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第一章:序章
7.馴化
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あれから。
提出したあの魔道具は簡単なテストをして、その性能を見た後、そのまま大会に出展された。
そして、今までの生活から大きく変わった事――。
「よお、フィーア!おーい、皆!!フィーアが来たぞー!!!」
「フィーアさん、おはようございます!!早速ですが、この魔道具の魔法式について――」
「おいおい、ミアーの魔道具よりこっちが先約だろう。フィーアの聖域結界の使用魔力量に関する魔法式の改良をするぞ」
木製の……だが、恐ろしい程の精密な自動認識系の魔法が掛けられた扉を開く。そして私が入って来たと分かった瞬間に掛けられる挨拶やら、今日の研究に関するお誘いの言葉達。
私はあの日から、村の魔道具を開発する人たちが集まる研究室に招待され、そこで毎日のように魔道具の研究をしている。
基本的にこの村の人間達の稼ぎは魔道具の開発や改良、そして生産だ。
大会に魔道具を出して賞金を稼いだり、知名度がある職人は依頼を受けたり、後は一般人用に魔道具を作成してそれを売ったりなどなど、全員が自身の実力に合わせた稼ぎ方をしているというかなり独特な村である。
この村に来て、人々に混じった研究を始めて驚いたこと。
この村の人々はずっと独学で魔法を学んできて、それなりに自信があった私ですら舌を巻くほどに魔法というものに関する知識が深かった。
ブレメンス王国に居た頃。当時は基本的に私以外に魔法を使える人間と言えば、一部の貴族とその下で働く魔力持ちと言われる特殊な人間だけだった。
しかし、その貴族も基本的に盾という名の従者に守られ、他の些事も全て部下任せで怠惰な生活を送っている人間が大半だったため、魔法を研究している者など私の知る限り一人もいなかった。
皆が皆、聖女やその他の魔力持ちの力に頼りっぱなしで自分自身で生活を便利にしようとなど考えない人間達の集まり。
彼らは『国の金で生かしてやっているのでから、あの役に立たない聖女が全てやればいい』という考えを持っていた。魔法を知ろうとしないが故に、聖女の役割など誰でも簡単に出来ると思っていたのだ。
どの階級の人間にも、『便利な道具』として扱われていたのは嫌な思い出だった。
それに比べてこの村は、魔法を使える者全員が全員魔法というものを使えることを楽しんでいる。またそれを道具に込めて、魔道具という新しい発明をしていくことを趣味や生き甲斐にしているのだ。そこにあるのは純粋な好奇心と、こんなものがあったら良いな――ならば自分が作ろうというひたむきな向上心。
そもそもの考え方があの国の人間とは違うのだ。魔法を使えることは特別な事であり、楽しいことだ――と思っている人間の集まり。
そもそも私があの国でずっとやってこられたのも、魔法の研究をすることが好きだったからであり、彼女の考えはこの村の人間達に近いものであったのだった。だから驚くくらいに居心地が良かった。
この村の人間達は、男女関わらず全員が私と同じ位――否、それ以上に魔法に対する造詣が深い。
私が使用する魔力コスト上でも完璧だと思っていた魔法式が、この村の職人たちの手にかかれば更に魔力コストを抑え、かつ稼働時間も長いという魔道具としては稼働効率も高いものに変化していった。
魔道具職人達と議論を交わしながら、私が基盤を創った聖域結界の魔道具や他の魔道具に関する設計図を書き換えていく。
今迄一人でずっと魔法式の研究をしてきていた私にとって、このように対等な立場で議論を交わせるというのはとても楽しい事だった。
それと同時に一つも漏らすことなく、彼らの魔法や魔道具に関する知識を吸収し、その理解力と閃きで今までになかった新たな構造を創り出していけた。
議論を交わせば、絆は深まる。いつの間にか村の人々とは距離が近くなり、たった数日でこの村の一員となれている自覚が芽生えているほどだ。
「なるほど。ここの魔法式は、結界への外側からの衝撃への耐性をあげるためにこんな風に組んでいるのか」
「ええ。それで、そこの魔法式の外側に結界内部の聖域化の魔法式を組んでいるわ」
「う~~ん、そこの外側に組んでしまうと順序的に聖域化の魔法式が脆くなってしまわない?」
「それは私も創った時に考えていたけど、展開時の順序として、先に結界で内側を囲って聖域化の範囲を指定してから、内側を聖域化しないと使用する魔力が大幅に増えてしまうからそう組んであるの」
職人たちは、私が使った魔法式に容赦なく指摘をいれる。そして議論を重ねるのだ。そうすることによって――。
「正確な範囲指定が事前に出来れば、ここの順序を変えても問題はないということか。じゃあ、この魔法式を使ったらどうだ?これだった少ない魔力消費で、簡単に座標指定が出来る」
「出たー!ガイウスさんお得意の座標指定魔法式!!」
「この魔法式は、どれくらいの精度でどれほどの範囲の座標指定が出来るの?」
「この式で細かく組めば、数ミリの誤差が産まれる程度だな。若干の誤差が出る代わりに指定できる範囲は広い。前この式を使った時は、街一つ丸々囲うことが出来た。組み方によってはもっと伸ばせるだろう」
「十分!!是非とも使わせてもらうわ。その式の組み方、教えて!」
今迄に思いもつかなかった最適解が産まれる。
