彼の愛は不透明◆◆若頭からの愛は深く、底が見えない…沼愛◆◆ 【完結】

まぁ

文字の大きさ
3 / 284

繫華街 3

しおりを挟む
まるの反対側近くに位置するバーのカウンターを、ママさんや私、5人が占領するように座ってしまう。

ママさんの店もまるも0時までだが、ここは朝まで営業しているバーだ。カウンター越しにアルコール提供するだけで‘接待’の有無で言えば無し。だから朝まで営業が出来るのだ。こういう規制は年々厳しくなっていると繁華街の人には聞いている。決まった数人しか知り合いはいないけれど、一人で飲んでいても耳にするから。

「さっき、須藤さんの車でしたよね?」
「そうね。運転が本間さんで、助手席に野沢さんがおられたから若さんでしょうね」
「しばらく見てないんですけど…最後にうちに来られたのはいつでしたっけ?」
「3ヶ月近くなるかしらね。若さんがお越しにならないのは、うちに問題がないということだと思っていいわよ。ねぇ、マスター?」
「はい」

私を挟んで女性スタッフとママさんが話をするけれど、私はその内容よりも皆さんの名前が出てくるのを、まだ待っているのに出て来ない。イチゴのマティーニに添えてあるイチゴを口に入れると

「玖未ちゃん、まるには若さんは来られない?」

と女性の一人に聞かれた。

「…若さんがどなたかわからないから来られてないんだと思います」
「そっかぁ。すっごいワイルドイケメンだよ~」
「あれは、ワイルドフェロモン男っていうのよ」
「それは否定出来ないけれど、私は野沢さんのレンズ越しの視線に犯されたい」
「私は本間さんの…ウフフフッ…クールな表情からのキラースマイル…何ならウインクつき…想像だけで悶絶…イケそうよ」

3人のお好みはそれぞれのようだが、私には関係のない人たちの話だ。


全部を区別して知っているわけではないけれど、この繁華街の店は須藤組というところがオーナーの店と、須藤組から借りる形でオーナーがいる店に二分される。どちらにしても須藤組の繁華街ということだ。

でも、まるはどちらでもない。ゲンさん所有の土地で営業している。だから須藤組のワイルドイケメン、メガネイケメン、キラースマイルイケメンっていう人たちにお目にかかることはない。

もしかしたら、私もこれだけ繁華街の住人になっているので見かけたことがあるのかもしれないけれど、まだ隣で皆さんが盛り上がっているようなフェロモンお化けも、視線で孕ませそうな人も、スマイルとウインクでイカせてくれる人も見覚えはない。

「野沢さんとママが同い年くらいですかぁ?」
「そうね、45前後でしょ」
「捨てがたいけど…私は30の若さんか本間さんで」
「二兎を追う者は一兎をも得ずだよ、リア」
「一兎でも無理な相手だもんねぇ」

まだまだ盛り上がっている話だが、私は私の隣の人がリアさんだと名前が分かって少しホッとした。

「おかわり、いかがされますか?」
「シルバー·ウィングをお願いします」
「わ~ぉ」
「キツイのいくね~玖未ちゃ~ん」

皆さん、いい感じに酔っぱらい始めているので

「みんな最後の一杯よ。これで解散」

ママさんが手をポンポンと叩く。私はそっと時間を確かめて…2時過ぎか…帰るには早いな…と考えながら、ウォッカベースのカクテルをチビチビと飲んだ。


ママさんたちと解散後、私はすぐ近くの同じようなバーへと向かう。

さっむ…まだ2月だもんね。何も記録をとったわけではないけれど、一日の最低気温と最高気温は2時頃と14時頃でないかと思いながらコートのポケットに手を入れる。あぁ…でも日の出直前がきゅっと一番冷えてるかな…だけどもう明るくなるというのが目に見えて、夜の終わりを告げてくれる時間帯なので嫌な寒さではない。

最初は壁かと勘違いしたバーの入口を静かに開ける。バーの入り口って、地下にあったり、ここのように様々な趣向が凝らしてあることが多いと思う。やっと入口を見つけて扉を開こうとしたら、押しても引いても開かないスライドさせるドアだったなんてこともあった。

極小さく

「いらっしゃいませ」

とカウンター内から呟くように言ったオーナーに会釈だけして、コートを脱いでハンガーにかける。黒いコートを脱いでも、黒いタートルネックと黒いセミワイドフレアパンツに黒いブーツ。コーディネートを考えることなく、お洒落ではなくとも、とりあえずどの店にも入れるというように仕上がるオールブラックは便利だと思っている。

「もう飲んで来られた?」

2人のお客さんが2つ席を空けているのと同じように、私も2つ空けて座るとオーナーがおしぼりを手渡しながら静かにそう聞いてくる。

「はい、ウィスキーをお湯割りで下さい」

冷えました…その一言までは声にならない。今日はここで日の出直前まで過ごせばいい。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

思い出のチョコレートエッグ

ライヒェル
恋愛
失恋傷心旅行に出た花音は、思い出の地、オランダでの出会いをきっかけに、ワーキングホリデー制度を利用し、ドイツの首都、ベルリンに1年限定で住むことを決意する。 慣れない海外生活に戸惑い、異国ならではの苦労もするが、やがて、日々の生活がリズムに乗り始めたころ、とてつもなく魅力的な男性と出会う。 秘密の多い彼との恋愛、彼を取り巻く複雑な人間関係、初めて経験するセレブの世界。 主人公、花音の人生パズルが、紆余曲折を経て、ついに最後のピースがぴったりはまり完成するまでを追う、胸キュン&溺愛系ラブストーリーです。 * ドイツ在住の作者がお届けする、ヨーロッパを舞台にした、喜怒哀楽満載のラブストーリー。 * 外国での生活や、外国人との恋愛の様子をリアルに感じて、主人公の日々を間近に見ているような気分になれる内容となっています。 * 実在する場所と人物を一部モデルにした、リアリティ感の溢れる長編小説です。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

お隣さんはヤのつくご職業

古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。 残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。 元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。 ……え、ちゃんとしたもん食え? ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!! ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ 建築基準法と物理法則なんて知りません 登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。 2020/5/26 完結

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

処理中です...