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1章
第23話
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「当代の大巫女様は幼い頃から不治の病を患っているんだよ。今は14歳で来年でちょうど成人を迎えるんだけどね。余命は幾ばくも残されていないっていう話だよ。だから大巫女様の血筋は当代で途絶えるんじゃないかって言われているのさ」
「それは深刻ですね」
「けど大巫女様はよく耐えられているよ。精神的にもきつい状況にあるはずだからね」
ということは明日でも死んでもおかしくないってことだ。
ナズナが言うようにかなり深刻な状況だと言える。
「その当代の大巫女ってのはどんなヤツなんだ?」
「うちら里民も大巫女様の姿はちゃんと見たことがないのさ。ずっとあの高台の大きな社に籠って生活を送っているからね」
「そうか」
縁もゆかりもない大巫女のはずなのにどうしてか他人事には思えなかった。
すると、同じことを思ったのか。
ナズナが耳元に囁きかけてきた。
「マスター。大巫女がいなくなってしまうと勇者マモンにも影響があるのではないでしょうか?」
「たしかにそうだな」
仮にもしマモンがこの里へ辿り着く前に大巫女が死んでしまったら、クレストオーブを受け取ることができなくなる。
魔王を弱体化させるにはすべてのオーブを集める必要があるから一つでも欠けたら意味がないのだ。
前世でもそうだったから俺にはそれがどれほどの痛手かよく分かった。
最強の無双神器を作れたとしても魔王を倒すことはできないかもしれない。
「どうにかすることはできないのでしょうか?」
「……」
ナズナの言葉を聞きながら俺は唇に親指を当てて考える。
大巫女の病を治療できればそれが一番なんだが。
「なあ女将。大巫女の病は本当に治すことはできないのか?」
ダメ元でそう訊ねると予想外の言葉が返ってくる。
「いや治療方法なら分かっているのさ」
「なに?」
「水明山の山頂に落ちている素材を組み合わせて特効薬を作ることができるんだけどね。でも、これまでにそれを完成することができた薬師がいないのさ。王都ビフレストの一級薬師や他国で活躍する特級薬師を連れて来てもそれを完成するには至らなかったっていう話だよ」
女将いわく、大巫女はこれまでに何代にも渡ってこの病に苦しめられてきたようだ。
原因はよく分かっていないらしい。
クレストオーブの力に引っ張られて病を引き起こしているっていう説が有力のようだが、今はそんなことは関係ない。
俺が聞きたいのは治療に必要な素材の詳細だった。
「女将。その特効薬を作るのに必要なアイテムは何か分かるか?」
「そういう話はうちの旦那が詳しかったはずだけどね」
「確認してくれないか?」
「? どうして旅人のお前さんがそんなことを知りたがるんだい?」
「頼む。この通りだ」
俺は折り目正しく頭を下げた。
それで女将も何か感じ取ってくれたようだ。
「まあ……そんなに知りたいなら聞いてくるさ。ちょっと待ってな」
女将は一度席を外すと受付の奥へと姿を消していった。
「何を考えていらっしゃるんでしょうか、マスター?」
「ひょっとしたら俺のスキルを使って特効薬を作ることができるかもしれない」
「本当ですか?」
「まだ分からないけどな」
だが試してみる価値はあるはずだ。
〝困っている人を助けるのは当然のことだから〟
この時の俺の頭の中では、なぜか昨日出会った褐色の少女の言葉が甦っていた。
◇◇◇
それから俺は特効薬を作るのに必要な素材を女将から聞き出した。
【アメジストのソーマ】、【生命のしずく】、【古代剛力樹】。
どうやらこれら三つのアイテムを組み合わせれば特効薬を作ることができるようだ。
(《ヴァルキリーの技巧》だと三つ以上のアイテムを組み合わせることはできないが)
だが、今回は武器を生み出すわけじゃない。
薬なら作れるっていう可能性もある。
とにかくこれらの素材を集めないことには何も始まらないな。
俺は宿屋を出るとナズナに確認した。
「バルハラへ出発する前に少し寄り道をしてもいいか?」
「もちろんです。水明山を登られるのですね?」
「ああ。俺は大巫女の命を救いたい」
勇者の話を抜きにしてもこんなことを聞かされて何もしないわけにはいかなかった。
