
しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。
10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。
そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。
5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。
残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。
そんなある日、変化がやってきた。
疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。
その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。
途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。
さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。
魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。
一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。
神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜
月風レイ
ファンタジー
グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。
それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。
と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。
洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。
カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる