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第一章

1-11 名前はコルドロン、愛称はコル

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 手紙には、マニュアルと同じく解読するのが難しい独特の字が並んでいたが、何とか読み進めていく。

『キミが来ることは、時空神が確定した未来を見て知っていた。だから、俺が所持している加護の中で一番取り扱いに困るが、とても強力なモノを託そうと思う。愛嬌があって優しい奴だから、大事にしてくれると嬉しい。足が不自由になるという話も聞いているから、コルドロン……愛称はコルっていうんだけど、コイツに頼めば何とかなると思う。調合については、大鍋化して適当に放り込めばなんとかなるから安心して欲しい。マニュアルは俺の文字で書いている部分はすぐに読めると思うけれども、違う世界の時空神が書いてくれた部分は、成長に合わせて読めるようになっているらしいので、焦らないように。これからも大変だと思うけど、時が来ればまた手紙が出てくるので、取説は大事にしてくれよな!』

 一枚の便せんに、ぎっしりと詰め込まれた文章と情報――
 しかも、違う世界の時空神も巻き込んで、何をやっているのだろうか。
 呆れの感情を抱きながらも、有用な情報も沢山あったので良しとしようと考えていたら、続きがあることに気がついた。
 二枚目?
 ペラリと便せんをめくってみると、そこには短くこう書かれていた。

『手でパンッ! って叩いて出すのも考えたんだけど、やっぱり、女の子の錬金術師っていったら大鍋だよな! 似合いの可愛いコスチュームもコルの中にあるから、好きに使ってくれ!』

 ……最後の一文で、初代国王の人となりが判ったような気がする。
 あの……コスチュームって何?
 それに、私は錬金術師なの?
 初代国王陛下なりの気遣いなのだろうが、ツッコミどころが多すぎる。

「え……えーと……コルドロン……コルっていうの?」

 私の言葉を聞いて、大きくなっても表情など無いとわかっているのに、明るい表情をしたとわかるようなコミカルな動きでバンザーイをした。
 どうやら、愛称で呼ばれて嬉しいらしい。

「じゃあ、これからはコルって呼びますね」

 くるくる回ってバンザーイ! 言葉は話せなくても、人間とここまで意思疎通が出来るのが凄い。
 初代国王陛下も可愛がっていたようだし、その理由もわかる。

「あの……初代国王陛下が、コルに色々とお願いしているというのだけど、それって……」

 ハッ! と何かを思い出したようで動きを止めたコルは、両手を鍋の中へ差し入れて何かを探し始めた。
 何もない鍋の中……と、思いきや。
 いつの間にか鍋の中には、七色の宇宙のように数多の星々が煌めいている。
 色味だけ見ていたら綺麗だが、差し入れられたコルの手は、どっぷり漬かっていて先が見えない状態になっていた。
 そ、その中に手を入れても大丈夫なの?
 すぐに何かを探し当てたコルは、テーブルに取り出した物を並べ始める。
 何かの衣類――多分、これはコスチュームだろう。
 細工が美しい大きな杖――これもコスチュームの一部だろうか。
 ホワイトボードみたいなモノとペン。
 それと、足のない椅子っぽいもの――日本で見た『人を駄目にするソファー』のような感じもするが、座椅子みたいなモノだろうか。

「なんだか沢山出てきましたわね」
「お嬢様、最初に出てきた服……とても生地が良さそうですし、繊細なデザインが可愛いです!」
「強い何かを感じるな……ゼオルドはどうだ?」
「杖もそうですが、同じく……奇妙な感覚があります」
「その杖も見事な細工ですなぁ……中心となる青色の宝石が折り重なっている……まるでつぼみのようですし、周囲の金細工は太陽と月。所々にあしらわれている蔦も芸術的で、見ているだけで引き込まれそうだ……」