「さすがマスターです。私もマスターのお役に立ちたいと思います」
「頼んだぞ」
アイテム探しならナズナがいてくれると心強い。
今日中にバルハラへ到着したいから、さくっと探して終わらせてしまおう。
「それは深刻ですね」
「けど大巫女様はよく耐えられているよ。精神的にもきつい状況にあるはずだからね」
ということは明日でも死んでもおかしくないってことだ。
ナズナが言うようにかなり深刻な状況だと言える。
「その当代の大巫女ってのはどんなヤツなんだ?」
「うちら里民も大巫女様の姿はちゃんと見たことがないのさ。ずっとあの高台の大きな社に籠って生活を送っているからね」
「そうか」
縁もゆかりもない大巫女のはずなのにどうしてか他人事には思えなかった。
すると、同じことを思ったのか。
ナズナが耳元に囁きかけてきた。
「マスター。大巫女がいなくなってしまうと勇者マモンにも影響があるのではないでしょうか?」
「たしかにそうだな」
仮にもしマモンがこの里へ辿り着く前に大巫女が死んでしまったら、クレストオーブを受け取ることができなくなる。
魔王を弱体化させるにはすべてのオーブを集める必要があるから一つでも欠けたら意味がないのだ。
前世でもそうだったから俺にはそれがどれほどの痛手かよく分かった。
最強の無双神器を作れたとしても魔王を倒すことはできないかもしれない。
「どうにかすることはできないのでしょうか?」
「……」
ナズナの言葉を聞きながら俺は唇に親指を当てて考える。
大巫女の病を治療できればそれが一番なんだが。
「なあ女将。大巫女の病は本当に治すことはできないのか?」
ダメ元でそう訊ねると予想外の言葉が返ってくる。
「いや治療方法なら分かっているのさ」
「なに?」
「水明山の山頂に落ちている素材を組み合わせて特効薬を作ることができるんだけどね。でも、これまでにそれを完成することができた薬師がいないのさ。王都ビフレストの一級薬師や他国で活躍する特級薬師を連れて来てもそれを完成するには至らなかったっていう話だよ」
女将いわく、大巫女はこれまでに何代にも渡ってこの病に苦しめられてきたようだ。
原因はよく分かっていないらしい。
クレストオーブの力に引っ張られて病を引き起こしているっていう説が有力のようだが、今はそんなことは関係ない。
俺が聞きたいのは治療に必要な素材の詳細だった。
「女将。その特効薬を作るのに必要なアイテムは何か分かるか?」
「そういう話はうちの旦那が詳しかったはずだけどね」
「確認してくれないか?」
「? どうして旅人のお前さんがそんなことを知りたがるんだい?」
「頼む。この通りだ」
俺は折り目正しく頭を下げた。
それで女将も何か感じ取ってくれたようだ。
「まあ……そんなに知りたいなら聞いてくるさ。ちょっと待ってな」
女将は一度席を外すと受付の奥へと姿を消していった。
「何を考えていらっしゃるんでしょうか、マスター?」
「ひょっとしたら俺のスキルを使って特効薬を作ることができるかもしれない」
「本当ですか?」
「まだ分からないけどな」
だが試してみる価値はあるはずだ。
〝困っている人を助けるのは当然のことだから〟
この時の俺の頭の中では、なぜか昨日出会った褐色の少女の言葉が甦っていた。
◇◇◇
それから俺は特効薬を作るのに必要な素材を女将から聞き出した。
【アメジストのソーマ】、【生命のしずく】、【古代剛力樹】。
どうやらこれら三つのアイテムを組み合わせれば特効薬を作ることができるようだ。
(《ヴァルキリーの技巧》だと三つ以上のアイテムを組み合わせることはできないが)
だが、今回は武器を生み出すわけじゃない。
薬なら作れるっていう可能性もある。
とにかくこれらの素材を集めないことには何も始まらないな。
俺は宿屋を出るとナズナに確認した。
「バルハラへ出発する前に少し寄り道をしてもいいか?」
「もちろんです。水明山を登られるのですね?」
「ああ。俺は大巫女の命を救いたい」
勇者の話を抜きにしてもこんなことを聞かされて何もしないわけにはいかなかった。
「さすがマスターです。私もマスターのお役に立ちたいと思います」
「頼んだぞ」
アイテム探しならナズナがいてくれると心強い。
今日中にバルハラへ到着したいから、さくっと探して終わらせてしまおう。
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