婚約者曰く、私は『誰にも必要とされない人間』らしいので、公爵令嬢をやめて好きに生きさせてもらいます

皇 翼

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4.過去との決別

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あの女性からもらったカードがどんな代物なのかは分からないが、言われた通りに使えば、すぐに御者付きの馬車を用意してもらえた。そうしてその馬車に揺られて1時間ほど。
カルカーン公爵家・タウンハウスの門前に到着した頃には、夜の闇が裂け、空には朝日が覗き込んでいた。先程の宿で目に氷嚢をあてていたお陰で腫れもなく、視界がスッキリとしている。

「さて、行きますか」

ここまで乗せてくれた御者に礼を言った後、自分を鼓舞するためにあえて大きめな声で決意をする。
今まで被ってきた殻を破る緊張感とこれから起こる事への不安感や恐怖心、そして未来への期待――。様々な感情が入り混じるが引き返そうとは思わない。
私は今までにない堂々とした態度で門番に話しかけた。

******

無駄にギラギラとした装飾が目立つ屋敷の応接間。

あの後。私はメイド達に軽く着替えさせられ、応接間に通された。
部屋には私の父親であるカルカーン公爵家当主と母である公爵夫人が揃っており、重苦しい空気が張り詰めている。そんな中、最初に口を開いたのは母様だった。

「アリア。貴女、ジブリール様を置いて帰ったそうじゃない?しかもこんな時間に帰ってきて。私は日頃から言ってきた筈よ。公爵家の品格を貶めないよう――」
「このカルカーン公爵家なんかに『品格』があると思っているのですか?私は彼に呆れて帰って来ただけです。それとも母様にとっての公爵家の誇りは王族に陰口を叩かれることなのでしょうか」
「へっ――!?」

何があったかも知らないくせに、全てを私だけのせいにして詰ってくる母親に怒りがわいた。それ故に言葉を切って反論すると、こんな反撃は予期していなかったのか母は私と同じ蒼色の目を大きく開いて絶句する。

「母様はいつも『公爵家の品格』や『公爵家の誇り』とおっしゃいますよね。けれど私は昔からそれらをどうしても理解することできないのです。この家には果たしてそんなものがあるのですか?」
「アリア、お前っ――――」
「父様は公爵としての仕事をせずに、あっちへこっちへフラフラ。この間も真夜中にまた新しい愛人を家に連れ込んでいましたよね。その愛人の方、この間私に訴えてきましたよ。『貴方の父親の子供を孕んでいるから、この家の金を寄越せ』と……一体何人の愛人や隠し子がいることやら」
「貴方!?それはどういうことですか!!?」

私のこの反抗的な態度を見兼ねたのか、掴みかかろうとしてきた父親に言葉の刃の矛先を向ける。愛人の子供の事を話題に出すと、公爵の表情は面白いくらいに変化する。先程の態度はどこへやら。夫人にまで責められ、顔面は蒼白になっていた。

「そんな風に父様に怒りをぶつけている母様も、領民から搾取している事など気にもせず、外で使わないようなドレスや宝石を買って贅沢三昧……自分で何の努力もせずに私を王族の婚約者にして更なる地位を得ようだなんて、貴方方の何処に公爵家としての誇りがあるのでしょうか。愚かな私に、是非とも教えていただけませんか?」
「っ~~!!」

夫人は公爵とは真逆の反応だ。怒りで歯をギチギチと食いしばり、顔を真っ赤にして言葉にならない声を上げている。そんな二人を冷静に観察しながら、締めくくった。

「兄様達が出て行ったのも今なら分かる。……こんな家、潰れてしまえばいいのに!」

私が8つの時公爵家を出て行った二人の兄。彼らが出て行ったのも、この両親らに呆れ果てたせいなのかもしれない。当時は自分と幼い弟を置いて出て行った兄達の事を心配――両親の正体を知った後に責任を逃れて自分達を置いていったことを恨み、記憶の奥底に彼らの事は封印して、忘れたふりをしていた。だが、今現在の年まで至った私が家を出ていこうといるしていることを考えると、兄達だけを責められないなと心の中で苦笑いする。

「っお前の様な娘は勘当だ!今すぐ出ていけ!!一生この家の敷居をまたぐんじゃない!!」
「言われなくても出ていきます。私はもう、貴方方に一生縛られたりなんてしない!」

叩きつけるように応接間の扉を閉める。勘当されて帰る家がなくなったというのに、私の心は悲しむどころか、満足して顔に笑みを浮かべさせていた。今まで言えなかった本心を口に出せた事も、これで両親やジブリールと会う必要が無くなる事も……全てが嬉しかった。
全てが言われた通りの道具に成り下がるなんて、死んでいるのと同義だと今なら思う。きっともしこの選択の後に、この公爵家の外で野垂れ死んで命を落としたとしても、私は後悔しないだろう。
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