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からくり奇譚 編
083. 公家屋敷の密談
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ユーゴ達が入国した奉ヶ崎のある松風藩。
その南には九能藩が臨しており、更にその東には陽元国の国王、陽王がいる【京極】がある。
京極は藩ではなく、陽元の首都である神都を擁する小国のようになっており、一種の治外法権が存在する。
神都は公家が多く、武家社会となった陽元国でも疎かに侍が口出し出来ないようになっている。
その神都の公家屋敷のひとつに、三人の武士が座してこの屋敷の主を待っていた。
襖が開いてこの屋敷の主が姿を見せた。
「皆、よく集まってくれた。耳にしておると思うが、飛田屋がしくじった」
主───駒井玄隆が盟友たち一同を見回して告げた。
「飛田屋が、ですか。所詮、成金風情には荷が重かったようですな」
「然り。しかし飛田屋の役目は我々の計画の本筋からは外れておりまする。人魚の肉は惜しいが、やつは居らずとも構わぬでしょう」
男たちが口々に錦兵衛を罵る。それを聞いた駒井が更に告げる。
「飛田屋自体はどうでも良い。しかし困ったことになってな」
「と、申されますと?」
「うむ。彼奴を始末させようと谷川から借りた浪人共に任せたのだが、そやつらを打ち倒し、飛田屋を攫ったものがおる」
「なんですと!?」
「どうやら飛田屋と、やつが飼っておった船乗り共がまとめて奉行所に突き出されたようだ」
「左様ですか。それで我々にお呼びがかかったと」
「うむ。今頃はお前たちの屋敷にも奉行所の手が伸びておることだろうよ。それで門倉よ、計画の首尾はどうなっておる?」
「は。滞りなく。機巧武人、必要数揃っております」
侍の一人───門倉源心は答えた。
門倉は新見藩の機巧普請目付の職に就いており、この計画に必要な機体の製造を担っていた。
「一ノ瀬はどうだ?」
「資金、兵糧、物資、潤沢に。一年は保つでしょう」
一ノ瀬善次郎は水脇藩の代官だ。繋がりのあるならず者たちに違法薬物などを捌かせ、飛田屋とともに資金を提供していた。
「谷川は?」
谷川萬斎───山岡藩の武術指南役である。
各地から職にあぶれた浪人や珍しい能力を持ったものを探し出し、この計画の要所に派遣している。
「浪人共の操縦訓練は終わり、実戦投入可能な練度に達しております。以前お話しした者が複製した例の物が、予想よりいい仕事をしております。また、あの九能信衛に勝るとも劣らぬからくり職人がおりましてな。其奴が例の新型機を完成させました。門倉殿と連携を取り、既に数は揃えております」
三人の盟友の報告を受け、駒井は瞑目した。
「先刻、あの御方に判断を仰いだ。永遠の命は惜しいが致し方ない、と。かくなる上は計画の前倒しも已む無し、と」
「おお! それでは?」
「うむ。我等の手に陽元を取り戻すため───倒幕を開始する」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ユーゴと尚勝の決闘から数日が過ぎた。
その間、信衛の勧めもあって九能城で一行は過ごし、思い思いに楽しんだ。
フィールエルやネル、パレアの三人は町を回り、美味しい食事に舌鼓を打ったり、綺麗な着物を見て楽しんだ。
ユーゴはたまに女子三人に付き合わされたり尚勝と呑んだりしたが、基本的にはこの世界への被転送者の情報収集に時間を費やした。
そうしたある日の午後。ユーゴは信衛に伝えた。
「えっ!? もうお帰りになるのですか?」
信衛は本気でびっくりしているようだ。
「ああ。もうこの国では得られる情報は無さそうだ。それに、あまり長居するのもな」
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね。次は何処へ行かれるのですか?」
「フルータル王国に一度、戻ろうかと思う。フィールエルが残してきた仲間のことを気にしててな」
「え?」
ユーゴの答えを聞いたフィールエルが、驚きの声を上げた。
