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7.ギルド

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が醒めた時、一番最初に目に入ったのは白い天井だった。
背中には少し硬めのクッション――もといベッドの感覚がある。何気なく右側を向くと、少し離れたところに木製のドアがあった。どうやらどこかの一室らしい。
しかしこんなところまで来て眠ったなんて記憶が私にはなかった。

自分が今どこにいるのか、記憶に焼き付いているあの魔物はどうなったのか……。
状況が分からず頭が混乱する。身体を起こそうとしたその時、四肢に力を入れても重しが纏わりついたかのように起き上がることが出来ないことに気づいた。私を押さえるのものの正体は、左側から毛布越しに腹と肩に柔らかく、でも確実に巻き付いた腕――レオンのものだった。

一番気掛かりだったレオンが生きて隣にいるという事実に安心する。兄達がいなくなってからはずっと、『唯一の味方』であり、両親に勘当されて縁を切った今は『唯一の肉親』と言っても過言ではない存在。
私を信じてあそこから一緒に出て行きたいと言ってくれた存在を今まで力不足で守ってあげられなかった分まで守ってあげたい。心の底からの気持ちだった。

レオンは私を真横から抱きしめ、目を閉じて眠りに落ちている。昔よりも大人びた顔立ち、そして大きくなった身体。しかし目元は赤く、若干の腫れが目立ち、子供の様に泣いた跡がうかがえた。

「心配、かけちゃったかな?ごめんね」

左の手を伸ばして、指通りの良い漆黒の髪の毛を軽く撫でる。
今日は今までの事を全て覆すような……とにかく色々な事があった。きっと疲れているのだろう。レオンは触れられても起きる気配すらない。けれど少し寝顔が穏やかになったような気がして微笑が溢れた。

ここは何処だろうという気持ちはあったが、私もかなり疲れており、レオンも暫くは起こしたくない。
そうして少し微睡んでいると扉が開く気配があった。意識が一気に覚醒し、そちらに目線を向ける。

「あー、起こしちまったかい?」
「貴女、は……」
「待て待て。倒れたんだから、まだ寝てな。大体の事情はソコで寝てるアンタの弟から聞いた。だからアタシの話は寝ながら、無理のない程度で聞くんでいい」

話を聞こうと、思わず身体を一気に起こそうとした私を諫めて、女性は声を潜めながら話を続けた。

「アンタらはね、森で魔物に襲われてたんだよ。んでそれはアタシが討伐依頼を受けて探してたやつだった。それで丁度魔物の気配を感じて、追っていった先にアンタらがいたんだ。遅くなってすまなかった……本当に間に合って良かったよ」

最後は優しい声音で安心したように言われる。女性は遅くなったことをかなり気にしているようだったが、私達はむしろ助けてもらった側だ。感謝はすれども怒る道理などない。

「そんな、遅くなっただなんて――むしろ助けて頂いたようで感謝しています。私なんて二度も助けられて……」

そう。一度目は舞踏会から逃げ出してきた私の話を聞いてくれた時、そして魔物からも救ってくれた。この女性には感謝してもしきれない。

「アタシは大したことはしてないさ」
「それでもお礼を言わせてください。本当に有難うございました」

女性は柔らかく微笑んで、本当に大したことはしていないというような言い方で話す。それでも私は助けてもらった恩を感じずにはいられなかった。
けれど今日明日の宿もご飯も確保できるか否か分からない程に先が見えない私には、何をすればそれを返せるかなど分からない。礼を言ったはいいが、視線を彷徨わせて無言になってしまう。

「……それで話は変わるんだが、アンタらはこの後、行く場所に宛てはあるのかい?」
「――っ!」

丁度今考えていたことを良い当てられ、身体がビクリと反応してしまう。心を読まれたのかと錯覚するほどのタイミングだった。

「そこのアンタの弟から聞いたが、勘当……されちまったんだろう?貴族で、しかもアンタらは若い。だから宛てがあるのか気になったんだ」
「正直に言うと、ありません。親戚も殆ど交流はないですし、元の領地にも助けてくれるような人はいませんので」

こんなところで嘘を吐いても仕方がない故に、素直に事実を伝える。
本当に私達には何もないのだなと、自分の言葉に虚しさすら感じてしまう。でも今回の選択に後悔はなかった。

気まずい雰囲気が漂い、女性はバツが悪そうに後頭部を掻く。
そして少し何かを考えた後『決めた!』とそう言って、寝た体制のままの私に視線を合わせて来た。

「アンタ、アタシのギルドに入る気はないかい?丁度今、辞めるってやつがいてね。人手が足りないんだ。雑用でも何でもいい。今ならなんと、衣食住の保証付き!……アタシの事を助けると思ってうちに入ってくれないか?」

パンと顔の間で手を合わせながら、悪戯をこっそりと教えてくれる子供の様な無邪気さで女性は笑みを浮かべる。

今まで私の近くにいたどんな人間とも違う。
初めて出会った人間にすら無償の施しと応援の言葉を与えてしまえる人間だ。信じられないわけがない。
彼女はほぼ確実に私達を助けるために助けを求めている風に装っているのだろう。しかしこれから頑張れば、私がそんな彼女の役に立てるかもしれない……否、絶対に役に立ってみせると思えた。

だから返事は既に決まっている。

「はい。是非ギルドに加入させてください……!!」

これが公爵令嬢としての私の完全なる終焉であり、私という一人の人間の始まりだった――。
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