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8.新天地
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ギルドに加入することを決め、身体を休めた後。私がレオンに彼が寝ていた時に決まった事を話すと、彼は私だけに全てを背負わせたくないから、と共にギルドに入団するという運びになった。
レオンは私より2歳も年下なのだから、と彼の意見に反論したが、レオンの意志は固く結局私が折れる形で入団することになり、そのままギルドの本拠地へと出発することになった。
ギルドの本拠地へ向かう馬車の中では色んなことを話した。
中でも一番衝撃だったのは、私達はお互いの名前すら知らない状態でやり取りしていたことだった。会ってから話を聞いてもらい、この馬車に乗って揺られるまでずっと……。
それに気づいた時の反応はといえば女性――クレティアは笑い転げ、私は気恥ずかしさで顔を伏せ、レオンは何がなんだかよく分からないという顔をしていた。
これも改めて知った事だが、クレティアはアルカード傭兵ギルドの団長だったらしい。素直に驚く。ギルドにいれてくれるというので、それなりの立場の人間だとは思っていたが、まさかトップとも言える人間だったなんて、と。そんな人間が自分達に声を掛けてくれたことにも驚いた。
それと同時に新しくいく場所を少し楽しみにも思った。こんなにも人としての優しさを持つ女性が長を務めるギルドというはとても暖かい場所なのだろう。
そうして馬車に乗ること一週間。長い馬車生活で肩や腰が痛くなって来た頃。アルカード傭兵ギルドがあるラーガレット王国の北の国境を超えた魔導大国リンブルク南西部――フレシュテイルの街に到着した。
馬車の外から街を眺めていると、妙に人が多く賑わっていることに気が付く。先日までいたラーガレット王国の王都と比べても遜色ない程の賑わいだ。
今日はお祭りか何かがあるのかとクレティアに聞くと、理由を誇らしそうに説明してくれた。
曰く、この街はギルドがある故にかなり栄えている街なのだという。ギルド――その中でも特に強いギルドが位置する街というのは、基本的に安全が確保されているために自然と人が集まりやすく、人口が多い。またこのアルカード傭兵ギルドはこの国でも1,2を争う程の実力を誇っているために依頼に来る人間も多数存在する。だからこそ、こんなに多くの人がいるのだと。そしてそのように人が多く集まるものだから市場もかなり発展している。
要はこれはお祭りなどではなく、通常の状態。毎日こんな感じの状態なのだそうだ。
私はとんでもない場所に来てしまったな……と呆然と思うが、心のどこかはワクワクしていた。
***
街の最奥まで進むと、一際大きく目立つ立派な建物にクレティアは迷いなく進んでいく。その行動からここが目的地のギルドなのだと察することが出来た。
「今、帰ったよ」
クレティアがそのギルドの扉を開けて、そう言葉を発した瞬間。視線が一点に集まり場が静まり返る。
そしてその空白の直後、静けさを打ち消すようにわあっと歓声があがった。
「やっと帰ってきたんすか!書類仕事が山積みになっていますよ、クレティアさん!!」
「団長、僕に稽古を――」
「ねえ聞いてよ、クレティアちゃん!私また振られたのっ!」
「おいおい、クレティア!俺に仕事押し付けておいて……やあっと帰って来やがったのか!!?」
内容は千差万別だが、その全てがクレティアに向けられたものであり、どの言葉からも彼女がこのギルドにいる人達から慕われている事が伝わってくる。
「はいはい。お前ら。そんなことよりも新入りだよ!……自己紹介を」
「えっと……クレティアさんに救っていただいた上にギルドに誘っていただきました。アリアネット=カ――いえ、アリアネットです。この子は弟のレオン。皆さん、よろしくお願いします」
私は敢えて本名……アリアネット=カルカーンとは名乗らなかった。クレティアのギルドに誘ってもらい、ここに来ることになった時に『カルカーン』という名前はもう捨てることを密かに心の中で決めていた。
場が再び静まり返る。真意の読めない視線だけがじろじろと向けられる。何か間違ってしまったかと焦ったが、それは杞憂だった。
「こ、こんな可愛い子達、どこで捕まえてきたんだ?クレティア……?」
「まさか密猟――――!?」
私より10歳くらい上くらいだろうか、額に古傷のある男性がクレティアに疑念の目を向ける。その言葉に触発されるかのようにギルド内で密猟や捕獲など物騒な言葉が響き始めた。
「アンタら……そこに並びな。全員叩き斬ってやるよっ!!」
「ひえええぇぇ」
怒りからか、わなわなと震え出したクレティアが怒鳴る。その言葉でギルド内は追う側と追われる側に別れ、更に賑やかになる。全員が笑って見ていることからこれがいつもの風景なのかもしれない。
そんな雰囲気につられて思わず私もレオンも笑ってしまう。それを見た逃げる側に徹していた数名の団員が声を掛けて来た。