「いや、ボクのことは別にいいんだ。ユーゴに勝手に従いてきたのはボクなんだし。構わずユーゴの行きたいところへ行ってくれればいいよ」
両手と首を左右に振って遠慮するフィールエルに、ユーゴは微笑んで応じる。
「いいんだよ。どっちにしろヒントがなくて行き詰まってたんだ。それにお前もスウィンやピアたちのことをケジメ付けないままだと、気になって本当の意味で先に進めねぇだろ」
「ユーゴ……ありがとう」
本当にズルい、とフィールエルは思った。ちょっと涙ぐみながら。
いつもフィールエルたちの事を興味無さそうに、ややもすると面倒くさそうにしているのに、本当は皆のことをよく視ている。
「そういえば皆さん揮羽樽王国のご出身でしたね」
「アタシは違うわよ」
信衛の言葉に細かいツッコミを入れるパレアは、「わかってるからちょっと黙ってろ」とユーゴに最中を口に突っ込まれて大人しくなった。
ユーゴはスキル【子供だまし】を習得した。
「つかぬことを伺いますが、どなたか揮羽樽王国に商人のお知り合いがいらっしゃいませんか?」
「商人はあいにく……いや、居る。それがどうしたんだ?」
ユーゴはこの世界での第一町人、カール・デニスを思い出した。
「実はこの国の科学技術で造った商品を輸出できないかと考えておりまして。ご存知でしょうけれど、陽元は数年前まで鎖国をしておりまして、揮羽樽とはほとんど国交がないもので。お隣の【瑪瑙国】とも最近ようやく、といった感じでして。もしよければ、ご紹介いただけないでしょうか? 厚かましいお願いで申し訳ありません」
照れ笑いで言った信衛。ユーゴには断る理由はない。
「それくらいは全然構わねぇよ」
続いて、ネルがパチンと手を合わせる。何かを思いついたように。
「でしたら、私の父にもお話をしてみても良いですか?」
「ネル殿のお父上ですか。お父上も何かご商売を?」
「いえ、商人ではありませんが、フルータル王国の国王をしております」
「へぇ、そうですか、国王を。それはそれは……」
何気なく聞いたネルの言葉を咀嚼すること数秒。
「えっ!?」
この部屋にいる陽元国側の人間は、全員目が飛び出すほど驚いた。
「ネル、良かったのか? 秘密じゃなかったのか?」
「公然の秘密といいますか、そもそもお父様に隠す気がありませんので」
「ということは、その、ネル殿は揮羽樽国の姫君で?」
震える声で尚勝が問うた。
「いえ。王女というわけでは……。そこは少し事情がありまして……」
バツが悪そうなネルを見て全員が察し、それ以上の詮索を控えた。
「もしそれが叶えば光栄なことです。もちろん、ゆうご殿にもご紹介いただきたい」
そういえば、カールに餞別として貰ったものがあったな。
思い出したユーゴは、【無限のおもちゃ箱】からあるものを取り出した。
商人としてカールの力が必要となった時に開けてくれといわれた袋。
そこにユーゴは手を突っ込んだ。
何気なく袋から取り出したもの。
それは、一台のスマートフォンだった。
──────to be continued
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
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この作品が
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この作品を読者の皆様の手で育てて下さい。
そして「この作品は人気のない時から知ってたんだぜ?」とドヤって頂けることが夢です。
よろしくお願いいたします。
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京極は藩ではなく、陽元の首都である神都を擁する小国のようになっており、一種の治外法権が存在する。
神都は公家が多く、武家社会となった陽元国でも疎かに侍が口出し出来ないようになっている。
その神都の公家屋敷のひとつに、三人の武士が座してこの屋敷の主を待っていた。
襖が開いてこの屋敷の主が姿を見せた。