 屈強な戦士というイメージを持っていたランスから出た言葉とは思えないほど、彼の言葉は大きな杖を的確に表していた。
 空にも海の色にも見える煌めく宝石は花のつぼみのようであり、その周囲を取り巻く蔦は優雅で美しい。
 所々にあしらわれているのは、紅水晶で作った桜の花だろうか。
 そして、何よりも凄いのが、太陽と月のシンボルだ。
 杖と宝石の接合部分を包み込みながらも、その存在感を放つ。

『それは【天晶華の杖】です。ボクの中に材料を入れて調合をする時に、魔力を注ぎながら混ぜる必要があります。その時に役立ってくれるはずです』

 ホワイトボードみたいな物に丸っこい可愛らしい文字を書いて見せたコルは、私たちに説明をしてくれているようだ。
 そういう使い方をするための道具なのね……
 今の一瞬で、大きな杖――【天晶華の杖】とホワイトボードとペンの使い方は判った。

『続いて、この服装ですが、勇者様が錬金術師はコレだと言って、縫製を司る女神様に無理を言って作っていました』

 無理強いは良くないと思います!
 ――とはいえ、とても素敵な衣装である。
 ふわりとした少し短めのスカートに膝上までガードする長めのブーツ。
 凝った装飾品だけでも見惚れるほど優美で可愛らしいと思う。
 そして、極めつけがビスチェと翼か花びらを……いや、おそらく、両方を意識したローブだ。
 裾に行くほど広がる様は、とても繊細で美しい。
 ただ、白を基調としていて汚れないか心配ではある。
 杖とお揃いの宝石で作っている装飾品が私の髪色に栄えるし、大きめの髪飾りがあるのも嬉しいポイントだ。

「お嬢様……着替えましょう!」
「そうしましょう。着替えてお披露目しましょう!」

 何故か私よりもロレーナと王太子妃殿下が乗り気である。
 え? と思い、その勢いに頬が引きつった私は、助けを求めるように男性陣を見た。
 しかし、私が助けの言葉を口にする前に、王太子殿下が爽やかな顔でこう告げたのだ。

「婚約者に可愛らしい姿を見せたいだろうから、頑張ってこい」
「無慈悲ではっ!?」
「ゼオルドも、婚約者の可愛い姿が見たいよな?」
「えっ!? あ……その……ま、まあ……それは……見たいですね」

 ふわっ!
 他の誰かに言われた言葉ではなく、ホーエンベルク卿からの言葉であるだけで、受ける衝撃が違うと実感する。
 顔だけではなく、全身が熱くなった気がして、慌てていると……コルが、座椅子? のようなものを手に持った。
 何をするのだろうか……
 ジッと全員が見ている前で、コルはそれをかぶって固定してから、ひょいっと私の体を持ち上げて座らせる。
 うわぁ、すごく座り心地が良い……ではなくて!

「あ、あの……コル?」
『新しいマスターの移動の介助も任されておりますので、ご安心ください』
「い、至れり尽くせり……」

 初代国王陛下の、ちょっと行きすぎた部分はあれど、私が不自由な体でも快適に過ごせるように考えてくれたのだと、その時になってようやく気づく。
 同郷というだけで、ここまでしてくれるなんて……
 初代国王陛下は、豪胆で心優しくあたたかい人であったという記述が残されていたが、私もそうだと感じる。
 出来ることなら、直接お礼を言いたいくらいだ。
 ふわふわ浮いているコルは、ホーエンベルク卿にも『一緒に乗れますが、乗りますか?』と問いかけている。
 えっと……何人まで乗車可能なのですか?
 もしかしたら、この子は大きさを自在に変化させられるのかも知れない。
 そんなことを考えていたら、いそいそと私の両サイドに王太子妃殿下とロレーナが乗り込む。
 浮遊感を覚えることもなく移動も快適。
 これなら、私が乗っていても大丈夫だと二人が言ってくれたおかげか、心配そうにしていた男性陣がホッと安堵の吐息をついた。
 落ちないようにしっかりと体が固定されているので安定感がある。
 凄いと笑い合っていたのも束の間、『空を飛ぶことになれば、シートベルトをしますね』とホワイトボードに書くコルに、私たちは眩暈を覚えると共に言葉を失ったのである。

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