11 / 28
10.再会②
しおりを挟む
抱き付かれてどれくらいの時間が経っただろうか。ロイと呼ばれる男が『お嬢様』と大声で叫ぶだけでは飽き足らず、段々と啜り泣き始めた頃だ。
知人ではないが知っているような気がするという微妙な違和感のせいで、抵抗するにも慰めるにも何だか違和感を感じてしまい、ロイと呼ばれる男に抱き付かれるがままで内心困りながらも心を無にして放置していた。そんな意味のわからない状況に救いの手が叩き込まれた。
「ロイ!アンタ、何してんだ!!?」
聞き覚えのある声と共に周囲に鈍い音が響き、ロイの頭越しに私に衝撃が伝わる。
そして当のロイはよほど痛かったのだろう、くぐもったような声を出しながら渋々と私から離れていった。
そこで私は初めて正面からロイと向き合う。きっと先程後ろから叩かれたせいだろう、彼はマントのフードがずれて、その顔が露になっていた。
燃える様な紅い髪の毛に、月を彷彿とさせる切れ長の金の瞳……。クレティアと並ぶとかなり近い容姿だと思うと同時に記憶の奥底の蓋が開かれる様な感覚に襲われた。
そう。彼はずっと幼い私を守り自由を与えてくれていた人――あの両親によって首にされたお世話係。心の奥底でずっと私自身の『罪』として棘のように残り続けていた人だった。
「ロイってまさか――――」
「はい!アリアお嬢様の下僕のロイです」
「んん?えっと私の子供の頃のお世話係を務めてたロイよね?……下僕じゃなくて」
「いいえ。私は貴女様の犬、そして下僕です。何故貴女がここに居るのかはわかりませんが、私は再び会えるのをずっと……心待ちにしていたんです」
「え、犬!?」
訂正すれば訂正するほどにどんどんロイの立場が低くなっていく。思い出した瞬間には私のせいで首にされたことを恨んでいるのではないかとヒヤヒヤしていたが、そんな態度は全くない。むしろ彼は再会を心から喜んでいるように見えた。
それにもっと変なのは昔のロイは確かに優しかったという記憶はある。だが彼はこんな自分を下僕や犬などと言う人間だっただろうか……。
思い出してみてもそんな記憶はない。変化し過ぎた彼に対して、もしかして再会を心待ちにしていたというのも先程までの発言も、全てが恨んでいるが故の遠回しな嫌がらせかとすら思い始めた頃。今まで様子見をするだけだったクレティアが口を開いた。
「おーい、アリア。そいつ基本的に話を聞かないから、会話しない方がいいぞ」
「五月蠅いですよ。小蠅風情が私とお嬢様の会話に入ってこないでください」
私と話している時とは別人のような冷たさで発される言葉。基本的に丁寧な言葉遣いのイメージしかなかったロイの小蠅風情という言葉にも驚いたが、それよりも驚かされる発言が後に待ち構えていた。
「アンタ、姉の事を小蠅って……はあ」
「姉!?」
「そうさ。そいつはアタシの弟にしてこのギルドの副団長を務めるロイ……どうやらアンタとは知り合いみたいだがね」
まるで夕食のメニューを言うかのように何でもない事かのように軽く判明していく新事実達。
とりあえずロイは誰に対してでも話を聞かないという事が分かり、恨まれているのでは?という説は薄くなったが……新しい事実を聞かされすぎて、頭での処理が追い付かない。しかしそんなことは気にも留められることなく、眼の前の姉弟二人の会話は続いていく。
「それにしてもロイ、アンタがずっと……耳に胼胝ができるくらいに言っていたお嬢様ってこの子の事だったんだね」
「ええ、そうですよ。貴方がずっと協力を渋っていたあの計画にて救い出す予定だった公爵家のお嬢様です」
「あの計画?」
混乱しながらも私は会話の気になる個所を復唱する。会話の流れからして、確実に私に関わる事だろう。
「お嬢様を救うための計画です」
にっこりと微笑むようにそう言ったロイの瞳には、私に対する隠しきれない程の執着心が見え隠れしていた気がした。
知人ではないが知っているような気がするという微妙な違和感のせいで、抵抗するにも慰めるにも何だか違和感を感じてしまい、ロイと呼ばれる男に抱き付かれるがままで内心困りながらも心を無にして放置していた。そんな意味のわからない状況に救いの手が叩き込まれた。
「ロイ!アンタ、何してんだ!!?」
聞き覚えのある声と共に周囲に鈍い音が響き、ロイの頭越しに私に衝撃が伝わる。
そして当のロイはよほど痛かったのだろう、くぐもったような声を出しながら渋々と私から離れていった。
そこで私は初めて正面からロイと向き合う。きっと先程後ろから叩かれたせいだろう、彼はマントのフードがずれて、その顔が露になっていた。