「皆、よく集まってくれた。耳にしておると思うが、飛田屋がしくじった」
主───駒井玄隆が盟友たち一同を見回して告げた。
「飛田屋が、ですか。所詮、成金風情には荷が重かったようですな」
「然り。しかし飛田屋の役目は我々の計画の本筋からは外れておりまする。人魚の肉は惜しいが、やつは居らずとも構わぬでしょう」
男たちが口々に錦兵衛を罵る。それを聞いた駒井が更に告げる。
「飛田屋自体はどうでも良い。しかし困ったことになってな」
「と、申されますと?」
「うむ。彼奴を始末させようと谷川から借りた浪人共に任せたのだが、そやつらを打ち倒し、飛田屋を攫ったものがおる」
「なんですと!?」
「どうやら飛田屋と、やつが飼っておった船乗り共がまとめて奉行所に突き出されたようだ」
「左様ですか。それで我々にお呼びがかかったと」
「うむ。今頃はお前たちの屋敷にも奉行所の手が伸びておることだろうよ。それで門倉よ、計画の首尾はどうなっておる?」
「は。滞りなく。機巧武人、必要数揃っております」
侍の一人───門倉源心は答えた。
門倉は新見藩の機巧普請目付の職に就いており、この計画に必要な機体の製造を担っていた。
「一ノ瀬はどうだ?」
「資金、兵糧、物資、潤沢に。一年は保つでしょう」
一ノ瀬善次郎は水脇藩の代官だ。繋がりのあるならず者たちに違法薬物などを捌かせ、飛田屋とともに資金を提供していた。
「谷川は?」
谷川萬斎───山岡藩の武術指南役である。
各地から職にあぶれた浪人や珍しい能力を持ったものを探し出し、この計画の要所に派遣している。
「浪人共の操縦訓練は終わり、実戦投入可能な練度に達しております。以前お話しした者が複製した例の物が、予想よりいい仕事をしております。また、あの九能信衛に勝るとも劣らぬからくり職人がおりましてな。其奴が例の新型機を完成させました。門倉殿と連携を取り、既に数は揃えております」
三人の盟友の報告を受け、駒井は瞑目した。
「先刻、あの御方に判断を仰いだ。永遠の命は惜しいが致し方ない、と。かくなる上は計画の前倒しも已む無し、と」
「おお! それでは?」
「うむ。我等の手に陽元を取り戻すため───倒幕を開始する」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ユーゴと尚勝の決闘から数日が過ぎた。
その間、信衛の勧めもあって九能城で一行は過ごし、思い思いに楽しんだ。
フィールエルやネル、パレアの三人は町を回り、美味しい食事に舌鼓を打ったり、綺麗な着物を見て楽しんだ。
ユーゴはたまに女子三人に付き合わされたり尚勝と呑んだりしたが、基本的にはこの世界への被転送者の情報収集に時間を費やした。
そうしたある日の午後。ユーゴは信衛に伝えた。
「えっ!? もうお帰りになるのですか?」
信衛は本気でびっくりしているようだ。
「ああ。もうこの国では得られる情報は無さそうだ。それに、あまり長居するのもな」
「そうですか。残念ですが仕方ありませんね。次は何処へ行かれるのですか?」
「フルータル王国に一度、戻ろうかと思う。フィールエルが残してきた仲間のことを気にしててな」
「え?」
ユーゴの答えを聞いたフィールエルが、驚きの声を上げた。
「いや、ボクのことは別にいいんだ。ユーゴに勝手に従いてきたのはボクなんだし。構わずユーゴの行きたいところへ行ってくれればいいよ」
両手と首を左右に振って遠慮するフィールエルに、ユーゴは微笑んで応じる。
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「アタシは違うわよ」
信衛の言葉に細かいツッコミを入れるパレアは、「わかってるからちょっと黙ってろ」とユーゴに最中を口に突っ込まれて大人しくなった。
ユーゴはスキル【子供だまし】を習得した。
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ユーゴはこの世界での第一町人、カール・デニスを思い出した。
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