この研究室に来てから、私は確実にその魔法に関する知識、そして技術がメキメキと上がっていると確信できるほどに成長していた。
提出したあの魔道具は簡単なテストをして、その性能を見た後、そのまま大会に出展された。
そして、今までの生活から大きく変わった事――。
「よお、フィーア!おーい、皆!!フィーアが来たぞー!!!」
「フィーアさん、おはようございます!!早速ですが、この魔道具の魔法式について――」
「おいおい、ミアーの魔道具よりこっちが先約だろう。フィーアの聖域結界の使用魔力量に関する魔法式の改良をするぞ」
木製の……だが、恐ろしい程の精密な自動認識系の魔法が掛けられた扉を開く。そして私が入って来たと分かった瞬間に掛けられる挨拶やら、今日の研究に関するお誘いの言葉達。
私はあの日から、村の魔道具を開発する人たちが集まる研究室に招待され、そこで毎日のように魔道具の研究をしている。
基本的にこの村の人間達の稼ぎは魔道具の開発や改良、そして生産だ。
大会に魔道具を出して賞金を稼いだり、知名度がある職人は依頼を受けたり、後は一般人用に魔道具を作成してそれを売ったりなどなど、全員が自身の実力に合わせた稼ぎ方をしているというかなり独特な村である。
この村に来て、人々に混じった研究を始めて驚いたこと。
この村の人々はずっと独学で魔法を学んできて、それなりに自信があった私ですら舌を巻くほどに魔法というものに関する知識が深かった。
ブレメンス王国に居た頃。当時は基本的に私以外に魔法を使える人間と言えば、一部の貴族とその下で働く魔力持ちと言われる特殊な人間だけだった。
しかし、その貴族も基本的に盾という名の従者に守られ、他の些事も全て部下任せで怠惰な生活を送っている人間が大半だったため、魔法を研究している者など私の知る限り一人もいなかった。
皆が皆、聖女やその他の魔力持ちの力に頼りっぱなしで自分自身で生活を便利にしようとなど考えない人間達の集まり。
彼らは『国の金で生かしてやっているのでから、あの役に立たない聖女が全てやればいい』という考えを持っていた。魔法を知ろうとしないが故に、聖女の役割など誰でも簡単に出来ると思っていたのだ。
どの階級の人間にも、『便利な道具』として扱われていたのは嫌な思い出だった。
それに比べてこの村は、魔法を使える者全員が全員魔法というものを使えることを楽しんでいる。またそれを道具に込めて、魔道具という新しい発明をしていくことを趣味や生き甲斐にしているのだ。そこにあるのは純粋な好奇心と、こんなものがあったら良いな――ならば自分が作ろうというひたむきな向上心。
そもそもの考え方があの国の人間とは違うのだ。魔法を使えることは特別な事であり、楽しいことだ――と思っている人間の集まり。
そもそも私があの国でずっとやってこられたのも、魔法の研究をすることが好きだったからであり、彼女の考えはこの村の人間達に近いものであったのだった。だから驚くくらいに居心地が良かった。
この村の人間達は、男女関わらず全員が私と同じ位――否、それ以上に魔法に対する造詣が深い。
私が使用する魔力コスト上でも完璧だと思っていた魔法式が、この村の職人たちの手にかかれば更に魔力コストを抑え、かつ稼働時間も長いという魔道具としては稼働効率も高いものに変化していった。
魔道具職人達と議論を交わしながら、私が基盤を創った聖域結界の魔道具や他の魔道具に関する設計図を書き換えていく。
今迄一人でずっと魔法式の研究をしてきていた私にとって、このように対等な立場で議論を交わせるというのはとても楽しい事だった。
それと同時に一つも漏らすことなく、彼らの魔法や魔道具に関する知識を吸収し、その理解力と閃きで今までになかった新たな構造を創り出していけた。
議論を交わせば、絆は深まる。いつの間にか村の人々とは距離が近くなり、たった数日でこの村の一員となれている自覚が芽生えているほどだ。
「なるほど。ここの魔法式は、結界への外側からの衝撃への耐性をあげるためにこんな風に組んでいるのか」
「ええ。それで、そこの魔法式の外側に結界内部の聖域化の魔法式を組んでいるわ」
「う~~ん、そこの外側に組んでしまうと順序的に聖域化の魔法式が脆くなってしまわない?」
「それは私も創った時に考えていたけど、展開時の順序として、先に結界で内側を囲って聖域化の範囲を指定してから、内側を聖域化しないと使用する魔力が大幅に増えてしまうからそう組んであるの」
職人たちは、私が使った魔法式に容赦なく指摘をいれる。そして議論を重ねるのだ。そうすることによって――。
「正確な範囲指定が事前に出来れば、ここの順序を変えても問題はないということか。じゃあ、この魔法式を使ったらどうだ?これだった少ない魔力消費で、簡単に座標指定が出来る」
「出たー!ガイウスさんお得意の座標指定魔法式!!」
「この魔法式は、どれくらいの精度でどれほどの範囲の座標指定が出来るの?」
「この式で細かく組めば、数ミリの誤差が産まれる程度だな。若干の誤差が出る代わりに指定できる範囲は広い。前この式を使った時は、街一つ丸々囲うことが出来た。組み方によってはもっと伸ばせるだろう」
「十分!!是非とも使わせてもらうわ。その式の組み方、教えて!」
今迄に思いもつかなかった最適解が産まれる。
この研究室に来てから、私は確実にその魔法に関する知識、そして技術がメキメキと上がっていると確信できるほどに成長していた。
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