「よろしくな、アリアちゃん!」
「よろしくね~」
「よっしゃ!今日は新人歓迎の宴だ~!!」
こうしてギルド生活が幕を開けた――。
レオンは私より2歳も年下なのだから、と彼の意見に反論したが、レオンの意志は固く結局私が折れる形で入団することになり、そのままギルドの本拠地へと出発することになった。
ギルドの本拠地へ向かう馬車の中では色んなことを話した。
中でも一番衝撃だったのは、私達はお互いの名前すら知らない状態でやり取りしていたことだった。会ってから話を聞いてもらい、この馬車に乗って揺られるまでずっと……。
それに気づいた時の反応はといえば女性――クレティアは笑い転げ、私は気恥ずかしさで顔を伏せ、レオンは何がなんだかよく分からないという顔をしていた。
これも改めて知った事だが、クレティアはアルカード傭兵ギルドの団長だったらしい。素直に驚く。ギルドにいれてくれるというので、それなりの立場の人間だとは思っていたが、まさかトップとも言える人間だったなんて、と。そんな人間が自分達に声を掛けてくれたことにも驚いた。
それと同時に新しくいく場所を少し楽しみにも思った。こんなにも人としての優しさを持つ女性が長を務めるギルドというはとても暖かい場所なのだろう。
そうして馬車に乗ること一週間。長い馬車生活で肩や腰が痛くなって来た頃。アルカード傭兵ギルドがあるラーガレット王国の北の国境を超えた魔導大国リンブルク南西部――フレシュテイルの街に到着した。
馬車の外から街を眺めていると、妙に人が多く賑わっていることに気が付く。先日までいたラーガレット王国の王都と比べても遜色ない程の賑わいだ。
今日はお祭りか何かがあるのかとクレティアに聞くと、理由を誇らしそうに説明してくれた。
曰く、この街はギルドがある故にかなり栄えている街なのだという。ギルド――その中でも特に強いギルドが位置する街というのは、基本的に安全が確保されているために自然と人が集まりやすく、人口が多い。またこのアルカード傭兵ギルドはこの国でも1,2を争う程の実力を誇っているために依頼に来る人間も多数存在する。だからこそ、こんなに多くの人がいるのだと。そしてそのように人が多く集まるものだから市場もかなり発展している。
要はこれはお祭りなどではなく、通常の状態。毎日こんな感じの状態なのだそうだ。
私はとんでもない場所に来てしまったな……と呆然と思うが、心のどこかはワクワクしていた。
***
街の最奥まで進むと、一際大きく目立つ立派な建物にクレティアは迷いなく進んでいく。その行動からここが目的地のギルドなのだと察することが出来た。
「今、帰ったよ」
クレティアがそのギルドの扉を開けて、そう言葉を発した瞬間。視線が一点に集まり場が静まり返る。
そしてその空白の直後、静けさを打ち消すようにわあっと歓声があがった。
「やっと帰ってきたんすか!書類仕事が山積みになっていますよ、クレティアさん!!」
「団長、僕に稽古を――」
「ねえ聞いてよ、クレティアちゃん!私また振られたのっ!」
「おいおい、クレティア!俺に仕事押し付けておいて……やあっと帰って来やがったのか!!?」
内容は千差万別だが、その全てがクレティアに向けられたものであり、どの言葉からも彼女がこのギルドにいる人達から慕われている事が伝わってくる。
「はいはい。お前ら。そんなことよりも新入りだよ!……自己紹介を」
「えっと……クレティアさんに救っていただいた上にギルドに誘っていただきました。アリアネット=カ――いえ、アリアネットです。この子は弟のレオン。皆さん、よろしくお願いします」
私は敢えて本名……アリアネット=カルカーンとは名乗らなかった。クレティアのギルドに誘ってもらい、ここに来ることになった時に『カルカーン』という名前はもう捨てることを密かに心の中で決めていた。
場が再び静まり返る。真意の読めない視線だけがじろじろと向けられる。何か間違ってしまったかと焦ったが、それは杞憂だった。
「こ、こんな可愛い子達、どこで捕まえてきたんだ?クレティア……?」
「まさか密猟――――!?」
私より10歳くらい上くらいだろうか、額に古傷のある男性がクレティアに疑念の目を向ける。その言葉に触発されるかのようにギルド内で密猟や捕獲など物騒な言葉が響き始めた。
「アンタら……そこに並びな。全員叩き斬ってやるよっ!!」
「ひえええぇぇ」
怒りからか、わなわなと震え出したクレティアが怒鳴る。その言葉でギルド内は追う側と追われる側に別れ、更に賑やかになる。全員が笑って見ていることからこれがいつもの風景なのかもしれない。
そんな雰囲気につられて思わず私もレオンも笑ってしまう。それを見た逃げる側に徹していた数名の団員が声を掛けて来た。
「よろしくな、アリアちゃん!」
「よろしくね~」
「よっしゃ!今日は新人歓迎の宴だ~!!」
こうしてギルド生活が幕を開けた――。
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