燃える様な紅い髪の毛に、月を彷彿とさせる切れ長の金の瞳……。クレティアと並ぶとかなり近い容姿だと思うと同時に記憶の奥底の蓋が開かれる様な感覚に襲われた。
そう。彼はずっと幼い私を守り自由を与えてくれていた人――あの両親によって首にされたお世話係。心の奥底でずっと私自身の『罪』として棘のように残り続けていた人だった。
「ロイってまさか――――」
「はい!アリアお嬢様の下僕のロイです」
「んん?えっと私の子供の頃のお世話係を務めてたロイよね?……下僕じゃなくて」
「いいえ。私は貴女様の犬、そして下僕です。何故貴女がここに居るのかはわかりませんが、私は再び会えるのをずっと……心待ちにしていたんです」
「え、犬!?」
訂正すれば訂正するほどにどんどんロイの立場が低くなっていく。思い出した瞬間には私のせいで首にされたことを恨んでいるのではないかとヒヤヒヤしていたが、そんな態度は全くない。むしろ彼は再会を心から喜んでいるように見えた。
それにもっと変なのは昔のロイは確かに優しかったという記憶はある。だが彼はこんな自分を下僕や犬などと言う人間だっただろうか……。
思い出してみてもそんな記憶はない。変化し過ぎた彼に対して、もしかして再会を心待ちにしていたというのも先程までの発言も、全てが恨んでいるが故の遠回しな嫌がらせかとすら思い始めた頃。今まで様子見をするだけだったクレティアが口を開いた。
「おーい、アリア。そいつ基本的に話を聞かないから、会話しない方がいいぞ」
「五月蠅いですよ。小蠅風情が私とお嬢様の会話に入ってこないでください」
私と話している時とは別人のような冷たさで発される言葉。基本的に丁寧な言葉遣いのイメージしかなかったロイの小蠅風情という言葉にも驚いたが、それよりも驚かされる発言が後に待ち構えていた。
「アンタ、姉の事を小蠅って……はあ」
「姉!?」
「そうさ。そいつはアタシの弟にしてこのギルドの副団長を務めるロイ……どうやらアンタとは知り合いみたいだがね」
まるで夕食のメニューを言うかのように何でもない事かのように軽く判明していく新事実達。
とりあえずロイは誰に対してでも話を聞かないという事が分かり、恨まれているのでは?という説は薄くなったが……新しい事実を聞かされすぎて、頭での処理が追い付かない。しかしそんなことは気にも留められることなく、眼の前の姉弟二人の会話は続いていく。
「それにしてもロイ、アンタがずっと……耳に胼胝ができるくらいに言っていたお嬢様ってこの子の事だったんだね」
「ええ、そうですよ。貴方がずっと協力を渋っていたあの計画にて救い出す予定だった公爵家のお嬢様です」
「あの計画?」
混乱しながらも私は会話の気になる個所を復唱する。会話の流れからして、確実に私に関わる事だろう。
「お嬢様を救うための計画です」
にっこりと微笑むようにそう言ったロイの瞳には、私に対する隠しきれない程の執着心が見え隠れしていた気がした。
982
お気に入りに追加
2,007
あなたにおすすめの小説
どーでもいいからさっさと勘当して
水
恋愛
とある侯爵貴族、三兄妹の真ん中長女のヒルディア。優秀な兄、可憐な妹に囲まれた彼女の人生はある日をきっかけに転機を迎える。
妹に婚約者?あたしの婚約者だった人?
姉だから妹の幸せを祈って身を引け?普通逆じゃないっけ。
うん、まあどーでもいいし、それならこっちも好き勝手にするわ。
※ザマアに期待しないでください
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。
火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。
王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。
そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。
エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。
それがこの国の終わりの始まりだった。
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
今日は私の結婚式
豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。
彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる